大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・6《肉屋のりょうちゃんは『ドヘンタイ!』》

2018-03-02 19:39:10 | 小説

・6
《肉屋のりょうちゃんは『ドヘンタイ!』》



 室井精肉店は、原道を挟んで喫茶ロンドンの向かいにある。

 商店街では古参の部類で、西慶寺、鎧屋の次で喫茶ロンドンとほぼ同じ明治の中頃にから存在する。
 四代目店主の室井清十郎は、看板を載せている唐破風と同じくらい風格のある人物で相賀郷土史会の副会長を務めている。
 当然歴史への造詣が深く、生まれた息子たちには重々しい名前を付けた。

 長男は潮五郎という。作家で史家の海音寺潮五郎からとっている。

 潮五郎は父に似て思慮深い胆力の人物で、少年のころから「潮五郎さん」と名前で呼ばれていた。大学を出てからは五代目の風格で精肉店の切り盛りをし、郷土史会では若手のホープである。

 歳の離れた次男が遼太郎。名前は司馬遼太郎からきている。

 次男は「遼太郎さん」とは呼ばれない。商店街の他の子たち同様に「りょうちゃん」と愛称で呼ばれる。
 にぎやかで軽々しく、ムードメーカーではあるが、調子に乗りやすく、イタズラやワルサがあると真っ先に疑われる。で、その疑いは80%の確率で当たっている。
 去年はゴムボールに靴ひもを付け、休み時間の教室で投げることを流行らせた。投げている分には問題は無いのだが、口上が問題だった。
「精子発射!」
 そう叫んで女子に当たると「お、~子妊娠!」と叫んで喜んでいた。
 大抵の女子は「ドヘンタイ!」と非難しボールを力いっぱい投げ返す。この力いっぱいには容赦がなく、直撃を受けた男子にはアザが出来た。
 少々セクハラじみて乱暴な感じはするが、明々としていて、相賀の村々で行われる豊作祈願の神事を思わせた。
 相賀の豊作神事は稲わらで大きな男女の性器のシンボルを吊るし、男のそれを鐘木のように振りかぶって女のシンボルに潜らせる。
 100キロ近くある男のシンボルは一本の縄で吊るされているだけで、振りかぶってもフラフラとして容易には女のシンボルを潜らない。これを囃し立てながら村々で競い合う。

 相賀の人間には、この神事が刷り込まれているので、遼太郎のいたずらを、とことん非難する者はいなかった。

 だが、東京から転居して相賀高校に入って来た女子に当たって問題になった。
 その子は、ひどいセクハラのイジメと感じて親と担任に訴えた。果てはネットで流れてマスコミにも取り上げられ、相賀高校は凹まされてしまった。
 遼太郎にはイケナイコトという実感が無く、この事件の後も、往々にしてやりすぎてしまう。

 商店街の幼馴染み組が一まとめに同じクラスになったのは「りょうちゃんの暴走を封じるため?」なのではと、喫茶ロンドンの芽衣などは思っている。

「あ、りょうちゃん、また……」

 芽衣は、店の飾り窓越しに不審な遼太郎を発見した。

 朝の商店街は白虎駅への通勤通学路になる。商店街の子たちはたいてい地元の相賀高校なので、この通学時間には起きだして、朝食を取ったり店の準備を手伝ったりしている。
 芽衣はモーニングサービスの時間なので、店を手伝っている。で、前の道をウロウロしている遼太郎を発見してしまうのだ。
 遼太郎はスマホを弄る真似をした。数秒後、遼太郎の前を国府女学院の制服姿が通り過ぎる。国府女学院は、駅3つ向こうの女子高だ。
「りょうちゃん、分かりやすすぎ……そんなに見つめちゃバレバレだよ」
 芽衣はテーブルを拭きながらため息をついた。
「あの国府女学院は東京の子だよ……」
 祖父の泰三が呟いた。
「そうだよね……」
 芽衣は思い出した、二三度親子連れで店に来たことがある、たぶん越してきたばかりのころと……あの時の様子や話し方は東京のそれであった。

「りょうちゃんは東京の女の子には理解されないよ」

 去年のボール事件を思い出して溜息をつく芽衣であった……。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・9『駅の改札の前まで来た』

2018-03-02 06:55:37 | 小説3

通学道中膝栗毛・9

『駅の改札の前まで来た』        

 呪われてると思ったんだから!

 あたしが息巻いたのは、駅の手前の交差点。
 信号待ちをしていたら、右手の方から自転車がやってきて、交差点の真ん中で停まってしまい、小父さんは転んで、あちこち痛そう。
 でも、乗っていた小父さんは痛いよりも、なんだか恐れおののいている。
 急に、後ろの荷台に幽霊か化け物が現れて自転車を停めたように感じたんだ。
 小父さんは、目をまん丸にして――ノワーー!――という感じで顔を引きつらせていた。
 信号が赤になって、小父さんは交差点に取り残される。交通整理をしていた女性警官が駆けてきて、安全を確保しながら歩道へ誘導した。そして自転車を調べると「突然」「勝手に」「初期不良」「悪霊かなんか」「整備不良」とかの断片が聞こえてくる。
 どうやら、ブレーキだか車軸だかが急におかしくなって立ち往生してしまったようだ。

「じつは、昨日ね……」

 あたしは語り始める。
「アハハハ、それってマンガじゃん!」
 遠慮なく笑う鈴夏。
 
 昨日の夕方、自転車で近所のコンビニに行った。
 コンビニの誘惑に負けて、無駄なお菓子などをいっぱい買いこんで帰路に就くと、急にペダルが重くなって自転車が停まってしまった。
 さっきの小父さんのように、幽霊か化け物に停められたような気がしてパニックになりかけた。

 え、え、え、なんで? なんで!?

 サドルに乗ったまま愛車をうかがうが。異常なところは、パッと見わからない。
 怖くなって、お尻がムズムズしてきたころにゾッとした。
 縞模様の蛇が後のタイヤと、そのスポークに絡みついて自転車を停めていたのだ。

 キャーーー!       

 叫んで、自転車を放り出すようにして逃げ出した。
 道行く人たちが、何事かと振り返る。

 で、気が付いた。

 荷台に括りつけていたゴムロープが解けてスポークに絡みついていたのだ。
「笑わないでよ、逢魔が時だったし、本当に怖かったんだから」
 スマホの写メを見せながら「こんな感じだったら、そう思っちゃうでしょ!」と力説する。
 なるほど、ロケーションは十分怖い。人通りのない二車線の道に信号だけが明らかだ。
「朝に三毛猫見たから、いいことが起こるはずだったのに」
「それ、運が良かったんだよ」
「どうしてよ!」
「お茶屋のお婆さん、言ってたじゃないの」
「だって」
「猫に会っていなかったら、あの小父さんみたいに、いや、もっとひどい怪我とかしていたんだよ」
「え、え、そうかなあ」
「きっとそうだよ。でもさ、さっきの小父さんと言い、こないだの自転車泥棒と言い、あ、栞のもね、自転車に欠陥があるのかもしれないわよ」
「そっかなー」
「ネットで出てたけど、そういうのって自爆自転車とか言って、いま問題になってるらしいよ」

 ちょうどそこで、駅の改札の前まで来た。

 改札を通るといい匂い。
「あ、駅中にホットドッグのお店ができたんだ!」
 ぼんやり女子高生の二人は、昨日まで気が付いていなかった。
「おーし、帰りに寄ってみるか!」

 自転車のことはどこかに行ってしまって、ファストフードの話ばかりになってしまった。

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高校ライトノベル・新 時かける少女・12〈S島奪還・2〉

2018-03-02 06:49:08 | 時かける少女

新 かける少女・12
〈S島奪還・2〉
 



 あたしの後に救急患者が運ばれた。

 あたしは瀕死の重傷だったけど、とぎれとぎれに視覚と聴覚は戻っていた。
 患者は、具志堅君だった。具志堅君は、その場で死亡が確認された。声で仲間先生が来ているのが分かった。一瞬とどめを刺されるんじゃないかと思ったけど、すぐに気配が消えた。具志堅君をやったのはエミーたちだろう。で、仲間先生は身の危険を感じてフケた。

 そのころお父さんは、S島から帰還した牛島一尉ら四名と決死のコマンド部隊を作った。

 むろん、お父さんには指揮権など無い。かろうじて自衛隊員の身分を保っている。
 状況に大きな変化が起こる前にS島を奪還しようというのだ。裏ではエミーたちのアメリカのエージェントが関わっている。
 今のアメリカには正面だってC国と争う姿勢はない。でも、現状に危機を感じている者も少なからずいる。米軍は、秘密裏にお父さん達を援助した。

 C国は、S島の支配を完全にするために、一個大隊の派遣を決めている。奪還するのは、この24時間しかないだろう。

 米軍は、故意に軍事衛星の制御を不能にし、ジャミングをかけ続けた。その間に、お父さん達五人のコマンドは、自衛隊機に擬装した米軍のオスプレイから、パラシュートで、S島の東海岸に降下した。米軍は、島の西側に絶えず照明弾を落とし、島の7名の残存部隊を牽制した。米軍としては、戦闘行為ギリギリの行動で、C国政府も抗議していた。C国政府は、島に接近する米軍機に、島から威嚇射撃することを認めた。そして、本当に携帯型の地対空ミサイルを撃ってきた。お父さん達は、その隙間を狙って、降下したのだった。

 勝負は三十分でついた。

 お父さん達五名のコマンドは、全員二回以上のレンジャー訓練を受けたベテランたちで、牛島一尉ら四名は、つい二十時間前に、ここで戦って、敵のクセを把握していた。
 島には、日本とC国の戦死者の死体が、そのままにされていた。お父さん達は、その戦死者達に紛れて、S島の残存部隊に接近したのだ。
 C国の七人は、まだ息のある味方の負傷者を周囲に集め、その気配に隠れていた。

 敵の七人は、瞬時に五人が即死。二人が捕虜になった。

 そして、島に奪還を示す日章旗が掲げられ、待機していた米軍が撮影。その動画は、瞬時に動画サイトに投稿され、世論も瞬時に変わった。

――自衛隊5人のコマンド、S島を奪還――
――凄惨な戦場!――

 キャプションが付いた動画は、サイトの暗号化に成功していたG社によって、C国国内にも流れた。
 島に生き残っていたC国の七人は、負傷していた自衛隊員に残虐にもとどめをさしていた。明らかに戦時国際法や交戦規定に違反している。日本人を本気で怒らせたことはもちろん、アメリカの世論も日本に味方し、安保条約の規定通り出撃し、S島を目指していた、C国の一個大隊の半数を輸送機ごと撃破した。

「わたしたちは命令に反して出撃しました。シビリアンコントロールに反する行為です。責任をとって、辞職いたします」
 お父さん達五人は、部隊章、階級章をむしり取り、自ら武装解除した。

 国民の世論は、圧倒的にお父さん達を支持し、最初の無理解な命令を出した政府を非難した。
「なぜC国と話し合いをしなかったのか!?」
 そう報じたA新聞は、その日のうちに百万人の購読者を失った。

 あたしは、この状況を夢として見ていた。もう助からないなと、自分でも、そう思った。

 お母さんが、一睡もしないで付き添ってくれた。
 最後に目に入ったのは、涙でボロボロになったエミーの顔だった。
 お父さんが駆けつけてきたときには、あたしは天井のあたりから眺めていた。

 ああ、幽体離脱したんだ……。

 そう思った瞬間、あたしは時間の渦に巻き込まれていった。小林愛としての人生が終わり、別の人間として、また時空をさまよう。時かける少女なんだ。あたしは……。

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