大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・18・こざね編《……松永さんね?》

2018-03-15 18:20:08 | 小説

・18・こざね編
《……松永さんね?》



 商店街の子どもは、基本的に部活はしない。

 ざっくり言って、家の商売の手伝いがあるからなんだけど、その由来は明治維新とかに遡る。
 白虎通り商店街は、あたしんちの鎧屋、はなちゃんちの西慶寺、けんさんとこの薮井医院を除いては明治以降の出来なんだ。
 廃藩置県で相賀五万石が相賀県になり、四民平等で相賀の武士たちは失業者になったのね。
 武士たちは秩禄処分とかいう退職金をもらって、集団で商売を始めたの。

 こういうのを士族の商法とか言う。

 たいていは慣れない商売で失敗するってのが日本史の常識なんだけど、この相賀の士族だけは違ったの。
 藩の西のはずれは白虎口。そこに鉄道が来ることを予測して、街道沿いで商売を始めた。それが白虎通り商店街の始まり。
 相賀の武士たちは、絹織物とかの専売品のために幕末ごろにはとても商売に慣れていたんで、日本中で相賀だけが士族の商法の例外になって成功したんだよ。

 ほとんど商売人と変わらないんだけど、1つだけ違うのは、子どもたちも一所懸命家の商売をしたこと。

 もう手伝いなんてレベルじゃなくて、13歳を過ぎたら大人並に商売に打ち込んだんだ。ま、そうしなきゃ相賀の昔からの商売人には太刀打ちできないから。
 で、その習慣が残っていて、商店街の子どもは部活には入らない。
 今のご時勢だから強制なんてことはなくて、実際、履物近江屋のふーちゃんなんかは、バレー部のアタッカーだったりする。

 で、その商店街の女の子たちで作った商店街アイドルグループが、あたしたち『アーケーズ』ってわけなのさ。

 メンバーは9人で、商店街以外のメンバーが4人入っている。三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん。
 三好さんと畑中さんは同じ相賀高校。去年商店街のオータムフェスタでのアーケーズの演技を見て入って来た。畑中さんと高階さんは国府女学院でダンス部に入っていたんだけど、ダンス部に収まり切れずにアーケーズに入って来た。

 で、一昨日から西慶寺に泊まり込み、5日市民会館で行われる『県民子どもの日』のレッスンの真っ最中。

「『365日のお買い物』はカンペキよ。『わたしは前へ!』は新曲だからノリがイマイチ。考えなくてもフリが出てくるまで練習します。10分休憩して、もう一本やりますね!」

 リーダーのはなちゃんが檄を飛ばす。

 おとつい、新曲の『わたしは前へ!』のコスが出来てきた。白と黒を基調とした夏仕様で、トップとアンダーがセパレートになっていて、お腹のとこが20センチほども空いている。
 涼しいっちゃ涼しいんだけど、ヘソ出しは恥ずかしい。サビの入り口んとこでスピンがあるんだけど、スピンした一瞬、めいちゃんの背中ってか、お尻の割れ目の上んとこが見えてしまった。めいちゃんより貧相ボディーのあたしは気が気じゃない。ラストの決めポーズでバンザイするんだけど、トップがずり上がっちゃうんじゃないかと集中できない。

 あと1分ほどで休憩が終わりそうなとき、畑中さんが小さく悲鳴を上げた。

「どうかした?」
 はなちゃんが優しく、でも目は真剣に聞いた。
「あ、あの……」
 畑中さんはスマホを手に俯いてしまい、高階さんが抱きかかえるように畑中さんの背中に手を回していた。
「……松永さんね?」
「え……どうして?」
 二人は驚いていた。あたしは松永って苗字にピンとこないで、置いてけぼり。
「やっぱり緊急手術になったのね」
「は、はい……」
「お兄ちゃんに車出してもらう。めいちゃんこざねちゃんも来て、O型の血液が要るの」
 ここまで来て、思い出した。国府女学院組には、もう一人松永さんという子がいた。でも、松永さんは病気でアーケーズには参加できなかったんだ。はなちゃんはちゃんと覚えていただけじゃなくて、病気の経過や手術になった時に要るO型の血液のことまで分かっていたんだ。

 あたしたちは、諦観ニイチャンの車に乗って市民病院を目指した。

「アーケーズ、夏には10人編成で再出発よ!」

 はなちゃんの言葉に、畑中さんも高階さんもしっかりと頷いた。
 


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

 三好さん、畑中さん、大久保さん、高階さん   商店街じゃないけどアーケーズの仲間

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・20『体操服のまま食堂へ』

2018-03-15 13:40:45 | 小説3

通学道中膝栗毛・20

『体操服のまま食堂へ』        

 

 

 下駄ばき矯正法の甲斐あって巻き爪が治ったのは、例の青木ナントカさんの更地にドラッグストアが出来たころだ。

 

 巻いてしてしまった爪がまともになるわけじゃなくて、生え変わるのを待っただけで、その間鈴木皮膚科に通って食い込んでる部分を切除してもらい消毒してもらうだけ。ローファーを買い替え、下駄ばき矯正法をやったとはいえ、患者自身が治そうという気持ちが無ければ治らないものなのだ。

 巻き爪の完治は、ちょっとした自信をもたらした。

 四限の体育のあとは着替えていては食いッパグレる。お弁当だとノープロブレムなんだけど、前日に時間割変更を言われたものだから、帰り道に鈴夏と新しいドラッグストアの話をしているうちに忘れてしまった。

「しかたない、体操服のまんま食堂行くか!」

 巻き爪以前のわたしだったら、決まりどおりに(体操服での食堂利用は厳密には禁止されてる)着替えて、売れ残りのコッペパンとパック牛乳で辛抱しているところだ。

「へー、栞にしては珍しい!」

「え、鈴夏もでしょ?」

「あたし、ちゃんとお弁当だもん」

 クソ、鈴夏はきちんと授業変更を覚えていたのだ。

「デザートは付き合ったげるから」

 爽やかな笑顔で去り行く鈴夏を尻目に、着替えのズタブクロを肩にかけて食堂を目指した。

 着替えてからじゃ遅いけど、体操服のままだと楽勝でA定食をゲット。A定食は人気で、いつもハイエナみたいな男子たちにかっさらわれるんだ。

 体操服のままA定食を食べているだけで、ずいぶん自分が奔放になったような気がする。

 年上のキミは~自由奔放で~(^^♪ 小学校のころ流行った『上からマリコ』の一節が口からこぼれたりする。

 定食の列に並ぶ顔見知りの男子が――栞がA定食食ってやがる――という目で見ているのも楽しかったりする。

 

 わたしの二つ横で西田さんがいるのには気づいていた。

 

 あまり口をきいたことが無いことと、なんだかマイナスオーラが漂っているので、さすがに声をかけたりはしなかった。

 その西田さんが立つ気配、後ろに差し掛かったところで悲劇の音がした。

 グァッシャーン!

 なんと、西田さんがつまづいて、彼女のトレイが落ちてきた!

 とっさに避けたものの、載っていたドンブリ鉢のスープが体操服にビッチャリかかってしまった!

「ご、ごめんなさい!」

 お詫びの言葉とハンカチをいっしょに差し出す西田さん。差し出すだけじゃなくて、甲斐甲斐しく拭いてくれる。

「だいじょうぶよ、体操服だし、どうせ帰ったら洗うんだし、いいわよいいわよ」

 わたしもタオルを出して拭いたので、シミにはなったけど大したことにはならなかった。でも、西田さんの表情があまりに暗いので、つい聞いてしまった。

「なにか心配事あったり……?」

 

 この一言がわたしの運命を変えてしまうのだった……。

 

 

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