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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・15・遼太郎編《りょうちゃんの失恋》

2018-03-12 17:00:57 | 小説

・15・遼太郎編
《りょうちゃんの失恋》



 7時の時報だけでソワソワしてしまう。

 国府女学院のあの子が通りかかるのには30分もあるのに何も手につかない……ということはない。
 毎日判で押したように、顔を洗って朝ごはんを食べてトイレに行って学校の用意をする。
 商店街の人間は店のサイクルで生活している。
 店のサイクルというのは独特な勢いがある。普通の家なら、家族は職場とか学校とか別々の朝があって、それがたまたま同じ家にいてドタバタやっているという感じ? だからボンヤリしていると他の家族に追い越され、自分一人が遅刻したりする。場合に寄っちゃそのまま家に居てズル休みだってできてしまう。ズル休みしたって数日なら気づかれることが無いときだってあるだろう。
 商売をやっていると、そうはいいかない。なんせ親は一日中家に居る。ズル休みなんてすぐにばれてしまうから、出来る相談じゃない。
 商売には勢いがいる。勢いってか元気が無ければお客が減る。特にうちなんか精肉店だから、元気が無ければ肉の鮮度が落ちたように感じられる。
 でもって、うちの朝の勢いは魚河岸みたいな勢いがある。
 長年培ってきた勢いなんで、型になっている。型だから脳みそを使わなくてもできてしまう。

 で、朝のあれこれをキチンとやりながら、頭の中でソワソワしている。

 7時25分、箒を持って店の前を掃除する。小学校の5年生からの日課というか仕事というか。アーケードと交差している原道からお隣りの総菜屋さんのところまでを掃く。
 原道を挟んだ隣の喫茶ロンドンはモーニングの真っ最中。メイちゃんが制服の上からエプロンを付けてウエイトレスをやっているのがガラス窓から見える。筋向いの履物の近江屋では、ふーちゃんがハタキをかけている。日によっては3人揃って店の前を掃いていたりする。

 7時29分、100メートル東の順慶道を曲がってアーケードに入ってくる国府女学院のあの子が見える。

 曲がる角にあーちゃんのフラワーショップ花があるので、なんだかお花畑の中から出てきた妖精のように見える。
 ジャンスカの上にボレロ、大きめの白い襟が可愛いツインテールの丸顔を引き立てている。
 見つめるわけにはいかないので、ロンドンの前まで掃除するふりをして、カーブミラーに映る姿や、ロンドンの向かいの店に映る姿を見る。そして彼女が通り過ぎる瞬間、大きくゆっくりと息を吸い込む。スミレみたいないい匂いがする。
 彼女が3メートルほど進んだところで、店の方に戻る。距離にして10メートルほど彼女の後ろを歩く。ほんの数秒だけど、1日で一番幸せな時間だ。

 ちょっと前までは誘惑に勝てずに駅前まで付いて行っていた。

 あの時はふーちゃんに見とがめられ、白虎地蔵の裏でひどい目に遭った。175センチの壁ドンは、はっきり言って凶器だぞ。
 このまま見るだけで終わるのかと思ったら、急展開があった。

「あの、これ君のじゃないかなあ?」

 いつものようにロンドンから、彼女の後ろ3メートルのところをごく自然な形で歩いていた。すると後ろから声がしたんだ。
 直前にロンドン入り口のカウベルが鳴ったんで、ロンドンから出てきたんだろう。声の主は国府にある誠志学院の制服を着ていた。
 で、手には鶯色のブックカバーが付いた文庫本が載っている。
「あ、それ……」
「国府駅で拾ったんだ。君のだね?」
「あ、こないだ急いで降りた時に……!」
「うん、すぐ前を女学院の2人連れが走っていったから。その、後姿で分からなかったけど、ブックカバーのイニシャルとかで。斉藤さん」
「でも……その、よく分かりましたね?」
「うん、電車の中で文庫本読んでる子って、その……あんまり居ないから」
「あ、そ、そうですよね」
「で、妹が女学院で同学年だから」
「そうなんだ……わざわざ?」
「朝は、いつもここのモーニングだから。レジに居たら通りかかったのが見えて」
「そ、そうなんだ」
「もう時間だ、歩きながら行こうか」
「う、うん」

 そして国府女学院と誠志学院の二人連れは、朝のアーケードを駅に向かっていった。

 断じて違う。あの誠志学院は初めてロンドンに入ったんだ。今まで見たことも無いもんな!

「作戦勝ちだよ! アハハハ」

 様子を見ていたふーちゃんに笑われてしまった。
 で、立会演説の原稿を考えてるメイちゃんに「しっかり考えろよ」なんて言ってせかしてしまった。
 ただ、間抜けな自分にイラついていただけなんだけど。メイちゃんはまともに受け止めてしまったようだ。
 でも、花屋のあーちゃんが「ゆっくりで」と言ったんで、元のペースに戻った。
 アーケードの幼なじみは、どこかで帳尻があっている。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

コメント
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