大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・8《ゼブラのパンツにかけて》

2018-03-04 14:42:26 | 小説

・8
《ゼブラのパンツにかけて》



 履物店近江屋の末香(すえか)は小学一年生でスケバンになってしまった。

 今日4月15日は入学以来初めての体育の授業で、末香は他の女子たちといっしょに体操服に着替えていた。
 末香は姉の文香の影響で勝気な女の子だ。ただ姉と違って勝気さを表に出さないようにしている。
「ふーちゃんはやり過ぎだ」と思っている。
 昨日も朝から肉屋の遼太郎を追い掛け回し「こらあ!!!」の雄たけびをアーケード中にこだませた。

「ああいうふうにはなりたくない」

 だから先週の入学式から末香は大人しくしている。授業中に手を上げるのも微妙に遅らせているし、廊下だってけっして走らない。
 で、末香の1年2組では体と地声の大きい森田綾香が女のボスになりつつあった。

 それが、体育の着替えでひっくり返ってしまった。

 他の女の子たちは、小学1年であるけれども、肌を見せないように着替えている。森田綾香でさえ、スカートを穿いたままハーフパンツを穿き、それからスカートを脱ぐ。上は体操服を被ってからブラウスを脱ぐ。
 末香は違っていた。
 さっさとパンツ一丁になり、ストレッチをやりながらユルユルと体操服を着る。姉の文香と暮らすうちに自然に身に着いた大らかさだ。
「「「「「「おー、末香ちゃん!」」」」」」
 みんなが感嘆した。
 潔い裸だけではない、末香のパンツは文香とお揃えのゼブラのパンツであった!
「え……あ……アハハハハハ!」
 こういうときに頬を染めるような感性はしていない。両手を腰に当てて豪快に笑い飛ばす。これも文香とそっくりだ。
「そ、そんな裸になるなんてヘンタイよ! お、オトコオンナだわよ!」
 綾香はなじったが、位負けしていて、勝負はついてしまった。

 で、4時間目に、そのスケバンぶりは相賀の町中に響き渡ることになった。

「来週の月曜日からクラスが変わりますよー」
 授業を半ばで終わって、担任の岩永先生がプリントを配った。プリントにはクラスが4っつ書かれていた。
 相賀第一小学校は1年から6年まで3クラスずつの編成なのだが、1年は4クラスになるのだ。
「今のクラスは36人のお友だちがいますが、来週からは26人のクラス2つと、27人のクラス2つになりまーす。新しいクラスはプリントに書いてありまーす。みんな自分のクラスをさがしましょ~!」
 岩永先生の明るい声で、クラスの子どもたちは自分の新しいクラスを探し始めた。

「先生、これはダメです!」

 末香が手を上げてはっきり言った。
「え、どうしてですか沓脱さん? 新しいクラスになったら26人だし、先生の目も行き届いて、もっとしっかりした楽しいクラスになるんですよ」
「先週撮ったクラス写真はどうなるんですか?」
「それは新しく撮り直すのよ。だから心配はいりませ~ん」
「は~~~~?」
 末香は停まらなくなってしまった。
「仲間って、そんなんじゃないです! クラス写真に写っていたのは仲間です! そんなんじゃないです!」
 
 末香の頭には、姉のバレー部のことや商店街の仲間のことが浮かんでいた。仲間を大切にしなくちゃという気持ちが輝いていた。

 ゼブラのパンツにかけて、そんなんじゃない! そう思った末香であった。

 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・11『思い出した』

2018-03-04 12:48:10 | 小説3

通学道中膝栗毛・11

『思い出した』        

 

 

 更地にさしかかると、あの一年生たちも混じって、ちょっとした人だかり。

 

 ちょっと恥ずかしいけど、人だかりの後ろの方に付いてみる。

 更地にはなっているけど、瓦やタイルやコンクリやらの欠片が見えて、和風の家があったんだと偲ばれる。

 家は土台ごと撤去されてしまって、和風と言う以外に偲ぶよすがはない。面積は学校のプールくらいだろうか、隅の方に四角い石積み。道路との境目には大きな石を撤去したらしい窪みが並んで、生け垣だったんだろか針葉樹の枝先みたいな緑がこぼれている。

 ちょっとしたお屋敷だったようだけど、やっぱ見覚えが無い。

 急だったもんね あれ産湯の井戸だよ 奥の離れ 相続したんだよね 帰って来るかなあ 知らなかったよ

 人だかりからは断片的な情報が聞こえるけど、わたしの頭の中でイメージを結ぶことは無かった。

 

 もういいや。

 

 わたしの好奇心は長続きしない。

 もともと鈴夏が気づいて、一年の子たちが立ち止まって、そういう人の好奇心に載っちゃったもので、更地そのものに興味があるわけじゃない。ただ、更地に何が建っていたのか分からないのが癪なんだけど、ま、夕飯のころには忘れるだろう。

「あの辺は和風のお屋敷ばかりだからね」

 夕飯の手伝いをしながら話しているとお母さんが言った。

 あ、それでか。

 更地にばっかり目が行っていて、周囲の家は意識の外だったけど、そう言えば更地の周囲は和風ばっかだ。戦前に私鉄の百坪分譲で始まった街で、大半が和風の家だ。その中の一軒だから気づかなくても仕方がないよね。

 でも、お風呂に入って思い至った。

 当たり前のお屋敷なら、なんで、あんなに人だかり?

 急だったもんね あれ産湯の井戸だよ 奥の離れ 相続したんだよね 帰って来るかなあ 知らなかったよ……

 話の断片が蘇る。ただの更地に、あんな感想は出てこないよね。あの断片には意味があり過ぎるよね……。

 しかし、それも風呂上り、冷蔵庫を開けると桜餅を発見――ああ、ひな祭りだったんだ――久々にひな人形飾りたくなったけど、たった一晩の為に押し入れの奥から出すのも躊躇われ、テレビの特番見ながらパクついてるうちに忘れてしまった。

 

 

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