大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・11『三年一組 早乙女采女』

2018-08-23 14:17:57 | ノベル

アンドロイド アン・11
『三年一組 早乙女采女』

 

 

 ……どうも狙っているらしい。

 

 というのはアンのことだ。

 自治会の運動会や学校でのアレコレで、アンは「よくできた」という冠詞が付き始めたのだ。

 よくできた三丁目のお嬢さん。

 よくできた転校生。

 よくできた新一の妹。

 その「よくできた」を回避を狙っていろいろドジをやっているように思えるんだが、人にもアンにも言わない。

 

 家で感電したことも、町田夫人の自転車とお見合い衝突したことも、スーパーのエスカレーターでオタオタしたことも知れ渡った。

 知れ渡ったということは、言い換えれば注目されていたということでもある。

 お見合い衝突は、町内の放送局である町田夫人が広めたことだろうし、スーパーの一件は、学校の関係者がス-パーに居たらしいのだ。

 

「おい、こんなのが出回ってるぞ」

 

 もう三十秒早ければ免れた遅刻。

 さして悔しがりもせず遅刻指導の列に並んでいて、遅刻仲間の赤沢がスマホの画面を見せる。

 アンは、初日こそ従兄妹同士の許婚(いいなづけ)だと宣言したが、あくる日からは俺自身が緊張の糸が切れ、そんな俺といっしょに登校しては遅刻の巻き添えと早く出るようになっていた。

 で、そうそうスマホの画面。

 ス-パーでオタオタしてエスカレーターに乗れないでいるアンのへっぴり腰が映っている。

 いかにも体育苦手少女のヘタレ眉はいただけない。

「だれが撮ったのかは分かんねーけど、俺はこういうアンもいいと思うぜ」

 赤沢はいいやつだ。正直、写真の撮り方の悪意を感じる俺だったが「こういうアンもいいぜ」とフォローしておくことで注意喚起してくれている。

 おたつけば、こういう写真を撮るやつらはエスカレートしてくることを言ってるんだ。

 

 食堂で、こんなことがあった。

 

 朝起きられないことを理由に弁当を作ることを止めたアンは、玲奈たちとお昼をしていた。

「ごめん、委員会あるから先にいくね」

「あ、うん、じゃね」

 玲奈はギリギリまで付き合ってくれていたようなんだけど、トロトロ食べるアンを待っていては委員会に間に合わなくなってきたのだ。

 デザート代わりのフライドポテトに手を伸ばしたところで声が掛かった。

「あなたが三組のアンね?」

 なんと校内一の美少女と誉れも高き三年の早乙女さんが横に座ったのだ。

「え、あ、はい」

 ちょっと不思議だった。

 アンの席に回るのだったら、中央の通路から入るのが普通なんだけど、早乙女さんは窓側の狭い通路から寄って来た。

「ス-パーの写真、わたしの知り合いが撮って、何人かに送ったの。あなたの了解も得ないで申し訳なくって、とりあえずはお詫びと思って……」

「いいえ、わたしってドジだから気にしてません」

「でも……」

「あの、ちょっと前にもご近所のオバサンと衝突してましたし(*ノωノ)」

「そう、それならいいんだけど。あ、わたし三年一組の早乙女采女(さおとめうねめ)っていうの。よければよろしくね」

「あ、道理できれいな人だと思ったら、早乙女さんですか!」

「あら、知っていたの?」

「はい、男の子たちが、ときどき噂してます!」

「やだなあ(まんざらでもないお顔に見える)」

 美しく恥じらって頬を染める早乙女さん。俺でもドキッとする。そんな上級生をホワホワ見つめるアンもいいんだけど、口ぐらい閉めろ!

「早乙女さん、記念写真!」

 取り巻きらしい女子が二人の前に立ちスマホをカメラ構えた。

「あ。写真は……」

「ぜひ、撮りましょう!」

 フライドポテトを持ったまま、アンが明るく賛成する。

「え、あ……」

「じゃ、そのまま立ってください!」

 

 その時、別の女子がトレーを持って窓側からやってきて、二人の後ろでズッコケた。

 

 ワ!

 

 転倒こそしなかったが、お手玉してしまい、トレーの上のアレコレが踊ってしまった。

「ごめんなさい!」

「フ、ファックション! フ、ファックション!」

 アンがクシャミを連発! 重なって写メの連写音!

 二発のクシャミの後、三発目を堪えようとして、アンは爆発した。

 

 グフ!

 

 鼻水が飛び散り、同時にクシャミではないP音がハッキリとした!

「早乙女さん、OK!」

 写メ子がOKサインを出してトレー女ともども早乙女さんは逃げた!

 

☆主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 早乙女采女 学校一の美少女

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・〔マイナス10キロのスピード違反〕

2018-08-23 06:51:49 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
〔マイナス10キロのスピード違反〕



 速度制限60キロの道を40キロで走っていて、スピード違反の切符を切られた。

 原チャだから文句は言えないが、あんまりだ。
 切符を切られている傍を10キロオーバーぐらいで、車が、どんどん走っているというのに。
――くそ、ノルマ達成に原チャを餌食にするか!?――
 白バイのオマワリは淡々と違反切符を書いて、阿倍くんに渡した。
――これでノルマ達成。俺も来月で28、昇進しとかないとかっこがつかないからな。恨むな10キロオーバーのきみが悪いんだ――
 秋元巡査は、ポーカーフェイスで、そう思った。
――コノヤロー!――
 安倍くんは、19の大学生らしく頭に来たが、28にもなって巡査部長にもなれない秋元巡査長にも少し同情した。
「とにかく違反は違反。気を付けて運転してね。原チャリは30が制限速度なんだから」
 秋元巡査長は、心とは裏腹に、警察官の見本のように安倍くんに説諭した。秋元巡査長も安倍くんのヘルメットの五芒星の意味が分かっていたら、対応もちがったのだろうが。

 正義の味方のように走り去っていく白バイに、安倍くんは、手のひらのゴミを吹き飛ばすようにして、呪をかけた……。

 秋元巡査長はめでたく、その年の昇進試験に合格、晴れて巡査部長になった。
 巡査部長になって、初めての休暇で、秋元巡査部長は自分のバイクでツーリングに出かけた。高速に入る手前で、数か月前安倍くんを10キロオーバーで切符を切ったところを通過した。白い紙をタイヤで轢いたが気にも留めなかった。
 高速に入り、しばらく行くと、目の前にさっそうとした女性がバイクで走っているのを見かけた。
「よさげな子だなあ……」
 そんなことを思いながらしばらく後ろに付けて、追い越しざまに彼女の顔を見た。
 むろんフルフェイスのメットでは、顔の全てが見えるわけではないが、なかなかの女だと感心した。

 ひょっとしたら……という気持ちで次のサービスエリアで、待ち構えた。日ごろのネズミ取りの勘が働いたのかもしれない。
 自販機のコーラを半分飲んだところで、さっきの彼女がサービスエリアに入ってきた。

「ふふ……そう言えば、あれがきっかけだったのよね」

 優子は、ベッドの上で、汗ばんだ胸を上下させ、爽快そうに言った。
 サービスエリアで、声を掛けたのがきっかけだった。その日のうちにいっしょに箱根までツ-リング、意気投合してメアドの交換までやった。そして二か月後には、こうやってベッドを共にするようになった。
「おれたち、結婚しよう……」
「ん……ちょっとスピード違反だけど、いいか!」

 秋元巡査部長は夢見心地だった。昇進試験には通るし、彼女もできた。そしてダメ元で、三度目のベッドの後で、結婚の約束までできた!

「ちょっと、シャワー浴びてくるわね」
 優子も、感に堪えないような気持ちでバスルームに駆け込んだ。
 バスルームの半透明のガラスを通して、見事なプロポーションで、楽しげな鼻歌混じりに汗を流す優子が見える。秋元巡査部長は愛おしかった。

 ふと、サイドテーブルの上の優子のバッグが口を開けて、こちらを向いているのに気付いた。スマホやパスケースがはみ出ている。
 遠目にパスケースの免許証に気づいた。
「そういや、名前とメルアド以外、ほとんど優子のこと知らないんだ……」
 秋元巡査部長は、こっそりと、免許証を見た。

 愕然とした。せいぜい25・6歳と思っていた。昭和54年生まれ……39歳だ。10歳以上もさばを読まれてた!

 そう思ったとたん、鼻歌が聞こえなくなり、バスルームの影も消えた。
「おい、優子……」
 恐る恐るバスルームを覗くと、出しっぱなしのシャワーに人型の紙が濡れそぼっていた……。

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 11『舞の熱を冷ますように雨が降っきた』

2018-08-23 06:27:49 | 小説・2

 


高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 11『舞の熱を冷ますように雨が降っきた』




 さすがに文句は言わない。

 だって自分から付き合うことをOKしてしまったんだから。


 相手がだれであろうと、舞は付き合うつもりなんかなかった。
 だから、一足早く南館の屋上に向かった俺は離れたベンチに席を占め、梶山がモーションを掛けてきた時に電話した。
 電話を受けた舞は「すみません、先生から……」ということで梶山の告白を中断させる段取りになっていた。
 それをダメ押しの「芽刈くん!」で、あっさり陥落してしまった。

「仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん!……」

 呪文のように「仕方ないじゃん!」を繰り返し、足早に階段を下り廊下を行く舞。

 

 その斜め後ろに付き添った。   「ネコだらけ」の画像検索結果

 

 ほっときゃいいんだけど、家以外の舞は何枚何十枚も猫を被っている。
 その猫がヘロヘロと剥がれて行くのが俺には分かる。
 もし、この猫が目に見えたとしたら、学校は瀬戸内海かどこかにあった猫島のようになってしまっただろう。
 たった一枚でも猫を被っているうちはいいが、全てのネコが剥がれ落ちたら……。

 考えただけでも身の毛がよだつぜ。

 舞にとっても学校にとってもハルマゲドンにならないために、俺は付き添っている。
 渡り廊下を過ぎたところで舞を左に誘導する。
 廊下の左詰めは美術室だ。美術部員たちが短い昼休みを利用してデッサンやら油絵やらの手直しをやっている。

「「「「芽刈さん!」」」」

 美術部員たちが畏敬のまなざしで挨拶する。
 中までは入らないが、美術部員たちは一人の女生徒を囲んでデッサンの練習をやっているのが分かる。
 舞はスケッチブックを手に取ると鏡の前に陣取り、一心不乱に自画像を描き始めた。
 早回しのオートマタのように鉛筆を走らせる舞は自殺直前のゴッホのようだ。   「自殺直前のゴッ...」の画像検索結果

 

 目は鏡とスケッチブックを毎秒十回くらい往復し、瞬くうちに『狂気の青春』とでも付けたらピッタリの自画像を描き上げていく。
「「「「ほーーー!」」」」
 自分たちの作業を中断し、舞の作品に見惚れる部員たち。
「だめだ!」
 スケッチブックを閉じると舞は再び廊下へ。

 階段を下りると漫研の部室だ。

 漫研は自主製作のPCゲームを作っている。
 舞は入部して「ペンタブで絵を描くなら、いっそゲームを作りませんか」という提案を持ち前の押し出しと器用さで押し通し、七割がた完成させている。

 

「わたしがやります」

 

 パソコン相手に文字入力を手間取っている部員の肩を叩いた。
 セットされたテキストを一瞥すると驀進するオーム(風に谷のナウシカに出てくる巨大なダンゴムシみたいなの)の脚のように指を動かし瞬くうちに打ち終えた。
「すごい……一時間換算で8キロバイトの速度だ」
 前任者の眼鏡っ子が目をまん丸くする。
「次のテキストは?」
「すまん、まだ書けてない」
「ですか……」
 目尻と指先がヒクついている、まだ嵐が収まらないようだ。

 当てがあったわけではないだろうけど、舞の進んだ先はグラウンドだ。

「芽刈、来週あたりから記録に挑戦してみないか」

 

 石灰マーカーでコースの補修をしていた横山先生(陸上部顧問)が声を掛けた。
「走ってみます」
「じゃ、放課後の部活ででも」
 横山先生はマーカーを転がしていく。
「いま走ります」
 そう言うと、靴を脱いで素足になった。
「その格好で?」
 素足になったとはいえ、舞は制服のままだ。
「走ります」 
 スターティングブロックに足を掛けたので、勢いに押された先生はホイッスルを咥えた。

「セット……オンユアマーク……ピーー!」

 スタートダッシュから違った、横山先生の目が点になった。
 ゴールするまで、俺は息をするのを忘れてしまった。
「ゴール!」
 先生は叫んだが、ストップウォッチを何度も見直した。
「12.3秒……すごいよ!」
 数字は分からないが、素人目にも、今の走りはすごかった。
「もう一度やります」
 次は12.8秒。
 さらに二本走ったが13秒台に落ちた……というか落ち着いた。
「これ以上は足を痛める、部活の時にきちんとやり直そう」
「……はい」

 水道で足を洗うと、舞はスマホを取り出した。

――今日はありがと 今夜話がしたい 舞――

 グラウンドの校舎側の隅でメールを受け取り――分かった――とだけ返事を打った。

 見上げると、舞の熱を冷ますように雨が降っきた。
 

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