アンドロイド アン・7
『今日から学校・2』
えーーお兄ちゃん!?
正門付近のオーディエンスが声をあげる。
そりゃそうだ、制服モデルかアイドルの制服姿かという美少女が、一山いくらのワゴンセールのモブキャラに、ちょっと甘えと媚を漂わせて助けを求めてきたんだ。そのギャップに敵意の籠った悲鳴を上げるのは当然だ。
「ちょ、な、なんで居るんだ!?」
声を押えた分、尖がった詰問調になってしまう。
「七分遅れで出ろって言ったろが!」
「七分遅らせたわよ、でも、初日の緊張感で……」
「タクシーでも拾ったのか?」
「ううん、つい走っちゃって」
ウウ……どんだけの速さで走ったっていうんだ!?
俺はインクレディブルファミリーの親父のボブの心境だ。
「大丈夫だよ、マラソンの世界新の記録は破ってないから」
ニコニコ笑顔のアンに、咄嗟には言葉が出ない。
「はい、お弁当!」
目の前に久しく見なかった弁当の包みが突き出される。
「べ、弁当!?」
たった七分のタイムラグで弁当まで作ったってか? というより周囲を見ろよ、このエロゲ妹シュチを咎める視線でいっぱいだろーが!
「同居の従兄妹同士なら、やっぱ、こういう気配りは良いもんじゃないかと思い至ったわけよ」
従兄妹というキーワードにオーディエンスからの視線に殺意が籠る。
そりゃそうだろ、妹ならば一線は超えられないが、従兄妹ならば結婚だってできるんだ。
従兄をお兄ちゃん呼ばわりするメチャ可愛い従妹スマイルのままアンは背伸びして俺の耳元に口を寄せてきた。
「どうせ、いつかはバレるんだから、ハナから認知してもらったほうがいいのよ!」
ヒソヒソ声ではあるけど、きっぱりと言いやがった。
「食べたら洗っとくのよ、じゃ」
そう言って、アイドルじみたハツラツさで昇降口に駆けていくアン。
その後ろ姿を見送るオーディエンス。その隙に裏の通用門まで移動して校内に入る俺だった。