大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・32『180305の意味から』

2018-03-30 12:13:41 | 小説3

通学道中膝栗毛・32

『180305の意味から        

 

 

 180305

 18は西暦の下二桁、03は三月、05は五日を表している。つまり、この缶コーヒーは先月製造されたばかりだということが分かる。

 近所の百円自販機がなんで安いのかと調べた時に覚えた賞味期限の表記法。

 安売りは、賞味期限が迫ったものを安く仕入れるのでできることなのだ。だから、安売りの頭二文字は17となっていなければならない。

 じゃ、なんでこんなに安いんだろう?

 

「そりゃHOPEコーヒーだったろう?」

 答えてくれたのは、あくる日、芋清のおいちゃん。

 改札を出ると焼き芋の匂い。とたんに食べたくなって駅向こうの探訪は止めて芋清に向かう。

「うん、そうよ」

 店内のスツールを勧めながらおいちゃんは続ける。夏鈴と二人ならともかく、一人焼き芋食べながら歩く気はしない。そういうところを、おいちゃんは自然に分かるみたい。

「HOPEはコンピューターミスとかで特定の銘柄を作り過ぎてしまって、過剰在庫にしたくないんで安く流してるってうわさなんだよ」

「え、そうなんですか?」

「HOPEは、そう言ってるけどね。中国の会社が資本参加して、会社のあれこれが思うようにいかなくなった歪みがでてるんじゃないかと言われてるよ」

「そうなんだ」

 分かったように相槌打ってるけど、よく分かっていない。ま、安くいただければ嬉しい女子高生なのだ。

「でも、うまい具合にお芋の匂いが立ち込めるんですね。改札出るまでは駅向こうに行くつもりだったんですよ」

「どういう具合か、風の流れなんだろうなあ、駅まで匂いが流れなきゃ売り上げの半分は無いと思うよ」

「ふふ、焼き芋の神さまがいるのかも」

「ちげーねー」

 そんな話をしているうちにも五人のお客さんが買っていく。贔屓のお店が繁盛しているのは嬉しいものだ。

 そのうちにお客さんが並び始めた。おいちゃんは丁寧にお芋をくるみ対応も丁寧なのでつかえてくる。

「手伝うわ」

 セーラーの袖口をたくし上げ、軍手をはめて釜の前に立つ。日ごろ見慣れているのでテキパキやれる。

「すまないな」

 おいちゃんは釜の中を覗いて芋を選び、わたしが包装する。その間にお勘定をやって、倍とは言えないけど五割増位のペースで進んで十分もすると落ち着いてきた。

「あら、お孫さん?」

 お客さんに言われる。

「いや、ご贔屓さんが成り行きで手伝ってくれてるんで」

「まあ、そう、いっそバイトしてもらったら売り上げ伸びるわよ」

 アハハと笑っておく。芋清も悪くないんだけど、週二回のアキバのバイトもある。

 お客さんと入れ違いにおばちゃん(もうお婆さんなんだけど、おばちゃんで通っている)が帰って来る。見ると手に岡持ちをぶら下げている。

「あら、出前するんですか?」

「たまにね、若けりゃスクーターかなんかに乗るんだけどねえ、ブキッチョだから岡持ち持ってだと自転車にも乗れない」

「栞ちゃんが手伝ってくれてたんだぜ」

「あー、それは申し訳ない」

 そういうと、おばちゃんは焼き芋をどっさり持たせてくれようとしたけど、そんなには食べられやしない。ドンマイドンマイと手を振って家路についたのでした。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『遅刻の誉れ・2』

2018-03-30 06:24:29 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『遅刻の誉れ・2』
       


 今朝は十分間に合う時間に起きた……それで遅刻である。ハルは、横断歩道で、その無常を知った。

 義母である好子さんは、ハルの弁当を作って悩んだ。
「これでは、中身がグチャグチャになるわ……」
 弁当箱に、華やかに総菜を並べてはみた。きれいではあるが、ちょっと傾けただけで中身が寄ってしまう。
 そこで、弁当箱を二回変えて、やっと隙間無く収めることができた。この間十五分。

「お母さん」

 そう呼ぶのには、まだ遠慮があった。ハルは大人しく仕上がるのを待った。
 結果的には。妹が幼稚園のころ使っていたオベントバコになったが、ハルは、それにも文句は言わなかった。
 駅の横断歩道の真ん中でオバアチャンがウロウロしていた。信号が変わりかけていた。
「どうぞ」
 ハルは、背中をオバアチャンに提供して、横断歩道を渡った。
「あたしゃ、駅の向こう側にいくんだよ~!」

 ハルは、てっきりオバアチャンは駅に行こうとしているんだと思った……。

 しかたなく、信号が変わるのを待って、向こう側に戻り、ダッシュで駅に戻った。ホームに着くと電車は、ちょうど出てしまった後だった。
 そして、五分待って次の電車に乗り、やっと駅に着いて、地上に上がると信号が変わったところだった。まあ、この信号が間に合ったところで、始業には間に合わなかっただろうが。駅から学校まで400メートルはある。人間がスプリントで走りきれる限界の距離である。確か世界記録は、マイケル・ジョンソンの43秒18。ハルはその43秒18の前に1分をつけても無理である。

 はるか400メートル先で、遅刻を告げるチャイムが鳴り始めた。

 もう、ハルは諦めて歩き始めた。皮肉なもんだと思った。学校の敷地は、元々はハルのお屋敷の跡である。
 そう、ひい祖父さんが、国に召し上げられるなら、いっそこっちからくれてやろうと寄付したものである。

 ひい祖父さんが、珍しくフライングしたことが、ひ孫のハルに祟っている。柄に合わないことはやるもんじゃないと、ひい祖父さんに理不尽な恨みを感じてしまった。

「こらあ、治国、また遅刻か!」

 生指の水野先生が、いつにもない大声でハルをどやしつけた。他の先生も怖い顔をしている。

 が……なにか変な感じがした。なんだろう、この、微かなハメられたような違和感は?

「入室許可書ください」
 それでもハルは、ほとんど脳細胞を使うこともなく、習慣化した言葉をオウムのように口にした。
「ハル、今日は校長室へ行け」
「え……覚悟してたけど、マジ、いきなりっすか?」
「問答無用!」
 水野先生が、大声のもう一つ上の声でたたみかけてきた。
 AKBではないが、マジッスカ学園である。だいたい、水野先生の家は、江戸時代にはハルの家の家来にあたる家である。それが主筋にあたる自分に「問答無用!」である。世も末だと、今さらながら代々のご先祖を怨めしく思った。

「尾呉治国(おくれはるくに)今日も遅刻か!」

 失礼しますの一言言う間もあらばこそ、校長は、お家断絶を言い渡す役人のような、重々しさと厳しさ、そして役目を果たした安堵感を滲ませて、大音声……え、安堵感……これは違和感である。

「若、さすが尾呉一万二十四石四斗四升四合四勺。よくぞお遅刻あそばされました!」

 生指部長の水野先生が、感涙にむせびながら平伏した。

「尾呉君、君は、この尾呉坂高校を救ってくれたんだよ。やはり、尾呉家二十六代目当主の器量。見事な遅れ。なにをか言わん哉。遅刻の誉れ、ここにありであります!」
「あ、あのう、もう一つ空気読めないんですけど……」
「いや、失礼。君たち生徒や保護者の方々には内密にしていたが、この尾呉坂高校は、都知事から、命ぜられていたんだよ……」

 校長室に居合わせた先生や事務長がむせび始めた。

「あ、あの、説明とかして欲しいんです……けど」
「ああ、すまんすまん。ここは譜代の臣である、水野先生から説明していただくのが適当でしょう」
「いえ、この義ばかりは、大目付大久保家御末裔であられる校長先生より……」
「そうですか、それでは……実はね、我が都立尾呉坂高校は、都知事の意向で、一学期の間に、遅刻者が一万人を超えるようなら、即無期限休校、近隣の都立高校十校にお預けということになっていた。これは事実上、不名誉極まる廃校と同義。なんとか、これを明るい展望のある休校とし、お家再興……いや、学校再建に結びつけたいと神仏に祈っておったのです」
「そこを若が、尾呉家二十六代当主として、堂々たる意義深い遅刻。きっと、明日の朝刊には載りましょう。尾呉治国、見事に第二十六代の責務を果たし、記念すべき一万人目の遅刻の大役を果たすと!」
「マスコミも、都民、国民も、こういうトラディッシュでユーモアに満ちた事件を待ち受けているんだ。これは、信長公の末孫、織田信成クンがフィギュアスケートに現れた時以上の快挙だよ」
「そう、AKBの総選挙で、サッシーが第一位を獲得したのに肩を並べる痛快事。これで、尾呉高校の再建は約束されたようなもんだよ。有難う尾呉君!」

 さすがに、このニュースは、その日のうちに日本中、いや、サムライファンの外国にも、いろんなサイトを通して配信され、世界的なニュースになった。
 この年の顔は、ハルこと尾呉治国と、サッシーこと指原莉乃が独占した。

 AKBは、その後、ヒット曲をバンバン飛ばし、ますます国民的アイドル集団として、隆盛を極めた。
 しかし、尾呉高校再開のニュースは、とうとうやってこなかった。その後東京オリンピックも決まり、都民や国民の関心は確実に薄れ、ボクはお預け先の外苑高校の劣等生として、なんとか卒業はできた。

 今、考えると、みんな尾呉高校から、明るく後ろ指を指されることもなく移動したかっただけじゃないかと思った。

 もう二十一世紀も半ば、東京オリンピックは懐かしく国民の心に刻みつけられた。AKBもますます元気に世代交代を果たしている。

 尾呉家二十六代当主であるボクは、まだ独身だ。どうやら、尾呉一万二十四石四斗四升四合四勺は、ボクの代でお家断絶の気配。

 断腸の思いではありますが、戦国時代から四百年、愛すべき尾呉家が続いたことで良しとしてください。あの最後の遅刻を尾呉家の尾呉家らしい誉れと思し召して……。

 尾呉家累代のご先祖様  尾呉治国
 

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