大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト《オーマイガー!?》

2018-08-22 21:35:01 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
《オーマイガー!?》 
  





「オーマイガー!?」

 と、叫んだらしい……。

「Oh my Car!?」
 
 と、あたしは叫んだつもり。


「……無理にでもとは言わねえからな」

 気を悪くした伯父さんが腕組みした。

 工場の天窓から、夏の日差しが、そのマイカーのお尻を照らしている。
 あたしには、その日差しが、マイカーのお尻を溶かしてしまったように思えた。

「ううん、気に入った!」
「それじゃ、これで、よく練習してからホンマモンのマイカー買えよ」
「うん、しっかり練習する!」
「じゃ、一応免許証の確認だけさせてもらおうか」
「はい、どおぞ」

 ピカピカの免許証を伯父さんに見せた。

 伯父さんは、お祖父ちゃんの代からの自動車修理工場。半ば趣味で工場の片隅にポンコツともクラッシックともつかない、車が何台か並んでいる。昨日シャメを見せてもらって、これに決めた。
「円(マドカ)おまえセーラー服着て写真撮ったのか!?」
「だって、これ着てたんだもん。しかたないでしょ」
 あたしは、自動車学校の最終試験の日は学校帰りだった。で、その日に免許が交付されるなんて分かってなかったので、制服姿で免許の写真を撮るハメになったのだ……文句ある?

 あたしはお尻がちょん切れたようなホンダN360Zを運転して我が家に帰った。

 お尻が欠けている分、浄化槽上のネコのオデコほどの駐車スペースに、簡単にバックで入れることができた。
 あんた、前から見たらカッコいいのにねえ……そう呟いて、家に入った。
「マドカ、あんな骨董品借りてきたのか!?」
 窓から見ていたんだろう、お父さんが目を剥いた。
「だって、前の方から見たらカッコ良さげなんだもん」
「あれも、純正だったら値打ちあるんだろうけど、兄貴がいじり倒したあとだもんなあ」
「いいの、かわいいから!」

 それから、夏休みの残りを、Zに乗って運転慣れした。

 乗り慣れて分かった事がある。確かにエンジンは換装されていたし、フロントライトは右と左で微妙に色が違ったり、ミッション系や足回り、内装など、あちこちいじり倒して、印象としてはフランケンシュタイン。
 
 あたしは、ファルコン・Zと名付けた。『スターウォーズ』に出てくる銀河系最速のガラクタと言われる宇宙船の名前。さしずめ、わたしは、それを操縦するレイア姫。

 慣れたとは言え、幹線道路を走っていると、車の小ささから、周りの車がジェダイの宇宙船や戦闘機のように思えてくる。また、道行くドライバーの人たちも。ファルコン・Zを驚嘆の目で見ていく。交差点で停まっていたりすると、シャメを撮られることもあった。

 交差点で停まっていると、アナキンが立っていた。

 正確にはアナキンに雰囲気そっくりな、うちの学校のEATのジョ-ジ先生。当然わたしは声をかける。

「ハーイ、ジョ-ジ!」
「……マドカ!?」

 というわけで、アナキンのジョ-ジが、光栄なるファルコン・Zの最初のゲストになった。

「末っ子のマンボウみたいな車だね……」
 アナキンは、そう評価した。実際のファルコン号も、ジョージルーカスが、ピザを食べているときにデザインを思いつき、「マンボウのようなフォルムにしよう」ということになったらしく、あながち的は外していない。
 アナキンのジョ-ジ先生は、学校でも憧れのマト。それを偶然とは言え助手席に乗っけた。こんな至近距離で、ジョ-ジといっしょになるのは初めて~♪
「マドカ、ライセンス取ったんだ!?」
「イエス、オフコース! で、この車ファルコン・Z!」
「ファルコン……?」
「本名はホンダN360Z。三十年前のクラシック」
「……ワオ、ほんとだ」
 ジョージは、スマホで検索して喜んだ。
「ほんとに、お尻が無いんだ」
「でも、キュ-トでしょ?」
「うん、ク-ル。お礼にコーラあげるね」
 自販機で買ったばかりなんだろう、キンキンに冷えた500ミッリットルのコーラを、プルトップを開けてドリンクホルダーに置いてくれた。わたしが1/3飲んで、ゲップしてホルダーにもどすと、ジョージは平気で残りを飲んだ。
――ワア、間接キスだ!
「ジョ-ジ、どこまで?」
「ああ、今日は大学。自分の勉強ね」
 ジョ-ジは、ウチらの学校で英語のEATをやりながら、大学で勉強しているのは知っていた。でも、その大学までいっしょに行けるとは思ってもいなかった。うまくいけば、いっしょにランチぐらい食べられるかなあ……と妄想したりした。

 それは、いきなりだった。

 大学の駐車場に入ろうとしたら、学生の車が前から突っこんできた! ドライバーの学生はスマホで話ながら運転していて、こちらに気が付いていないことは、あたしたちの方からもよく分かった。
「ブレーキ、ターンレフト! オーマイガー!」
 ジョ-ジが、そう叫んで、わたしに覆い被さってきた。

 キーーーーーーーーーーーーー!

 二台の車のブレーキ音……そして静寂……。
「マドカ、アー ユー オールライト?」
「……イエス、パーハップス……」
 ジョージに抱きかかえられるようにしてファルコン・Zから降りた。
 相手の車は、ファルコン・Zのお尻から、5センチぐらいのところで停まっていた……。
 お尻が無くてよかった。で、ジョージは、震えるわたしをずっとハグしていてくれた。
 なんだか、恋人のような感じさえしてきた。
「オーライト、オーライト……」
 ジョ-ジは、そう言いながらオデコにキスまでしてくれた。
 もう、あたしは心臓バックンバックン! ジョ-ジのバックンバックンも伝わってくる。まるで映画のワンシーンなのよね!

 そこへ事故の音を聞きつけて、ジョージの先生がやってきてくれた。

「いや、この車でよかったね。普通の車だったら、後ろを確実にぶつけて、ふっとばされてるとこだ……それから」
 あとの話が余計だった。
「こういう状況で、相手を好きになったら、そりゃ誤解だからね。そろそろ、二人とも離れた方がいいよ」
それから、この先生は『吊り橋理論』を説明し始めた。
吊り橋のように互いにドキドキを共有すると、恋愛感情と誤解することが多いらしい。
あたしは、心の中でファルコン・Zに感謝すると同時に、この大学の先生を呪った。

 オーマイガー!!

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 10『雰囲気に弱い妹ではある』

2018-08-22 06:39:28 | 小説・2

 


高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 10『雰囲気に弱い妹ではある』



 生徒会長は二期連続で務めるのが普通なんだ。

 例外は三年生で前期の会長を務めた時。
 後期の会長は任期が、あくる年の五月に跨るために、二月に卒業してしまうと任期が全うできず、会長のポストに空白期間が出来てしまう。
 だから会長は二年生の後期に立候補し、前期の生徒会長から時間をかけて仕事を引き継ぎ、あくる年の前期いっぱい職にとどまる。

 梶川俊也は二年の後期に生徒会長になり、一期半年を務め今年の前期選挙には立候補しなかった。

 そつなく任務をこなしていて、教職員にも生徒にも「まあ、よくやっている」と評判をとっていたので、五月の選挙に立候補しないと知れた時には、ちょっと話題になった。

 
「一期で辞めたこと、ちょっと後悔してるんだ」
 南館屋上、南向きのベンチに舞が座ると、こう切り出した。
「あ……普通は、もう一期やりますよね。でも、梶川さんの場合、あれと両立はむつかしい、でしょ?」

 並んで座った舞はしおらしい。
 ま、あいつは俺以外の人間には丁寧だし気配りもする。
 あんなタメ口で乱暴なのは俺に対してだけだ。ほんと、損な役回りではある。

「もう一期やっていたら、生徒会で君と一緒になれた」
「え、あ……」
「そうしたら、もっと自然なかたちで気持ちを伝えることができたのにね。呼び出してすまない、そしてきちんと応じてくれてありがとう」
 わずかに頬を染め、きちんと話す梶川は昔の青春ドラマの主人公のように清々しい。

 じっさい、梶川はテレビドラマに出ている。

 そう、あいつが会長職を一期半年で辞めたのは、某プロダクションの目に留まり、俳優業を始めたからだ。

 

「えと……去年の舞台素敵だったそうですね」
「あ、記録のDVDを見れば……あ、僕のことじゃなくてね、文化祭の企画や運営の参考になると思うよ」
「観せていただきました、先月生徒会の文化祭企画会議で」
「あ、観てるんだ」
 観ているのに、推量の「そうですね」を使っている。
「舞台は生で観ないと、映像の二次資料では正確なことは……あ、なんか生意気なことを言ってすみません!」

 

 両手をパーにして、胸の前でハタハタ振る舞は、正直可憐でため息が出る。ギャップの凄さにだけどな。

 

「生意気なんかじゃないよ、高校一年で、そんなに正確な物言いをしようとするのは立派なことだよ」
「でも、あの舞台がプロダクションの目に留まって俳優になられたんですから、先輩こそ立派な方です」
「それはどうも……あ、なんか照れるなあ」
 手の甲で額の汗を拭う梶川、くそ、サマになってやがる!
「ハンカチどうぞ」
「え、あ、すまない」
 あ、そういのは誤解を与えるぞ!
 あ、一瞬ハンカチの匂いを嗅ぎやがった、くーー、驚き方までサマになって!
「えと……僕は、その、まだまだなんだけど……そのよかったら、友だちからというぐらいから付き合ってもらえないかな、君の友だちの一人として」
 
 ちょっと予想から外れてしまった。

 

 度重なる投げ文、爽やかなルックスとビヘイビア、文武両道で前途有望な俳優の玉子、その熱意とグレードの高さから、もっとストレートで、高めの直球を放ってくると、俺も舞も思っていた。

「あ、えと……」
「どうだろ」
「えと、友だちなんですよね……」
 
 いかん、舞が陥落してしまう!
 俺は、スマホの☏マークにタッチした!

「すみません、電話」
「あ、どうぞ」
「はい、もしもし……あ、はい、直ぐにいきます」
「用事が出来たかな?」
「すみません、先生から……」

 舞は階段に急ごうとしたが、慌ててていたんだ、ベンチの脚を引っかけてしまった。

「キャ!」
「危ない!」

 奴の反射神経は見事で、転倒寸前の舞を腰抱きにして転倒を防いだ。

「あ、す、すみませんでした」
「転ばなくってよかった」
「ありがとうございます、じゃ」
 ぺこり頭を下げると、階段に向かう舞。
 どうやら、ギリギリのところで踏ん張れたようだ。

「芽刈くん!」

 く、ダメ押しの一声。

「はい、お友だちということで!」

 あーーー雰囲気に弱い妹ではある……。
 

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