高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ
05『俺たち兄妹の秘密・その一』
舞にしては珍しく、三日もかけて結論を出した。
もっとも悩んでいたというわけではなく、単に忘れていただけだけどな。
それも度忘れじゃなくて、忙しすぎて思い出すヒマもなかったというところだ。
舞は学級委員長をやっているだけじゃない、七つの部活を掛け持ちしている。
美術部 漫研 ダンス部 演劇部 放送部 野球部 陸上部
入学してから二十幾つある部活を全部体験入部、その全ての部活から「ぜひうちのクラブに!」と熱烈なラブコール。
それで、毎回来る必要はないという条件の七つのクラブに入った。
他にも、生徒会の一年生の学年代表なんてのもやっていて、生徒会室のスペアキーを持っていたりする。
それ以外にもやっていそうなんだけど、家ではほとんど会話が無いので分からない。
「モデルのお誘いがあるって言ったら、バアチャン喜んでたぜ」
バアチャンの反応を伝えると「じゃ、決まりだ!」と宣言し、関根さんに電話し、今日のスケジュールに繋がっている。
「バアチャンに車出してもらえばよかったのに」
「高校生が、そんな贅沢できるか」
「だったら、もうちょっと離れてくれ、暑苦しい」
「くっついてないと危ないっしょ!」
俺は、陸上部の朝練が終わったばかりの舞を自転車の後ろに乗せ、国道を疾走している。
学校でシャワーは浴びてきたらしいが、朝練の直後なので、女の匂いプンプン。おまけに背中にべっちゃりくっ付かれ、やりにくいことおびただしい。こんなことを平気でやるのは、舞がブラコンであるわけではない。舞にとっての俺は単なる下僕だ。
「じゃ、せめて眼鏡とウィッグは取らせてくれよ」
「取ったら殺す」
「へいへい」
本当は、プロダクション差し回しに車の迎えで、舞一人で行くはずだったが、直前で車の手配がつかなくなって呼び出された。
たまにこういうことがある。
いろいろ掛け持ちしている舞は、タイトなタイムスケジュールで、ときどきアクシデントに見舞われて間に合わなくなる。
そう言う時に俺は動員される。
クラスメートの新藤君ではまずいので、メガネとウィッグの装着をしなければならない。
四月から四回目になるので、そろそろ噂が立ち始めている。
芽刈舞には他校の崇拝者が居て世話をしているらしい……。
「ほら、着いたぞ」
指定された隣町のビルの前で自転車を停めた。
「えと、ここの二階か……」
「じゃ、俺は帰るな」
ペダルを踏み込もうとしたら、ブレーキを掛けられた。
「な、なにすんだよ!?」
「あんたは、ここで待つの。ほら、このイヤホン装着して、そこの自販機の陰で待機」
「なんでだよ!?」
「万一ってことがあるでしょーが、あたしはメガ産業総帥の娘なんだよ、不測のことでお父さんに迷惑かけられないでしょ」
「万一って、俺がどうにかすんのかよ?」
「バッカじゃない! そこまで期待してないっつーの! 万一の時は、あんたがお婆ちゃんに通報すんのよ!」
「俺は警報機か?」
瞬間、舞の瞳がガチガチのマジになった。
「あんたのお母さん、忘れたわけじゃないでしょ……」
「わ、わあった……」
俺たち兄妹は、実のところ母親が違っていたりするのだった……。