通学道中膝栗毛・15
人骨が出てきたんだって。
剣呑な噂を聞いたのは昼休みの中庭。
中庭の真ん中には創立以来のケヤキがあってベンチが巡らせてある。そのベンチに腰掛けようとしていると、ケヤキの向こう側のベンチから聞こえてきた。
え!?
身体を伸ばして振り返ると、例の一年生たち。
目が合ってしまい、一年生たちはバツ悪そうに顔を見合わせる。
「えと、あの更地にいましたよね?」
ショートカットの子がオズオズ聞く。
「あ、うん。駅とかで、よくいっしょになるよね」
「あの更地から人骨が出てきたって、今朝は警察とか来てましたよ」
「え、そうだった?」
「家の用事で二時間目から来たんですけど、更地の前にパトカー停まって、工事の人と話ししてましたよ」
「家にメールしたら、近所でも評判になってて、なんか子どもの骨だったって」
「もう、なんだか怖いなあって」
一年生たちは眉を顰めるが、目がキラキラしている。
子どもの人骨……ユイちゃんじゃないかという思いが胸に広がった。
午後の授業は頭に入ってこない。終礼が終わると、わたしは更地に急いだ。
警察の規制線が張られ、見張りのお巡りさんが立って、マスコミが押しかけて……と思ったんだけど、拍子抜けがするほど何もなかった。
え、ええ?
戸惑いながら更地に近づくと、陰になっているところからサングラス掛けた女の人が現れた。
軽快な服装だけど、しっとり落ち着いていて奥様風。
ふと振り返って目が合うと、逸らす間もなくこっちに寄ってくる。
「シーちゃんじゃない?」
「え!?」
「ほら、わたしよ!」
サングラスをとった顔は予想よりも若やいでいた。
「あ、えと、どちらさまでしょう?」
「わたしよ、ほら!」
「キャ!」
女の人は、わたしを後ろから抱くようにして手を重ねて、重ねた手をハンドルの位置に持ってきた……!
「え、え、ええ!?」
そうだ、これは木の葉のキックボードの感じ!
「思い出した?」
「ユ、ユイちゃん!?」
ユイちゃんは記憶していたよりも年上で、二十歳を超えているけど、見かけ通り奥さんになっていた。それも青木ナントカさんの奥さんだった。迷子事件をきっかけに仲良くなって、紆余曲折があって、去年の暮れに結婚したらしい。
「今日は人骨騒ぎで大変だった」
「え、そうだったの?」
昼からとっても気になっていたんだけど、なんだかみっともない気持ちになって、わたしはすっとぼけた。
「青木は俳優でしょ、雰囲気を大事にするからガラクタが多くて。一昨年ミステリーに出た時に家に人骨が埋まっているって役をやったのよ。その雰囲気を身に着けたいって言うんで、庭に埋めたのよ。あ、もちろん小道具用の作り物よ。で、撮影が終わると海外ロケで、すっかり忘れてしまったのね。それが今朝出てきたもんだから、ちょっと騒ぎになっちゃって。でも、なんか懐かしくて、キョロキョロしてたらシーちゃんが来たってわけ」
「え、あ、そうだったんだ」
懐かしくも拍子抜けがして、二人でアハハと笑ってしまう。
「じゃ、ごめんなさい、主人が迎えに来るから」
通りの向こうに停まっている車に手を振ってユイちゃんは行ってしまった。
「なんで、先に帰るかなあー」
鈴夏が怖い顔してやってきた。思い詰めていたわたしは鈴夏に話す余裕も無くしていた。
「ごめん、いや、あ、実はね……」
説明しようとすると、駅向こうに出来たファンシーショップにご執心の鈴夏に遮られる。
「んなこといいから、開店記念のグッズ、ゲットしに行く!」
「あー腕抜けるーーーー!」
賑やかに駅向こうに向かう二人でありました。