大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 05『俺たち兄妹の秘密・その一』

2018-08-17 06:44:33 | 小説・2

高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 05『俺たち兄妹の秘密・その一』





 舞にしては珍しく、三日もかけて結論を出した。

 もっとも悩んでいたというわけではなく、単に忘れていただけだけどな。
 それも度忘れじゃなくて、忙しすぎて思い出すヒマもなかったというところだ。

 舞は学級委員長をやっているだけじゃない、七つの部活を掛け持ちしている。

 美術部 漫研 ダンス部 演劇部 放送部 野球部 陸上部

 入学してから二十幾つある部活を全部体験入部、その全ての部活から「ぜひうちのクラブに!」と熱烈なラブコール。
 それで、毎回来る必要はないという条件の七つのクラブに入った。
 他にも、生徒会の一年生の学年代表なんてのもやっていて、生徒会室のスペアキーを持っていたりする。
 それ以外にもやっていそうなんだけど、家ではほとんど会話が無いので分からない。

「モデルのお誘いがあるって言ったら、バアチャン喜んでたぜ」

 バアチャンの反応を伝えると「じゃ、決まりだ!」と宣言し、関根さんに電話し、今日のスケジュールに繋がっている。
「バアチャンに車出してもらえばよかったのに」
「高校生が、そんな贅沢できるか」
「だったら、もうちょっと離れてくれ、暑苦しい」
「くっついてないと危ないっしょ!」
 
 俺は、陸上部の朝練が終わったばかりの舞を自転車の後ろに乗せ、国道を疾走している。

 学校でシャワーは浴びてきたらしいが、朝練の直後なので、女の匂いプンプン。おまけに背中にべっちゃりくっ付かれ、やりにくいことおびただしい。こんなことを平気でやるのは、舞がブラコンであるわけではない。舞にとっての俺は単なる下僕だ。
「じゃ、せめて眼鏡とウィッグは取らせてくれよ」
「取ったら殺す」
「へいへい」

 本当は、プロダクション差し回しに車の迎えで、舞一人で行くはずだったが、直前で車の手配がつかなくなって呼び出された。

 たまにこういうことがある。
 いろいろ掛け持ちしている舞は、タイトなタイムスケジュールで、ときどきアクシデントに見舞われて間に合わなくなる。
 そう言う時に俺は動員される。
 クラスメートの新藤君ではまずいので、メガネとウィッグの装着をしなければならない。
 四月から四回目になるので、そろそろ噂が立ち始めている。

 芽刈舞には他校の崇拝者が居て世話をしているらしい……。

「ほら、着いたぞ」

 指定された隣町のビルの前で自転車を停めた。

「えと、ここの二階か……」
「じゃ、俺は帰るな」
 ペダルを踏み込もうとしたら、ブレーキを掛けられた。
「な、なにすんだよ!?」
「あんたは、ここで待つの。ほら、このイヤホン装着して、そこの自販機の陰で待機」
「なんでだよ!?」
「万一ってことがあるでしょーが、あたしはメガ産業総帥の娘なんだよ、不測のことでお父さんに迷惑かけられないでしょ」
「万一って、俺がどうにかすんのかよ?」
「バッカじゃない! そこまで期待してないっつーの! 万一の時は、あんたがお婆ちゃんに通報すんのよ!」
「俺は警報機か?」

 瞬間、舞の瞳がガチガチのマジになった。

「あんたのお母さん、忘れたわけじゃないでしょ……」

「わ、わあった……」

 俺たち兄妹は、実のところ母親が違っていたりするのだった……。

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高校ライトノベル・秋物語り・30『亜紀の秋』

2018-08-17 06:24:43 | 小説4

秋物語り・30
『亜紀の秋』
              

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 けっきょく美花はメールで知らせてきた。

――吉岡さん、会いたがってた――

 たった、十二文字。吉岡さんが会いたがっていることは素直に嬉しい。
 でも、どんな状況で、どんな感じで、どんな風に会いたがっているのかが分からない。飛行機の中で、それも相手は美花だ。社交辞令なのか、ちょっと会ってみたいのか、その辺の機微が分からないので動きようがない。

「メールの通りだって。本当に会いたがってるって。でなきゃ、わざわざ言ったりメールしたりしないよ。まだまだボキャ貧だけど、大事なことは分かるよ、あたしだって。子ども扱いしないでよね」
 念押しで聞いたら、美花は怒ったように言った。
「美花が、チョッピリ大人になったのは認めるよ……」
「よしよし。亜紀も少し大人になった」
「え……」
 あたしは秋元君とのことが頭をよぎって、自分でも分かるくらいに顔が赤くなった。
「みんな、それぞれだけど、夏があって秋がくるんだ。あたしも麗も、その時期は過ぎた。亜紀もそう言う時期がきたんだ。おめでと」

「あたし、好きな男の子なんていないから」

 その一言が言えたのは、地下鉄のホームだった。
「好きな男の子じゃダメって考えてたんだ。Hなんて勢いでいっちゃうもんだから、気にすることなんかないよ」
「Hなんかじゃないよ」
「あ、違った? ま、変な病気にだけはね気を付けてね」
「びょ、病気なんか持ってないよ!」
「だれが?」
 完全に見透かされてる。
「好きな男の子なんて、いつでもできる。でも好きな男の人はね……大事にしなよ」

 それから、吉岡さんにメールするのに三日かかった。

――例のトリック写真ではお世話になりました。よかったら電話していい時間教えてください――

 すると、なんと昼休みに、吉岡さん本人から電話がかかってきた。
「やあ、お久しぶり。今夜バイト空いてる……じゃ、7時、渋谷のR前で」
 良いも悪いもなかった、バイトが空いてるのを確認したら、さっさと切られてしまった。
 食堂の野外テーブルに気配。麗と、美花が訳知り顔で、ピースサイン。
 このタイミング。あの二人の仕業……あたしはニッコリと過不足のない笑顔だけして、教室にもどった。

 放課後、真っ直ぐに家に帰り、シャワ-を浴びて身支度。学校の臭いは消しておきたかったから。そして、三十分ほどファッションショーをやって、なんのことはない。いつものバイトに行くナリになって、メイクもなし。ちょっぴりグロスが入ったリップを付けておしまい。

「今夜、晩ご飯いらないから」

 それだけ言って家を出た。

「とりあえず、飯にしようか」

 再会の第一声がこれだった。

 肩の凝らないイタメシ屋さんだった。でも、パーテーションで区切られていて、半ば個室。案内されたときには「リザーブ」のシルシがテーブルに置いてあった。
 席に案内されるときに、吉岡さんの手が軽く背中に触り、それだけで全身に電気が走った。
「先日は、どうもお世話になりました。なんだか、お礼の電話ためらわれちゃって、ズルズルと失礼しました」
「いや、いいんだよ。ああいうのは、それとなく処理した方がいいからね。それに、お礼の電話じゃ、誘いにくいだろ。今日も来てくれるかどうか、少し心配だった。あんな電話の切り方したから」

 それから、吉岡さんは、仕事の話を少しして「で、亜紀ちゃんはどうなの?」と振ってきた。

 あたしは、大阪時代のころの話から、高校にもどってからの話やバイトの話なんかした。秋元君との体験談は別にして。終始にこやかに吉岡さんは話を聞いてくれた。学校で、首のすげ替え写真で、クラスの男の子を張り倒したところなんか笑いながらシミジミと言った。

「亜紀ちゃんは、程よく子どもを残しながら大人になってきたね」

 どう反応していいか分からないわたしは、赤い顔をして上目遣いで吉岡さんを見ていた。なんだか目がウルウルしてきた。で、ウルウルはひとしずくの涙になって頬を伝った。
「どうした、亜紀ちゃん?」
「いえ、なんにも。こんな風に話ができるのは、あのサカスタワーホテルが最後だと思っていましたから……」
 拳で涙を拭った。ほとんどスッピンなんで化粧崩れの心配なんかはなかったけど、なんとも子どもっぽい仕草で、自分が麗や美花よりも、うんと子どもなんだと思い知らされた。
「外れていたら、ごめん。亜紀ちゃんは、自分が思っているほど子どもじゃないよ……あ、もうこんな時間だ。家まで送るよ」

 まだ十時半。でも、吉岡さんは生真面目に心配りをしてくれた。送ることを想定していたんだろう、アルコールも口にはしていない。

 車で十分ほど走って、道が少し違うことに気が付いた。わたしの中に、ほのかな期待が湧いた。今夜は、お泊まりしてもいい準備はしてきた。見てくれはザッカケナイ普段着だけど、アンダーは勝負の準備をしてきた。

「これが、ぼくのマンション」
 そう言って車が停まったときは、口から心臓が飛び出しそうになった。
「まあ、途中だったから、場所だけ見せておこうと思って。またみんなで遊びにおいでよ」
「みんなで……」
 それには気づかないふりをして、車は再び走り出した。

「ここでいいです。家は、もう近くだから」
「うん、分かった」
 吉岡さんが、ドアのロックを外しかける。
「大人になったシルシを少しだけください……」

 数秒の沈黙……。

「亜紀……」

 吉岡さんの気配が被さってきた。目をつぶってしまう。
 ほんの数秒唇が重なった。胸に吉岡さんの体重の何分の一かを感じた。
「さあ、よい子はお家に帰りましょう」
 車のドアが開いた。

 テールランプのウィンクを受けて、わたしは、わたし的には実りの秋を予感した。

 秋物語り 完

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