高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ
13『バッカじゃないの』
バッカじゃないの
三流芸人のすべったギャグに思わずツッコミを入れるように、舞は鼻を鳴らした。
兄妹そろって遅刻しないように、朝の七時になるとテレビが点く。
時計代わりに点いているテレビなので、俺も舞も真剣には観ない。
それでもニュースとかバラエティーで人の声が聞こえると、知らずに耳を傾けている。
特に舞は敏感で、ジュースを飲んだり、トーストを焼きながら反応している。
反応しているのは瞬間だけで、トーストに乗っけたスクランブルエッグが落ちでもしたら「フギャー!」とネコ科の悲鳴を上げて、次の瞬間には忘れている。
都議選が終わった時も「バッカじゃないの」だった。
ちょっと興味が湧いたので「なんでバカなんだ?」と聞いてみた。
「この厚化粧、豊洲はバイオハザードみたく言ってたんだよ、それが豊洲移転だよ。東京都民もバッカじゃん」
むつかしいことは分からない俺だが、女性都知事をスゴイと思っていたので凹んでしまう。
「こいつ、もっとバカ!」
開票終了後の記者会見に出てこない蓮舫にはニベも無かった。
小池都知事の会見がダラダラ続いていると、もう意欲を失った。連呼される小池というワードは舞の脳みその別のところを刺激した。
「あーー小池屋のポテチ……」
そう呟くと、財布を掴んでコンビニに突撃した。
で、今朝の「バッカじゃないの」である。
ワイドショーのMCは夕べ観ていた『メガ盛り早食い女子選手権!!』に出ていた女子高生が急死したことを伝えていた。
急性ナンチャラ症という病名は付いていたが、要は大食いがたたっての突然死だ。
テレビ画面の中の女子高生の姿がフラッシュバックする。
スカートのホックはおろかファスナーまで下ろし、限界が近くなるとOLチャレンジャーの真似をしてピョンピョンジャンプ。
その衝撃で落ちそうになったたスカートを、大股開きでつっぱりながら食い続けた。
壮絶な挑戦だった。最後の方は観ているだけで気分が悪くなった。
でも、俺は「バッカじゃないの」にはならない。
いま思うと、あの女子高生は美人とか可愛いという範疇の子ではなかった。崩しようのないブスというわけじゃないが、そういうカテゴリーは中学の時に諦めて、お調子者とかファニーとかいうカテゴリーの中にレーゾンデートルを求めていたように思う。
学校という村に溶け込むのは、大人が思っているよりは何倍も難しい。
死ぬ思いまでして、いや、事実死んでしまったんだけど、明るくひょうきんにメガ盛りに挑戦していた彼女には、言い知れぬ闇とか黒歴史があったんだろう。
俺自身、前の学校をしくじって過年度生として高校をやりなおしているので分かってしまう。
「遅刻するよ!」
蔑んだような目で急き立てる。もう慣れっこだけど嬉しくもない。
「わーってる」
我ながら不機嫌な返事をして、食器を重ねて流しへもっていく。
ザッと水で流してビルトインの食洗機へ収める。流しに放置していては、帰宅して台所に入った時に鬱になる。
「待たせたな」
リビングへ戻ると、玄関に向かったはずの舞がソファーに胡座くんでスマホと格闘している。
「んだよ」
敵はムスッと顔を上げる。
「どーしよ、また梶山のメール!」
不機嫌そうな顔は、声とは裏腹に上気している。
「おはよう、今日も元気で! とか返事しとけ」
「え、あ、うん」
意外に素直に従う。
「適当にニコニコを変換して打っとけ」
「え、あ……(*^▽^*)でいいかな?」
ディスプレーをズズイっと見せる舞は、ちょっとだけだが可愛いかった。