大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・8『幸子の入学宣誓』

2018-09-03 16:47:05 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・8

『幸子の入学宣誓』    


 路上ライブの時と同じように、お母さんが耳元でささやくと、幸子はホッとしたように大人しくなり、ベッドに横になった。

「太一は、部屋から出ていて……手当するの、幸子、裸になるから」
「う、うん……」

 幸子の部屋を出た俺は、いったんリビングに戻り、スリッパを脱ぎ、こっそりと幸子の部屋の前に戻った。
 幸子の服を脱がせているのだろう、衣擦れの音がして、かすかに蚊の鳴くような電子音がした。それからお母さんは、お父さんに電話をかけた様子だった。
「あなた、わたし……うん……障害、でも……初期化……だめよ、せっかく……!」
 お父さんが、なにか言いかけたのをさえぎって、お母さんは電話を切った。それ以上いては気取られそうなので、俺はリビングに戻って、新聞を読んでいるふりをした。やがて幸子の部屋のドアが開く音がした。
「あ……」
 ボクは新聞を逆さに持っていることに気がついた。

 それから、幸子は、またギターと歌に熱中し始めた。

 ただ、路上ライブをするようなことはなく、部屋のカーテンを閉めて、控えめにしている。時々熱が入りすぎて、ボリュームが大きくなる。
 その歌声は、もう高校生のレベルではなかった。

 入学式の三日前には、佳子ちゃんといっしょに入学課題をやり、ますます友人として親交を深めていった。
ボクには、相変わらずの憎たらしい無表情だが、幸子の視線を感じる度合いが、少し高くなったような……これは、幸子のニクソサを意識しすぎる俺の錯覚かもしれない。

 二日前に幸子は入学者の宣誓文に熱中しはじめた。

 ネットで、高校生の入学式宣誓を検索し、それは、入学式宣誓、高校生スピーチ、スピーチ、話術などと検索の範囲が広がった。俺も興味が出て、そっと覗き込んでみると『前田敦子AKB卒業宣言』になっていた。
「見ないでくれる……」
 ニクソイ無表情で返されたのは言うまでもない。

 そして、入学式の日がやってきた。

 午前中は、ボクたち在校生の始業式。俺は、A組。ボーカルの優奈と同じクラス。優奈はニヤリとしたが、ボクは、曖昧に苦笑いするしかなかった。なんせ幸子をケイオンに入れ損なっている。
 午後の入学式は、お母さんが来たが、気になるので(演劇部と兼部でも構わないから、幸子をケイオンに入れろと優奈を通じて、加藤先輩から言われていた)

 最初の国歌斉唱で、まずタマゲタ。

 ソプラノの歌声が音吐朗々と会場に響き渡り、会場のみんなが、びっくりしていた。
 ただ、府立高校の体育館は音響のことなど考えて造られていないので、短い国歌斉唱の間に、それが幸子だと気づいたのは、幸子の周囲の十数名だけだった。大半の人たちは、負けじとソプラノを張り上げた音楽の沙也加先生のそれだと思った。
 いよいよ、新入生代表の宣誓になった。
「桜花の香りかぐわしい、この春の良き日に、わたしたち、二百四十名は栄えある大阪府立真田山高校の六十六期生として……」
 と、宣誓書に目を落とすこともなく、まるで宝塚の入学式のように朗々と語り始めた。明るく、目を輝かせ、喜びと決意に満ちた言葉と声に参列者は驚き、そして聞き惚れた。
 一瞬幸子は振り返り、新入生たちの顔を確かめるようにし、宣誓分を胸に当て、右手を大きく挙げて再び壇上の校長先生を見上げた。校長先生は目を丸くした。

「……わたしたち、六十六期生は、清く、正しく、美しく、新しく目の前に広がった高校生活を送ることを誓います。新入生代表・佐伯幸子」

 会場は割れんばかりの拍手になった。演壇に宣誓分を置いた幸子は、まるで宝塚のスターのように、堂々と胸を張り、明るい笑顔で席に戻った。

 ボクは思い出した。夕べ、幸子が検索していた中に『宝塚』があったことを……。


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高校ライトノベル・アンドロイド アン・14『文科省通達』

2018-09-03 15:46:55 | ノベル

アンドロイド アン・14
『文科省通達』

 

 

 置き勉してもいいんだってよ!

 

 嬉しそうにスマホの画面を示して、赤沢が目をへの字にする。

 遅刻の常習犯で、成績も振るわない親友だが、どことなく人に愛されるのは、こういうところだろう。

 なにか珍しいものや面白いことがあると、率先してみんなに広める。

 時にスカタンもやるが、みんなで面白がることが無上の楽しみである。

 いわばグローバルなイチビリがみんなに愛されている。

 その赤沢の新発見に、教室のみんなが目を向ける。

「この時期に置き弁したら、弁当箱メッチャ臭くなるぞ」

「その置き弁じゃねえ。クソ重たい教科書とか勉強道具を置きっぱにしてもいいという文科省のご通達だ!」

「「「ええ、なに!?」」」

 興味を持った数人が赤沢の画面を見て、それぞれ自分でググり始めた。

 

「……なんだ、小学生対象じゃないの」

 

 玲奈が重要ポイントを指摘してスマホを置いた。

 玲奈もアンも、なんとなく市民権を得て、食堂以外の昼食をうちのクラスでとるようになってきたんだ。

「んなこたねーよ。小学生に認められて高校生に認められないってのはおかしーよ」

「そーよ! いまでも一応黙認はされてるけど、学年とか先生によっては『持って帰れ!』ってうるさくなることあるもんね」

「あ、それ矛盾感じてた! 置きっぱでいいなら矛盾とか思わなくっていいし」

「そもそも、持って帰れって言われなくて済むし!」

「そーよそーよ、通学カバンなんて電車の中で肩身狭いもん!」

「そーそー、部活のジャージとか道具とかもね」

 クラスのみんなが不満を並べ始めた。

 

「「「置き勉してもいいように学校にかけあおう!」」」

 

 赤沢が投げた石は大きく波紋を広げていった。

 

「ちょっと新一」

 アンがオイデオイデをするので後を付いて廊下に出る。

「こっちこっち」

「つぎ、こっち……」

 あちこちの教室を周って勉強道具を集め、かなりの量になったところで保健室に向かった。

「ちょっと体重計借りま~す」

 二人で持った勉強道具を秤に載せる……体重計の針は11キロを指している。

「こんなに重いんだ!」

「それに、すごくかさ高いでしょ」

「これは、赤沢の言う通り、置き勉を認めてもらわなきゃな!」

 俺も赤沢教の信者になりかけた。

「そこじゃないのよ」

「どういうことだよ?」

「見てよ、英語だけでも辞書が二種類、文法と構文の副読本で3.2キロ」

「だから置いといたほうが楽だろうが」

「違うの、こんなに要らないのよ。和英辞典とか文法や構文とか、ほとんど使わないでしょ」

 

 そう言えばそうだ。

 入学時や新学年でいろいろ買わされるけど、使わない者が多い。

 

「教科の先生が、てんでバラバラにあれもこれも必要だって言うからこうなるのよ。販売時期も何度にも分かれるし、こうやって重さとか確認したことが無いのよ」

「それって……」

「根本的に減らさなきゃならないのよ」

「おまえ、アッタマいいじゃん!」

「さ、赤沢くんに言ってやって、わたしから聞いたって言わないでね」

「お、おう」

 

 結果、俺と赤沢の共同提案ということで先生たちに申し入れ、勉強道具というかアイテムの見直しが始まった。

 P音事件と言い置き勉のことといい、アンは、なにか方針転換を始めたような気がするんだけど……。

 

 

☆主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 早乙女采女 学校一の美少女

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 22『乾坤一擲の一発勝負・2』

2018-09-03 06:56:30 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 22『乾坤一擲の一発勝負・2』




 もはや形をとどめていなかった。

 スティーブが戦艦大和で、梶山氏がタイガー戦車。そんな妄想がググらせた。
 
 タイガー戦車というのは撃破されても形をとどめている。
 56トンという重量はM4シャーマンの倍近い重量で、M4の75ミリを至近距離で食らっても砲塔がぶっ飛んだり装甲板がめくれあがったりはしない。ビットマンが乗車のタイガーが撃破された時でも、乗員は悠々とエスケープできている。
 ところが、百枚ほどググった一枚の写真のタイガーはバラバラの鉄くずだった。
 説明によると、ノルマンディーの防衛に駆り出されたタイガーに戦艦の艦砲射撃が、まぐれで直撃したものらしい。乗員は逃げるヒマどころか、撃たれたという実感もなく即死したのだろう。戦艦に立ち向かっていこうというような無謀な戦車は有りえない。

 だから、梶山氏は正門を望む時計塔下のベンチにゆるりと座っている……ついでに俺も。

「何度見てもいい景色だね」
 正門の外側でスティーブのサイドカーに乗り組む舞と目が合う。
――ども――てな感じで目礼をしやがる。
――や!――てな感じで、缶コーヒーを目の高さまで上げて氏は返礼する。
 さすがは梶山氏、余裕だなあ。

 グシャ!

 梶山氏は空き缶を握りつぶした……って、スチール缶なんですけど。
「す、すごい握力っすね!」
「さて、これで四日だ。新藤君の健闘を祈って、僕は戦線離脱するよ」
「え、諦めるんですか?」
「けっこう忙しい身なんでね」
 氏は、今一度空き缶を圧潰し、握った右手から血がしたたり落ちた。
「あ……」
「我ながらバカ力を出したもんだ」
 怪我した右手を構いもせずに、ビンカン用のゴミ箱にシュート。

 スッコーーーーーーーーーーーーーーーーン

 空き缶を目で追っているうちに氏は消えてしまわれた。

 

 そして、あくる日から氏を学校で見かけることは無くなってしまった。

 

 乾坤一擲の勝負は舞の不戦勝のような形で終わった……はずだった。

「「「「「「「「待って芽刈さん」」」」」」」」

 あれからさらに三日、舞がサイドカーに乗ろうとしたら、正門前道路のあちこちに隠れていた女生徒八人が現れて舞をサイドカーごと取り囲んだ。
「な、なんの用かしら」
 不意を突かれ、不覚にも噛みながら返事をする舞。

「わたしたち、芽刈さんに乾坤一擲の勝負を挑みに来たの」

 代表格のポニーテールが宣言した。あ、この子は生徒会の……!

 

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