アンドロイド アン・5
『自治会大運動会』
ちょっと違和感。
小学校の運動会用のコートは一周200メートルが標準だ。
アンのデータベースでは、そうなっている。
ところが。自治会の運動会は一周150メートルとコンパクト。
それに、参加者・観客の過半数が65歳以上。若者は数えるほどしかいない。
「なんで、こうなの?」
ジャージ姿の新一に聞いてみる。
「それはな……」
新一は、名探偵のように腕を組んで、賢そうに答える。
「年寄りに200メートルトラックでは広すぎる。そして、それほど多くない参加者と観客がスカスカに見えないようにコンパクトにしているんだ」
「なーるほど、新一、えらい!」
二人は綱引きと百メートル走にエントリーしている。
綱引きは偶数丁目と奇数丁目の対向だ。
三丁目の二人は奇数組。
「三年連続で偶数に負けていますので、みなさん奮闘してください!」
自治会長でもある町田のおじいさんが声を掛ける。放送局の町田夫人はおじいさんの嫁だ。
「がんばるぞーーー! ヒミゴ!」
町田夫人がこぶしを突き上げ、町内のみんなが、オーーー! と、応える。
ヒミゴってなにかと思ったら、奇数丁目の1・2・3をくっつけた語呂だと理解。アンも本気モードになってきた。
瞬間で勝負がついた。
開始のピストルが鳴って、オーエス! の掛け声のオーで、奇数組がロープを三メートルも引き寄せたのだ。
「アン……力出し過ぎ」
「テヘ」
しかし、町田夫人もおじいちゃんも町内結束の賜物だと感激しているので、二人はポーカーフェイスで通した。
オーーーーーーー
どよめきがおこった。
あいつぅ……新一は渋い顔になる。
百メートル走のスタートラインに着いたアンがジャージを脱ぐと、露出の多いランニングウェアーなのだ。
アンは自制して人間らしい速度で一位になったが、突き刺さる視線に、ちょっと驚いた。
ご町内の爺さんたちの視線のベクトルを可視化処理すると、たちまちハリネズミのようになるアンだった。
おもしろいので、映像化して新一に送ってやると、その日一日渋い顔の新一であった。