大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・23・芽衣編《中略》

2018-03-20 14:19:26 | 小説

・23・芽衣編
《中略》



 対立候補がいないので、ほとんど信任投票だった。

 でも、信任投票であっても、自分なりの考えと学校への想いを知ってもらって投票してもらおうと思っていた。
 だから一週間かけて、あーでもないこーでもないと推敲に推敲を重ねて演説原稿を考えて書き上げた。

 でも、本番ではぶっ飛んで、真っ白になった頭で思いついた言葉を喋ってしまった。

 原稿では、江戸時代の藩校から続いている相賀高校のすばらしさを語り、伝統を今の時代に合わせて発展させようということになっていた「古き良きお酒を新し器に!」がキャッチフレーズだった。

 でも全部とんでしまった。「古き良きお酒」か「良き古きお酒」だったかで混乱。生徒会選挙に「お酒」というフレーズが相応しいだろうか? などとウジウジしていたら、勝負服の違和感と相まって、なにも出てこなくなってしまった。
 気づいたら選挙管理委員長の『制限時間いっぱい』というカンペに驚いて、唐突に終わってしまった。

 当選の知らせを聞いたのは保健室のベッドの上。

「めいちゃん、圧倒的多数の票で信任当選だったわよ」
 はなちゃんが耳元で囁いてくれた。
「ほんと……?」
 そう言ったきり再び意識が無くなった。
 
「では、めいちゃんの生徒会書記当選を祝して、かんぱーい!」

 2日寝込んで危うく流れそうだったけど、あたしの当選を祝してくれて、うちのお店でお祝いのパーティーになった。なにか祝い事があると、みんなで集まって飲み食いするのが商店街の慣わしだ。つい先月、こうちゃんが具足駆けをやってお祝いをやったところだけど、こういうももは何べんやってもいいもんだ。今日は商店街の幼なじみのほかにもアーケーズの三好さん畑中さん大久保さん高階さんも来てくれている。
「まず、めいちゃん。当選の弁からお願いします!」
 こうちゃんが張りきって言う。こういうお祝いの席は、前回お祝いしてもらった者が司会を務めることになっている。
「やだあ、本人の言葉は一番最後にやるもんじゃないよ!」
「今日は途中で抜ける人もいるから、最初にやってよ」
「仕方ないなあ……えと、応援どうもありがとうございました。本番はぶっ飛んで、原稿に書いていないことばかり喋りました。正直なところ体育祭の馬合戦復活は唐突過ぎて賛成してもらえないかなと心配でしたが、意外にたくさんの人にご賛同いただいたようで、ほんとうに嬉しいです!」
「あ、あれは唐突だったぜ」
 りょうちゃんが実も蓋もないことを言う。
「そうじゃないわよ」
「だって」
「りょうちゃんは黙ってて」
「みんなの心にしみたのはね、馬合戦の前説で言ってたことよ」
「「「「「「「「「「そうそう」」」」」」」」」」」
 みんなの声が揃った。
「え…………?」
「あたしらの相賀高校ってか相賀の街って、新旧の住人に、ちょっと溝があるって話」
 ふーちゃんがしみじみと言った。
「あたしらのバレー部がパッとしないのは、そういうとこにも問題ありなんだと思い知らされた」
「わたしバレー部のことなんか言った?」
「直接じゃないけど、運動部の試合にも影を落としていることがあるって。凡ミスの原因の一つなんじゃないかって、バレー部でも話題になった」
「うん、めいちゃんの話って、半分以上は新旧の生徒の意識のずれのことだった」
「それが一々的確でさ。めいちゃんが、あんなに詳しく気が付いていたのは意外だったってか、尊敬したわよ」
「わたし全然覚えてないわよ」
「ハハハ、そうかもね。めいちゃんの記憶の中じゃ中略になってるもんな」

 わたしは、この小説の前号を読み直してみた。確かに、わたしの演説は、その部分で『中略』になっていた。


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

 三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん   商店街じゃないけどアーケーズの仲間

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・24『寒いのだ!』

2018-03-20 13:58:34 | 小説3

通学道中膝栗毛・24

『寒いのだ!        

 

 昨日とは打って変わって寒いのだ!

 

 花冷えと言う言葉があるけども、やっと靖国の標本木がチラホラ咲きだしたばかりで「花冷え」というのも気が早いような気がするし、「花冷え」という「ま、春にしては冷えるね」というような冷え方ではないのでこだわっている。

 言うまでもなく、三月の半ばともなれば学校に暖房なんぞはない。

 学校が作ったのか教育委員会の指示なのか、教室の室温が十八度を下回らなければストーブを点けてもらえない。

 

「教室二十度もあるからね……」

 

 朝のSH(ショ-トホームルーム)で、わが担任が残念そうに言う。たしかに黒板横の寒暖計は摂氏二十度を指している。

 気弱な先生を困らせたくないから言わないけど、この寒暖計はどうかと思うのよ。

 だって、わたしの席は窓側の後ろ。晴れてさえいれば昼食のあとなど上目蓋と下目蓋が講和条約結びそうになるほど暖かいけど、あいにくの曇り空。

 ジョーダンじゃねーぜ、窓際は十六度っきゃねーんだぜ……

 前の席の男子がヒッソリと呟く。同感なんだけど、呟いているだけじゃ改善はされない。余計イラつくから、止めてよね、地震と勘違いしそうな貧乏ゆすり!

「えと、小山内さん、日直だから学級日誌とりにきてね」

 担任が去り際に言う。

 え、あの、黒板にはAさんが日直だって……書いてあるんですけど。

「あ、二日ほど書き忘れてた」

 そういうと、なんのこだわりもなく日直の下に小山内と書き入れる。文句の一つも言っていいシュチエーションなんだけど、気弱なわたしは戸惑った顔するしかない。

 もう一時間目のチャイムが鳴りそう……わたしは職員室までダッシュする。

「こら、廊下走っちゃダメだろ!」

 SH終えて出てきた隣の担任が無情の叱責。後ろにうちの担任いるんだから一言言って欲しいわよ。

 

 職員室のドア開けてムカついた!

 

 なんと、職員室は三つもストーブがあって、いずれも赤々と稼働中。

 いちおう決まり通り、クラスと名前を名乗り学級日誌を取りに来ましたと告げる。

 すると、学級日誌たての近くの(名前も憶えていない)先生が――声でけーんだよ――という顔をする。

 口ごたえすると数倍にして返されそうなので、サッサと日誌をとって失礼する。

 急ぎ足で教室に戻ろうとして、日誌の表紙を見る……なんと隣のクラスの日誌。

 

 クソ!

 

 急いで取り換えに戻る……ゲ、うちの日誌が無い!

 伊達に二年生をやっていないのよ。一年生の同じクラスのところに学級日誌、取り出してみるとまごう方なき我がクラス。

 先生が入れ間違えた……こみ上げるものをグッと堪えて教室に向かう。

 トイレに行きたかったけど、チャイムが鳴る前のスピーカーの密やかな唸り声がする……数秒逡巡。

 むこうの渡り廊下を一時間目の先生が行くのが目について「クソッ」とこぼして教室へ。

 

「日直の仕事はテキパキやろうなあ」

 

 一瞬遅れて入ったわたしに先生のイヤミが飛んでくる。

「あ、延長コード忘れた。すまん日直、職員室までとってきてくれ」

 ムッとしたけど、仰せのままに職員室へ。

 コードを持って戻ってみると、なんと先生の足元に電気ストーブ、これのためのコードなのかよ!

 おもわず睨んでしまったんだろう、先生の目が不機嫌そうに細まる。

 おっと、わたしは平和主義なんだ、メイドのバイトだってしてるんだ、メイドは笑顔が第一!

 十五度しかない自分の席へ……冷た!

 ほんの数分離れていた席は、スカートの生地を突き抜けてくる。

 

 授業開始九分後、わたしは窮した。めちゃくちゃトイレに行きたくなってきた……。

 

「先生、トイレに行かせてください」

 

 勇をふるって言ったわよ。笑顔なんて余裕ないから、きっと怖い顔になってたと思う。

 だけど、こういう言い方は無いと思うわよヽ(`Д´)ノプンプン!

「なんだ、大きい方か小さい方か?」

「し、知りません!!」

 泣きたい気持ちで教室飛び出したわたし。

 

「ちょっと、なんで、そんなに機嫌悪いのよぉー?」

 

 家の用事で遅刻してきた夏鈴がノドカに聞いてくるが「なんでもない!」とそっぽ向くしかないわたしだった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5[われ奇襲に成功せり!]

2018-03-20 06:10:12 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5
[われ奇襲に成功せり!]



 文化祭は大成功だった。

 麗の学校は、地域との連携を取るために、文化祭の参観は、ほぼ自由だった。
 なんと、たった一日の文化祭に一万人を超える参観者が来た。その半分近くが演劇部茶道部合同のパフォーマンス目当てだった。
 
 YouTubeで流した毎日のメイキング映像が、予想以上に人を集めたのだ。

 本番までのアクセスは二万件に達した。麗は裏方のことにも詳しく、特に照明と音響が命であることを承知していたので、衣装を貸してくれた大学に掛け合い、オペレーターの人員付きで機材を貸してもらった。学生たちは演劇科の舞台技術の学生たちで、いい練習になるということで、セッティングの企画からオペまで任せることを条件にロハでやってもらった。

 前日のリハで、手伝いにきていた演技コースの学生が「面白そうだからMCやらせて!」ということで急きょ、ほとんど専門家と言っていい学生たちが、ディレクターとMCを引き受けてくれることに。
 そして、勢いとは恐ろしいもので、軽音とダンス部が羨ましがり、三つの出し物が一つのイベントのようになった。そのリハの日のメイキング映像は、これも面白がって付いてきた放送学科の学生たちが、本格的なカメラで撮り、本格的に編集してその場でYouTubeにアップロードされ、一晩だけでアクセスが二千件ほどになり、通算一万件のアクセスになり、その半分近くが動員人数になった。
 他の生徒たちは、自分たちの準備に忙しく、YouTubeなど見ている間が無く、これだけ盛況になるとは思ってもみなかった。なんせ、麗は以外は、当の演劇部自身も予想していなかった。

 戦争なら、敵は一番弱いところを全力で叩きにくる。イベントなら新鮮な面白さが感じられるところの人は集まる。麗は戦争と同じだと思っていた。

「あたしたち朝一の出番でいいわよ」
「ええ、麗ちゃん、朝一なんてお客ほとんどいないわよ」
 麗の申し入れにスケジュールの調整に苦労していた生徒会は喜び、宮里部長は不服そうだった。
「大丈夫だって、その代りお客が多くて、アンコールとかかかったら、空いた時間にやらせてくれる?」
「ああ、いいよ」
 生徒会長は、あり得ない話だろうとタカをくくってOKを出した。

 で、結果的には、その麗の予想をさえ超える観客が、朝から集まった。

「申し訳ありません、昼休み前に、もう一度やりますので、それまで他の企画をお楽しみください」
 と、生徒会長は答えざるを得なかった。
「じゃ、それまで模擬店でも回るか」
 と、大半のお客はたこ焼きやら、ウインナーなどの模擬店回りをやった。そのために食材が無くなり、模擬店はどこも昼前には店じまいの状態。喜んだのは学校周辺のお店だった。コンビニやファミレス、蕎麦屋などにお客が流れ始め、地域経済の振興にも一役買った。
 そして、噂は噂を呼び、昼前の第二回公演では、立ち見も含めて900人、それでもあぶれる人たちが出た。

 餅屋は餅屋という言葉がある。

「いっそ、野外でやろう!」

 大学生が張りきった。昼休みのうちに、校舎とグラウンドの間の段差をステージにしてしまい、あっという間に照明とPAの機材のセッティングを終えた。お客は、そのセッティングさえ珍しく、かつ面白いので、20分押した準備も気にはならなかった。
 観客はグラウンドの半分を占め、軽音・ダンス部・演劇部茶道部の合同チームは、MCの進行も良く。
「どう、いっそみんな一緒にやっちゃわない!」
 その提案に観客も大喜び。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』は、最後は観客も交わり、大盛況のライブイベントになってしまった。

「奇襲大成功ってとこかな」

 麗は、そう呟いたが誰も気づかなかった。ただ急きょグラウンドでやったので、その騒音は近隣に鳴り響いた。終了後、すぐにご近所にお詫びの戸別訪問をしなくちゃ。そう思った麗は道連れになる校長先生のバーコードが憐れに思えてくるのだった……。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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