大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・4『幸子は佳子ちゃんと友だちに』

2018-08-30 16:45:11 | ボクの妹

 

高校ライトノベル

 

妹が憎たらしいのには訳がある・4

『幸子は佳子ちゃんと友だちに』   



 人はたいていの環境の変化にはすぐに慣れる。

 自他共に認める「事なかれ人間」の俺は、三日目には、幸子の可愛さと、それに反する憎たらしさに慣れてしまった。
 幸子は、家の外では、多少コマッシャクレ少女だが、まあ普通……より少し可愛い妹だった。家のなかでは、相変わらずのニクソイまでのぶっきらぼう。

 六日目に、一度だけお袋に聞いた。ちょうど幸子がお使いに行っている間だ。

「幸子……どこか病気ってか、調子悪いの?」
「え……どうして?」
 お袋は、打ちかけのパソコンの手を休めてたずねてきた。ちなみにお袋は、在宅で編集の仕事をやっている。
「あ……なんてか、躁鬱ってんじゃないけど、気持ちの起伏が、その……少し激しいような……」
「……幸子は、少し病んでるの、ここがね」

 お袋は、ボクの顔を見ずに、なにか耐えるような顔で、胸をおさえた。

「……あ、そういうこと。思春期にはありがちだよね。そうなんだ」
 それで納得しようと思ったら、お母さんは、あとを続けた。
「夜中に症状がひどくなることが多くてね、夜、時々幸子の部屋にお母さんたちが入っているの知ってるでしょ」
 ボクは、盗み聞きがばれたようにオタオタした。
「いや……それは、そんなにってか……」
「いいのよ、わたしも、お父さんも。太一が気づいてるだろうとは思ってたから……」
 そういうとお母さんは、サイドテーブルの引き出しから薬の袋を取りだした。袋の中にはレキソタンとかレンドルミンとかいうような薬が入っていた。

 処方箋を見ると、向精神薬であることが分かった。

「あと……俺が何か気を付けてやること、あるかなあ?」
「そうね……どうしてとか、なんでとか、疑問系の問いかけは、あまりしないでちょうだい」
「う、うん」
「それから、逆に、あの子が、どうしてとか、なんでとか聞いてきたら、面倒だけど答えるように……そんなとこかな」
「うん、分かった」
「それと、このことは、人にはもちろん、幸子にも言わないでね」
「もちろん」
「それから……」
 と、お袋が言いかけて、玄関が乱暴に開く音がした。

「お母さん、この子怪我してんの!」

 幸子が、泣きじゃくる六歳ぐらいの女の子を背負ってリビングに入ってきた。

「お兄ちゃん、大村さんちの前にレジ袋おきっぱだから、取ってきて。それから、大村さんの玄関に、これ貼っといて」
 女の子をなだめながら、背中でボクに言った。渡されたメモには『妹さん預かっています。佐伯』とあった。メモを貼り、レジ袋をとりに行って戻ってくると、幸子は女の子の足の傷の消毒をしてやっているところだった。
「公園から帰ってきたらお家が閉まっていて、家の人を探そうとして転んだみたい」
「大丈夫よ、優子ちゃん。オネエチャンがちゃんと直してあげるからね、もう泣かないのよ……」
 幸子は、まるでスキャンするように優子ちゃんの傷に手をかざした。
「大丈夫、骨には異常は無いわ。擦り傷だけ……」
「はい、傷薬」
 お袋は、手伝うこともなく、薬箱の中から必要なものを取りだして、幸子に渡した。幸子は、実に手際よく処置していく。

 インタホンが鳴った。

「すみません、大村です。妹が……」
「あ、佳子ちゃん、じつは……」
 佳子ちゃんを招き入れ、お母さんが手際よく説明。優子ちゃんも姉の佳子ちゃんを見て安心したんだろう。涙は浮かべていたが、泣きやんだ。
「まあ、幸子ちゃんが。どうもありがとう……わたし、用事でコンビニに行ったら、友だちと話し込んでしもて。それで優子、自分でお家に帰ってきちゃったんや。ごめんね」
「用事って、それ?」
 幸子は、佳子ちゃんが手にしている書類に目をやった。
「あ、わたしドンクサイよって、出願書類コピーで練習しよ思て、十枚もコピーしてしもた」
「佳子ちゃん、どこの高校受けるの?」
「あ、それ、友だちと話ししてたとこ。わたし真田山にしよ思て」

 それがやぶ蛇だった。

 ひとしきりお袋と優子ちゃんの二人を交えた女子会になり、終わる頃には、幸子は大村姉妹と仲良しになり、ついでに受験先も、我が真田山高校に決まってしまった。

 そして、二日後、なんと幸子は真田山高校に単独で体験入学に来た……。

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・13『P音を飛ばす』

2018-08-30 14:00:23 | ノベル

アンドロイド アン・13
『P音を飛ばす』

 

 

 アンは音源を飛ばせるらしい。

 

 そう思ったのは昨日の昼休み。

 例のP音で、ときどき弄られるアンだったが、その都度ちょっとだけ頬を染めて(*´艸`*)と笑っている。

 そうすると、周囲もつられてウフフとかアハハになって、それでおしまい。

 こういうことは、意固地になって無視したり知らぬ顔を決め込むとエスカレートするもんだ。

 そういうアンの反応は好感を持たれ、そのぶん動画をアップした者の評判は悪くなる。

 

――悪質だよねえ――削除される前に魚拓とってて加工して再投稿だもんね――も、サイテー――

 

 収まりがつかないのが、采女の取り巻きたち。

 アンが中庭とかを歩いているとヒソヒソと話声がしたり嫌味な笑い声がするようになった。

「いやーね、あれ、早乙女さんの取り巻き達よ」

「顔も見せないで、メッチャムカつく(; ・`д・´)」

 アンよりも、いっしょに歩いてくれている玲奈たちが怒りだす。

 そういうことが四五も回続いた昨日の昼休み。

 中庭を見下ろす三階の渡り廊下からクスクス笑いが聞こえてきた。

「ちょっと、いいかげんにしなさいよ!」

 玲奈がブチギレて渡り廊下に向かって拳を振り上げた。

 すると人の気配と気配の分だけの忍び笑い。

「玲奈、もういいわよ」

「だって、あいつら」

「「「そーよそーよ!」」」

 なんだか刃傷沙汰になりそうな気配になってきた。

 すると、渡り廊下の方から元気のいいP音が立て続けに起こった。

 

 ピーーープーーープププーーブスブスーーーブーーーー!

 え、え、ちょ、ちょ~~~~!!

 

 P音と慌てた声を残して取り巻き達の気配が消えた。

 

「ひょっとして、アンがやったのか?」

 食堂の券売機に並んだアンの横顔に聞いた。

「どうだろ、取り巻きさんたちの声がP音になったらと思ったら、そうなっちゃった」

 そう呟きながら、アンはたぬきそばのボタンを押した。

 

 放課後に玲奈から聞いた話では取り巻き達は発する声がP音になるだけでなく、濃厚な臭いまでついているということで、終日口をつぐんだままだったそうだ。

 

 自覚があるのかないのか、同居人の俺としては、ただただ平穏を祈るだけだった。

 

 

 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 18『虫除けなんだぜ』

2018-08-30 06:41:16 | 小説・2

メガ盛りマイマイ 
 18『虫除けなんだぜ』





 当然噂になる。

 毎日放課後になると隣町の有名私学の男子高校生が、それも某人気ラノベのモテ期主人公のようなイケメンが校門の脇で待っているのだ。
 むろん、虫除けに化けたコスプレだが、ちゃんと隣町の学校からの時間を計算して調整している。

 概ね四時前後。

 下校ラッシュが過ぎたころで、程よいオーディエンスが認知してくれるのには最適だ。
 自転車の後ろには、隣町の防犯登録証とその学校の自転車登録証が貼ってある。自転車そのものも隣町で買ったもので、隣町の自転車販売組合のシールも付いている。うちの物見高い生徒が写メっても簡単にはバレない偽装はしてある。

「ね、A組の芽刈さんよ」
「ここんとこ毎日ね」
「お巡りさんも、あの二人乗りだけはお目こぼしだそーよ」
「見とれちゃう~」
「だよね」
「写真とろーか」
「あたし昨日撮った!」


 信号待ちなんかしてると、そんな声が聞こえてくる。

 単なる虫除けなんだけど、舞はまんざらでもない……てか、ちょっと得意になっている。
 なにをやっても一番でなきゃ気の済まないやつなんで、こういう褒め言葉にはゾクゾクしている。
「ちょ、揺するのやめれ」
「だって、ウキウキするじゃん」
 運転中にしがみついたままウキウキされては危なくて仕方がない。

「ちょっと出来すぎてんよな」
「ちょっとな」


 そんな話が聞こえた時は、ちょっとギクっとした。バレたかと思ったからだ。
「やっかみよ」
 舞は気楽だ、自分のやることに間違いはないと思っている。
 
「なんだか昔の韓流ドラマみたくね」
「あ、男の方な」
「今の時代に有りえねー、ありゃポプラ並木とかねーとな」
「ちょっち芽刈さんとは合わねー」


 俺は安心した。こいつらの呟きはやっかみだ、バレてはいない。
 だが、舞は違った。

「ガレージに着いたら停めて」
「なんでだよ」
「いいから」

 俺たちは、学校と家との中間にあるガレージの中で偽装を解いている。
 俺は別の自転車に乗って裏口から出る、むろん変装は解いて一人で家に帰る。
 舞は、ガレージと棟続きになっている三階建てから出て行く、それがいつもの流れだ。
 それが、今日は停めろという。

「ウィッグと眼鏡変えよう」
「なんでだよ」
「有りえねーとかは有りえないのよ」
「あれはやっかみだろが、テスト前の部活禁止期間のサッカー部かなんかだぞ」
「野球部と軽音もいた」
「っても、同じだろが。バレてなきゃ、そいでいいじゃねーか」
「よくないわよ、フェイクでもわたしの彼なのよ。釣り合うものでなきゃなんないでしょーが」
「こんなとこで見え張ってもよ」
「見栄じゃない、プライドよ」
「いいか、これは単なる虫除けなんだから」
「そんないい加減だから、過年度生なんかになんじゃないのよ」
「ん、んだとー!」
「図星突かれて切れるなんてサイテーの屑よ」
「このアマーー!」

 手を上げた瞬間天地がひっくり返った。

「遅くなりました、ま、仲良く兄妹ゲンカですか」
 恵美さんが車のキーを回しながら入って来た。
「恵美さん、いまから原宿……渋谷お願いね」
「はい、承知しました」
「ほら、さっさと来る」
 痛む腰を摩りながらセダンに乗り込む。

 半日かけてウィッグと眼鏡を新調。
 あくる日からはイメチェンの二人乗りで、やっかみ的な呟きをするモブも居なくなり、三日目には俺たちの写真をマチウケにする女子まで現れた。

 大満足の舞だったが、本当の目的である虫除けからほころびが出てきた……。
 

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