大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・4『ご町内の放送局』

2018-08-09 06:29:38 | ノベル

アンドロイド アン・4
『ご町内の放送局』



「新ちゃんといっしょに住むことになりました、従妹のアンです。よろしくお願いします」

 アンは、回覧板を持ってきた隣の町田夫人に、くったくのない笑顔で応えた。

「あら、従妹さんだったの。ゴミ出しでお見かけして、すてきなお嬢さんだと思ってたの、ほんとよ」
「照れます、言われつけてないですから」
「ホホ、ほんとうよ。ご近所の奥さんたちも言ってるわ。ここらへん若い人が少ないから、大歓迎」
「わたしも分からないことだらけなんで、助けていただくと思います」
「あの……まだ学生さん?」
「はい、高校生です。今度の学校は、まだ編入手続き中なんですけど」
「じゃ、ここに腰を落ち着けるのね」
「ええ、父が海外赴任してしまって、母は四年前に亡くなりましたので、同じ境遇の新ちゃんと……」
「そうなの……いえね、あたしたちも心配してたの。高校生の一人暮らしでしょ、なにかと大変じゃないかって」
「そうなんです……新ちゃんて、手がかかるんです、大掃除に三日もかかりましたから。それにお風呂ギライで……」
「ホホ、なにか困ったことがあったら遠慮せずに、オバサンたちに相談してね」
「そんなこと言われたら、ほんとうに頼ってしまいますう!」
「どうぞ頼って! 真っ当にやっていこうって若い人は、あたしたちにとっても希望の星だから、じゃあね!」

 町田夫人は、固い握手をして帰って行った。

「あそこまで話す必要あんのか?」
 パジャマ姿でソファーにひっくり返って、新一がプータれる。
「町田さん偵察にきたんだよ」
「だったら余計にさ、あの奥さん放送局だぜ……それも嘘ばっか。俺たち従兄妹じゃないし、学校の編入とか言っちゃうし」
「するよ。もう学校のCPとリンクしてるし、連休が終わったら連絡来る。ご近所の様子や新ちゃんのこと考えたら、それが一番。さ、さっさと着替えて朝ごはん」
「パジャマのままじゃダメ?」
「ダ~メ! せっかく早起きと着替えの習慣がつきかけてるんだから!」
「せっかくのシルバーウィークなんだからさ」
「ちゃっちゃとやって。町田夫人が望遠鏡で見てる……」
「え、覗かれてんの!?」
「気づかないふり……あのオバサンに信じ込ませたら、ご町内全部の信用が得られるから」
「なるほど……お、自治会の運動会があったんだな、明後日……気づかないで良かったな」
 回覧板を投げ出して、新一は自分の部屋のドアノブに手を掛けた。
「これ出ようよ! まだ出場者足りないみたい!」
「うざいよ、自治会の運動会なんて」
「チャンスだよ、あたしのことも新ちゃんのことも変に興味持たれる前に解消できる。ほら、町田夫人の心拍数が上がった、喜んでるふうにして。ヤッター、新ちゃん、ご町内の運動会、今からでも間に合うかな!?」

 新一は無理矢理喜んだ芝居をやらされた。三十分後、アンが運動会の申し込みをした。すると町田夫人を始めとするご町内の二人への関心は、かなり好意的なものに変わっていった。
 

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高校ライトノベル・秋物語り・21『……禁じ手』

2018-08-09 06:05:44 | 小説4

秋物語り・21
『……禁じ手』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 家族に知れたら、もう一度家出の覚悟だった。


 学校の写真は消えているが、わたしと、わたしの首と麗の体を合成した写真は、あいかわらずネットに載っていた。むろんアダルトサイトだが、今日日小学生だってフィルターを外して見ている。うちはお父さんがしっかり管理しているので、弟は知らない。多分お父さんも……でも、時間の問題だろう。コンビニで、時々いっしょになるオッサンが、レジに並んだとき変な目つきで、わたしの体の上から下までねめまわした。

「なんか、付いてますか?」

 穏やかだが、厳しい目つきでオッサンを睨んでやった。大阪時代にメグさんから習った「メンチの切り方」である。わたしは、麗とは違って、一見おとなしそうな高校生に見えるので、この豹変ぶりは意外に効果がある。
 でも、こんなオッサンが何人も出てくるようじゃ、間に合わなくなるだろう。

 コンビニからの帰り道、スマホがメール着信を知らせてきた。わたしは歩きスマホはしない主義なので、家に帰るまで辛抱した。

――天気予報、東京地方は、しだいに回復の見込み。銀座方面から快晴の兆し。S・Y――

 吉岡さんだ!

 わたしは、自身禁じ手にしていたけど、藁にもすがる思いで、吉岡さんにメールを打っていた。アドレスは保存していたけど。こちらから、ううん、吉岡さんからメールが来ることもなかった。大阪のことは断ち切った気持ちでいたからだ。

 さっそく、スマホで、例のサイトを開いてみた。無くなっていた……だけじゃなかった。

――掲載していた写真は合成したものでした。写っていた女性の方に深くお詫びいたします。管理人――

 と、5ポイントの青い文字で書かれていた。よく見ると左下にY・Kのイニシャル。木村雄貴に間違いないだろう。銀座方面からの回復。これは、銀座で働いているめぐさんも協力してくれたという意味に違いない。
 しかし、削除されるまで、十日近くたっている。何十、何百とコピーされているのに違いない。安心はできない。

 明くる日、バイトに行くと、秋元君の顔が明るかった。

 さては雫さんといいことあったのかな……そう思ってカマを掛けると、意外なものが飛び出した。
「オレも、あのサイトのことは心配してたんだ」
「え~ 秋元君も、あれ見てたの!?」
「い、いや、あくまで心配してのことだから!」
 二人の顔は信号のように、忙しく変化した。

 下校するとき、机の中は空にして帰る。

 学校の言いつけを守ってのことではない。なにを入れられ、なにを取られるか分からないからだ。
 その日、いつものように早めに登校し、机の中に、その日必要な教科書やなんかを入れると、奥の方でクシャっと、紙が押しつぶれるような手応えがあった。
 入れようとしたものをいったん出して、ひしゃげたプリントが入っているのに気づき、出して見たら頭に血が上った。例の首すげ替えの写真がA4のサイズで入っていた。

 わたしが、教室に入る前にHという男子が、後ろの扉から出てきた。あいつは前の方の席だから、出てくるんなら前の方だ。わたしの姿には気づいていない様子だったが、男子特有のイタズラをしましたオーラが出ていた。
 わたしは、わざと、シオらしく俯いてスマホを構えて待っていた。やがてチラホラと入ってきたクラスメートに混じってHが入ってきた。明らかに、わたしの方を見てほくそ笑んだ。あとで、入ってきたIという男子に、なにか耳打ちして、二人でなにか忍び笑いをし、わたしの方をチラ見した。

 Iも共犯か……。

 江角が入ってきて、起立礼をしたあと、わたし一人、立ったままでいた。
「なにしてんの、もう座んなさい」
「三十秒だけ、時間ください」
 江角が、なにか言う前に、Hの前に立った。
「こんな、スケベなイタズラして、スカしてんじゃねえよ!」
 例のA4をHの机に叩きつけた。一瞬で周りの生徒の反応を見た。驚き方が違ったのは、Iだけだった。江角は、どう対応していいか分からず、手を前に泳がせるだけだった。わたしはHの耳を掴んで立ち上がらせた。これはタキさんに教わった対処法。女の力で襟首を掴んでも立たせることはできないが、耳を掴んだり、鼻の穴に指を入れてやると、一瞬で立ち上がらせられる。
「てめえは、イニシャル通りのHだよ!」
 耳を放したその手で平手打ちをかました。ストロークは短く、渾身の力をこめて。これもタキさん伝授。ストロークを大きくすると狙いが外れて、ケガをさせることが多いからである。

「ちょっと、二人とも生指にきなさい!」
「それなら、Iもです。二人でケッタクしてますから」

 スマホで、わたしが撮った動画を見せると、あっさり二人は認めた。こうやって、取りあえずは、終わった。

 秋は、確実に、その色合いを濃くしていった……。

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