通学道中膝栗毛・29
いつものように三叉路で立ち止まった。
バカだなあ……数十秒立ち止まって、自分のバカに気づき、ため息ついて歩きはじめる。
歩きっぷりがノタクラしているのは春の陽気のせいじゃないよ。
今朝から夏鈴がいない。それを忘れ、習慣で夏鈴を待ってしまったんだ。
夏鈴は、いつもわたしの左側を歩く。その夏鈴がいないもんだから、左半身がスースーする。
たまにどっちかの都合でいっしょに行けないことがある。その時は、こんなに虚脱感は無い。
だって、あくる日にはまたいっしょにいるんだから。ここ当分、いや、ひょっとしたら死ぬまで夏鈴とはいっしょに歩けないかもしれない。歩くどころか、気安く話しかけることも出来なくなるかもしれない。ひょっとしたら、わたしと友だちだったって事実も消されるかもしれない。
どうしよう。
だって、そうでしょ。わたしみたいなのが友だちだったなんて、夏鈴の履歴には傷かもしれない。
だって、夏鈴はノインシュタイン公国の王女様になってしまったんだ。
わたしみたいな取り柄のないのが刎頚の友だったなんて、やっぱマズイよね。
最後に夏鈴といっしょに食べたのが焼き芋だった、芋清の地下でモソモソと食べたのは、ほんの二日前のことなのに、もう何年も昔のような気がする。
電車に乗ったら、めずらしくシートが空いている。ヨイセっと座るんだけど、一人分横を空けてしまう。
ちょうどお年寄りが乗って来たので「どうぞ」ととびきりの笑顔で席を譲る。
悲しいのに、寂しいのに、なんで笑顔になれるんだ? 悲しくても笑顔になれる自分を発見。
吊革につかまって外の景色を眺める。桜咲いた……そう二人で呟いたのは先週の事、それがもう満開だ。
「足立さんが昨日付で転校しました」
担任の先生が、ほんの三秒ほどで説明。
だれも何も言わないし聞かない。新学年がが始まって、ほんの数日だから、こんなもん。
寂しいと思う気持ちと、まだ噂が広まっていない安堵感の両方が胸をしめる。この「しめる」は掛詞なんだと思いつく。
下校時間、どうも熱っぽい……花粉症の一種か?
ボーっとした頭で家路につく。
電車を降りると寒気がしてきた……風邪か? 明日休んじゃうかな。
「栞ちゃん」
商店街入って声をかけられる。首をねじると芋清のおいちゃん。
ニコニコ笑顔で招じ入れてくれて「これ、風邪に効くから」と特製の甘酒を注いでくれる。
すべての事情を知っているはずなのに、夏鈴のことは一言も言わない。
はんぱな慰めで癒えることじゃないのを分かってくれているんだ。
甘酒と焼き芋を交互に口に運んで、例の地下室で休ませてもらったら少し元気になった。
お蔭で、明日は休むことなく学校にいけそうです。