大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・10《郷中》

2018-03-06 16:42:01 | 小説

・10
《郷中》



 まるで幼稚園の先生だ……神田校長が喋りだすと、花も甲も思った。

「小学校のクラスには定員があるんです。1クラス40人以下、一年生は35人以下。つまり36人を超えるクラスが出てくると、クラスを分割して35人以下にします。で、今年は4月の8日に転入生があって1クラスが36人になってしまいました。で、一年生全体をシャッフルし、それまでの3クラスを4クラスにしたんです。これは『公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律』に基づいています。ここまではいいかしら?」

 神田校長はニッコリと花と甲の目を見た。

「先があるのなら続けてください」
「どうぞ」
「シャッフルして4クラスにすると、26人のクラス2つと、27人のクラス2つができます。でしょう? 36人のクラスよりもよっぽど目が行き届く……でしょう? つまり子どもたちの為になるということで~す! 法律どおりだし子どもたちの為にもなる! とってもいいことじゃありませんか~!?」

 満面の笑みで神田校長は締めくくった。

「新しいクラスは、4つのクラスに均等配分されたんですよね?」
「ええ、若干の配慮や入れ替えはあるけれど、基本的にはそうですよ」
「じゃ、これを見てください」
 甲は、元の3クラスと新しい4クラスの編成表をテーブルの上に置いた。
「元のクラスが分かるように色分けしました」
「あ……………………」校長は目が点になってしまった。
「お分かりになりましたか? 1~3組は元の先生が元の自分のクラスの生徒を18人もとっています。4組はその残りの子どもたちを集めた……いわば寄せ集めです。均等配分とは言えませんね」
「この寄せ集めのクラスの担任は、今年新採でこられた女の先生です」
「8日に転入の児童が居たので、10日付で加配の先生がこられてますよね?」
「つまり……このクラス替えは、子どもの為というよりは、先生たちの都合じゃないですか?」
「……………………………………」

 校長室を重い沈黙が支配した。

「元のクラスに戻してください……校長先生」
「それは……もう決まったことだから」
 あとの言葉を濁して、校長は頭を下げた。
「相賀の町は『組』とか『会』を大事にするんです。町内会とか商店会とか子供組とか、そういう結合が重なったところに相賀の街があるんです。これは学校のクラスもいっしょです」
「小学校は、東京や他府県から来た先生が増えてきてますが、相賀の……あり方というものも気にかけて……いただけると嬉しいです」
「えと…………………」
「「よろしくお願いします」」
 一礼すると、甲と花は校長室をあとにした。

 プッ、プップー。 

 校門を出るとクラクションが鳴った。

「ご苦労、乗んなさい」
 相賀中学の水野教頭は、セダンの後部ドアを開けた。
「どうもありがとうございました」
 お礼を言いながら花が乗り込むが、甲は一礼しただけで言葉が継げなかった。
「岩見君は一言ありそうだな」
「あ……」
「本来は郷中でやりたいところだったんだろうがな、よその人には分かってもらえないからな……気にするな」
「いいんですよ、こうちゃん頭硬いから。明日になったら納得してますよ」
「さすが藤谷さんは西慶寺のおひーさまだ。鷹揚だね」
「フフ、こういう性格なんです」
「岩見君は具足駆をやったんだってな、そろそろ大人だな」
「あ、ショッピングモールの客寄せレプリカでしたから」
「それでも、相賀の甲冑師岩見甲太郎の作だ。立派なもんじゃないか。殿さまからお墨付きはもらったのかい?」
「そんな大げさなことは」
「わたしからお話ししておこう」
「それはいいわ。わたしたちも具足祝いしてあげたんですよ」
「そりゃよかった!」
「御家老さまも、なにかしてやってもらえませんか?」
 楽し気に花子が焚きつける。
「あ、相賀カボチャとかはけっこうですから!」
「ワハハ、先を越されたなあ!」

 商店街に着くまでの間、セダンの中は二昔ほど前の相賀の空気に満ちていた。


 ※:郷中……旧藩時代から続く相賀の自治的な教育組織、10歳から20歳くらいまでの若者が所属、地域のことには大人と同等な発言力がある。緩やかに、今の相賀の町にも生きている。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・13『妖精のユイちゃん』

2018-03-06 16:27:50 | 小説3

通学道中膝栗毛・13

『妖精のユイちゃん』        

 

 

 幼児の生活空間は狭い。

 わたしの場合、家の前の道路、あっちと向こうの電柱の間ぶんくらいしかなかった。

 

 その電柱一本分が自由にあそべる空間で、それを超えた向こう側に世界が広がっているのは分かっていたけど、臆病な子だったので、ひとりで踏み出すことは無かった。

「向こうに行くのにはシーちゃん経験値足りないからね」

 お母さんは、わたしの好きなゲームに例えて注意してくれていた。

 ファインファンタジーというゲームでは、経験値不足のままエリアを出てしまうと、お気に入りの魔女っ娘ロッドでは倒せないモンスターなんかがいて、あっという間にやられてしまう。やられてしまうと最後のセーブポイントまでもどされて、アイテムとかみんな没収されてしまう。

 例外は妖精のユイちゃん(デフォルトでは別の名前なんだけど、お母さんが付けた)が誘ってくれた時だけ。

「見るだけだったら連れてってあげるよ☆彡」

 魔法の葉っぱに乗って、五分の時間制限で見せてくれる。そうやって、次のエリアに慣れて、経験値を貯めてから本格的に進出できるわけ。ま、イージーモードのチュートリアルって感じ。

 ゲームに例えて注意するというのは、お母さんも考えたもんだと思う。ゲームオーバーになると大泣きしていたわたしだから、この注意の仕方は効果抜群で、お母さんがちょっとの間家の中で用事していても電柱一本分を踏み出すことは無かった。

 

 ある日、電柱一本向こうの十字路を妖精さんが横切った。

 

 今から思うとキックスケーターなんだけど、わたしには春風に乗ってやってきた魔法の葉っぱに見えた。

 若草色で、ハンドルの所には小っちゃい羽が付いていて、いかにも妖精さんの乗り物。その子の背中にも天使の羽が付いていて、もう、まるっきりの妖精さん。

 わたしの視線に気づいたのか、妖精さんは魔法の葉っぱにブレーキかけて、わたしと目が合った。

「あなた、だれ?」

「え、え、えと、おさないしおり」

 わたしは行儀よくフルネームで応えた。妖精さんにはきちんと応えなきゃいけないと思ったから。

「そーか……おさないんだ。おさない子はめんどうみなくちゃね」

 おさない意味を勘違いしているようにも思えたけど、妖精さんの目はキラキラしている。

 そうか、安心させようと思ってギャグを飛ばしたんだ。わたしは嬉しくなってニッコリした。

 妖精さんは慈愛に満ちた目になって手を差し伸べてきた。妖精さんの羽がフルフル羽ばたいたような気がした。

「乗ってく?」

 妖精さんがニパっと笑った。わたしはコクコクと頷いた。

「おいでよ!」

「え、えと、お名前は?」

 ほとんど妖精さんだと思っていたけど、最後の確認をした。

「ユイちゃんだよ」

 わたしの思いは確信に変わった。

 葉っぱの前の方を開けて、わたしを載せると地面を蹴ってユイちゃんは出発した!

 ユイちゃんは、わたしより少しおっきくて、ハンドルを持つわたしの後から被さるようにしてくれるのが嬉しかった。もうゲームの中のユイちゃんといっしょだ。いや、ゲームの中から抜け出して迎えん来てくれたんだと感激していた。

 

 そして道に迷った。

 

 くたびれ果ててしゃがみ込んだのが、あの家の前だった。

 キーっと門が開いたので、ユイちゃんもわたしも驚いた。

 やさしいオバサンが出てきて「ま、かわいい妖精さん」と笑った、オバサンの後ろには、ちょっと拗ねた感じの男の子。

 いま思うと、あれが今を時めく若手俳優の青木ナントカさんだった……。

 

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高校ライトノベル・センセがこんなカッケーわけがない!02・カッコわりーじゃねえか

2018-03-06 06:09:50 | 小説7

センセがこんなカッケーわけがない!02

  カッコわりーじゃねえか

 うちの担任は出欠を取るのが早い。

 早いと言うのは、よそのクラスより早くとるというわけじゃない。
 取り始めてから取り終るまで30秒ほど。そういう意味で早い。
 30秒には説明がいる、人によっては早いとは思わないかもしれないから。

 朝のショートホームルームで出席を取るんだけど、このショート開始のときに教室には10人ほどしかいない。

 10人ならあっと言う間だろうって? そうはいかない。
 出席者だけ確認していると、そのあと大量に遅刻してきた奴が「センセ、オレ居たぜ!」と言いだす。むろん嘘。
 センセも人の子だから、年に何度かは間違える。それを楯にとって「オレ居たぜ!」をやらかす。
 センセが気が弱いと「オレも」「あたしも」てなことになって、遅刻は実際の半分以下になることもある。ひどい場合には20人近くチャラになることさえあった。秩序もなにもあったもんじゃない。

 うちの担任はチャイムが鳴る3分前には教室の前の廊下に立っている。

「あと2分で本鈴! 昇降口の者は急げ!」から始めて「あと30秒、まだ間に合う!」てな具合に生徒に注意喚起する。
 イスラムの坊さんが寺院のミュナレット(尖塔)からコーランを読むのに似ていると冷やかすセンセもいる。
 でもって、遅刻の群れの切れ目を見て、教室に入り、こう叫ぶ。
「さっさと座れ! 席に着いていないものは欠席だぞ!」
 これを2度ほど叫び、大量にコピーしてある座席表で一気に確認する。目視だけではなく呼名点呼。それも必ず生徒の顔を見る。
 で、これを2回繰り返す。点呼途中に入ってきた者は「ギリギリだな」とセーフにする。

 まったく丹念な出欠点呼で、うちのクラスは朝の出欠でのトラブルは無い。

 遅刻が15回を超えると生指部長注意になる。生指部長はゴリラみたいな元ラガーマンで、めっぽう怖い。
 怖いから、みんな嫌がる。今朝〇〇が15回になった。
「〇〇、生指部長注意だからな」
 担任が宣告した。

 そのとき〇〇は仏頂面ながらも納得していた様子だったが、3時間目の休み時間に担任に食いついた。

「いっしょに来てる、隣の△△は15回とられてないのに、なんでオレは15回なんだよ!」
「本当は本鈴でアウトだ。混乱するからクラスの状況で多少のタイムラグがあるんだ。うちのクラスでは遅刻だ」
「それでも隣のクラスじゃ遅刻になってねー!」
「オレは10回超えた時から、毎回注意してるじゃねーか。なんで今さらプーたれる」
「だって、隣は遅刻になってねー!」
「話にならねー」
 担任は、ばっさり切り捨てた。

 これでケリがついたたかと思ったら、放課後になって△△の母親が文句を言いに来た。

 ハズイことに、△△と母親は教育委員会にまで電話したらしい。
 こんな△△を英雄みたく言う奴がいるから気が知れない。

 で、いま学校はもめまくっている。じつに不毛ってか、カッコわりーじゃねえか。

 で、2つ思う。

 どうしてビシーって言わねーんだろ?
 どうして朝の遅刻指導、担任一人でやってんだろ?
 

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