大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・臨時増刊・SF&青春ラノベ『レイカの花・3』

2018-08-02 06:50:54 | ライトノベルベスト

臨時増刊・SF&青春ラノベ
『レイカの花・3』
              

 立花麗花は、ガキンチョの頃から麗花という名前が嫌い。だから自分でも人にもハナで通していた。改まったときには「花」 お調子者のハナは中学からの友だち優香とともに神楽坂高校の演劇部に入った。部長が「村長」以下、サン、カンゴ、ミサイル、モグと変なニックネームと個性の仲間のなかでも「ハナ」と呼ばれた。今年の作品は『すみれの花さくころ』に決まる。そんな中、ハナは右の膝にかすかな違和感を感じた。

 村長は、微かに鉄の焼けるような臭いをさせていることがある。特に月曜なんか……。

「あら、やだ。あたしって家の臭い付けたままだった」

「あ、ああ、そんなことないですよ」
 モグが慌てて否定した。
「気を遣わなくてもいいわよ。モグ正直だから、顔に出てるよ。うちね、鉄工所だから、ちょっと手伝ったりすると、鉄の臭いがついちゃうのよね……」
 そう言って、村長は芳香性のある消臭スプレーをかけた。
「どーよ、あたしだって、こうすると、かなりイケテんでしょ」
 村長は、そういうと悩ましく髪を掻き上げ、首筋にもスプレーした。ハナは、改めて村長の魅力を思い知った。ハナは意識的にゲンキハツラツして7。村長先輩は、ただでも10。こんなふうにされると、女の自分でも鼻血ブーの20ぐらいになってしまう。

「じゃあ、今日も張り切って、基礎練習から!」

 というわけで、ストレッチ、軽いランニング、発声練習、無対象演技、そんで最後に、シメのランニング。
 基礎練なんで、ゆっくりいきゃあいいんだけど、レイとは中学以来のデコボココンビ、遅れるわけにはいかない。そこに後輩のミサイルが、名前の通り、最終コーナーで追い上げてきた。

「くそ、ミサイル!」

 そう言って、スパートをかけたところだった。右膝に激痛が走り、ハナは悲鳴をあげてひっくり返った。
「靱帯とか、肉離れじゃないわね、多分骨だわ、サン、養護の先生とこ言って救急車呼んでもらって、村長はヒメちゃん先生に連絡。ミサイルとモグは優しく、患部に手を当ててやって。あたしは担任の藤田さんとこ行く!」
 すばやくカンゴは、皆に指示を与えると、テキパキ動き出した。ハナは呻きながらも、演劇部のチームワークのすごさを実感した、でも……痛ったいー!!!!

 でも、そのときは、降りかけた雨が気になったが、そんなに凄いことになっているとは夢にも思わないハナであった……。

「結論を申し上げて、お嬢さんは骨肉腫です」

 ドクターは厳しい顔でハナの母親に告げた。それ以上の厳しい結果を告げるため。

「骨肉腫……若い子に多いんですよね」
「このCT画像を見てください……この白く写っているのが病巣です」
 母は、息を呑んだ。白い病巣は、膝だけではなく、その下のスネや足首の関節にも小さく転移していた。
「これが、全部……骨肉腫なんですか」
「非常に珍しい病例です。このCTで分かるだけでも膝を中心に、8カ所病巣が確認できます。明日から精密検査に入ります……一般的には、患部を切除し、人工骨に置き換え、残りの小さいのは放射線治療で、90%は完治します。しかし、最悪の場合膝から下を切除しなければならないかもしれません」
 ドクターは、試すような目で、母の顔を見た。
「切除って、足を切るってことですか……」
「むろん、これは最悪の状況を申し上げているだけで、上手くいけば完治します」

「最悪じゃんかよ……」

 村長は、パソコンの画面を落とした。村長は、昼の間に、診療室にてんとう虫形の超小型カメラを仕掛けておいたのだ。扱い慣れた軍事用の、それである。
 そのとき、村長の耳に直接ミッションが飛び込んできた。

――緊急招集、尖閣にC国の特殊部隊が潜水艦で上陸の予想、ビレッジメイヤーは直ぐに立川基地へ――

「ち、こんなウィークデイにかよ」
 ボヤキながらも、戦闘服に着替えると、窓を飛び出し、向かいのビルの屋上にジャンプ。装着式のジェットに点火した。
「不憫なやつだ、友子も……」
 還暦を過ぎた父一人が、工場の窓から娘の出撃を見送った。

――ブラボー・1から、ブラボー・2へ、タカは飛び立った、タカの背中に乗れ――

「ち、アクロバットかよ!」

 五分後、箱根上空で、F4ファントムとランデブーした村長は、F4が失速寸前の40ノットまで速度を落としたところを見計らって、後部座席に収まった。
「まったく、あたしのスクランブルのために、こんなクラシック残してんじゃないでしょうね!?」
「半分当たり」
「あとの半分は?」
「日本人の物持ちの良さを世界に宣伝するため」

 半世紀前に採用されたロートルは、それでも1時間ちょっとで、日本海上空を飛ぶオスプレイとの二度目のランデブーに成功した。

「これだけのマッチョ揃えて、か弱い少女をこき使おうっての?」
 村長は、馴染みの海兵隊のカーネル(大佐)に嫌みを言った。
「3年ぶりだな、メイヤー。あいかわらずのキュートさだ」
「嫌みね、あたしが歳とれないの知ってて言うんだから」
「気に障ったらごめんよ。無骨なもんで、女の子の誉め言葉には慣れてないもんでね」
「カーネルは来年退役でしょ。フライドチキンでも売ればいいわ」
 狭いオスプレイの機内が爆笑に包まれた。このカーネルは、匍匐前進も満足にできない新兵のころからの知り合いだ。米軍でも、村長のことを知っている、ほんの僅かの一人である。

「えー、こんな格好でヤレっていうの!?」

 尖閣の南小島に着いた村長は叫んだ。なんと上下ショッキングピンクのビキニを着せられた!



 つづく

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高校ライトノベル・秋物語り2018・14『え……わたし!?』

2018-08-02 06:33:29 | 小説4

秋物語り2018・14
『え……わたし!?』
        


主な人物:サトコ(縮めてトコ:水沢亜紀=わたし) シホ(杉井麗) サキ(高階美花=呉美花)


 スイッチを入れたように大雨が降ってきた。信号が変わるのももどかしく横断歩道を渡った。 


 向かいのサカスタワーホテルの庇につくまで、十秒とかからなかったが、まるでバラエティーの罰ゲームで水を被ったようにグショグショになった。カバンからタオルハンカチを出したけど、頭を拭いただけで、それは濡れ鼠のようになった。一度絞って、キャミソールを拭くが逆効果で、肌に張り付いて気持ち悪かった。

「トコちゃんじゃないか!?」

 思いがけない声が駆け寄ってきた。

「あ、吉岡さんも?」

「ああ、20%の降水確率に騙された。ゲリラ豪雨だね」
「ええ、もう九月だって言うのに……クシュン!」
「いけない、風邪ひいちゃうぜ。こっちおいで」
「え……ああ、あの」
 ゴニョゴニョ言ってるうちに、ホテルのフロントの前に連れていかれた。
「あ、吉岡様の坊ちゃん。いや失礼しました。もう立派な大人になられて」
「オヤジの部屋お願いします」
「はい、どうぞ」
 フロントのオジサンは、わたしのことには目もくれずに、キーを吉岡さんに渡した。

 連れて行かれたのは、ペントハウスっていうんだろうか、部屋が二つもあって、エントランスも付いている。

「さあ、君から入れよ。服は、洗面のとこに乾燥機があるから、バス長めに入っていたら乾くよ」
 いきなりバスを勧められ、心臓がバックンと言った。
「あ、気持ち悪くなかったら、僕のジャケットも入れて置いてくれるかな。それから、中からロックはしておいてね、念のため」
 そう言ってウィンクすると、濡れたサマージャケットを投げて寄こした。

 交代でバスに入るのに三十分ほどかかった。

 吉岡さんが入っている間に、部屋を見学。

 寝室に大きなダブルベッドがあるのを見て、またバックン。もう一つの部屋は、それだけで、今いるマンションよりも広く、クロ-ゼットかと思って開けたら、ちゃんとしたキッチンがあったのでビックリ。灯りのスイッチかと思って触ると、カーテンがソヨソヨと閉まってくる。
 本当の灯りのスイッチにはフェーダーが付いていて、その調整で、いろんな雰囲気になった。

 そうしてるうちに吉岡さんがバスから出てきた。

「おいおい、昼間っから、こんなムーディーにしちゃって。僕も一応オトコなんだからね」
 そう言うと、吉岡さんは、カーテンを全部開けて、部屋を健康的にした。
「すごい部屋ですね」
「オヤジの隠れ家。最近は使ってないんで、契約切れてるかと思ったんだけど、まだ使うつもりでいるみたい」
「すごいベッドがありましたね」
「見たのかい?」
「ええ、こんなお部屋、初めてだから」
「僕は嫌いなんだ、あのベッドルームは。むろん使うつもりもないから、安心して」

 むろん、安心はしていたが、残念に思っている自分を発見して、少しドギマギした。

「きみとは、もっと早く会えるとよかったね」
「ですね、雨に遭わずにすんだかも」
「ハハハ……」
「え、なにか変なこと言いました?」
「いいや。僕には、恵みの雨だ。サトコちゃんと二人きりで話ができる」
「久々だ、サトコって呼ばれるの」
「リョウのサトコさんに遠慮したの?」
「それもありますけど、シホもサキもバイトの子達もみんな二音節で、なんとなくトコになっちゃって」
「わたし、ほんとの名前は……」
「いいよ、僕はサトコとして出会ったんだから」

 雨は小康状態になったかと思ったらまた降り始めてきた。ホテルの分厚いガラスを通しても、雨音が聞こえる。

「僕、しばらく店には行けないんだ」
 自分でコーヒーをいれながら、ポツンと言った。
「大学の都合ですか?」
「だったら、断ってる……オヤジの会社のお手伝い」
「大阪じゃないんですか?」
「関東地方……」
「広いですね」
「詳しく言うと、ブレーキが効かなくなる」
「わたし……」
「言わなくていい。君も関東地方だってことは分かってる」
「どうして?」
「言葉だよ。これでも専門の一つは言語学なんだ。一カ月も君の言葉を聞いていたら、関東のどのあたりかも分かってくる……おおよその年齢もね。シホちゃんと、サキちゃんがいっしょだから、分かり易かった」
「そうなんだ……」

 雨が、叩きつけるように、ガラス窓に吹き付ける。風も出てきたようだ。

「少しだけ、飲もうかな……」
 間が持たずに、キッチンに向かった。
「よせ、サトコにはアルコールは似合わない!」
 肩に手が掛けられ、自然にわたしは吉岡さんと、間近に向き合うカタチになった。
「吉岡さん……」
「サトコ……」
 自然に目をつぶってしまった……唇が自然に重なった。

 わたしのファーストキスは、ブルーマウンテンの味がした……。

「おはようございま~す!」

「トコ濡れてないんだね。あたしとサキは、もう、おパンツまでグチョグチョになっちゃったわよ」
「うん、降る直前に地下街に降りていたから」
「茶店で粘りましたね? ええコーヒーの匂いがする」
 バイトの、カオルちゃんに言われてドッキリした。

 それは、開店三十分ほど前だった。

「ちょっと、あんたたちヤバイよ!」

 リョウのサトコさんが、目をつり上げてやって来た。
「なんや、また、どこぞの店が、ドジ踏みよったんか?」
 厨房からタキさんが、顔を出した。
「あんたとこや! このホテルの前で写ってるのん、トコちゃんやな!?」
「え……わたし!?」
「手をひいてんのは、ここの常連の吉岡ってニイサンだ」
 写真は、何十枚も撮られていた。気が付くと、そのシャメのほとんどに見覚えのある男が重なって写っていた。
「あ、こいつ雄貴だ!」
「シホちゃんと関係のあったやつだね?」
「たれ込み屋になりよったなあ」
「そやけど、これサカスタワーホテルでっしゃろ。ラブホやなし」
「ベッドさえあったら、どこでもいたせるんだよ」
「わたし、そんなことしてません!」
 わたしは二分ほどで本当のことを話した。キスしたことを除いて。
「していなくても、ガサイレのネタにはなるわよ。目的はリュウちゃんのオヤジさんだもん」
「なんで、オヤジが!?」

 そこにサトコさんのスマホが鳴った。

「サツが、M署を出たって。あんたたち直ぐにフケな!」
「これ、少ないけど持っていき。東京帰って、落ち着くまで、金いるやろ」
「リュウさん」
「ええねん。オレにまっとうな商売やらしてくれた。とっといて!」
 リュウさんが泣き笑いで、十万ずつくれた。きっちりしているのかみみっちいのか……。
「チ、店の前にM署の青いのが張ってる。あたしが引きつけるから、その隙にいきな!」
 サトコさんは、店の裏から出て、通りに出ると、大声で叫んだ。

――ひったくり、ひったくりや!――

 その隙に、わたしたちは店を、ゆっくりと飛び出した。サキが一度だけ振り返った。
「バカ、見るんじゃねーよ!」
 そういうシホの目にも涙が浮かんでいた。

 わたしたちが、ガールズバー『リュウ』に戻ることは二度となかった……。

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