大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・3『なんだか変』

2018-08-29 15:37:53 | ボクの妹

高校ライトノベル

妹が憎たらしいのには訳がある・3

『なんだか変』   


 なんか変だった。

 例えて言うなら、ライブの舞台セットの裏側と表側。
 セットの表側は、きれいに飾られ、電飾やらレーザーやらの照明が当てられて、とても華やか。でも裏側にまわると、それはただの張りぼて。ベニヤ板が剥き出しだったり、配線が生ゆでのパスタのようにのたくって薄暗く、まるで建設現場のように素っ気なく乱雑である。
 幸子は、Yホテルで会ったとき、引っ越しでご近所周りをしている時は、明るく可愛い女の子だった。家の中を整理しているときは、お父さん、お母さん、そしてボクたちも忙しく立ち回り、いわばセットの立て込み中のスタッフのように、テキパキと、いわば事務的に動いていた。だから、素っ気なくて当たり前だった。
 
 でも、落ち着いてからの幸子は、おかしかった。

 兄妹とはいえ、平気で上半身裸の姿を晒し「こういう場合、どうリアクションしたらいいと思う?」は無いと思う。それも歪んだ薄笑いで……。

 親父とお袋には、普通の態度だった。

「ウワー、奮発したのね。これ宅配寿司でも高級なやつじゃん!」
「佐伯家の再出発だからな。まあ、これくらいは」
「う~ん、この中トロたまら~ん!」
「よかったら、お母さんのもあげるわ。脂肪が多いから」
「ごっちゃん、遠慮な~く!」
「ハハ、幸子は東京で舌が肥えちまったなあ」
「下も上も肥えてませーん。ナイスバディーの十五歳で~す!」
「そうよ、幸子、ブラのサイズ、この冬からCカップになっちゃったもんね」
「もー、そういう秘密は、家族でも言っちゃいけません!」
「ハハ、友だちにも自慢してたくせに」
「女の子の友だちだもん。でも、お父さんならチラ見ぐらいさせてあげるわよ🎵」
「おい、親をからかうもんじゃないよ」
「ハハ、お父さん赤くなった!」
「アハハハ……」
 
 ボクは、この食事の間、ほとんど会話には入っていけなかった。

「幸子、ムラサキとってくれよ」
「…………」
 幸子は笑顔をさっと引っ込め、例の歪んだ笑顔でボクを見た。

「ムラサキって醤油のこと」
「分かってる……はい」

 幸子は、まるで犬にものをやるように……いや、ゴミ箱に投げ入れるような無機質さで、ムラサキの魚型チュ-ブを放ってきた。それも、ボクの手許三センチのところにピタリと。そして、ボクと始めかけた会話など無かったように、続きを始めた。

「で、敦子ったら、敦子って、東京の友だちなんだけどね……」
「そりゃ、びっくり……」
「ハハ、年頃の女の子って……」
「ハハ、オレも苦労しそう……」
「だーかーらあ……」
「アハハハ……」

 その夜、トイレに行こうとしたら、お風呂に入ろうとしていた幸子と廊下で出くわした。

「お風呂……覗くんじゃないわよ」
 今度は、歪んだ笑顔なんかじゃなくて、無機質な真顔だった。スニーカーエイジで機材を間違えて置いたときにとがめ立てしたスタッフのようにニクソかった。
「覗くわけないだろ。昼間のは事故みたいなもんだったけど」
「でも……可能性の問題としてね」
 そう言って、ボクの前を通っていく幸子の手には、着替えやらバスタオルが抱えられていたが、チラッと金属のボンベのようなものが見えた。偶然か、それを察したのか、幸子は縞柄のパンツでそれを隠した。
 トイレと風呂場は隣同士で、脱衣場とトイレ前の洗面とはカーテン一枚で仕切られているだけで、幸子が潔く服を脱いでいく衣擦れの音がモロにした。昼間見た形の良い胸が頭に浮かんだ。

――オレってば何考えてんだ――

 その夜、新しい寝床で寝付けずにいると、隣の幸子の部屋で気配がした。コップを壁にあてて聞いてみる。

「……やっぱ、無理か?」
 父の声だ。
「うん、幸子が拒否……」
 母の声だ。ん、間が空いた……。
「ま、引っ越しとかで疲れがでたんでしょ。とにかくゆっくり眠りなさい」
「はい、ごめん。お母さん、お父さん」
 なんだか、急にボリュ-ムが上がったような気がした。

――なに、盗み聞きしてんのよ――

 幸子のニクソイこえが聞こえたような気がして、ボクは、慌ててベッドに潜り込んだ……。

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 17『グッときてしまったからなんだ』

2018-08-29 06:56:16 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 17『グッときてしまったからなんだ』




 真空カマイタチキックをかまされたせいじゃない。

 グッときてしまったからなんだ。

 そりゃあ、真空カマイタチキックは恐ろしい。
 舞が本気で真空カマイタチキックをかましてきたら、ガチで首の一つや二つは飛んでしまう。
 それが耳たぶの端っこが切れただけで済んだのは、舞が手加減していたからだ。
 ブチギレながらもわきまえてやがる。
 
 俺がグッときてしまったのは、夕べの風呂だ。

 右足の靭帯を痛めていたので入浴の介助をやってやった。
 慣れないことというよりも、恥ずかしさからジタバタしやがるので、バランスを崩して兄妹揃って湯船に落ちてしまった。
 その時に見てしまったんだ。

 舞の右足の付け根に赤斑が出ているのを。

 この赤斑は、舞の心がいっぱいいっぱいになったときに現れる。
 ほんのガキだったころに庭の木に上ったことがある。
 舞は、まだ「オニイチャン」とあどけなく慕ってくれていて、なんでも俺のやることを真似していた。
 だから、俺が木に登れば舞も真似して登って来る。

 

 舞の真似は少し変わっている。

 

 普通は、兄貴が上ったあとを付いてくるものなんだけど、あいつは、俺が登っているのよりも大きな木を一人で登り始めた。
「それ以上登ると危ないぞ!」
「まだまだいけるもん!」
 意地を張った舞は、俺のことを見下ろせるところまで登っていきやがった。

 で、下りることが出来なくなってしまった。

 

「お、下ろられるもん!」
 強気で返事はするが、震えているのが俺からでも分かった。
「待ってろ! いま助けてやるから!」
 俺は急いで降りると、舞の木に取りついた。

 その時に見えてしまった、舞の右足の付け根に赤斑が出ているのを。

 いっしょに風呂にも入っていたし、犬ころのように転げまわっていたので、日ごろは出ないということは分かっていた。
 無事に下ろした時には、屋敷中騒ぎになって、そのままになってしまった。
 お婆ちゃんに聞いて分かった。
「あれは、舞がいっぱいいっぱいになると出てくるんだよ」
 赤ん坊のころに喉を詰まらせたときや、屋敷の中で迷ってビビりまくっていたときに(ふだん生活しているところは、屋敷のほんの一部だったので、マジで迷ってしまう)発見された時、風邪をこじらせて高熱を出したときなんかに出ていたらしい。

 だから、俺は引き受けてやった。

「おう、こっちこっち!」

 

 俺は校門を出て直ぐのところで待っていた。

 

 ちょうど下校のピークで、俺の姿はよく目立った。
 目立つはずだ、俺は隣町の有名私学の制服を着でウィッグを被り眼鏡をかけている。
 ほら、こないだモデルの面接を受けに行ったときの姿。舞が短時間で移動できるように俺がアッシーになってやっている。
 いつもは離れたところで待っているんだけど、今回は露出している。
「あ、お待たせーーーーー!」
 いそいそと、手を振りながら舞が駆けてくる。
 ラブコメだったら、完全にフラグが立つところだ。
 恋愛フラグで、みんなにバレバレフラグがさ。で、それを目にした友だちとかヒロインに心を寄せる男どもをヤキモキさせる虫除けフラグがさ。

 そう、俺は梶山に舞のことを諦めさせるために、一芝居を打っている最中なんだ。

 嫌々なんだけどな!
 

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