大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・3『その気……?』

2018-08-08 07:11:47 | ノベル

アンドロイド アン・3
『その気……?』



 パカ……床下収納の蓋がひとりでに開いた。

 しばらくすると、形のいい両手が現れ、ハタハタと手がかりをまさぐった。何も無いと分かると、手は収納庫の縁に張りついた。
「えい」と可愛い掛け声が上がり、若い女性が収納庫から出てきて、月明かりの台所に立ち上がった。

「おお、まだいたのか……もう、とっくに帰ったかと思った」

 振り向くと新之助がパジャマ姿で立っている。
「すっかりお爺さんになってしまったのね」
「ああ、三十年たっちまったからな……すまん、水を飲むんだ」
「あたしが……はい、どうぞ」
 新之助はコップの水を受け取ると、コクンコクンと薬を呑んだ。
「心臓の薬ね」
「効きやしないんだけどね、医者がうるさくてな」
「……その気になった?」
「相変わらずだなあ、アンは」
「だって、そのために、あたしは来たんだもん」
「二百年先の未来からな……ま、落ち着かないから掛けようじゃないか」
 新之助は椅子に掛けると、テーブルを隔てた向かいの椅子をアンに勧めた。
「……ここで、毎朝お味噌汁作ったのよね」
「ありがとう、お蔭で健康だったし、物覚えも良かった」
「また、こさえようか?」
「ハハ、ありがとう。でも、もういいよ」
「いいよ、直ぐにできるから!」
 アンが身を乗り出すと、新之助は眩しそうに照れた。
「もう味噌汁を飲んでも遅い。この高階新之助の命は十日ほどしかもたない」
「……なんで?」
「アンのお蔭さ……頭が良くなったから、自分の寿命も分かるさ」
「治してあげる!」
「アンでも治せないよ、寿命だからな……その気にもならずに逝ってしまう。すまんな、アン」
「新之助……」
「ところで、その気って、なんの気か覚えているかい?」
「それは……つまり……えと……」
「……忘れてしまった……それとも、アンの中で変わってしまったかな?」
 アンは懸命に思い出そうとした。CPUがフル稼働し、ラジエーターを兼ねた髪の毛に陽炎がたった。
「思い出さなくていい……こうやって現れてくれただけで、わたしは十分だよ」
 新之助は、アンの手に優しく自分の手を重ねた。
「わたしが死んだら、孫の新一のところに行ってやってくれないか」
「新一……」
「この春から一人暮らしをしている。あの子にはアンのような存在が必要だ」
「その気にさせられるかしら?」
「わたしは、その気になってるよ……」
 声のトーンが違うので、アンは少し戸惑った。
「だって、だろう。奥に布団は敷いたまま……どこまでアンの期待に沿えるか分からんが、その気持ちをむげにはできないよ」
 そう言いながら、新之助はパジャマを脱ぎだした。
「ちょ、ちょっと新之助!」
「え、だって、そのためにスッポンポンで出てきてくれたんだろ?」
「え…………キャー!!」
 アンは、自分が裸であることに気づき、慌てて床下収納に飛び込んだ。

 結局ははぐらかされたんだ……新一の味噌汁を作りながら、新之助との最後の会話を思い出すアンであった。


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高校ライトノベル・秋物語り2018・20『拡散……!』

2018-08-08 06:37:36 | 小説4

秋物語り2018・20
『拡散……!』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 モニターを見つめたまま三人とも声が出なかった。


 わたしは、例の件は親にも言わなかった。学校も、わたしが何も言わないので、気を遣いながら静観している。
 そこに、麗から電話があった。渋谷のネットカフェMで待ってる。Mの前、電話でブースを確認してから、ネットカフェに入った。美花がブースから顔を出して、わたしを待ってくれていた。

「亜紀、ごめん!」

 麗の言葉から始まった。
 そいで、無言で開いたサイトに、なんと例の写真がアップロードされていた。そして数が増えていた。
「これ、雄貴の仕業だ!」
「分かってる。学校でも同じの見せられたから」

 わたしは、生指の部屋で起こったことを、二人にも話していなかった。でも、ネットでアップロードしているのには驚いた。
「リュウの写真は別として、こっちの写真は合成だ……体は、あたしだもん」
「麗、こんなシャメ撮られてて気づかなかったの?」
「うん、これ、多分隠しカメラ。アングルから見て、観葉植物とか、飾り棚のとこ」
「じゃ、これは。このアングルは、スマホかカメラをまともに構えないと撮れないよ……」
「目つぶってたから、分からなかったんだと思う。ほんとにゴメン……」

――東京現役女子高生激写、都立○○高校か!?――

 キャプションは、それだけで、看板をぼかしたうちの学校の正面の写真がついていた。わたしの顔には割り箸程度の黒い目隠しが付けられていたけど、両方とも見る人が見ればすぐに分かるシロモノだ。
「もう、消そうか」
 あまり見つめているわたしに、美花が気を遣って言った。
「いい、もうちょっと。なにか手がかりになりそうなものを……」
 男の顔は完全に写っていなかったが、体が部分的に写っている。それに脱ぎ散らかされた服が映っていた。
 そのか細い手がかりをメモして、自分でシャットダウンした。
「麗……」
「なに……?」
「……何でもない」
 言いたいことはあったけど、言えば、友だちとして取り返しの付かないことを言いそうで、わたしは無言のままネットカフェを出てバイトに行った。

 二日たって、今度は保健室に呼び出された。

 ドアをノックするときに管理責任者のシールで、そこの主が内木優奈先生だと分かった。

「例の件ですね」
 見当がついていたので、こちらから切り出した。可愛そうに、先生のほうが取り乱していた。
「いや、その、あの、女同士で、年も近いから、わたしが、その……」
「学校が、先生に押しつけたんですね。で、学校の要求はなんなんですか。特別推薦の取り消しですか。まさか、辞めろって言うんじゃないでしょうね」
「え、辞めるって?」
「自主退学。事実上の退学処分」
「いや、そんなんじゃないわ。しばらく学校を休んだらどうかって……」
「梅沢が、そう言ってるんですか」
「いえ、これは、わたし個人の意見。もう他の生徒の間でも評判になりかけてるから」
「……知ってます。こういうのは拡散するのが早いですから」
「学校が抗議したら、学校の写真は削除されたらしいんだけど」
「もう、遅いです。コピーされて、また、他のバカが流します」
「そういうものなの?」
「ハハハ、先生って、アマちゃんなんですね」
「いや、ごめんなさい。こういうことにはウトイもんで」
「いいえ、先生には感謝してます。あのとき、キッパリとわたしじゃないって、証言してくださって」
「女なら、誰でも分かることよ。それに水沢さん見てると、そんなことする子じゃないって、分かるもの」
 わたしは、この学校で、初めていい先生に会った。あの写真、ガールズバーに関しては本当だもの。
「わたし、学校は休みません。休んだら認めたようなもんです。指定校推薦取り消すようなら、訴えます。そう言っといてください」
「水沢さん……」
「こんなことで、負けたくないんです……」

 内木先生が、そっとハンカチを出した。

 わたしは、自分が泣いていることに、初めて気が付いた。
 

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