アンドロイド アン・4
『ご町内の放送局』
「新ちゃんといっしょに住むことになりました、従妹のアンです。よろしくお願いします」
アンは、回覧板を持ってきた隣の町田夫人に、くったくのない笑顔で応えた。
「あら、従妹さんだったの。ゴミ出しでお見かけして、すてきなお嬢さんだと思ってたの、ほんとよ」
「照れます、言われつけてないですから」
「ホホ、ほんとうよ。ご近所の奥さんたちも言ってるわ。ここらへん若い人が少ないから、大歓迎」
「わたしも分からないことだらけなんで、助けていただくと思います」
「あの……まだ学生さん?」
「はい、高校生です。今度の学校は、まだ編入手続き中なんですけど」
「じゃ、ここに腰を落ち着けるのね」
「ええ、父が海外赴任してしまって、母は四年前に亡くなりましたので、同じ境遇の新ちゃんと……」
「そうなの……いえね、あたしたちも心配してたの。高校生の一人暮らしでしょ、なにかと大変じゃないかって」
「そうなんです……新ちゃんて、手がかかるんです、大掃除に三日もかかりましたから。それにお風呂ギライで……」
「ホホ、なにか困ったことがあったら遠慮せずに、オバサンたちに相談してね」
「そんなこと言われたら、ほんとうに頼ってしまいますう!」
「どうぞ頼って! 真っ当にやっていこうって若い人は、あたしたちにとっても希望の星だから、じゃあね!」
町田夫人は、固い握手をして帰って行った。
「あそこまで話す必要あんのか?」
パジャマ姿でソファーにひっくり返って、新一がプータれる。
「町田さん偵察にきたんだよ」
「だったら余計にさ、あの奥さん放送局だぜ……それも嘘ばっか。俺たち従兄妹じゃないし、学校の編入とか言っちゃうし」
「するよ。もう学校のCPとリンクしてるし、連休が終わったら連絡来る。ご近所の様子や新ちゃんのこと考えたら、それが一番。さ、さっさと着替えて朝ごはん」
「パジャマのままじゃダメ?」
「ダ~メ! せっかく早起きと着替えの習慣がつきかけてるんだから!」
「せっかくのシルバーウィークなんだからさ」
「ちゃっちゃとやって。町田夫人が望遠鏡で見てる……」
「え、覗かれてんの!?」
「気づかないふり……あのオバサンに信じ込ませたら、ご町内全部の信用が得られるから」
「なるほど……お、自治会の運動会があったんだな、明後日……気づかないで良かったな」
回覧板を投げ出して、新一は自分の部屋のドアノブに手を掛けた。
「これ出ようよ! まだ出場者足りないみたい!」
「うざいよ、自治会の運動会なんて」
「チャンスだよ、あたしのことも新ちゃんのことも変に興味持たれる前に解消できる。ほら、町田夫人の心拍数が上がった、喜んでるふうにして。ヤッター、新ちゃん、ご町内の運動会、今からでも間に合うかな!?」
新一は無理矢理喜んだ芝居をやらされた。三十分後、アンが運動会の申し込みをした。すると町田夫人を始めとするご町内の二人への関心は、かなり好意的なものに変わっていった。