アーケード・9
《西慶寺本堂にて》
商店街の幼なじみ達は西慶寺の本堂に集まった。
「……というワケなのよ!」
文香はバレー部のポイントゲッターで、ガタイも大きいが声も大きい。その文香が興奮して喋りまくるのだから、御本尊の阿弥陀様もびっくりだ。
「要するに~、けしから~んということね」
お寺の花子がノンビリとまとめようとしたた。
「え、え、そうよ。学級崩壊してるわけでもないのに、学年の途中でクラス替えなんて絶対やってはいけないことよ! それも小学校の1年生の4月だよ、そう思うでしょ、みんな!?」
文香は腕をブンブン振り回しながら続ける。
「こんなの許したら、あたしたちの相賀小学校は死んでしまうわよ!」
「ふーちゃんの想いは伝わったから、ね、お確かめしよう。りょうちゃんお願い」
「え、なんでオレ?」
幼なじみたちには不文律がある。大事なことを決める時は、発案者ではないものが中身を確認して、きちんと共通理解が得られていることを確認する。
お確かめと言って、相賀五万石の昔からの慣わしである。
殿様の御前で評定をするとき、声の大きい者に流されないよう、また、冷静に共通理解が得られるようにするために一番口数が少なかった者が評定の中身を確認することになっている。
このとき花子が遼太郎を指名したのは口数の少なさではなく、脱線する発言が多く、ほとんど聞いていないからだろうと思われたからである。
「お確かめ!」
文香が催促し、幼なじみたちの視線が遼太郎に集まる。
「え、えと……相賀小学校があ、4月のこんな時期に1年生のクラス替えをやるのは、おかしい……って、えー、ことだよな?」
「たよりないなあ、りょうちゃんよー!」
「まあ、基本は外してないから。ありがとうりょうちゃん。みーちゃんも、これでいいかな?」
花子はみなみにも振った。みなみの弟の正親も相賀小学校の1年生だからだ。
「うん、まーちゃんも変な顔してたしね」
「よし、じゃ、あたしとこうちゃんが事情を聞きに行く~ってことでいいわね?」
みんなが頷いた。
「ついでに運動会のことも聞いてくるわね~」
それだけでみんなには分かった。去年休止になった『相賀騎馬戦』のことなんだと。
花子は、穏やかに話しをしに行くために運動会のことを付け加えたのだ。クラス替えのことだけでは角が立つと思った。
だが、お寺さんらしい花子の気配りは相賀小学校の校長の一言でワヤクチャにされてしまった。
――卒業生のご意見は嬉しいけど、未成年であるあなたたちとはお話しできません――
穏やかだけれども、明らかすぎる拒絶だった。
「こまったなあ」
花子から話を聞いた甲は自分の顎を撫でた。言葉の割には深刻そうには見えない。
「どうも、郷中のことを分かってもらえてないようね……」
花子も腰かけた本堂の階(きざはし)に後ろ手着いてこぼした。昼ごはんを食べ損ねた程度の穏やかさだ。
この穏やかさは、相賀の地生えの者にしか分からなかった……。