高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ
12『メガ盛り早食い女子選手権!!』
観ているだけで気持ちがわるい。
総重量五キロのカレーライスとチャーハンとカツ丼。
カメラが切り替わると保健室にある特大洗面器みたいな鉢にてんこ盛りのチャーシュー麺、天ぷらそば、カレーうどん。
他にもパスタやハンバーグ、たこ焼にお好み焼きにフルーツパフェ等々。
テーブルに載っている食い物がことごとくメガ盛りだ。
それを五人一組、それが十組五十人の女の子で早食い競争をやろうという、とんでもない番組だ。
『メガ盛り早食い女子選手権!!』
五十人の女の子は、いずれも可愛く、とても大食いをするようには見えない。
それがMCが打ち鳴らしたゴングを合図に食いだしたのが十分前。途中を編集しているので、実際には三十分が経過している。
大汗をかき目を白黒させながらもパッカー車みたいに掻っ込んでいる女子大生。
スカートのホックどころかファスナーまでくつろげている女子高生。
二分おきにジャンプして、少しでも胃の中身を落とし込んでいるOL。
OLが巻き返してきたので、女子高生が真似してジャンプ。するとくつろげていたスカートが落ちてしまうが、反射的に股を開いて落下を防ぎ、左手で庇いながら右手で食べ続ける。
中には真っ青になって足を投げ出し、あえいでいる子もいる。これはドロップアウトかと思いきや、がぜん復活して食べ始める。
「いやぁ……すごいっすね……」
ゲストの関取が――すごいものを見てしまった――てな感じでため息をついている。関取が観ていても、女子のメガ盛り早食いは凄まじいようだ。
なんで気持ち悪くなりながら観ているかというと時間待ちなんだ。
梶山の「友だちになろう」という申し出に「うん」と返事をしてしまって、舞は機嫌が悪い。
傾いた機嫌を戻すため、美術部で自画像の傑作をものし、漫研では滞っていたテキストの打ち込みをやっつけ、グラウンドでは制服のまま100メートルを12.3秒の記録を出した。いらついた気持ちをなだめる為だけに。
で、なだめきれずに――今日はありがと 今夜話がしたい 舞――なんてメールを寄越してきやがった。
言っちゃあなんだが、妹から真剣な相談なんかされたことがない。
だから、妙に緊張してしまって「お風呂あがったら話聞いて」の言葉に「お、おう」と返事して、時間待ちにテレビを点けたら『メガ盛り早食い女子選手権!!』をやっていたというわけだ。
……にしても長い風呂だな。
俺たちが住んでいる別宅は無駄に広い。延べ床面積が二百平米以上と、並の住宅の四軒分ほどもある。
離れたところに居ると、丸で気配を感じない。
四十人のメガ食い女子が脱落したところでリビングに向かった。しびれが切れたというやつだ。
舞はロングの髪をターバンみたいなタオルで包んで、ソファーの上で腹這いになっていた。
「上がったんなら、上がったって言えよ」
「うっさい……」
「うっさい?」
俺はソファーを迂回するようにして舞の顔が見えるところまで移動した。
舞は腹ばいでスマホを睨んでいる。
「俺を待たして、なにやってんだ」
「梶山からメール」
風呂上りだけでは説明できないほど顔を赤くして返事を打っている。打ったと思ったら削除して打ち直し……その繰り返しをやっている。
「あーーーもーなんて返事したらいいのか分かんないよーーーーー!」
もんどりうって舞はソファーから落ちてしまう。
パジャマの上がめくれ、タオルのターバンがほぐれる。
フワーっと風呂上がりの匂いがして、俺は、そのまま自分の部屋に引き上げた。