アーケード・17・こざね編
《親指姫~!》
商店街の子どもたちは、愛称の呼び方に法則性がある。
名前の最初の一字または音を伸ばして、~ちゃんをつけて呼ぶ。
アニキの岩見甲は(こうちゃん)、近江屋履物店の娘沓脱文香は(ふーちゃん)、室井精肉店の息子室井遼太郎は(りょうちゃん)、喫茶ロンドンの孫娘百地芽衣は(めいちゃん)、上野家具店の娘上野みなみは(みーちゃん)、フラワーショップ花のあやめは(あーちゃん)、西慶寺の藤谷花子は(はなちゃん)という感じ。
あたし1人だけが、こざねちゃん。ちゃんの上に、まんまの名前が載る。
こざねというのは、本来は漢字で小札と書くんだよね。
でも漢字だと「こふだ」と読まれてしまうので平仮名で書いてある。
小札というのは、鎧の最小パーツ。7センチ×2センチくらいの皮や鉄でできていて、これを数千枚繋げることで鎧ができあがっている。いくら見場の良い鎧でも、この小札がチャッチイと防御力が低くなる。小札が良いと刀はおろか弓矢や槍も通さない。ある程度の距離なら鉄砲だってへーきなんだ。
つまりぃ、小さいけれど世の中の大切なワンノブゼムになって欲しいという親の願いが籠められている。
いかにも甲冑師の娘って感じ……なんだけどぉ。
ま、いいや「それを言っちゃあおしまいよ」的なことを言いそうなのでやめとく。
商店街の法則性でいけば「こーちゃん」なんだろうけど、アニキが「こうちゃん」なんで区別がつかないんで「こざねちゃん」。
でもね……思っちゃうんだよねぇ。
あたし一人がハミ~ゴ。ま、名前はいいんだよ。でもね、アニキたち7人の結束をねぇ。
ま、みんな同い年で、それこそオムツのころからの幼なじみ。商店街には、あたしと同い年の子どもはいない。履物屋のすーちゃん、家具屋のまーちゃんは1年生。ハミーゴの同志というのには歳離れすぎ。
「ね、幼なじみとかの友だち少ないけど、気にならないかなあ?」
一度聞いたことがあるけど「なんで~?」という健康的な答えが返ってきた。
「商店街の外に友だちいっぱいいるよ」だって。
商店街というくくり方は気にならないようだ。
なんで、あたしが商店街というくくりを気にするか?
仲のよさ……もう、なんちゅうか、子どもたちみんなが兄弟姉妹ってとこ。むろんあたしも、その一員なんだけどぉ。
ちょっちハミ~ゴ。
でさ、男はともかく女の子ね。みんなイカシテてカッコいいってか、クールなんだよね。
たとえば西慶寺のはなちゃん。きのうお父さんの代わりに月参りに来てくれた。
お坊さんの格好も板についてる。お経もうまいし、そのあとの話だって、お父さんお母さんと対等に話してるし、お弟子のきららさんより大人に見える。
で、普段は相賀高校の制服とかで、すっごく清楚な女子高生。他のオネーサンたちもそうなんだけど、とってもイケてる。
今だって、西慶寺の本堂で商店街のアイドルグループ『アーケーズ』の衣装合わせをやってるんだけどね。
はなちゃんはガチすごい。制服や衣姿では分かんないけど、衣装を着ると違い歴然。ボンキュッボン!のスタイル抜群。お肌は雪みたく白いし、ミニスカとニーソから覗く太ももなんて、あたしでも鼻血が出そー。
ルックスも一重の瓜実顔でさ。それでも美人美人してなくて、とってもフレンドリー。
あたしはさぁ、写メを撮ってもね、スズメの子かタヌキの子。
ま、衣装着てみんなに混じってしまえば一山いくらの商店街アイドル。その他大勢のモブ子さん。
なんて思っていると落ち込み~!
今から、子どもの日のイベントのためのリハやります。
あ、そ-そー、あたしの数少ない特技。どんなとこでもスマホとかで文章打てること。右手にスマホ持って、親指でパパッとね!
親指姫のこざねちゃんとお呼びくださいませ~!(o^―^o)!
※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年
岩見 甲(こうちゃん) 鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子
岩見 こざね(こざねちゃん) 鎧屋の娘 甲の妹
沓脱 文香(ふーちゃん) 近江屋履物店の娘
室井 遼太郎(りょうちゃん) 室井精肉店の息子
百地 芽衣(めいちゃん) 喫茶ロンドンの孫娘
上野 みなみ(みーちゃん) 上野家具店の娘
咲花 あやめ(あーちゃん) フラワーショップ花の娘
藤谷 花子(はなちゃん) 西慶寺の娘