大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・2『タイトルに偽りなし』

2018-08-28 16:07:36 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・2
『タイトルに偽りなし』
   


 タイトルがおかしい。

 前回読んだ人はそう思うかもしれない。

『妹が憎たらしいのには訳がある』と題しておきながら、八年ぶりの妹を、こう描写している。
 
 すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。

 可愛くのみならず、ニコニコとまで書いている。
 でも、タイトルに偽りはない……。

 妹の幸子は、喋りすぎるでもなく、静かすぎることもなく、自然な会話の中でニコニコしていた。

 八年前、ボクが東京の家を出るとき、まだ七歳の幸子は、電柱三つ分ぐらい泣きながら追いかけてきた。

「おにいちゃーん、行っちゃやだー!!」
 転んで大泣きする幸子を見かねて、ボクはタクシーを止めてもらった。
「幸子、大丈夫か!?」
「だいじょばない……おにいちゃん、ファイナルファンタジー、まだクリアーしてないよ。いっしょにやるって言ったじゃないよ、言ったじゃないよ……」
 そう言って、幸子は手を開いた。小さな手の上にはプレステ2のメモリーカードが載っていた。
 メモリーカードには、やりかけのファイナルファンタジーⅩ・2のデータが入っている。
「さちこ……さちこ一人じゃ、できないよ。おにいちゃんといっしょじゃなきゃできないよ!」
「がんばれ、幸子。やりこめば、きっとできる。あれ、マルチエンディングだから、がんばってハッピーエンドを出せよ。がんばってティーダとユウナ再会のハッピーエンド……そしたら、またきっと会えるから」
「ほんと……ほんとに、ほんと!?」
「ああ、きっとだ……!」
 そう言って、ボクは幸子にしっかりとメモリーカードを握らせ、その手を両手で包んでやった。
「がんばれ、幸子!」
 包んだ手に、幸子の涙が落ちてくるのがたまらなく、ボクは幸子の頭をガシガシ撫でてタクシーに戻った。
 バックミラーに写る幸子の姿が、あっと言う間に涙に滲んで小さくなっていった。

「コンプリートして、ハッピーエンド出したよ」

 幸子は、黒いメモリーカードをコトリとテーブルの上に置いた。
 八年前の兄妹に戻り、ボクは、ほとんど泣きそうになった。

 Yホテルのラウンジの、ほんの一時間ほどで、我が佐伯家の空白の八年は、埋められた……ような気になっていた。

 それから一週間後、ボクたちは、新しい家に引っ越した。お母さんとお父さんは、それぞれ東京と大阪のマンションを売り、そのお金で、中古だけど戸建ての家を買った。5LDKで、ちょっとした庭付き。急な展開だったけど、ボクには本気で家族を取り戻そうとする両親の心意気のように感じられ、久々にハイテンションになっていた。
 大ざっぱに家具の配置も終わり、ご近所への挨拶回り。
「今日、越してきました佐伯です」
「よろしくお願いします」

 向こう三軒両隣、みなさんいい人のようだった。特に筋向かいの大村さんは、幸子と同い年の佳子という子がいて、なんだか気が合いそうな気がした。

 夕食は、宅配のお寿司をとった。

「一時間ほどかかりますが」と言っていた宅配のお寿司が、四十分ほどで着いた。
「おーい、幸子、お寿司が……」
 幸子の部屋のドアを開けて、ボクも幸子もフリーズした。
 幸子は、汗をかいたせいだろう、トレーナーも下着も脱いで、着替えの真っ最中だった。
「あ……」
「こういう場合、どうリアクションしたらいいと思う?」

 幸子は、裸の胸を隠そうともせずに、歪んだ薄ら笑いを浮かべて言った。

 ボクが見た、妹の初めての憎たらしい顔がそこにあった……。

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 16『洒落にならねーーー!』

2018-08-28 06:54:21 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 16『洒落にならねーーー!』




 舞は救急車で病院に運ばれた。

 俺に真空カマイタチキックをかましたからだ。


 真空カマイタチキックは、去年、まだ中学生で東京ドームと同じ広さの実家に住んでいたときに身に着けた荒業なんだ。
 親父は健康のためにいろんなスポーツをやっているが、その一つが少林寺拳法だ。
 先生は中国人の孫悟海老師。
 二十代にしか見えない体の上に七十歳くらいのシワクチャ顔が載っている化け物爺さん。
「お父上よりも才能がある!」
 そう見込んで舞に稽古を付けようとした。

「それなら、一番の奥義を教えて!」

 孫老師は眉毛一つ動かして驚いた(孫老師は、けして驚いた顔をしないので、眉毛一つ動かしたというのは大変な驚きなんだそうだ)。
 そして舞の体を頭のてっぺんからつま先まで触って、奥義の伝授に耐えられるかどうかを確認した。
 舞が他人が体を触るのを許したのは後にも先にもこれっきりだったので、俺も親父もブッタマゲタ。

「よろしかろう」

 老師は一言呟くと、半日かけて孫流少林寺の奥義を教えた。
「優秀な弟子でも十年の経験が無ければ教えぬ技です、わずか半日で習得したのは驚異の極み。よろしいか、習得したとはいえ、どこかに無理がある。けして本気になって使ってはいけませんぞ」

 つまり、下手に使えば、自分の体も痛めてしまうという忠告だった。

 で、救急車を呼ぶくらい身体を痛めてしまったのだから、俺にかました真空カマイタチキックは、思い切りの本気だった!

 洒落にならねーーー!

「本気でやったら、あんたの首飛んでたよ。今度やったら、ほんと首飛ばしてしまうから」
 安静を条件に帰って来た舞は、シラっと恐ろしいことを言う。
「でも、結果的には自然な形でキャンセルできたじゃねーか」
「あ、うん……」
 梶山とのデートは救急車が学校にやってきたことでチャラになっていた。

「えと……お風呂に入りたいんだけど」
 晩飯後の洗い物をしていると、後ろから声が掛かった。
「あ、今から沸かすわ」
 シンクの上の湯沸かしボタンを押す。

 

――お風呂のお湯を沸かします――

 

 給湯システムが優しいオネエサンの声で反応する。
 考えたら、俺に優しく語り掛けてくれるのは、湯沸かしとパソコンのナレーターくらいかもしれない。

 

「じゃなくって」
「ん?」
「じん帯痛めてるから、湯船に浸かれないってか……」
「つ……だから恵美さんに来てもらおうかって言ったんだ」
 大げさにするのは嫌だと言って、実家の方には連絡していないのだ。
「わーった、一人でなんとかする!」
「待て!」
 
 この上怪我をひどくされてはかなわないので入浴の介添えをしてやることにした。

「水着とか着てりゃ済む話だろーが!」

 

 俺は安眠用のアイパッチをさせられた。汗まみれの体に水着を付けるのは気持ちが悪いということで、舞はいつもの通り。

 

「湯船に浸かるときだけだから……ヘリに腰掛けるから、首に掴まらせて……そいで、わたしの右足を持って」
「こうか……」
「ちょ、どこ触ってんのよ!」
「す、すまん」
 なんとか重心を確保して、ソロリと舞を湯船に誘導する。
「ちょ、胸押し付けないで!」
「だって、重心が……」
「「あ、ああーーーー!!」」

 ザッパーーーーン!!

 バランスを崩して、兄妹そろって湯船に落ちてしまった。

 アイパッチが外れてしまって十年ぶりに一緒に湯船に浸かってしまった。

「コラー、目ぇつぶれーーー!」

 舞の注文は、ちょっと手遅れだった……。
 

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