通学道中膝栗毛・27
ここに隠れていな。
わたしたちをお店に入れると、芋清のおいちゃんは床のスノコを上げて指さした。
五十センチ四方の蓋があって、それを開けると地下になっている。
「芋の保管庫、ちょっと狭いけど辛抱しな」
「はい」
「あ、ハンカチ落とした!」
裏路地でへばって、汗を拭いたはずだ……ヤバイ、見つけられたら一発だ!
「ハンカチは、表通りに出るとこに落としといたよ」
いつのまにかお婆ちゃんまでやってきている。
「いいというまで、出てくるんじゃないよ」
「お腹すいたら、これでもお食べ」
紙袋の焼き芋を渡してくれて静かに蓋が絞められた。
真っ暗になるかと思ったら、天上にLEDのライトが点いて仄かに明るい。
「でも、なんでオレンジ色?」
――芋にストレスを与えない色なんだよ、シッ、静かに――
「「ウプ」」
二人そろって口を押えた。お爺ちゃんの声が聞こえるということは、わたし達の声も聞こえているんだ。
すると、お店の裏を数人が走り抜ける気配がした。心臓のドキドキがマックスになる!
抱えた焼き芋の暖かさが胸にしみるころ、表通りに出る角の方で外国語の声がして遠ざかって行った。どうやら、お婆ちゃんの機転が利いたようだ。
それでも芋清のお爺ちゃんは出ていいといわない。
お店の方で――仕舞いもの三割引きだよ、一つ百五十円、一つ百五十円――
四五人のお客さんがあって仕舞いものを買っていく、シャッターが下りる音がするが、それでも出ていいよの声はかからない。おいちゃんは慎重なようだ。
「焼き芋……頂こうか」
「う、うん」
二人でホチクリホチクリ焼き芋を頂く。オレンジのLEDで顔色は分からないが、思い詰めた表情から青ざめているのではないかと思った。
半分ほど食べたところで、横の壁がゴトリと開いた。
「「アフ!」」
喉が詰まりそうになって、開いた壁を見ると30インチのテレビ画面ほどの横穴が開いた。
――こっちにおいで――
おいちゃんの声。
数秒順番を譲り合って、夏鈴が先頭になって薄暗い横穴に入っていった……。