大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・6『過剰適応』

2018-09-01 15:26:10 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・6

『過剰適応』    


 見てはいけないようなものを見たような気がした。

 幸子は、たった十五分でアコギをマスターし、いきものがかりのヒットソングを、ケイオンの女ボス加藤先輩よりも、はるかに上手く唄っている。
 加藤先輩はおおらかな人柄で、自分よりうまい幸子に嫉妬などせずに、素直にその上手さに感心して、バックでベースギターを弾いて合わせた。他のメンバーも加わり、まるで視聴覚教室は、ライブのようになっている。

 俺は、いたたまれなくなって、そっと視聴覚教室を出て、そのまま下足室に向かった。
「おい、なんかケイオンが、ライブやってるらしいで!」
「ほんまや、チーコがメール送ってきよった」
「なんや、すごい子が……」
「行ってみよか……」
 そんな言葉を背中で聞きながら、俺は靴に履きかえ、家に帰った。

「「おかえり」」

 親父と、お袋の声がハモって出迎えた。
「早いんだね」
「ああ、今日は出張だったんで、出先から直帰してきた」
「幸子といっしょに帰ってくるかと思ったのに」
「幸子なら、学校で人気者になっちゃって、ケイオンのみんなに掴まってるってか……掴まえてるってか」
 俺は、学校でのあらましを話した。
「そう、あの子は熱中すると、のめり込んでしまうからね」
「いや、そんなレベルじゃないよ」
「幸子、わたし達が別れてから、お兄ちゃんに会いたいって、ファイナルファンタジーにのめり込んで、一月で、コンプリートしたのよ」
 ボクは、再会した日のメモリーカードを思い出した。

――コンプリートして、ハッピーエンド出したよ――

 幸子の言葉が蘇った。
「それから、いろんなものに熱中するようになったわ。ゲームから始まって勉強まで。それで成績トップクラス。だから、まだ三学期が残ってるのに引っ越しもできたんだけどね」
「部活は?」
「最初は、書道部やってたんだけど、中一で辞めちゃった……」
 そう言って、お袋は、一枚の作品を持ってきた。
「これが、一枚だけ残ってる作品。あとは、幸子、みんなシュレッダーにかけちゃった」
「すごいよ、これ……」
 素人の俺が見てもスゴイできだった。
「都の書道展で、金賞とったのよ」
「どうして……」
「上手いけど、個性が無いって。投げ出しちゃった」
「幸子は個性にひどくこだわるんだ……」
 俺たち親子は、幸子の「天衣無縫」と書かれた作品をしばらく見続けた。

 どのくらい見続けていたんだろう。自転車の急ブレ-キとインタホンの音で我に返った。

――向かいの佳子です。幸子ちゃんが駅前で!――

「どうしたの、幸子が!?」
 すぐにお母さんが、ドアを開ける。佳子ちゃんが、転がり込んできた。
「実は、幸子ちゃん……!」
「過剰適応だ……太一は自転車で駅前に行け、その方が早い。母さんとオレは車で行く!」
「あたしも、行きます!」

 佳子ちゃんと二人、自転車で駅前に急いだ。

 駅前は、佳子ちゃんが言ったように、黒山の人だかりだった。そして、人だかりの真ん中で、幸子の歌声が聞こえた。それは、視聴覚教室で聞いたときよりもさらに磨きがかかっていた。これだけの人がいるというのに、怖ろしく声が通り、ハートフルでもあった。
 俺は、なんとか人並みをかき分け、幸子が見えるところまで来た。幸子はクラブで貸してもらったんだろう。練習用のアコギをかき鳴らし、完全に歌の世界に入り込み、涙さえ流しながらいきものがかりの歌を唄っていた。
「幸子、もう止せ、もういい!」
 幸子を止めさせようと思ったけど、オーディエンスのみんなが、寄せ付けてくれない。いら立っていると、お父さんがやってきて、幸子の耳元で何かささやいた。すると、幸子は、残りを静かに唄いきって終わった。

「どうもみなさん、ありがとうございます。もう夕方で、交通の妨げにもなりますので、これで終わります。ごめんなさいお巡りさん。じゃ、またいつか……分かってますお巡りさん。ここじゃないとこで」

 警戒に立っていたお巡りさんが苦笑いをした。

 人が散り始めるのを待って、親父は、幸子をお母さんが待つ車に乗せようとした。

「お兄ちゃん、最後の曲分かった?」
 いつもの歪んだ笑顔で聞いてきた。
「ああ、いきものがかりの『ふたり』だろ」
「そう、なんかのドラマの主題曲……」
 さらに冷たい声を残して、車は走り出した。
「…………あ」
「どないかした?」
 ペダルに足をかけながら、佳子ちゃんが聞いてきた。

 あの歌は『ぼくの妹』の主題歌だ……


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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 20『俺はモブ夫だ!』

2018-09-01 07:14:34 | 小説・2

メガ盛りマイマイ 
 20『俺はモブ夫だ!』





 新藤君は芽刈さんの崇拝者なんだよね。

 梶山はかましてきやがった。
 かましてというのは俺の主観だ。

 雰囲気は、ドラマの主人公が台詞が三つくらいしかないモブキャラに憐憫の情を示しつつ自分こそがドラマの主人公であると宣言するのに似ている。

 宣言はするけども、けして奢らず、モブ夫を慰める。んでもって「憂さ晴らしに行こうぜ」とか言ってゲーセンとかにモブ夫を引っ張り出す。その前に「腹が減っては……」とか言って飯を奢ってくれる。ま、駅向こうの新装開店のラーメン屋とか。
 で、このラーメン屋が絶品で「う、美味いですね!」と感動の声を上げると「そーだろそーだろ(*^^)v」と歯磨きのCMみたいに健康的な歯を覗かせてガッツポーズ。
 あーやっぱ勝てねー……とか思っていると、思いのほかの猫舌で「アッチチチーーーーー!」とドジを踏む。
 カウンターの中のバイトのネーチャンが、それを見てクスっと笑ったりする。
 完璧なヒーローじゃなくて、どこかドジであることがトレンドだ。
 ゲーセンに行くと格ゲーだ。意外なことに奴は強い。
 ヒーローというのはオールマイティーだ、ウィークポイントは猫舌ぐらいのもんで、それも育ちの良さから「熱いものは苦手」ということだったりする。
「あ、すまん、つい熱くなっちまった」とか言うけど、ゲーセンのオーディエンスの視線は地味に落ち込むモブ夫には冷たい。
「得意なのやろうぜ!」
 奴は、あくまでもヒーロー的な気の良さからモブ夫の気を引きたてようとする。
「あれなら負けない」
 モブ夫が示すのはクレーンゲームだ。
 モブ夫は、いつの日か彼女を連れて、クレーンゲームで彼女が好きなプライズ品をゲットしてやろうと、腕に磨きをかけていた。
 だから、難易度の高い奥のぬいぐるみなんかを易々とゲット。
「スゴイよ、俺なんかじゃ半日やってもとれないよ!」
 自分のことのように喜ぶ奴は、一つ向こうの筐体で苦労している三人連れの女に子に声を掛ける。
「なんだったら俺たちにやらせてくれない? きっと獲ってあげるから」
 俺たちと言うところがミソだ、あいつが獲るからと言うと高い確率で断られる。奴は、そういう気配りが企まずに出来てしまう。
 で、じっさい自分がやって失敗を見せた上で、自然にモブ夫に晴れ舞台を用意する。
 でもって、モブ夫は一発で女の子の目当てのプライズ品をゲット。
「「「うわ、どーもありがとう!」」」
 女の子たちはお礼を言うけど「それじゃ!」と振り返っての二三歩先。

「やだ、モブ夫の手の汗が付いてる」
「あの人が獲ってくれたのだったら文句なしだったのに」
「シ、聞こえるよ」


 しっかり聞こえたモブ夫の肩を、奴は優しくポンと叩きやがる!


 俺の妄想は果てしない。


 しかし、梶山は俺を誘うこともしなくって、ポツリと言う。
「僕だってデートに誘っていなされてる、まあ、五十歩百歩だ。お互い励もうぜ」
 奴は、飲み終わった俺の空き缶も引き取って行儀よく空き缶用のゴミ箱に捨てに行く。

 実は、俺、あいつの兄貴だったりするんだぜ。

 けしてアドバンテージにならない現実を呟いてみたりする。
 

 放課後

 舞を迎えに来たヤローを目撃して、俺も梶山もブッタマゲタ。

 サイドカー付のハーレーに打ち跨ったハリウッドスターかというようなイケメンだったのだ!

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