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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・22『栞はひまり 鈴夏はひめの』

2018-03-17 15:27:42 | 小説3

通学道中膝栗毛・22

『栞はひまり 鈴夏はひめの        

 

 

 ビラまきを終えると、お店に戻ってリボンさんからレクチャー。

 

「時間まで実地教育ね。お迎えとお見送り、ポジションはレジ横。カレンさんがやるようにやってればいいから」

 ピュアは他店に比べると床面積が広く、レジカウンターの横に余裕で並べた。

「わたしがやるようにやればいいけど、時々正面の鏡みて自分でチェックしてね。ポイントはね……あ、おかえりなさいませご主人様~行ってらっさやいませ~お嬢様~」

 カレンさんもたいしたもので、わたしたちにレクチャーしながらも、きちんと仕事をこなしている。

 カレンさんにワンテンポ遅れながらもお迎えとお見送りはなんとかやれそう。

「でも、笑顔が硬いよ」

 ビラまきではガチガチだった夏鈴が冷やかす。夏鈴は学校とかお店とか、一定のテリトリーが決まっているところでは平気なのだ。ま、いっしゅの内弁慶。

 フロアーはリボンさんを入れて四人で回している。満席近くになると、ちょっと大変みたいだけど、さすがにメイドに徹した人たちばかりなので、焦ったりすることはない。実に手際よく、まるでお花畑を飛び回る妖精さんのように明るく無駄なく動いている。

 まだフロアーの事はレクチャーされていないので、お客さんから声をかけられるのではとヒヤヒヤしたけど、あいにくというか幸いというか、突然テーブルに呼ばれるようなことは無かった。

「じゃ、今度はフロアーの子たちに付いてみて。ニコニコ笑顔で立ってりゃいいから」

 リボンさんのアバウトな指示にも戸惑わなくなった、リボンさんはお客さんに対してはツインテールの妹系で、わたしが見ても可愛いんだけど、わたしたちには少々ツッケンドンで口数が少ない。

 レジ横で見ていたので、だいたいの動きは分かった。

 レジのカレンさんが「お席は、あちらになりま~す」と言うと、スタンバっているヒナさん、レモンさん、ココアさんうちの一人が、ごく自然にオーダーをとりに行く。わたしと鈴夏は、どちらかがくっ付いて行って、いかにも見習いという感じで控えている。

 オーダーの取り方やお辞儀の仕方なんかは見て覚えられるんだけど、以下のことがやりにくい。

 

「呼び方のオーダーはいかがいたしましょう? ちなみに『ご主人様』の他に『旦那様』『~くん』『~ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄様』など各種ございま~す♪」

「それでは、ご注文の品が美味しくなるお呪いをしたいとおもいま~す🎵 おいしくな~れ おいしくな~れ ラブ注入🎶」

「お兄ちゃんてばバースディなんだ! それじゃ、バースデイソング歌わせていただきま~す♡」

 ほかにも何種類かあるんだけど、これは、ちょっと無理っぽい。

「そういうのはヘッドドレス替わってからでいいから」

「え、ヘッドドレス?」

 リボンさんは黙って鏡の中の自分とわたしの頭を指した。

「あ、あーーー」

 かたちはいっしょなんだけど、リボンさんのそれには淡いピンクのハートが付いている、わたしたちのも付いているんだけど、輪郭だけしかない。

「輪郭だけのは見習い」

 なるほど、このハートマークでスタッフもお客さんも区別をつけていたんだ。どうりで難しい仕事が回ってこないわけだ。

「来週からはやってもらうから、これ読んで覚えてきて」

 A4のプリントとDVDを渡される。パッケージには『ピュア スタッフマニュアル2018』とプリントされていた。

「きょうは、ここまで。まかない出るから食べてって」

 控室で着替え終わると、リボンさんがトレーに載ったオムライスを持ってきた。

「おー、これ頂けるんですか!?」

「うん、はんぶん研修だけど。はい、ケチャップ持って」

「え?」

「ケチャップで文字書くのは必須だから」

 なるほど、これはやってみなければコツとかは分からない。

「で、なにを書けば?」

「小山内はひまり、足立はひめの、名前のお尻にハートを書く。やってみ」

 ……やってみると、案外むつかしい。オムライスの上をケチャップまみれにして初日が終わった!

 

 

 

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2[もう少し楽になろうよ]

2018-03-17 06:34:45 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2
[もう少し楽になろうよ]



 苛烈などというものではなかった。

 東鶏冠山北堡塁は旅順要塞の東に位置し、旅順攻撃の初期のから終結時まで激戦地になった。

 堡塁はM字型の断面をしており、Mの左肩から突撃した日本軍はMの底に落ちる。するとMの両側の肩の堡塁の銃眼から機関銃や小銃、手榴弾などでされた。
 この甲子園球場ほどの堡塁を抜くために、日本軍は8000人の戦死者を出した。乃木軍隷下の第11師団の大隊長である立花中佐が戦死したのは11月の第二回総攻撃のときであった。
 吶喊と悲鳴が交錯する堡塁の壕を目の前にして立花は身を挺さざるべからずの心境であった。8月の第一次攻撃の時は、罠にはまったと瞬時に理解し部下に撤退を命じ、大隊の損害は百余名の損害で済んだ。
 だが、今回は重砲隊による念入りな砲撃。工兵隊により掘られた坑道からの爆砕をやった上での突撃である。先に飛び込んだ部下のためにも立花は突っ込まなければ、軍人として、人間として自分が許せなかった。
 M字の底から右肩の堡塁にとりついたところ、立花は6インチ砲の発射音を間近に聞いた。死ぬと感じた。感じたとおり、その0・2秒後に彼の肉体は四散した。その0・2秒の間、彼の頭を支配したのは、内地で結核療養している一人娘の麗子のことである。

「よくもって、この秋まででしょう」

 どの医者の見立ても同じであった。そして麗子は立花の戦死の二日前に十七年の短い生涯を終えていた。
 そして、麗子は父の戦死の時間に荼毘に付されていた。三時間後、叔父を筆頭に親類縁者が骨拾いに火葬場に行ったとき。釜の前に麗子が立っていた……。

 立花は弟が腰を抜かすのを見て戸惑った。

「浩二郎!」
 そう言って駆け寄ったときの自分の声と指先を見て愕然とした。そして、弟の嫁が震える手で差し出した鏡を見て、言葉を失った。

 自分は、娘の麗子そのものになってしまっていた……。

 それ以来、立花は麗子として十年を過ごした。三年目ぐらいから自分の体に変化がおこらないことに不審に思った。友達は次々に嫁ぎ、子を成し、相応に歳を重ねていたが、自分一人がそのままなのだ。人に相談することもできず、自分で文献を調べ、五年目に異変の正体に行きあたった。それは、アメリカのオーソン・カニンガムという学者の説であった。

※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 立花は、その五年後に出奔した。もう年相応では通じないほどに若いままだったからである。

 それから、七人に入れ替わった……というより、実体化した。いずれも、ほとんど麗子のままで、そのたびに戸籍や家族が用意されていた。そして、並の人間では持てない力が備わっていることも分かってきた。だが、心はいつまでも立花浩太郎中佐のままであった。
 で、昨日も学校の平和学習の語り部としてやってきた92歳のハナタレ小僧をへこませてしまった。

「とらわれすぎるんだよ立花さんは。昔のままの自分をひきずってちゃ仕方がないよ」

 いつの間にか、中庭のベンチの横に神野が腰かけていた。
「もう少し楽になろうよ」
 そう言って、神野は指を鳴らした。
「あ、神野君……!」
「つまらないこと聞くけど、君の名前は?」
「もう、ふざけないでよ」
「いいから、言ってごらんよ」
「立花麗……アハハ、照れるじゃん。幼稚園からいっしょだったのにさ。あ、生年月日とか言ったら、なにかプレゼントとか良さげなことあったりして?」
「考えとくよ。とりあえず、今日は、これで良し」

「へんなの……」

 お気楽にAKBの新曲を口ずさんで校舎に消えていく幼馴染に「イーダ!」をした麗であった。

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