大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・臨時増刊・SF&青春ラノベ『レイカの花・6』

2018-08-05 06:27:42 | ライトノベルベスト

臨時増刊・SF&青春ラノベ
『レイカの花・6』
       

 お調子者のハナは中学からの友だち優香とともに神楽坂高校の演劇部に入った。部長が「村長」以下、サン、カンゴ、ミサイル、モグ、ユウと変なニックネームと個性の仲間の中でも「ハナ」と呼ばれた。今年の作品は『すみれの花さくころ』に決まる。そんな中、ハナは右の膝が、重度の骨肉腫であると分かる。村長は、なぜか夜中に、尖閣諸島でドンパチ。そんな中ハナの手術。サゲサゲのハナを村長は、なんとか励ました。そして、いよいよ手術。ハナの運命やいかに! そしてさらに、運命は意外な結末を用意していた。


 手術は、ピーカンの雲一つ無い朝から行われた! 

「どうだ、あたしのオマジナイはよく効くだろう!?」
「はい。こんな大事な日に晴れたの初めてです。先輩のてるてる坊主、手術室に吊してもらうんです!」

 手術は、特に防衛医科大から、村長担当の医師が来て行われ、延べ6時間かけて行われた。
 ハルが目覚めると、目の前にお母さん、そして村長の顔があった。そして村長の体からは、酸素マスクを通しても分かる鉄の焼ける臭いがした。
「先輩……」
「ああ、手術が長いもんで、家でオヤジの仕事手伝ってきた」
「鉄工所なんですよね?」
 とんだ鉄工所だ……そう思いながら、村長はにっこり頷いた。

「ええ、なんで元気な左足からやるんですか!?」

 ハナは、リハビリの初日からうるさかった。で、三日目に移植した右足の義足を見てびっくりした。皮膚の接合部分はまだ縫い目がはっきりしていたが、足そのものは自然のそれにそっくりだった。ただ自分の意思通りに動かないことを別にして。

「右の親指を動かしてくれる」
 理学療法士は優しく言った。それにハルは真剣に応えた。
「はい!」
「ウッ……!?」
 理学療法士は、股間を押さえて悶絶した。

 夏休みに入ったころには、不自由ながらなんとか歩けるようになり、なんと皮膚感覚が戻ってきて、爪も伸び始めた。
「お母さん、爪が伸びてきた、切ってくれる!?」
「う、うん」
 母は、娘の爪を切った。娘は爪を切ってもらった。母子は、十数年ぶりに皮膚感覚で、親子を感じあった。

 文化祭のころには、ハナの足は、ほとんど元に戻っていた。でも走ったり、微妙な姿勢をとったりしてバランスを崩すことがあったので、音響をやりながら裏方として参加した。三年生の村長、カンゴ、サンの演技は秀逸だった。台本通りやれば45分かかる芝居を20分に縮めた。文化祭はお祭なので、長い出し物はもたないと判断したのだ。そのかわりフィナーレはダンス部とコラボして、ショーアップしていた。さすがは三年生だと感心した。

「感心してて、ドーすんだよ!?」

 反省会で、素直に誉めたら叱られた。ミサイルやモグは縮あがった。
「コンクールで演るのは、あんた達なんだからね。その気でかかってこいよ」
「あの……すみれが、かおるにビックリして振り返るとこ、いったん左で振り返って右で振り返るのは、なんかオーバーなような気が……」
 ユウがオズオズと言った。
「リアルと、劇的はちがうんだよ。左から、正面向いて貯めてから右を向く。そこに観客は劇的な感動を感じるんだ!」
 村長の答は厳しい、自分たちの持っているモノを、確実に後輩に伝えようという迫力を感じた。

「え、うそでしょ!?」

 コンクールを一カ月前に控えた定期検診で、肉腫の転移が発見された。それは腰骨のガンになって、成長し始めていた。
「しばらく、入院だね」
 ドクターは冷静に、そう言い、ナースは即入院の準備に係った。

「ちょっと待ってください」

 村長が入ってきて、ドクターとナースを静止した。
「なんだ、君は?」
「ちょっと、記憶を消させてもらいます」
 村長は、ドクターとナースの頭に手をかざした。二人は一瞬でフリーズした。
「今のうちに、開いてる処置室に行こう!」
 村長は、ハナを抱きかかえるようにして、空きの処置室に向かった。

「ええ、やですう!」

 嫌がるハルの下半身を、村長はむき出しにした。
「オラ、ケツ、こっちに向けて。正確な患部が分かんねえだろ!」
 左の腰骨に一円玉ぐらいに成長した、ガン細胞が見えた。

「動くんじゃないよ。10分でガン細胞死滅させてやるんだから……」
 村長は、目をMRIモードにし、指先から放射線を高い出力であててガン細胞を一気に死滅させようと言うのだ。
 ただ見かけは、村長がシゲシゲとハルのお尻を見つめ、左上とは言え、お尻に指を突き立てている姿は異様ではあった。
「ようし、これでガン細胞は死んだ。次は……いつまでスッポンポンでいるんだ、早くパンツ穿け!」
「は、はい」
 次ぎに村長は、自分の腕に太い注射器を刺すと、自分の血を抜き始めた。
「何をしてるんですか、村長さん?」
「ハナAB型だろ。あたしO型だから輸血が出来る」
「あ、あたし、血の気は十分多いですけど」
「あたしの血にはナノリペアってのが入っていて、少々の傷やらガン細胞なら治したり殺したりしてくれる。ナノリペアだけ移すことはできないから、血液ごとだ」
「村長……顔真っ青ですよ」
「あたしの血は、表面組織しかご用じゃないから、人間の1/10ほどしかないんだ。なあに、機能には影響ないさ」

 コンクールを明後日に控えた日、村長は大きなマスクをして稽古場に現れた。一度村長の顔色は元にもどったけど、近頃また顔色が悪い。機能そのものに影響がないので、気が付く人間は少なかったが、さすがにハナには分かった。

「村長、どうかしたんですか?」
 稽古が終わって、ハナはそっと聞いてみた。
「……ハナにだけは、言っておこうか」
「言ってください……」
「ナノリペアが少なくなりすぎて、皮膚が壊死し始めてる」
 マスクをとった村長の頬は赤黒くなっていた。
「村長……」
「顔は、まだましだ。体はもっとひどい。それに、無理に放射線つかったもんで、ジェネレーターが具合悪いんだ。手に触ってごらん」
「熱い……!」
「41度ある。来年の春には義体の交換予定だったけど、もう明後日には交換しなくちゃならない」
「じゃ……」
「悪い、本番全部見られないかも……」
「先輩!」
 思わず抱きしめた村長は、全身使い捨てカイロのようだった……。

 本番のクライマックスになった。

 幽霊役のかおるは、自分が消えるときを知り、川の中に入っていく。
「かおるちゃん!」
 ユウが演ずるすみれが、それを感じ、渾身の叫びでかおるの名を呼ぶ。ラスト『お別れだけど さよならじゃない』が入ってくる。
「あなたと、出会えた、つかの間だけれど……♪」
 そのとき、村長が会場を後にするのを感じた。村長との永遠の別れを。涙が溢れて止まらなかった。

『優勝おめでとう。ラストは途中までしか見られなかったけど、とても素敵でした。成長したね、ハナ。あたしが鍛えただけのことはあります。ちょっと早いサヨナラになったけど、ハナのせいじゃありません。あたしが考えて、あたしがやったことだから。ハナは……ハナは自分の道を進んでください。それから、時々は本名の麗花も使ってみて。もうじき三年生に、大人になるんだから。今度のあたしは、もう少し小柄になるそうです。裏稼業の記憶は残るけど、この学校で過ごした記憶は消えてしまいます。じゃ、ほんとうにさようなら。なお、このメールは自動的に消去されます』

 それから。五か月後、ハル、いや麗花は三年生になった始業式の帰り、昼から入学式に行くフェリペ女学院の新入生の一団とすれ違った。ひょっとしたら……と感じ、思わず振り返ってしまう麗花であった。

  レイカの花  完

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・秋物語り2018・17『このシアワセ者めが~!』

2018-08-05 06:03:27 | 小説4

秋物語り2018・17
『このシアワセ者めが~!』
     

主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


「このシアワセ者が~!」

 思わず大きな声が出た。

 175センチの体を小さくして、秋元君は「まあまあ……」と、手で制した。

 女の子のことで話があるというので、閉店後スタバで話を聞いてるとこ。
 要約すると、すごく簡単。その気のない女の子に言い寄られ、断るのに苦労してるってこと。
 ただそれだけ。
「テキトーに付き合っとけば」
 わたしは、もう立ちかけていた。
「そんなことでけへんよ」
「どんな子か知らないけど、秋元君が本気になってくれないからって、リスカするような子は、まずいないわよ。多分むこうだって、何人かいるうちの一人にしようってぐらいよ」

 このへんの男女の機微は、大阪で、だいぶスレてきた。シホとか店のバイトの子とか見てきたから。
 で、たまたま明くる日が、二人ともシフトから外れているので、放課後T大学まで行くことになった。
 駅のトイレで私服に着替え、地下鉄でT大前を目指す。

 ターゲットの子は、東京は多摩の子で、学部は文学部。シャメで人相姿は確認済み。秋元君のお友だちに居場所を確認。とりあえず、その居所であるキャフェテリアを目指す。

「よっこいしょ」

 お婆さんのような声を出して、ターゲットの横に名物のT大ドーナツとコーヒーを持って腰掛ける。
 で、ドーナツを囓りながら、スマホを出していじる。
 買ったばかりで、扱いがよく分からないようにして……って、実際、買いかえたばかりで慣れていない。
「あら、アイホン5じゃないの!?」
「あ、ええ、買ったばかりでよく分かんなくて……」

 ターゲットが親切で、スマホに詳しいことは了解済み。

「……なーんだ、そうか。パケットとか良く分からなかったものだから。これ、シャメもスグレモノなんですよね」
 と、サリゲにシャメのスライドショー。
「あ、秋元君じゃん」
「知ってんですか」
「うん、クラブがいっしょなの」
「カレですか、もしかして?」

 すかさず直球勝負に出る。

「う~ん、申込み中」

 その顔で分かった。秋元君はワンノブゼムの扱いだ。

「いい人でしょ?」
「うん、まっすぐでね、強いくせして、自分でそれに気づかない。それに大阪の人だし」
「大阪好きなんですか」
「好きよ、あたしたちオチケンだし」
「オチケン?」
「あ、落語研究部……そっか、マイナーだもんね。同学のあなたが知らなくっても当然よね」
「わたし、ここの学生じゃないんです」

 それから、わたしが高校生だって分かると、彼女はびっくりし、オチケンのことをオチコボレ研究会と聞いたら、コロコロと笑われた。

「マイナーなのは分かってたけど、オチコボレ研究会って言われたのは初めてよ」
「どうも、まだ高校生なもんで……」
「でも、あなたって不思議ね。話してる感覚は、完全な大人なのにね。そうか、高校生……」
「はい、本業」
「なにか、並の高校生じゃないわね……」
 とても興味深そうに、わたしを見た。
「ああ、秋元君といっしょにバイトしてるから」
「でも、秋元君は、まだお子ちゃまの匂いがする。あなたのは別の要素だな……ね、友だちになってくれる。秋元君付きで」
「はい、喜んで!」
「あ、わたし鈴木雫。文学部の一年生」
「わたし、水沢亜紀です。学校は……S文化大学」
「え……」
「指定校推薦で決まってます。ここと比べると、かなり見劣りしますけど」
「そんなことないわよ。アニメから文学まで、文化に特化したいい大学よ。日本文学の三好教授なんて憧れよ。去年ウチの大学退官して、そっちに行った先生」
「へえ、そうなんだ!」

 そのとき、わたしが高校の名前を言わなかったことは、ごく自然だった……なんせ、アリバイ高校生なんだから。でも、偏差値40代に引け目もあったことも確か。

 そして、その高校生であることが、このあと祟ってくることになるとは予想もしなかった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする