大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・22・芽衣編《ボコッ!!》

2018-03-18 13:02:57 | 小説

・22・芽衣編
《ボコッ!!》



 演壇に立つと全部とんでしまった。

 立会演説のスピーチは何日もかけて書き上げた。こうちゃんからもらったお母さんの原稿も取り入れて、一昨日やっとできあがった。
 で、本番はアンチョコ無しでやろうとスピーチ原稿を全部暗記した。今朝、商店街の仲間に立ち会ってもらって「めいちゃん、完璧だよ!」とお墨付きまでもらった。
「念のためにもう一回やっとこう」
 お昼休みに、こうちゃんが言ってくれたけど「静かにイメージトレーニングしたいから」と断った。

 断ったのが悔やまれる。暗記したはずのスピーチが全部とんでしまった。

 立会演説に気合いを入れるために、制服はクリーニングのしたて。ブラウスも下着も新品にした。人には分からないが勝負服だ。
 でも、ここに至って、勝負服の違和感がわたしの感覚を支配していた。
 言葉がちっとも出てこないで、おニューのブラウス、その襟や袖口が肌に当たるウブな感触。クリーニングしたてのスカートの生地が太ももに当たる、清潔ゆえに感じるよそよそしさ。ニーハイのわずかにキツイ締め付け感。ブラのストラップがいつもより5ミリほど内側に当たる違和感。ゆうべ代えたおニューのシャンプーの香りさえよそよそしい。

「あの……えと……」

 意味もなく後れ毛をかきあげる。かきあげた手に700人余りの全校生徒の注目が集まる。
――めいちゃん、がんばれ!――
 お寺のはなちゃんが、口の動きだけで応援してくれる。それにあわせて商店街の仲間の視線が集まるのが分かる。
――こんなに大勢いても目力って感じるんだ。りょうちゃんも真面目に黙っていれば、けっこういけるんだなあ――
 関係ないことばかり浮かんでくる。あせって視線が泳ぐ。
 またオーラを感じる。三好さんと畑中さんだ。商店街組じゃないけどアーケーズの仲間だ、いつもは一歩引いたところにいるけれど、今は全身全霊で応援してくれている。

 すると言葉が出てきた。

「……わたしには仲間がいます。同じ商店街で兄妹のように育った仲間。幼なじみです。それこそオムツをしていたころからの仲間で、もう16年の付き合いです。他にも仲間がいます、小学校からいっしょだった人たち、中学校からいっしょだった人たち、そして高校に入っていっしょになった人たち。付き合いの長さはまちまちですが、みんな仲間です。
 でも、仲間だから、なんでもかんでも力を合わせて頑張れるわけはありません。
 この相賀高校には、大きく分けて二つの仲間があります。一つはずっと昔から相賀の町に……というか、相賀の御城下に住んでいた人たち。もう一つは親の代、ひょっとしたら、ほんの何年か前に相賀の町に越してきた人たち。むろんもちろん同じ相賀高校の仲間です。
 でも、そう大きく括ってしまっては零れるものがあります。たとえば文化祭で模擬店をやった場合、焼きそばの作り方が微妙に違います。相賀は焼き上げる寸前に出汁を加えます。だから最初に麺をほぐすときにはあまり水を加えません。たがいに違うと思っているので、遠慮してしまって、どっちでもない関西風にやってしまったりします。玉子焼きも相賀は関東では例外的に甘くない玉子焼きです…………

(中略)

 ………このように互いに遠慮したり気配りしすぎたりして、ほんとうなら100+100で200の力になれるところが、100ほどの力にもなっていなくはないでしょうか?
 僭越ですが、わたしたちは商店街の女の子たちでアーケーズというユニットを組んでいます。メンバーは昔から組とお引越し組とが居ます。がんばってはいますが、まだ完璧には……そう100+100=200にはなれています。でも人間て違うと思うんです。100×100は10000です! 人間は化学変化を起こして掛け算になることもあるんです! 
 具体的な提案です(いま思いついた)。体育祭では危険ということで数年前から馬合戦、普通に言えば騎馬戦ですね。これが中止されています。この馬合戦は相賀の伝統行事『馬揃え』の『旗絡め』から来ています。伝統の行事と新しいアイデアで復活しませんか? これは単に体育祭の種目の問題ではないのです。みんなが知恵と力を出し合ってやり遂げる、その第一歩になればと思います! あ、え、あ、時間ですか? ではみなさん、書記候補の百地芽衣でした、よろしくお願いします!」

 次の瞬間、体育館中にボコッ!!という音が響いた。お辞儀をしすぎてオデコがマイクに激突したのでした。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

 三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん   商店街じゃないけどアーケーズの仲間

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3[麗の部活探し]

2018-03-18 06:41:09 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3
[麗の部活探し]


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。


 あの日から麗は人が変わった。


 クラスメートとも気軽に話すようになったし、冗談も言うようになった。
 授業中も以前なら先生が間違えたりごまかしたりすると、容赦なく責め立てた。特に社会科の授業で日本の批判をするような教師には「根拠を示してください」とか「現代の道徳観で過去の歴史を見れば、全ての時代が暗黒の時代になります。同時代の他国との比較の上に論じなければ意味がありません」などとやり、誤魔化そうとしようものなら高校生とは思えない知識と論理で徹底的に論破された。

 それが、このごろは、そういうことをしなくなった。今日の二時間目などはAKBの『心のプラカード』を口ずさんで叱られ、赤い顔をして俯いたりした。

 麗は入学以来クラブに入ったことは無かったが、なんと二年の二学期になって、クラブの見学に行くようになった。
「すみません、見学させてください」
 二年の見学などめったにいないのだが、学年でも飛び切りの美人(けして可愛いという範疇ではない)が来るのだから男子部員はホクホクと鼻の下を延ばした。
「あたしもやっていいですか?」
 と、剣道部で言った。
「じゃ、防具つけて。美奈穂手伝ってやれ」
 と、部長が言い終わったころには、身支度を済ませて竹刀を構え蹲踞していた。
「早いな……じゃ、美奈穂。素振りから胴と面うちを……」
「試合させてください」
「え……じゃ、美奈穂、怪我させないように」
 と、四人いる女子部員で、引退前の三年生の美奈穂に指示した。
「じゃ、立花さん、正眼に構え……」
 麗は、すでに隙のない正眼に構えていた。

 一発で胴を決めた。むろん麗の勝ちである。

 しつこく勧誘されたが、剣道部で自分より強い者はいないと見きって、断った。柔道部もチラリと覗いたが、剣道部以上に下手なので、見学もしないで、スルーした。
 一応茶道部に入ってみた。ただ月に数回の部活なので、まだまだ余裕である。
「あなたの手って、表千家ね」
 と、お茶の先生に言われたのが動機だ。自分がお茶の作法を知っていたのも驚きだったが、なんだか心が落ち着くので、月に何度かお茶をたしなむのもいいかと思ったのだ。

 そんなある日、グランドと校舎の間の段差に座って意気消沈している二人の女生徒と一人の男子生徒に気づいた。そのうちの一人は剣道部の美奈穂であった。

「どうかしたんですか、美奈穂さん?」
「あ、あなた立花さん!?」

 意気消沈しているのは、演劇部だった。正規の部員はたったの二人で、美奈穂はギターの腕を見込まれて、この秋にやる芝居の生演奏で協力していたのである。
「へえ、美奈穂さんて多才なんだ!」
 麗は素直に感心した。
「ありがとう、でもね……主役の子が入院しちゃって、本番間に合わないのよ。で、どうしようかって考えてるとこ」
「コンクールの申し込み24日、もう一週間しかない……」
 部長らしい女生徒が盛大なため息をついた。
「どんな台本?」
「これ……」
 渡された台本は『すみれの花さくころ』とあった。戯曲集から直接コピーされたもので余白が少なく書き込みに不便そうだが、活字そのままなので読みやすかった。
「どの役が入院したのかしら?」
「あ、その咲花かおるって役」

 斜め読みだが、麗は五分で読んだ。そして信じられないことを口走った。

「あたしで良けりゃ、やらせてもらってもいいわよ」

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