大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・7『今日から学校・2』

2018-08-12 10:24:45 | ノベル

アンドロイド アン・7
『今日から学校・2』

 

 

 えーーお兄ちゃん!?

 

 正門付近のオーディエンスが声をあげる。

 そりゃそうだ、制服モデルかアイドルの制服姿かという美少女が、一山いくらのワゴンセールのモブキャラに、ちょっと甘えと媚を漂わせて助けを求めてきたんだ。そのギャップに敵意の籠った悲鳴を上げるのは当然だ。

ちょ、な、なんで居るんだ!?」

 声を押えた分、尖がった詰問調になってしまう。

七分遅れで出ろって言ったろが!」

「七分遅らせたわよ、でも、初日の緊張感で……」

タクシーでも拾ったのか?」

「ううん、つい走っちゃって」

 

 ウウ……どんだけの速さで走ったっていうんだ!?

 俺はインクレディブルファミリーの親父のボブの心境だ。

「大丈夫だよ、マラソンの世界新の記録は破ってないから」

 ニコニコ笑顔のアンに、咄嗟には言葉が出ない。

「はい、お弁当!」

 目の前に久しく見なかった弁当の包みが突き出される。

「べ、弁当!?」

 たった七分のタイムラグで弁当まで作ったってか? というより周囲を見ろよ、このエロゲ妹シュチを咎める視線でいっぱいだろーが!

「同居の従兄妹同士なら、やっぱ、こういう気配りは良いもんじゃないかと思い至ったわけよ」

 従兄妹というキーワードにオーディエンスからの視線に殺意が籠る。

 そりゃそうだろ、妹ならば一線は超えられないが、従兄妹ならば結婚だってできるんだ。

 従兄をお兄ちゃん呼ばわりするメチャ可愛い従妹スマイルのままアンは背伸びして俺の耳元に口を寄せてきた。

どうせ、いつかはバレるんだから、ハナから認知してもらったほうがいいのよ!」

 ヒソヒソ声ではあるけど、きっぱりと言いやがった。

「食べたら洗っとくのよ、じゃ」

 そう言って、アイドルじみたハツラツさで昇降口に駆けていくアン。

 その後ろ姿を見送るオーディエンス。その隙に裏の通用門まで移動して校内に入る俺だった。

 

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高校ライトノベル・秋物語り・24『なにかが違う・1』

2018-08-12 05:57:12 | 小説4

秋物語り・24
『なにかが違う・1』
       

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 なにかが違う……と、思った。


 久しぶりにバイトを休んで真っ直ぐ家に帰った。もともとシフトからは外れていたんで、表面的には、いつもの通りだ。
 でも、今日シフトに入っていても休んだかも知れない。

 なにかが違う……。

 うちに帰ると、弟がだいぶ前に録画していたテレビ番組を見ていた。手塚治虫の一代記で、前世紀のアイドルで、今はベテランの域に達したタレントがやっていた。これはハッキリ言える。この人は、わたしの趣味じゃない。

「締まりのない顔して観てんじゃないわよ」
「イテ、なにすんだよ……」

 わたしは、側にあった少年ジャンプで、コツンとしてやった。
 弟は、オシメンであるAKRの小野寺潤が、準主役で出ているので、それだけでご機嫌である。ファンであることは勝手だし、好きになるのも自由。でも、だらしのないのは許せない。仮にも同じ血が流れている弟が、こんなアホ顔をするのは、耐えられない。
「ほれ、また口が開いてる」
 今度は、アゴを下からポコンとしてやった。はずみでヨダレがついた。
「あ、ヨダレがついちゃたじゃんか!」
「自分のヨダレでしょ」
「だって、ジャンプ買ったばかりで読んでないんだ……」
「なによ、文句があるんなら、最後まで言う。オトコでしょうが!」
「スゴムなよ。ただでもおっかないのに……メンスか、姉ちゃん?」
「なんだと!」

 鼻の穴に指を突っこんで顔を引き寄せた。

「イテテ……」
「そ-いうことは言っちゃいけません! セクハラだぞ……!」
「わ、分かった、分かった……」

 その時、バカなことを思い出した。教室でHを立たせるときは耳を掴んだが、弟は鼻の穴だ。指にはハナクソが付いたが、それほどの嫌悪感は湧かない。ガキンチョのころ、よく弟とハナクソの付けあいをやって遊んだことを思い出した。

 ティッシュでハナクソを拭いていると、テレビの手塚治虫が、こう言った。
「僕に出来るんだから、あなたにもできますよ」
 これが、このドラマのテーマかと思うと同時に、それは違うと思った。

 で、思い出した。今日学校で麗が言った言葉。

「ねえ、亜紀もさ、本屋のバイトなんか辞めて、うちの店においでよ。経験者優遇。本屋の三倍は時給出るよ」
「ごめん……なにかが違うんだよね。わたし、本屋さんが性にあってんの」
 麗が、一年の時の水泳部事件以来、タイプは違うのに友だちでいてくれるのは、とても嬉しかった。麗も美花も、そう言う意味で誘ってくれているのは、よく分かる。でも、麗が「本屋のバイトなんか」と言った時には、今まで感じたことのない違和感があった。極力表情には出さなかったけど、こういうことに鋭い美花には、わたしより大きな違和感として感じられたかもしれない。

 そのころは、他の人が変化ばかり目について、自分は変わってきているとは感じなかった。

 お父さんが帰ってきて、手塚治虫のドラマだというので、珍しく缶ビール片手に、風呂上がりに録画を観ていた。

「違う、手塚治虫は、こんなんじゃない」
「僕に出来るんだから、あなたにもできますよ。なんて歯の浮くようなことは言わなかったでしょ?」
「いや、手塚治虫の口癖だよ。それはいいけど、なにかが違う……うまく言えんけどな」

 お父さんの言うことなんか、大概にしか聞いていないけど、今の言葉は頷かざるを得なかった。なんたって、本物の手塚治虫と同じ時代を生きたマンガ少年だったから……。

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