アンドロイド アン・11
『三年一組 早乙女采女』
……どうも狙っているらしい。
というのはアンのことだ。
自治会の運動会や学校でのアレコレで、アンは「よくできた」という冠詞が付き始めたのだ。
よくできた三丁目のお嬢さん。
よくできた転校生。
よくできた新一の妹。
その「よくできた」を回避を狙っていろいろドジをやっているように思えるんだが、人にもアンにも言わない。
家で感電したことも、町田夫人の自転車とお見合い衝突したことも、スーパーのエスカレーターでオタオタしたことも知れ渡った。
知れ渡ったということは、言い換えれば注目されていたということでもある。
お見合い衝突は、町内の放送局である町田夫人が広めたことだろうし、スーパーの一件は、学校の関係者がス-パーに居たらしいのだ。
「おい、こんなのが出回ってるぞ」
もう三十秒早ければ免れた遅刻。
さして悔しがりもせず遅刻指導の列に並んでいて、遅刻仲間の赤沢がスマホの画面を見せる。
アンは、初日こそ従兄妹同士の許婚(いいなづけ)だと宣言したが、あくる日からは俺自身が緊張の糸が切れ、そんな俺といっしょに登校しては遅刻の巻き添えと早く出るようになっていた。
で、そうそうスマホの画面。
ス-パーでオタオタしてエスカレーターに乗れないでいるアンのへっぴり腰が映っている。
いかにも体育苦手少女のヘタレ眉はいただけない。
「だれが撮ったのかは分かんねーけど、俺はこういうアンもいいと思うぜ」
赤沢はいいやつだ。正直、写真の撮り方の悪意を感じる俺だったが「こういうアンもいいぜ」とフォローしておくことで注意喚起してくれている。
おたつけば、こういう写真を撮るやつらはエスカレートしてくることを言ってるんだ。
食堂で、こんなことがあった。
朝起きられないことを理由に弁当を作ることを止めたアンは、玲奈たちとお昼をしていた。
「ごめん、委員会あるから先にいくね」
「あ、うん、じゃね」
玲奈はギリギリまで付き合ってくれていたようなんだけど、トロトロ食べるアンを待っていては委員会に間に合わなくなってきたのだ。
デザート代わりのフライドポテトに手を伸ばしたところで声が掛かった。
「あなたが三組のアンね?」
なんと校内一の美少女と誉れも高き三年の早乙女さんが横に座ったのだ。
「え、あ、はい」
ちょっと不思議だった。
アンの席に回るのだったら、中央の通路から入るのが普通なんだけど、早乙女さんは窓側の狭い通路から寄って来た。
「ス-パーの写真、わたしの知り合いが撮って、何人かに送ったの。あなたの了解も得ないで申し訳なくって、とりあえずはお詫びと思って……」
「いいえ、わたしってドジだから気にしてません」
「でも……」
「あの、ちょっと前にもご近所のオバサンと衝突してましたし(*ノωノ)」
「そう、それならいいんだけど。あ、わたし三年一組の早乙女采女(さおとめうねめ)っていうの。よければよろしくね」
「あ、道理できれいな人だと思ったら、早乙女さんですか!」
「あら、知っていたの?」
「はい、男の子たちが、ときどき噂してます!」
「やだなあ(まんざらでもないお顔に見える)」
美しく恥じらって頬を染める早乙女さん。俺でもドキッとする。そんな上級生をホワホワ見つめるアンもいいんだけど、口ぐらい閉めろ!
「早乙女さん、記念写真!」
取り巻きらしい女子が二人の前に立ちスマホをカメラ構えた。
「あ。写真は……」
「ぜひ、撮りましょう!」
フライドポテトを持ったまま、アンが明るく賛成する。
「え、あ……」
「じゃ、そのまま立ってください!」
その時、別の女子がトレーを持って窓側からやってきて、二人の後ろでズッコケた。
ワ!
転倒こそしなかったが、お手玉してしまい、トレーの上のアレコレが踊ってしまった。
「ごめんなさい!」
「フ、ファックション! フ、ファックション!」
アンがクシャミを連発! 重なって写メの連写音!
二発のクシャミの後、三発目を堪えようとして、アンは爆発した。
グフ!
鼻水が飛び散り、同時にクシャミではないP音がハッキリとした!
「早乙女さん、OK!」
写メ子がOKサインを出してトレー女ともども早乙女さんは逃げた!
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一の憧れ女生徒
赤沢 新一の遅刻仲間
早乙女采女 学校一の美少女