大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・29『夏鈴がいない通学路』

2018-03-26 15:23:26 | 小説3

通学道中膝栗毛・29

『夏鈴がいない通学路        

 

 

 いつものように三叉路で立ち止まった。

 

 バカだなあ……数十秒立ち止まって、自分のバカに気づき、ため息ついて歩きはじめる。

 歩きっぷりがノタクラしているのは春の陽気のせいじゃないよ。

 今朝から夏鈴がいない。それを忘れ、習慣で夏鈴を待ってしまったんだ。

 夏鈴は、いつもわたしの左側を歩く。その夏鈴がいないもんだから、左半身がスースーする。

 たまにどっちかの都合でいっしょに行けないことがある。その時は、こんなに虚脱感は無い。

 だって、あくる日にはまたいっしょにいるんだから。ここ当分、いや、ひょっとしたら死ぬまで夏鈴とはいっしょに歩けないかもしれない。歩くどころか、気安く話しかけることも出来なくなるかもしれない。ひょっとしたら、わたしと友だちだったって事実も消されるかもしれない。

 どうしよう。

 だって、そうでしょ。わたしみたいなのが友だちだったなんて、夏鈴の履歴には傷かもしれない。

 だって、夏鈴はノインシュタイン公国の王女様になってしまったんだ。

 わたしみたいな取り柄のないのが刎頚の友だったなんて、やっぱマズイよね。

 最後に夏鈴といっしょに食べたのが焼き芋だった、芋清の地下でモソモソと食べたのは、ほんの二日前のことなのに、もう何年も昔のような気がする。

 電車に乗ったら、めずらしくシートが空いている。ヨイセっと座るんだけど、一人分横を空けてしまう。

 ちょうどお年寄りが乗って来たので「どうぞ」ととびきりの笑顔で席を譲る。

 悲しいのに、寂しいのに、なんで笑顔になれるんだ? 悲しくても笑顔になれる自分を発見。

 吊革につかまって外の景色を眺める。桜咲いた……そう二人で呟いたのは先週の事、それがもう満開だ。

 

「足立さんが昨日付で転校しました」

 

 担任の先生が、ほんの三秒ほどで説明。

 だれも何も言わないし聞かない。新学年がが始まって、ほんの数日だから、こんなもん。

 寂しいと思う気持ちと、まだ噂が広まっていない安堵感の両方が胸をしめる。この「しめる」は掛詞なんだと思いつく。

 

 下校時間、どうも熱っぽい……花粉症の一種か?

 

 ボーっとした頭で家路につく。

 電車を降りると寒気がしてきた……風邪か? 明日休んじゃうかな。

「栞ちゃん」

 商店街入って声をかけられる。首をねじると芋清のおいちゃん。

 ニコニコ笑顔で招じ入れてくれて「これ、風邪に効くから」と特製の甘酒を注いでくれる。

 すべての事情を知っているはずなのに、夏鈴のことは一言も言わない。

 はんぱな慰めで癒えることじゃないのを分かってくれているんだ。

 甘酒と焼き芋を交互に口に運んで、例の地下室で休ませてもらったら少し元気になった。

 お蔭で、明日は休むことなく学校にいけそうです。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・アーケード・25・花子編《そういうことで駐禁ですから》

2018-03-26 12:26:03 | 小説

・25・花子編
《そういうことで駐禁ですから》



 わたしは、月に二三度お坊さんになる。

 うちがお寺なのだから、お手伝いとも言えるしアルバイトとも言える。お寺は商店街の中にあるので、他の商店街の仲間たちは自分たちと同じ人種だと思っている。そういう感覚でわたしもいるんだけど、お寺は商売とは違うということを、ときどき実感する。

 遠い檀家さんのところには原チャリで行く。

 今日はお兄ちゃんの諦観からメールが入って急に檀家詣りに行くことになった。お兄ちゃんもお父さんも近隣のお寺の世話役をやっているので、ときどき臨時の仕事が入って、お鉢が回ってくる。
「ごめんなさい、家の仕事が入っちゃった」
 クラスメートに手を合わせて教室を出る。
 今日は中間テストの前日で、午前中で授業はおしまい。テストの前日でも、家に帰ってガッツリ勉強するというようなことはやらない。クラスメートといっしょにファストフード店に行ったりカラオケに行ったりする。でも2時間ほどで切り上げて家に帰る。まあ、ほどよく遊んで、ほどよく勉強するグループ。
 こういうグループが、クラスに2つ、クラスを跨いで2つほどあって、声が掛かれば、そのグループのどこにでも行く。メインの所属は商店街だけど、家がお寺と言うこともあって、付き合いはまんべんなくがモットーなのです。

 今日お参りするのは、駅一つ向こうの檀家さん。

 自転車でいくと、片道20分。この季節だと汗みずくになる。原チャリだと――風に吹かれて気持ちいい!――と思っているうちに到着する。お坊さんと言うのは黒い衣を着ているので吸収する太陽熱はハンパじゃない。だから原チャリの免許をとったのは、親の勧めとは言え大正解。

「ごめんくださ~い、西慶寺で~す」

 ピンポンを押して、ゆったりと名乗る。このへんの名乗り方は檀家さんによって変える。西村さんは、こういうゆったりがお好きなようなのです。
――あら、今日ははなちゃんなのね。どうぞ――
 お婆ちゃんのお返事を受けて中に入る。
「ご苦労様です、はなちゃんに来てもらうと嬉しいわね」
 お婆ちゃんは上品に微笑みながら嬉しいことを言ってくださる。
「お爺さん、はなちゃんですよ。今日ははなちゃん!」
「お、おお、これはこれは」
 お爺さんと言っても、やっと60半ばというおじさんが仏間にやってこられる。
 中村さんのお宅は、基本的にはお父さんがお参りすることになっている。だけど、わたしが得度をした2年前に「うちの娘も得度しましてなあ」とお父さんが世間話。「え~息子さんは諦観さんでしたなあ……娘さんは?」「ああ、花子ですよ。報恩講でお茶の接待をしておりました」「ああ、あのはなちゃん」「それはそれは」
 という具合に駘蕩とした雰囲気の中で、ときどきわたしがお参りすることが了承された。
 思うに、わたしの名前が花子であることが功を奏しているように思えるのですが、いかがでしょう?
 これが幼稚園のお仲間の歩小鈴(ぽこりん)というような名前だと躊躇われたのではないかと思います。花子と言う役所の書式のような名前は、スルッと人の心に入っていけるような温もりがあるような気がします。

 お務めが終わって表に出ると、とんでもない事態になっていた。

「え、駐車違反!?」
 我が愛車のハンドルに無情の駐禁のシルシが付けられていました。ため息をついていると後ろに気配。

「これ、あなたの?」
 女性警官には珍しい器量よしが立っている。
「月参りで、ほんの15分ほど停めていただけなんですよ」
「でも、駐車違反です」
「2か月前は駐禁じゃなかったと思うんですけど」
「変わったんです」
「あのう、わたしは西慶寺の者なんですけど、ここは100年以上前から檀家さんです。父も祖父もバイクでお参りしていましたけど、駐禁なんか取られたことないですよ」
「だから変わったんです」
 女性警官は――変わったって言ってるでしょ、なに分からないこと言ってるの!――という感じで笑いもしないで言う。
「あのう、おまわりさん」
「はい?」
「こちらの警察に配属になって、まだ間が無いんですか?」
 この一言が余計だった。
「ちょっと免許証見せてもいらえますか」
「はい?」
「免許証」
 わたしは、ゴソゴソとお財布を取り出し、中から免許証を出した。
「藤谷花子……さん」
 なんで名前と敬称を離すんだろう。
「ん……16歳?」
 なんだか失礼。
「そうですが、なにか?」
「高校生なの?」
「そうですけど、この瞬間は西慶寺の僧侶です」
「ふーん……ま、そういうことで駐禁ですから」
 この女性警官さんには花子の神通力は通用しない。
「これもなにかのご縁ですから、オネエサンのお名前も教えていただけませんか?」
 狭い城下町なので、嫌味ではなくて、やわらかく訊ねた。
「はい、これです」

 女性警官はニコリともしないでバッジ付きの身分証明書を提示した。偶然だろうけど、有名な女性議員と同じ名前だった。
 


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする