大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・14・芽衣編《ノートを閉じるまで》

2018-03-11 17:20:31 | 小説

・13・芽衣編
《ノートを閉じるまで》



 りょうちゃんは毎日、あーちゃんは週一回うちのお店にやってくる。

 むろん他の幼なじみもしょっちゅうやってくるけど、この2人は定期便だ。
 うちは喫茶ロンドン。商店街で唯一の喫茶店。飲食店の少ない商店街なので、並の喫茶店に比べると食事のメニューも充実している。
 当然仕入れる食材も多いので、野菜や玉子やお肉、乳製品などを毎日届けてもらっている。種類も量も並の喫茶店より多いと思う。思うって言うのは、他の喫茶店のことは知らないから。何度も言うけど、うちは商店街唯一の喫茶店。

 りょうちゃんが毎日やってくるのは、りょうちゃんの家がお肉屋さんだから。

 毎朝発泡スチロールの箱にお肉を入れて配達してくれる。
「ちわー、お肉の室井でーす!」
 今日も元気に配達してくれた。配達と言っても、室井精肉店は道を挟んだお向かいなので、大抵は30秒ほどで用事はすんでしまう。これで月に5000円のバイト代をもらっているのだから羨ましいやつだ。あたしなんか1日平均3時間くらい手伝って月に1万円。

 え、1万円の方が多いって?

 考えてもみてよね、1日3時間ということは月25日として75時間。時給にして133円なんだよ。そいで家からもらうお金は基本的にこの1万円だけ。
 りょうちゃんは、30秒の25日だから月に13分ほど。むろんイレギュラーで他の配達も入るけど、これで月5000円はどうなんだろう。むろんお小遣いは別にもらっているらしい。らしいというのは、このバイト代のことを話した時、みんなからブーイングだったため、りょうちゃんは口をつぐんでしまったから。

 で、今日のりょうちゃんは15分もうちの店に居た。

「なんだ、もう試験勉強か?」
「ちがうわよ。って、こらー、見ないでよ!」
 あたしはテーブルの上のものを隠したけど、りょうちゃんに一息速くノートをふんだくられた。
「あー、これって立会演説会の……」
「もう見ないでよ!」
「ああ、わりい」
 りょうちゃんは、あっさりと返してくれた。なんだか拍子抜け。
「メイちゃん偉いよ」
「え、ええ?」
 素直に誉めるので、抜けた拍子が戻らなくなってしまった。
「うちの親父も商店会とか郷土史会の役員やってるじゃん。ああいう仕事って大変だもんな。偉いと思うよ」
「なんだか、いつものりょうちゃんじゃないよ……」
「そっか?」
「あ、うん。なんかあった?」
「なんもねーよ。おれだって、いつもバカやってるわけじゃないんだからな」
「う、うん」
「マジ、ちょっと読ませてもらっていいか?」
 あまりに真面目なりょうちゃんだったので、思わず頷いてしまった。

「……て、感じかな」

 しっかり読んで感想を言ってくれた。ベースにしたのがお母さんの原稿だったので基本的には異議なしだった。ただ言い回しが古いので今風に変えてみたらというアドバイス。
「じゃ、今風ってどんなの?」
「そりゃ自分で考えろよ。おれバカだから分かんねえよ」
「さっき、バカじゃないって言った」
「あ、もうバカに戻っちまったから」
「なに、それ!?」
「しっかり考えろよ、連休明けなんてすぐなんだからよ」
「う、うん」
「じゃ、失礼します。毎度アリー!」
 で、帰ってしまった。
「なによ、あいつ……」
 カウンターの中でお祖父ちゃんが笑っていた。

 それから、あーちゃんがやってきた。

「フラワーショップ花です。デリバリーです!」
 そう、週に一回あーちゃんのお店から、お店に飾る花を配達してもらってもらっている。
 ちなみに、あーちゃんはバイト代はもらっていない。ま、いろいろあるってっことです。
「おや、もうバラの季節かい?」
「へへ、花屋は季節の一歩先を行きます」
「そうだね、商売人の要諦だな」
「はいです!」
 そう言って、あーちゃんはお店の3つの花瓶に花を活けてくれる。あーちゃんは美華流師範の腕なので見事に活けてくれる。
「あー、メイちゃん、立会演説の原稿?」
「あ、うん。連休明けたらすぐだからね」
「う~ん、決めてしまうのには、ちょっと早いんじゃないかな」
「え、そう?」
「だって、立会演説って連休明けの木曜日」
「うん、だからもうすぐ」
「花に例えたらなんだけどさ、蕾の時期がなきゃ花って咲かないから」
「ん?」
「養分貯めなきゃさ。バラだって、この時期にはなんとかなるけど、2月に咲かせろってないから」
「それもお説だなあ」
 お祖父ちゃんが賛同した。
「泰介だって、結衣さんにモーションかけるのに2年かけたからなあ」
「いま書くより、いろんな人から意見とか要望聞いてスクランブルにして、直前にまとめたら? いま大事と思っても直前になったら案外つまらないってこともあるよ」
「そうね……」
「それに、せっかくの連休なんだから、そっちも大事にしなきゃ」
「それは、あーちゃんの言う通りだよ」

 お祖父ちゃんが、そう言って、あたしはノートを閉じた。 

 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

コメント
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