大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・19・こざね編《県民子どもの日》

2018-03-21 15:21:56 | 小説

・19・こざね編
《県民子どもの日》

 

※ 順番が跳んだので、18回のあとに来る分です。




「この6ヵ月に、不特定の異性との性的接触はありませんでしたか?」

 この質問でぶっ飛んでしまった。
 松永さんへの輸血をする前にいろいろ聞かれるとは思っていた。最近献血をしましたか?とか、特定の薬を呑んでいませんか?とか。
 だからナースのおねえさんにシラっと性的接触なんて言われるとアセアセで頭に血が上ってしまう。
 顔を真っ赤にしていると「無いんですね」と決められて「では!」で、ブットイ注射をされてしまった。

 乙女の血は鮮やかで清純なピュアレッドだと思っていた。

 献血用のパックに溜まっていく血液は、ちょっと驚くほど赤黒かった。
――あたしっておかしいのかも?――と思っていると、隣のベッドのめいちゃんのも同様に赤黒かった。
「静脈から抜いた血液は赤黒いのよ。これが真っ赤だったら、それは動脈からの血液だから医療事故になっちゃうわ」
 心を読んだようにナースのおねえさん。若く見えるけどベテランなんだろうなあ。
「フフ、こざねちゃんは分かりやすい顔してるから」
 隣のベッドで嬉しそうにめいちゃんがウインクした。

 採血し終わって、ベッドから立ち上がると、視界が暗くなってクラっときた。

「フワ~~~~」
「おっとっと!」
 めいちゃんが抱き止めてくれる。自分だって血を抜いたところなのにしっかりしている。これって高校生と中学生の違いだろうか?
「フフ、うちのコーヒーって造血作用があるのよ」
 子どもみたくはにかむめいちゃん。コーヒーに造血作用?って思ったけど、なんちゅうか、女子としての有り方が違うと思った。
 お父さんもお母さんも亡くなっているけど、毎日お店の手伝いをして、勉強もうちの兄貴よりも出来る。絵本作家になる努力も怠らないし来週に行われる生徒会の役員選挙にも立候補している。もちアーケーズのメンバーとしてのスキルも言うことなし。

「由利もお礼を言いたがっていましたが、手術の時間があるので、ごめんなさいね」

 西慶寺に戻るためにロビーに集まっていると、松永さんのお母さんがやってきてお礼とお詫びを言われた。一瞬お姉さんかと思うくらい若くてきれいなお母さんだった。
「またお見舞いに来ます。これ、アーケーズの新しいコスチュームです。いっしょに着てステージを踏めるのを待っています……」
 はなちゃんに促されて、三好さんがコスを渡した。
「……ありがとうございます、きっと良くなって、みなさんといっしょに……夏には……」
 あとは言葉にならなかった。後ろで控えていたお父さんが、そっと肩に手を置いて、何度も頭を下げて手術室に向かって行った。

 昨日の『県民子どもの日』は大盛況だった。

 あたしたちアーケーズは前座だったけど、子どもたちは喜んでくれた。市役所の担当さんからは「子供向きにアレンジを」とか言われていたみたいだけど、「大丈夫です。商店街で実証済みですよ」はなちゃんはニコニコ笑顔で押し切った。
 で、あたしたちはいつものように演った。ちゃんと子どもたちは喜んでくれてスタンディングオベーションになった。
 そして新曲の『わたしは前へ!』はサプライズにしていたので、さらに客席は盛り上がった。

「ね、中央前から5列目見て!」

 袖に引っ込んでから三好さんが嬉しそうに言った。
「……松永さんのお父さんとお母さんだ!」
 観客席を向いたモニターに映っていた。
「うまくいったんだ……手術!」
 はなちゃんが声を押し殺してガッツポーズをした。
 みんなも音を立てずにエアー拍手をした。

 今年の子どもの日は最高だった!

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・25『夏鈴の遅刻』

2018-03-21 15:14:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・25

『夏鈴の遅刻        

 

 

 夏鈴はめったに遅刻しない、わたしもしない。

 

 っていうか、毎朝いっしょに登校するんだから遅刻するんだったら二人そろってということになる。

 ……その夏鈴が昨日は大幅遅刻した。

 だから「ちょっと、なんで、そんなに機嫌悪いのよぉー?」などとのんびり聞いてくる。

「んでもない!」とそっぽを向いたのは、三月には似合わぬ寒さと運の悪さと先生たちの心無い仕打ちにあったから。あ、仕打ちと言い切ると申し訳ないかな……うちの担任が日直の指示を忘れるなんてポカは日常的だし、授業中にトイレに行きたいと言って「大きい方か小さい方か?」と言うのも不器用な親愛の情の発露だと思えるくらいの寛容さは持ち合わせているつもりだ。

 でも、ああも立て続けに嫌なことが起こってしまうと、ついツッケンドンにソッポを向いてしまったりする。

 だれにだって、こんなダメダメな日はあるでしょ?

 でも、夏鈴にツッケンドンにしたことは悔やまれて仕方がない……。

 

 午後からは終業式でもあった昨日、お昼には機嫌も戻って「帰ろうよ」と夏鈴の横に……でも、いつものように鞄を持って付いてくる気配がない。

「どうしたの?」

 夏鈴は、心なし思い詰めた顔で席に座ったまま。

「あ……ちょっと先生に用事あるから先に帰って」

「え、あ、うん……」

「あとでメールするから」

「う、うん、待ってる」

 なんとも気まずく学校を出た。

 寒いうえに風が強く、寒さをしのいでたなびくスカートに気を付けているうちに電車に乗って家に着いた。

 熱いお茶淹れてコタツに足を突っ込んだところでスマホのシグナル。

――7時にうちに来て――

 そっけない八文字。せめて😊マークくらい付けろよな……そう思うけど、なんだか、胸がサワサワして落ち着かない。

 七時まで時間ありまくり、晩御飯とお風呂に入る時間を差っ引いても三時間は手持無沙汰。

 パソコンを起動させてネットサーフィンする。

 Yahoo!ニュースもYouTubeもモリカケばっか、高校生はバカじゃない、どう追及したって安倍首相に責任があるなんて思えない。追及する野党は、まるでいじめっ子だ。安倍さんの支持率は10%ちかく落ちたけど、野党の支持率は毛ほども上がらない。未来のない人たちだと思う。十代二十代の七割は安倍さん支持。去年の選挙の最終日、アキバで安倍さんが演説していて、若者たちは熱いエールを送って――NHKは帰れ!――のシュプレヒコール。もう安倍さん支持は鉄板だ。気づかない気づこうとしない野党もマスコミも未来はないね。

 お勧めの動画をクリックすると春休みの格安穴場旅行……東京近郊でも諭吉さん一枚で遊べるところが結構ある。ピュアのバイトは土日限定だから、都合をつければいけるところがけっこうある。東京の近場なんてと言う人も居るかもしれないけど、外国人は、わざわざ飛行機に乗ってやってきたりしている。ディスカバージャパンなんてノスタルジーな言葉が浮かんでくる。

 よーし、夏鈴と二人近場に行こう!

 レスリングと相撲で不祥事……多いよね、不倫したり暴力だったりパワハラだったりセクハラだったり……でもさ、書いてる週刊誌とか新聞とかテレビとかの人たちはどうなんだろ、時分の事は棚に上がったまま?

 どこかの国の王様が急死……逝去? なんて読むんだろセツキョ? コピーしてググってみる……セイキョと読むんだ。一つ賢くなったところでお風呂に入って晩御飯。

 その間もアニソンのメドレーをかけとく。

 良さげな新曲が流れてきたので、風呂上りにチェック。久石譲さんが音楽担当している新発売のゲームだ。二ノ国2か……前作は小学校の時にやったなあ……夏鈴といっしょにやってみよっかなあ……。

 ご飯食べながらゲームの発売日をチェック。

 バイト、小旅行、ゲーム、 三つも春休みのお楽しみが見つかった。

 気が付くと七時が迫っている。晩ご飯は帰ってから、いや、夏鈴と一緒に食べようか?

 

 自転車と思ったけど、いっしょに晩御飯とかになったらかえって邪魔。

 

 パーカー羽織って夏鈴の家を目指した。 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6[もうこのへんで……]

2018-03-21 06:44:44 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6
[もうこのへんで……]



 秋分の日を前に、今年は10月下旬の涼しさになっている。

 それを承知で、神野は特盛のアイスクリームを2つ持ち、一つを麗に渡した。

「立花さんの脳みそと心は原子炉並だ。少し冷やした方がいい」
「そうかもね……」
 二人は、並の人ならアイスクリーム頭痛をおこしながら10分はかかるであろう、新宿GURAMのジャンボアイスを1分余りで食べつくした。
「神野さんも、相当熱い」
「いや、冷たいことに慣れすぎているのかもしれない……」
 東京の都心まで出てきたデートの最後の会話がこれだった。

 麗の人気は、ちょっとしたアイドル並になってしまった。それほど文化祭の成功は大きかった。野外ステージの反響も大きくYouTubeでのアクセスも、スポンサーが付くほどの数になった。また、校長先生と回ったご近所へのお詫びも大変好評で、これはSNSで、みんなが取り上げ、礼節、貞淑などとカビの生えたような賞賛まで飛び交った。麗は世代を超えて地域的な有名人になってしまった。
 で、神野とのデートも、わざわざ県外の東京にまで出てきたのだが、新宿GURAMの前で、テレビ局に掴まってしまった。

 麗自身はブログなどやっていなかったが、学校の生徒が、自分のブログに麗のことを載せ、そのアクセスがはねあがるという状態であったのだ。

 そんな中、演劇部の『すみれの花さくころ』は予選を無事に最優秀で飾ったが、連盟が熱心に情宣をやらないので、会場は、なんとか満席程度で済ませることができた。
 問題は、県の中央大会(本選)であった。会場の県民文化ホールは、キャパが1200あまりしかない。そこに1万人を超える麗のファンが押し寄せた。連盟の実行委員の先生たちは頭を悩ませたが、地元の新聞社が救いの手を差し伸べた。
「本選終了後、私どものホールを提供いたします。2日にわたる無料公演を行いますので、整理券を……」
 そうネットで流した10分後には、ネットでの入場整理券は配布終了となり、その5分後に整理券は法外なプレミアが付いて、最高で1万円の値がついた。

 本番は、麗の学校の一つ前の御手毬高校の上演中から、観客席は麗目当ての一般観客が押し寄せ、御手毬高校は手前の審査員席でさえ台詞が聞こえない状態になった。
「ほんとうにごめんなさい」
 麗は心から御手毬高校に誤ったが、女子高生のツンツンは一度へそが曲がると容易には戻らない。そこには嫉妬の二文字がくっきり浮かんでいた。「感じわる~!」部長の宮里はむくれたが、麗はただ頭を下げるのみであった。

 演奏やダンスは、文化祭後仲良くなった茶道部・ダンス部・軽音楽部が参加してくれて、本編は、ほとんど宮里と麗の二人だった芝居が歌とダンスのシーンになると、まるでAKBの武道館のコンサートのようになり、緩急と迫力のある舞台になった。

 だが、審査結果は意外にも選外であった……。

 一見すごくて安心して観ていられるが、作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない。それに数と技巧に頼りすぎている。

 観客席は一般客の大ブーイングになった。

 宮里も山崎も、美奈穂も悔し泣きに泣いたが、麗は氷のように冷静。マイクを借りて、こう言った。
「言語明瞭意味不明な審査ですが、甘んじてお受けいたします。もうS会館で、あたしたちの芝居を待ってくれている人たちが1万人待ってくださっています。それでは会場のみなさん、S会館の前でお待ちのみなさん、40分後に再演いたします。どうぞ、そちらにお移りください」
 そう言って、麗たちが、席を立つと一般客も雪崩を打ったように会場を出てしまい、後の講評と審査はお通夜のようなってしまった。

 麗たちは、都合二日にわたり、4ステージをこなした。ネットでもライブで流された。麗は期せずして、どこのプロダクションにも所属しない日本一のアイドルになってしまった。

「ちょっと、風にあたってきます」

 麗は、そう言って楽屋を出でバルコニーに出た。常夜灯がほんのり点いたバルコニーに人影……予想はしていたが神野が立っていた。
「ちょっと、やりすぎてしまったね」
 神野は優しく寂しそうに言った。
「そうね、この一か月で十年分……いえ、それ以上に走っちゃった。楽しかったわ」
「じゃ、少し早いけど、次に行こうか……」
 麗としては全てが理解できたわけではなかったが、麗の中のべつのものが納得していた。
「じゃ、いくよ」
「ええ、いつでも」

 神野が指を鳴らすと、麗の姿はゆっくりと夕闇の中で、その実体を失っていった。宮里が探しに来た時は気の早い木枯らしが吹いているだけだった。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 エタニティー症候群 完

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