大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・11《バッジの穴》

2018-03-07 16:39:37 | 小説

・11
《バッジの穴》



「ノワーーーー!!」

 まるでアニメのような声を上げてしまった。
 学校から帰ると、団体のお客さんが帰った後で、店のテーブルには片付けなければならない食器が一杯だった。
 で、芽衣はカバンを置いただけの制服姿で手際よく片付けにかかった。
 そして最後のテーブルを片付けたところで、半分残っていたオレンジジュースのグラスをひっくり返してしまった。
「あらあ~……!」
 お祖母ちゃんが飛んできて、お手拭きで叩くように拭いてくれたが後の祭りだった。上着は紺だから目立たないけどベトベトが取れない。スカートはチェックの明るい色のところが明らかなシミになってしまった。
「クリーニングに出しても明日には間に合わないね……」
 もう半月あとなら合い服期間なので夏服を着ることができるが、まだ今の時期は冬服だ。
「担任の先生に言って、異装許可もらわなきゃならないかなあ」
 お祖父ちゃん、そう言ったが、芽衣は「う、う……」唸るような声しか上げられなかった。

「そうだ、結衣さんのが残っているかもしれない」

 お祖母ちゃんが手を叩いて、クローゼットの奥をひっくり返してくれた。

 で、今朝は亡くなった母の制服を着て登校することになった。
「メイちゃん、どうかした?」
 あまりに服を気にしているので、アーケードを出たところで花屋のあやめに聞かれてしまった。
「じつはね……」
 昨日のことを説明すると、みんなが驚いた。
「メイちゃんのお母さん大事に着てたのね!?」
 みなみが驚き、他のメンバーも感心したように頷いた。西慶寺の花子などは手を合わせて「南無阿弥陀仏」と唱えていた。
「この時代って、ウールの混紡だから生地がいいのよ」
 履物屋の文香がガラに似合わず女らしいことを言うと、女の子たちが集まって「ドレドレ……」ということになってしまった。
「ほんとだ、手触りが違う!」
「今のよりもフワッとしてる!」
 芽衣はモルモットになってしまった。
「メイ、パンツ見えてるぞ」
「え、え、もう、みんなあ~!」
 遼太郎に言われてアワアワしてしまう芽衣。
「ハハ、りょうちゃんのハッタリだよ」
 甲が言うと、遼太郎は女の子たちにボコボコにされてしまった。

 芽衣自身は、母のお古という以外に、ほとんど自分の制服のように違和感が無かったが、1つだけ気になった。

 ブレザーの襟のバッジを付ける穴が一つ多いのだ。
――校章と学年章……もう一つはなんだろう?――
「虫食いかもな」
 遼太郎が余計なことを言うので、ふたたびアワアワしながら校門を潜ってしまった。

「あら、懐かしい制服着てるわねえ!」

 廊下で家庭科の杉本先生が声を掛けてきた。
「え、分かるんですか!?」
 朝からのことがあるので、芽衣は泣きそうな顔になってしまった。
「生地が違うし、ダーツの取り方なんかが微妙に違うのよ」
 さすが家庭科である。と思っていたら、生徒会顧問の佐伯先生までやってきた。
「……そうか、これ小池が着てた制服なのか」
 母の名前を旧姓で言うと、ちょうど目の前の生徒会室に入り、取り巻きの先生が5人に増えたところで戻って来た。
「ほら、これ見てみろ」
 差し出された写真は、昔の生徒会執行部の写真で、端の方に芽衣にそっくりな17歳の母が写っていた。
「……あ、そうなのか!」

 バッジの穴が一つ多い理由が分かった。

 母の襟もとには、学年章の下に生徒会役員を示すバッジが光っていた。

 そうして紆余曲折の1週間があって、芽衣は母と同じ生徒会の書記に立候補することになってしまった。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・14『庭の井戸が目についた』

2018-03-07 15:11:07 | 小説3

通学道中膝栗毛・14

『庭の井戸が目についた』        

 

 

 家の電話番号が思い出せなかった。

 

 幼稚園に上がる時、なにかの時の為に憶えておきなさいと言われて、いったんは覚えたんだけど忘れてしまった。

 迷子になったショックからなのか、もうひとつ覚えさせられたお母さんのスマホの番号とごっちゃになったせいかもしれない。

「じゃ、お名前は?」

「しおり……おさないの」

 ユイちゃんとの会話で変になっちゃったので、苗字を形容詞のように言ってしまった。

「そう、まあ、ゆっくり思い出すといいわ」

 オバサンはニッコリ微笑んで、同じような質問をユイちゃんにもした。ユイちゃんのことを妖精さんだと思っていたので、耳をダンボにしてユイちゃんの答えに耳を傾けたけど、ヒソヒソ声で聞こえなかった。

「ま、せっかく来たんだから遊んで行きなさいな」

 オバサンは出て行って、拗ねた感じの男の子が相手をしてくれた。見かけは拗ねものだったけど、たのしく遊んでくれた。男の子の部屋は離れにあって、ドキドキした。だって、部屋っていうのは同じ建物の中にあるものしか知らなかったから、なんだか秘密基地みたいなんだもん。靴を履いて庭に出て、踏み石をピョンピョン飛んで別棟の離れへ、でもって、もう一度靴を脱いでお部屋に上がる。もうワクワクだ。

 男の子は器用な子で、絵本を紙芝居みたく音読してくれたり、トランプを出して手品をしてくれたりした。

 それからお昼寝したら、庭の井戸が目についた。

「あれ見たい」と言った。

「あ、あれは危ないからダメだよ!」

 男の子は、そう言うと、カッコよく腕組みしてポンと手を打ってこう言った。

「そうだ、写真を撮ってやろう!」

 そう言ってごっついカメラを出してきて門の前で写真を撮ってもらった。それが鈴夏が見せてくれた写真の一枚だ。

 でも……写真にはわたしと男の子が写っている。

 ということは、だれかが撮ったんだ。うん、セルフタイマーなんかじゃなくて誰かが撮ってくれたような記憶がある。

 オバサンは……たぶん、わたしたちの家を探しに行ってくれていたんだと思う。たぶん駅前の交番へ。

 ユイちゃんは……記憶がない。

 離れで手品見てケラケラ笑っていたところまでは覚えている。昼寝から目が覚めると……ユイちゃんの姿は……はっきり覚えてはいない。ユイちゃんは妖精さんだから魔法で先に帰ったか、妖精の世界のタブーかなんかでみんなの記憶を消してしまったか。

 そのあと、オバサンがお巡りさんを連れて戻って来た。いちど交番に行ってしばらくするとお母さんが心配そうな顔で迎えに来たんだ。

 そして家に帰ったんだけど、ユイちゃんは居なかった。

 なんだかユイちゃんのことは触れてはいけないような気がして、そして年月が経ってしまって……忘れてしまったんだ。

 忘れてしまったんだということを思い出してしまった。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・143『リベンジサンタ』

2018-03-07 06:32:34 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト・143
『リベンジサンタ』
        
初出:2013-12-24 10:33:45

 
――今夜オレの部屋に来い。もとに戻らなきゃ、このシャメを拡散させる!――

 メールをスクロールして、わたしは凍り付いた。やつにせがまれて、その場の雰囲気だけで撮ったシャメ。M字開脚でピースサインした、あたしのヌードのシャメ。

 世界が真っ暗になったようなショック! 吸い込む空気が全てトゲになったような痛みが胸を走った!

 伸吾は、最初は優しかった。バレンタインデーのチョコを渡したら、手を震わせて喜んでくれた。ホワイトデーの週にはディズニーリゾートに連れて行ってくれて、チョコの二十倍ぐらいの値段のする指輪をくれた。多分二ヶ月分のバイト代を全てつぎ込んだくらいの……で、その夜泊まったホテルで、このシャメを撮らせてしまった。明くる朝には「これは、やりすぎだな」そう言って、あたしの目の前で消去したはずのシャメ。それで、あたしは安心してしまった。

 夏頃から、ベタベタの度合いがひどくなってきた。人に「オレの満里奈」から始まり、秋の始まり頃には「オレの女」と言い始め。人中でもキスを求めるようになってきた。
 そんな伸吾が疎ましくなるのに時間はかからなかった。
「今夜は……」
 と、伸吾が言い終わらないうちに、あたしは拒絶していた。
「今夜は帰る」
 お返しに平手が飛んできた。
 それから、伸吾の電話に出なくなった。メールも返さなくなった。先月はアドレスを変えた。

 そして、一カ月。新しいアドレスを調べた伸吾が、このメールを送りつけてきた。シャメは消去する前に自分のパソコンにでも転送していたんだろう。
――警察に言う――
 そう返した。
――警察が踏み込む前に送信ボタンを押してやる――
 無慈悲な返事が返ってきて、あたしは炬燵の上に頭を落とした。

「困っているようじゃのう」
 頭の先で声がした。
「ん……?」
 炬燵の上に、身長二十センチほどのサンタが立っていた……。


 ドアのノックがして、オレはギクリとした。

「だれ!?」
「……あたし」
 喉から心臓が飛び出しそうになった。まさか、満里奈が来るとは思っていなかった。
 クリスマスイブの今夜。十二時調度にシャメを投稿することにしていた。
 ドアスコープで覗くと、思い詰めた顔をした満里奈が立っていた。多分死角になったところに、私服の警官が四人はいるんだろう。
 覚悟はしている。その時はこのスマホの「投稿」にタッチするだけだ。あのシャメは、我ながらいけてる。削除される前にコピーされ、拡散するのに、そんなに時間はかからないだろう。それでリベンジは済む。
「入れよ」
 スマホを後ろ手にしてドアを開けると、そこには満里奈しか居なかった。
「キョロキョロしなくても、あたししか居ないから。寒いから早く中に入れて」
「ごめん、てっきり嫌われてると思った」
「メールで、伸吾の気持ちがよく分かった。そうでなきゃ来ないわよ」
「そうか……」
「カーテン閉めて。お願い……」
「う、うん」

 カーテンを閉める後ろで、マフラーとダッフルコートを脱ぐ衣ずれの音がした。振り返ると……裸の満里奈が震えていた。
 オレは、スマホで満里奈を連写した。浅ましいとは思ったが、止められなかった。
「お願い、早く暖めて……」
 オレの満里奈! オレの女!

 めくるめくクリスマスの一晩が過ぎた。

 満里奈の温もりで目が覚めた。まだ目は閉じたまま。ベッドの中で背中を預けた満里奈の胸に手を伸ばす……え、胸がない!?
 ゆっくりと振り返った満里奈は……潤んだ目をしたオレそのものだった!


「どうだい、こんなところでいいだろう」
 二十センチのサンタが言った。
「このシャメが拡散するわけ……ちょっとかわいそう」
「優しいのう、満里奈は」
「だって、これ別の意味で警察がくるわよ。素っ裸の伸吾のシャメなんて」
「心配せんでいい、見えているのは伸吾と満里奈のスマホだけじゃ。伸吾のスマホから満里奈のアドレスも消えて居る。もっとも、あいつも、これで満里奈にちょっかいは出さんじゃろうが……さあて……」
「もう行くの?」
「ああ、サンタが来るのも来年が最後じゃ。いい子でいて、最後にふさわしい願い事を考えておきなさい」

 サンタは、サッシのガラスをトナカイのソリに乗って素通しで抜けて消えていった……。


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