大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・5『自治会大運動会』

2018-08-10 08:33:38 | ノベル

アンドロイド アン・5
『自治会大運動会』

 

 

 ちょっと違和感。

 

 小学校の運動会用のコートは一周200メートルが標準だ。

 アンのデータベースでは、そうなっている。

 ところが。自治会の運動会は一周150メートルとコンパクト。

 それに、参加者・観客の過半数が65歳以上。若者は数えるほどしかいない。

 

「なんで、こうなの?」

 ジャージ姿の新一に聞いてみる。

「それはな……」

 新一は、名探偵のように腕を組んで、賢そうに答える。

 

「年寄りに200メートルトラックでは広すぎる。そして、それほど多くない参加者と観客がスカスカに見えないようにコンパクトにしているんだ」

「なーるほど、新一、えらい!」

 二人は綱引きと百メートル走にエントリーしている。

 綱引きは偶数丁目と奇数丁目の対向だ。

 三丁目の二人は奇数組。

「三年連続で偶数に負けていますので、みなさん奮闘してください!」

 自治会長でもある町田のおじいさんが声を掛ける。放送局の町田夫人はおじいさんの嫁だ。

「がんばるぞーーー! ヒミゴ!」

 町田夫人がこぶしを突き上げ、町内のみんなが、オーーー! と、応える。

 ヒミゴってなにかと思ったら、奇数丁目の1・2・3をくっつけた語呂だと理解。アンも本気モードになってきた。

 

 瞬間で勝負がついた。

 

 開始のピストルが鳴って、オーエス! の掛け声のオーで、奇数組がロープを三メートルも引き寄せたのだ。

「アン……力出し過ぎ」

「テヘ」

 しかし、町田夫人もおじいちゃんも町内結束の賜物だと感激しているので、二人はポーカーフェイスで通した。

 

 オーーーーーーー   「露出の多いラン...」の画像検索結果

 

 どよめきがおこった。

 あいつぅ……新一は渋い顔になる。

 百メートル走のスタートラインに着いたアンがジャージを脱ぐと、露出の多いランニングウェアーなのだ。

 アンは自制して人間らしい速度で一位になったが、突き刺さる視線に、ちょっと驚いた。

 ご町内の爺さんたちの視線のベクトルを可視化処理すると、たちまちハリネズミのようになるアンだった。

 おもしろいので、映像化して新一に送ってやると、その日一日渋い顔の新一であった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『リセウォッチング奇譚・1』

2018-08-10 06:14:53 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『リセウォッチング奇譚・1』  
         


 天六を過ぎたとこで省吾が急に立ち上がりよった。

 二三秒立ち上がっていたかと思うと座る気配がした。オレはスマホでゲームをやってたんで別人やないことだけを確認して、またゲームに没頭した。
「セーヤン、いま通った子見たか……?」
「オレは省吾みたいなリセウォッチャーと違うからな……」

 ここから後は、後に一時戻って来た省吾から聞いた話。

 リセウォッチング言うのは、間違うたら変態扱いされかねん趣味。
 女子高生の制服を電車やら駅のホームで見かけたら観察して、記憶に留め、その記憶の蓄積をもとにスケッチを描きメモを付けてファイルにする。関東に少数生息するウォッチャーが居てて、ベテランは『東京女子高制服図鑑』というベストセラーを出して、前世期の終わりごろに、このウォッチングを変態のカテゴリーから、立派な趣味に昇華した。
 この趣味が、半ば公認されるようなると、逆に学校が利用し始め、制服改訂の資料なんかにして、一時高校の制服モデルチェンジブームを作り、私立高校の合同説明会なんかには、マネキンに制服を着せて並べて分かりやすくしてある。この四五年は公立高校でも似たようなことをやってるらしい。

 省吾曰く、このリセウォッチングには厳しい掟がある。

 スマホなんかで写真を撮ってはいけない。盗撮などもってのほか。
 観察している相手に気づかれてはならない。
 友人関係などを利用して実物や資料の提供を受けてはならない。
 観察対象に話しかけたり、ナンパまがいのことをしてはならない。
 同行の士と語らいあうのは構わないが、やたらに自分がウォッチャーであることを吹聴してはいけない。
 あくまでスケッチと資料の収集であり、実物の制服の収集をやってはいけない。
 それから……あとは聞いたけど忘れた。

 オレはゲームに夢中で気いつけへんかったけど、天満橋の駅から乗ってきた子が、信じられん制服を着ていた。

 なんと十年前に廃校になった北浜高校の制服。
 最近は、有名女子高校の制服のレプリカなんか売ってるらしく、ごく少数やけど、これをコスプレにして楽しんでる人も居てるとか。
「コスプレは雰囲気で大概わかる。あの子は現役の高校生の空気があった」
 省吾は、リセウォッチャーらしく絵が上手い。サラサラっと……珍しく顔から描き始めよった。
「メッチャ可愛い子やんけ!」
 省吾は、この道の使徒らしく頬を染めて、直ぐ制服のスケッチにうつりよった。

 オレが見ると、普通のセーラー服やけど、省吾に言わせると胸当ての刺繍、白線の間隔、ポケットの位置、持ってる鞄なんかが大違いで、旧制女学校から続いた雰囲気を色濃く残しているらしい。
 オレは可愛いということを除くと、今時珍しいお下げやいうことぐらいやった。

 省吾はセオリー通り、距離をあけて付いていき、隣の車両へ。
 横長のシートを五人分開けて座り、他の乗客の隙間から向かいの窓ガラスに写る彼女の姿を観察し始めた。
 天満橋で横の席が空くと、なんと、その子が座ってきた。

「あんた、ずっとウチのこと観察してるでしょ」

 省吾は、心臓が止まりかけた……。


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高校ライトノベル・秋物語り・22『目黒のサンマン・1』

2018-08-10 05:46:21 | 小説4

秋物語り・22
『目黒のサンマン・1』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名



 秋は春と並んで新刊本のシーズンだ。ワッサカ出る新刊本のチョイスが問題になる。

 わたしの店は、床面積百坪ちょっとという中型店。大型店も多い渋谷で生き残るのは、並大抵ではない。新刊本を何でもかんでもというわけにはいかない。
 で、正社員、バイトを含めて、みんなで顧客のニーズに合った本を選んで並べる。場合によっては、書評や、ちょっとした感想を肉筆で書いて、ポップにすることもあり、バイトでも、なんだか経営参加してるような気になれて、学校なんかでは味わえない充実感がある。この春にも、わたしがポップを書いたラノベが、二百冊ほど出て、鼻が高かった。

「なんてったかね、亜紀ちゃんが二百売ったって……」
 
 文芸書担当の西山さんが、制服を着て、売り場に出たところで聞いてきた。
「ああ『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ですね」
「あれ、姉妹版があるんだろ?」
「ええ『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』です」
「あれ、出ないかな。二三問い合わせも来てるんだけどなあ」
「ネットじゃ、けっこう読者掴んでるらしいようですけど、ちょっと問い合わせてみますね」

 青雲書房という小さな出版社。電話したら、社長さんが直々に出たので恐縮した。

「……そうですか。また出るようなら、扱わせていただきますので」
「どうだい?」
「資金難で、見送っているようです。今度出すとしたら、文庫で600円くらいにしたいらしいんですけど、どうも五千は売れないと苦しいようで、二の足ってとこらしいです」
「『乃木坂』は、四六判で1260円か……うち以外じゃ売れてないだろうなあ」
 売り上げの記録を見て、西山さんがため息をついた。
「でも、ラブコメでありながら、演劇部のマネジメントが身に付くって、スグレモノでしたから」
「ま、注意して見といてよ……」
 
 西山さんとの話が終わりかけたのを見計らって、秋元君が、間に入ってきた。

「これ、置いてもらえませんか!?」

 秋元君が手に持っていたのは、DVD付きの落語の週刊本だった。
「いや、パンフ付きのDVDなんです」
「え……?」
「一応書籍なんですけど、本体は見開き四ページだけのペラペラで、完全にDVDに軸足置いて、価格は類似商品の2/3なんです」
「でも、落語じゃなあ……」
「ちゃんと、マーケティングリサーチもしてあります。うちの店の前は、一日の通行人が三万ほどあるんですが……」
 秋元君は、タブレットを出して説明しはじめた。

 うちは、一日に二千人ほどのお客が入るけど、その大半が学生やOLなどの若者。中年以上の人は、表の週刊誌の立ち読みだけというのが多い。ところが通行人の半分は中高年。それを、この店は取り込めていない。
 中高年は、本を見る目がシビアで、読書幅も広く、うちのような中型店ではこなしきれず、ハナから大型店に取られるものと決めてかかっているところがある。それを取り込もうというのが、彼の理屈。でも、これだけのデータ、どうやって集めたんだろう……と思うと、店の前で気配。

 なんとT大オチケンのみなさんが、カウンターを手に並んでいた。むろん雫さんも。どうやら、部員総出で調べたようだ。

 かくして『はるか わけあり転校生の7か月』の発売はできなかったけど、DVD本の『AKG48』の店頭販売が決まった。AKGってのはRAKUGOから、AKBに紛らわしくなるアルファベットをあつめて並べたもの。
 第一巻は三遊亭音楽の『目黒のさんま』だった。

「あたし、目黒のお店に出向なんだけどお、これって左遷かな?」

 麗から相談を受けたのは、明くる日の食堂。麗は珍しく、カレ-うどんを一杯しか食べなかった。
 

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