臨時増刊・SF&青春ラノベ
『レイカの花・4』
お調子者のハナは中学からの友だち優香とともに神楽坂高校の演劇部に入った。部長が「村長」以下、サン、カンゴ、ミサイル、モグと変なニックネームと個性の仲間のなかでも「ハナ」と呼ばれた。今年の作品は『すみれの花さくころ』に決まる。そんな中、ハナは右の膝が重度の骨肉腫であると分かる。村長は、なぜか夜中に、尖閣諸島にいくはめになった。
尖閣の南小島に着いた村長は叫んだ。なんと上下ショッキングピンクのビキニを着せられた!
「すまん、メイヤー。陸自も、うちの海兵も来てるが、最後まで姿は見せられん。限界までがんばってくれ」
「敵の規模は?」
「ハン級潜水艦2杯だ。大人しく125デシベルまで静かになっているが、当然我々は気づいている。が、我々が出れば正規軍同士の戦いで、問題が大きくなる。上陸部隊は偽装した一個小隊程度。正体不明の女の子にやられたとは、ヤツラも言いにくいだろうから、よろしく頼むわ。潜水艦は一杯は壊してもいいから、証拠に残してくれ。必要な装備は、そこの岩陰だ。ヤツラは、この南小島に来る。オスプレイは北小島に隠しておく。我々は島中にばらけてってから」
村長は、岩陰の武器を確認した。対戦車ミサイルグスタフに、20ミリバルカン砲、あとは、12・7ミリに、アサルトライフル10丁に、手投げ弾が100発あまり。それを、島の何カ所かに、分散配置した。
それは、突然やってきた。
島の南500メートルあまりのところに二隻の潜水艦が浮上し、ゴムボートが三艘づつ出され、合計一個小隊の部隊が島を目指した。
六艘のゴムボートが海岸に着くと、村長はグスタフを撃ち、潜水艦一隻を行動不能にした。慌てた上陸部隊は、迫撃砲を撃ち込んできたが、村長が、あちこち移動するので一発も当たらない。20ミリで掃射して、ゴムボートを全部オシャカにしたあと、手投げ弾を投げまくった。20発も投げると、敵の反撃力は目に見えて落ちてきた。
「ようこそ、尖閣南小島に。日本の少女一人がお相手いたしました。一応、ここいらの村長やってます! で、まだやる……?」
敵はビキニの小娘一人に呆然としたが、やがて、半数に減ったとは思えない勢いで反撃してきた。
「ハンパじゃないよ、敵さんも……」
村長は、90分ほどかけて、ハンパじゃない敵が恐怖心で体が動かなくなるところまで追いつめて、降伏勧告をした。で、もって、北小島に隠れていたオスプレイがドドっとやってきてホバリング、さもただ今現場到着という顔をして大佐たちがロープで一斉に降下してくる。
「あ~あ、いいとこだけ持っていくんだからあ」
C国偽装部隊尖閣に上陸、遭難漁民を名乗るが、擱座した潜水艦、捕獲した武器で特殊部隊と判明!
明くる日のニュースのトップになったが、あくまで異変に気づいた米軍と自衛隊が出動して、専守防衛の精神で勝利を収めたことになっていて、C国の指揮官も、村長の存在は、名誉のためにも口にしなかった。
ビキニ娘に部隊が壊滅させられたとは、言いにくい。
ハナの症状は芳しくなかった。放射線も効かず、病巣は広がる一方で、右足膝から下の切断は、避けられなくなった。
二日に一度は、部員が見まいにいったが、ハナは落ち込む一方で、もうゲンキハツラツのハナでは無くなった。後輩のミサイル、モグはもちろん、サンやカンゴまで手が付けられなくなってきた。
で、手術三日前に村長は、見舞いに行った。
「落ち込むなって、ゲンキハツラツで、やっとレベル7のツッパリブスなんだぜ、今の落ち込みは、もう5以下の完全ブスだぞ」
「もういいんです。足が無くなったら、コンクールも無理。ううん、もう高校生活全部だめ。サゲサゲのダメダメのハナになっちゃう。それに、足切っても、他に転移していたら、もう来年の正月は迎えられないんです」
「弱気になんなよ、そんなことやってみなきゃ分かんないんだから。そうだろ? お医者さんも成功率90%だって。失敗は、たったの10%じゃないか」
「……あたしって、降水確率10%でも雨に遭っちゃう雨女なんです」
「ハハ、そういや、今日も降水確率10%だ」
村長はスマホの天気予報を出して、ハナに見せた。とたんに、窓の外が土砂降りの雨になった。
「ほら、降ってきたでしょ……」
「見事だね……」
村長は窓の雨を見ながら感心して、腕組みをした。
「だから、悪い確率って当たっちゃうんです……ウ、ウ、ウウウ」
「でもさ、ハナは病院の中に居るから、濡れないじゃん。だろ? そのかわり、今日は、あたしが雨女だ。ハルの雨、引き受けて帰るからさ」
「すみません。でも村長さん。明後日の手術の日は、降水確率20%なんです。この日に降られたら、手術上手くいかないような気が……」
「怒るよ。あたしが来て雨が降らないようにしてやっから、とにかく、その不景気なツラはやめな!」
「は、はい……」
そして、村長は雨を引き受けて、傘も差さずに帰った。ハナは、いい先輩だと思ったが、不安と弱気は無くならない。
村長は考えていた。あのことを話そうか……そして、明後日は、どうしても雨を降らしちゃいけないと。
つづく
秋物語り・15
『もう一年たったんだ……』
主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)
※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名
え、もう一年たったんだ……美花からのメールを読んで、思わず口に出た。
ちょっと入院していたということにした、三人とも……大丈夫かな。
そう思って、開き直った気持ちで学校にもどったけど、あっさり、それで通ってしまった。
一年前の終業式に居なくなって、一夏入院でした。
誰もそんなことは信じなかっただろうけど、関わりになりたくないんだ。
友だちも先生も、「あ、来たの。よかったわね」てな顔つきでおしまい。家族から北海道に家出してますって話はいっていたようだ。麗も美花も家には、その説明で済んでいる。
これは、お隣のラノベ作家・雨宮さんのお陰だ。一カ月以上、北海道の友だちに頼んで、三人分のシャメ付きメールを送り続けてくれたんだ。わたしたちをモデルにラノベを書くって交換条件があったけど、やっぱ、雨宮さんの人柄なんだろう。
わたしたちは、ただアリバイのためだけに学校に通った。
高卒というアリバイを完成させるためだけに。
だから、わたしたちは大人しいもんだった。遅刻も欠席もしなければ、テストの成績も、それぞれの能力(と、みんなが思っている程度)に見合った程度には取った。
わたしは、進路の吉田先生の勧めで、アニメーターの勉強が出来るS文化大学に指定校推薦で行けることになった。まあ、去年の秋までの不行跡があって入れるんだから、大した大学じゃない。行ったところ、はまった場所で、その都度考えればいいと思った。学校の先生を見てもわかる。東大や早稲田、慶応を出ていても、こんな場末の偏差値50を切るような都立高校でくすぶっている。ちなみに我が担任江角女史(運悪く三年でも担任)は、東大の法科を出ながら、司法試験に三回も落ちて、しかたなくやってるデモシカだ。
大阪での事が、大変な人生勉強であることは、少しずつ分かってきた。
そんなこんなの内に、一年が過ぎ、こうして美花からのメールに驚いている。
「ごめん、本屋のバイトが遅刻で、申し訳ないね」
「いいよ、いいよ。今日はあたし達の方が休みなんだから」
そう、わたしは本屋さんで、麗と美花はガールズバーで、バイトしている。こっちの方に、わたしたちの人生の軸足がある。
だから学校は適当でいい。
「じゃ、揃ったから、とりあえずオッサンみたく乾杯しよう」
三人とも、去年の大阪でお酒には強くなった。飲み屋さんの雰囲気にも慣れたもんで、だれが見ても二十歳過ぎの大学生か専門学校生にしか見えない。こういうとこも、何度も言ってるけど、大阪の経験のお陰。
「こないだ、メグさんからオヒサで電話あってさ、今は東京戻って、銀座で働いてんだって」
「そっちで働きたいなあって言ったら、百年早いって言われちゃった!」
「百年って、メグさん、いったい幾つなんだろうね?」
「わたしたちだって、人のこと言えないかもよ」
「って、銀座にいけそう?」
「メグさんの半分くらい賢くなったらね」
「アハハ、そりゃ、百年早いわ!」
麗が豪快に笑ったところで、ビールがきたので、乾杯した。
「かんぱーい!」
三人揃って一気のみ。これは、もうお局様の貫禄だ。
「今日、雨宮さんのラノベが単行本になって出てきたよ」
「え、あたし達がモデルの!?」
「うん、ヤバイとこはうまくぼかしてあるけど、読めば、わたしたちの事だってすぐに分かる」
「うわー、読みたいなあ!」
「はい、どうぞ。一周年記念のプレゼント」
二人に一冊ずつ渡した。
「わ、表紙のイラストだけで、だれだか分かっちゃうね!」
「大阪を知ってる人にはね……あれ、読まないの?」
「帰ってからゆっくりと、ね、美花」
「うん!」
よく書けたラノベで、リュウさん、滝川さん、シゲさん、見たこともなかったリュウさんのお父さんのことが、カリカチュアライズされながらもイキイキと描かれていた。
でも、吉岡さんのことは書かれていなかった。彼のことは言ってないもん……。
わたしたちの、マッタリした秋物語りの新しいページがめくられた……。