高校ライトノベル
妹が憎たらしいのには訳がある・5
『幸子の学校見学』
「おい、むっちゃ可愛い子おが体験入学に来てるみたいやぞ!」
クラスメートで、同じケイオンの倉持祐介。
「ほんとかよ!」
ボクも人並み程度には、女の子にも関心がある。ちょうど食べ終えた弁当のフタをして、腰を浮かせた。
「もー、ちょっと可愛い思たら、これやねんからなあ」
これも、クラスメートでケイオンの山下優奈がつっこんでくる。
「そやかて優奈、ビジュアル系のボーカル欲しいて言うてたやないか」
と、いうことで、祐介の目撃場所であるピロティーが見下ろせる渡り廊下に急いだ。渡り廊下には数人の生徒が、高校生的好奇心、プラス大阪人のスケベエ根性丸出しで、ピロティーを見下ろしていた。ピロティーや、そこに隣接する中庭にいる生徒の多くも、チラ見しているのがよく分かった(ちなみに、大阪人のチラ見は東京のジロジロと変わらない)
セーラー服のツィンテールが振り返って気が付いた。
「あ、幸子!」
「え?」
「うん?」
俺の早口は、祐介と優奈には、よく分からなかったようだ。ボクは、一階まで降りて、距離を置いて幸子を睨んだ。
――来るんなら、オレに一言言え。そして、人目に付かない放課後にしろ――
俺の怨念が届いたのか、幸子は、ボクに気が付くと、駆け寄ってきた。
「お兄ちゃ~ん!(^0^)!」
完全な、外出用のブリッコモードだった。
「兄の太一です。存在感が薄くて依存心の強い兄ですが、よろしくお願いします」
「ええ! 佐伯の妹か……ぜんぜん似てへんなあ!」
教務主任で副担任の吉田先生が、でかい地声で呟き、近くにいた生徒たちが、遠慮のない声で笑った。
「多分、うちを受けることになると思いますんで、よろしくお願いします」
兄として、最低の挨拶だけして、そそくさと教室に戻った。しまい忘れていた弁当箱をカバンにしまっていると、優奈が、いきなり肩を叩いた。
「いやー! 太一の妹やねんてな。ぜったいケイオンに入れてよ。あの子には華がある。ウチとええ勝負やけどな」
うちの学校に限ったことではないだろうけど、大阪は情報が伝わるのが早い。
「あの子、美術の見学に行って、デッサン描いたらメッチャうまいねんて。ほら、これ」
五限が終わると、優奈がシャメを見せにきた。恐るべき大阪女子高生のネットワーク!
「おい、情報の授業見学してて、エクセル使いこなしたらしいぞ、幸子ちゃん!」
六限が終わると、祐介がご注進。今度のシャメは、十人ほどの生徒たちを、アイドルのファンのように従えて写っていた……で、マジで、放課後には幸子のファンクラブが出来た。
――サッチーファンクラブ結成、連絡事務所は佐伯太一、よろしく!――
スマホで、それを見たときは、マジで目眩がした。発起人は祐介を筆頭に数名の知ってるのやら知らない名前が並んでいた。
その日は、運悪く中庭の掃除当番(広くて時間がかかる)に当たり部活に行くのが遅れた。まあ、マッタリしたケイオンなので、部活の開始時間は有って無きが如く。メインの先輩グループを除いては、テキトーにやっている。それが……。
――なんじゃこりゃ!?――
いつもエキストラ同然の一年生が使っている三つの普通教室はカラッポで、突き当たりの視聴覚教室が、防音扉を通しても、はっきり分かる賑やかな気配。
入ってびっくりした。
先輩グループが簡易舞台の上で、いきものがかりの歌なんかを熱唱し、みんながそれを聞いている。そして……そのオーディエンスの真ん中最前列に幸子が座っている!
俺は、その異様な空間の中で、ただ呆然と立っているだけだった。
満場の拍手で、我にかえった。
「どう、サッチャン。ケイオンていけてるやろ!?」
リーダーの加藤先輩が、スニーカーエイジの本番のときのように興奮して言った。
「はい、とっても素敵でした!」
「どう、サッチャンも、楽器さわってみない?」
「いいんですか?」
とんでもない。加藤先輩のアコステは二十万以上するギブソンの高級品。ボクたちは触らせてももらえない。
「初めてなんですけど、いいですか?」
「いいわよ、簡単なコード教えてあげる」
驚きと拍手が同時にした。冷や汗が流れる。
「コードは……スコアの読み方は……」
小学生に教えるように優しく先輩は教え、幸子はぎこちなくそれにならった……。
それから十五分後、幸子は、いきものがかりのヒットソングを、俺が言うのもなんだけど、加藤先輩以上に上手く歌った。むろんギターもハンチクなボクが聞いてもプロ級の演奏だった。
「サッチャン……あんた……」
先輩たちが、驚異の眼差しで見た。
「あ、加藤さんの教え方が、とても上手いんですよ。わたしは、ただ教えてもらったとおりやっただけです」
可愛く、肩をすくめる幸子。
「佐伯クン、あんたたち、ほんとに同じ血が流れてる兄妹……?」
加藤先輩の言葉で、みんなの視線がボクに集まった……。