大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・31『駅向こうのお屋敷』

2018-03-29 14:47:51 | 小説3

通学道中膝栗毛・31

『駅向こうのお屋敷        

 

 

 きょうも駅向こうの探検。

 

 知らない街じゃないので、なにもかも新鮮というわけじゃない。

 渋谷とか原宿とかにくらべれば、やっぱマイホームタウンの一角ではある。

 ただ、小学校を卒業するまでは校区の境が駅だったので、足を踏み入れることがほとんどなかった。

 その点で、駅のこっち側とは少し疎い感じがあるのだ。

 

 今日は商店街を外してみた。

 

 商店街と言うのは脇道に逸れにくい。アーケードの心地よい閉鎖性、あれこれのお店に気がひかれたりで、自分の生活圏でもなければ道を逸れるようとは思わないでしょ。

 なので、いきなり道一本西に入ってみる。

 駅の近くは二三階建てのビルとかお店、古い家が建て込んでいて、道幅も途中で半分ほどになっていたり、おそらく昔は田んぼや畑だったんだろうと偲ばれる。

 角を曲がると大きなお屋敷が見えてきた。

 おおーー。

 思わず声が出た。

 馴染みのお屋敷街のとはスケールが違うのだ。お屋敷の親分というくらいに敷地が広い……大名屋敷というくらいの広さがあって、大きな建物だけで三つもある。二つは和風だけども、一つは洋風というか洋館だ。

 洋館は二階建てだけども、屋根の勾配が鋭角的で、三角のデッパリが三つほど、たぶんロフトになっているんだろう。

 屋根の上にテレビアンテナが立っていなければ、そのまんま映画の撮影に使えそう。

 テレビアンテナだけはどこの家でも変わらないんだなあ……そこにだけ親近感を感じていると視線を感じた。

 奥のでっぱり窓に女の子……と分かると直ぐに姿が消えた。

 髪の長い子で、野球帽をかぶっている。

 一瞬だったし、ツバの下は陰になっていてよく分からなかったけど、鼻から下はとても可愛い印象だった。

 突然のことで、胸がドキドキいってる。

 

「おねえちゃん、見ちゃったんだ……」

 

 これにもビックリした。

 お屋敷からの視線を避けるようにして、忍者みたく塀にへばり付いている小学生が居た。

「あれ窓女なんだぜ、あいつと目が合うと死んじゃうんだぜ」

「え、まさか」

 子どもに脅かされてたまるかと笑顔を作ってみるが引きつっているのが自分でも分かる。

 

 おーーい!

 

 道の向こうで声がした。どうやら、その子のお仲間で――いつまでやってんだ!――という響きがした。

 いま行くからというように手を上げると、真剣な眼を向けてきた。

「エンガチョしとこ!」

 薄気味悪かったけど、何年かぶりでエンガチョをきった。

 

 お屋敷の前を通って商店街に戻ると、なんだかホッとした。

 四月にしては熱すぎる日差しのせいか、アーケードの木陰が気持ちがいい。

 昨日発見した百円自販機、ちょっと迷って炭酸飲料を買う。

 取り出したら逆さだったので賞味期限の数字が見えた。

 あれ?

 180305とプリントされているではないか。

 大きなクェスチョンマークが立って、しばらくプルトップを開けることができないわたしだった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『遅刻の誉れ・1』

2018-03-29 06:50:11 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『遅刻の誉れ・1』
       



 ハルは、横断歩道で覚悟した……今日も遅刻だ。

 今日の遅刻で、一学期の遅刻は四十回を超える。
 学期で四十回を超えると特別指導だ。保護者同伴で、先生たちにみっちり絞られる。そいで夏休みに十日間も無遅刻で登校させられ、校内全部を掃除させられる。

――ボクのせいじゃない。好子さんが悪いんだ――

 ハルは、そう思った。事実2/3は、その通りなんだから。
 今年の三月に、オヤジが再婚した。その相手が好子さんなのだ。

 オヤジは、柄にもなく流行りの再婚活というのをやった。ネットで真面目そうな婚活サイトに当たりを付けて、いざ本番に臨んだ。都内の有名ホテルで、立食パーティーのかたちで行われた。

 で、オヤジは、先祖伝来の性癖である「迷い」に落ち込んでしまった。

 ハルの家は、昔で言えば華族様である。江戸時代は一万石ではあったが大名で、維新後、スッタモンダのあげくに伯爵に序せられた。

 ハルのご先祖は、戦国時代にまで遡る由緒ある遅刻の家系である。ご先祖は秀吉の北条征伐に遅刻した。もっとも主筋の伊達政宗の遅刻に付き合わざるを得なかったという理由はあったが、これがケチの付き始めだった。
 その後、うまく取り入って、徳川秀忠の家臣になったが、大坂冬の陣のときに秀忠と共に真田に足止めを食らわされ、またも大遅刻。あやうく減封かと思ったが、あくる夏の陣では秀忠に武功があり、チャラになった。
 元禄の時代、いわゆる忠臣蔵の事件が起こり、ハルのご先祖は、将軍綱吉より、ひそかに吉良上野介の身辺警護を命ぜられるが、史実が物語るように、ご先祖は、これにも間に合わず、むざむざ赤穂の田舎侍どもに吉良の首を持って行かれた。これは切腹ものかと覚悟を決めたが、綱吉はことのほかご機嫌麗しく「そなたを警護役として、幕府の体面は保たれたぞ」と、密かにお誉めの言葉を賜った。
 幕末では、勤王か佐幕か藩論がまとまらず、ぐずぐずしているうちに新政府が出来上がった。近隣の諸藩は奥羽列藩同盟に加わり、維新後ひどいめにあった。しかし、ハルのご先祖は、その奥羽列藩同名に入ることさえ意見がまとまらず。どっちつかずで、薩長の遠征軍を迎えることとなった。当初はお家断絶を覚悟したが、ご先祖の日和見のおかげで、周辺の小大名たちも日和って、実質的な抵抗をしなかった。で、結局ここに功ありとされ、のち伯爵を賜ることになった。

 ことほど左様に、ハルのご先祖の優柔不断というか、その結果としての遅刻は、ラッキーと世間に思われてしまった。
 
 下ってハルのひい祖父さんは、陸軍の中隊長で、敗戦直前まで大した武功はなかったが、部隊の損害も奇跡的になかった。昭和二十年の春に沖縄への移動を命ぜられるが、途中列車が、敵の攻撃を受け三時間到着が遅れた。ひい祖父さんの中隊はオイテケボリをくったが、先行した部隊は潜水艦にやられて全滅してしまった。
 おかげで、ひい祖父さんの中隊は終戦まで、誰一人戦死者を出さずにすんだ。

 戦後は、華族の財産は没収されると聞き、ひい祖父さんは取られるぐらいなら、さっさとくれてやると、家屋敷を国に寄付。おかげで財産税やらを取られずにすみ、残った資金で会社を作り、可もなく不可もなく父の代になって現在に至る。
 
 その父が、再婚パーティーに遅れてしまった。何事も起こらないはずがなかった。

 次々とカップルが出来ていく中、先祖伝来の出遅れ、迷い癖で、男性グループのミソッカスになってしまった。
 そして、女性グループの中にも、一人取り残された人がいた。

 それが、今のハルの義母である好子さんなのである……。

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