大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー・5『山高の裏側を周る』

2018-09-19 13:37:41 | ライトノベルベスト

栞のセンチメートルジャーニー・5
『山高の裏側を周る』
    
 八尾市の東を南北に流れる玉櫛川    

 

 川と言うよりは疎水で、川に並行した東側に二車線のアスファルト道が走っているところなど、京都の高瀬川に似ている。

 高瀬川の西は祇園のお茶屋さん街の裏手になって通行はかなわないが、玉櫛川はよく整備された遊歩道が寄り添っている。

 

 高安の住人であるわたしは、ぼんやり散歩していると、たいてい玉櫛川の遊歩道をウカウカと歩いている。

 

 あ、行き過ぎた。

 そう思ったのは、足もとのレンガ舗装がむき出しの土道になっていたからだ。

 玉櫛川遊歩道の整備は近鉄山本を中心に南北二キロずつほどであり、行き過ぎると暗渠や土道になっている。

 兄ちゃんの目は節穴だなあ。

 桜の落ち葉をクルクルもてあそんでいた栞がジト目で言う。

「あ……リープしてしもた?」

「どうやら、昭和四十六年ごろ……もうちょっと行くと山本高校があるはず」

 言われて首を巡らすと、某政党の事務所になりながらも原形をよく保っている風呂屋が現役に戻っていて、煙突からはモクモクと煙を吐いている。

 遊歩道沿いの民家は、戦前からのお屋敷街で、今の時代とほとんど変わっていない。

 

 キ~ンコ~ンカ~コ~ン キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン

 

 山本高校か隣接する山本小学校のか分からないチャイムが聞こえてきた。

「小学校だね、まだ三時まわったとこだし」

 栞が判断すると、それが合図だったみたいに小学生たちがゾロゾロ向かってくる。

 百メートル歩で手前の俺たちのところまで、そのさんざめきが聞こえてくる。

 道幅二メートルほどの遊歩道で小学生の集団と行き違うのは後免こうむりたい。

「脇の道いくぞ」

「栞はこっちがいい」

 向かってくる小学生と同じ無邪気な笑みを浮かべてスタスタ向かって行く。

「ほんなら、グルッと回って、山高前で落ち合うぞ!」

 分かった! 

 後姿で手だけで返事すると玉櫛川を遡行する鯉のように行ってしまった。

 

 一本だけ道を逸れて北上する。

 

 平成三十年の今日では、あちこち今風に建て替わっているが、昭和46年では少年探偵団か月光仮面の舞台になりそうなお屋敷と、意外に田畑が見え隠れする。

 すぐに山高裏のブロック塀。

 右手に今と変わらぬ体育館から、バレーボールをやっているんだろう、体育館シューズのキュッキュと擦れる音や生徒たちの声がこぼれてくる。

 ブロック塀を左に目を向けると、今まさに乗り越えて脱走を図る学生服が見える。

 三人目の学生服にビックリした。

 

 あれはTだ!

 

 先年、還暦を過ぎて二年ほどで逝ってしまった親友だ。

 ロバート・ミッチャムに似た一癖有り気なTは身軽にペッタンコ鞄を受け取ると、お仲間とも手下ともつかぬ二人を引き連れて、こちらに向かってきた。

 大脱走ならバイクに乗ったスティーブ・マックィーンだが、手下を連れたロバート・ミッチャムでもサマになる。

 三十年務めた教師の目で見てしまう。

 たばこ喫われたらかなんなあ……反射的に思ってしまう。

 いやいや、こいつらは喫わへん。

 Tは中坊のころからタバコを嗜んでいたが、学ランを着ている間は学校近辺では喫わない仁義を心得ていたはずだ。

 六時間目ブッチしてどこ行きよるんや……?

 電柱一本分まで来たところで、小柄なやつがポケットからチラシを出して、眼鏡の奴とニヤニヤ。

 すると、Tが二人の頭を叩いた。

 チラリ見えたチラシと三人の様子でピンときた。

 

 こいつら、天満か西九条あたりまで足伸ばしてストリップ観に行くんやなあ。

 

 生前のTからエピソードが蘇る。

 

 あと五メートルほどですれ違うところで三人がわたしに気づいた。

 小柄は怯えたような表情に、ノッポはソッポを向き、Tは目を細めて睨んできた。

 これは意外なところで先敵に出くわした時の反応だ。

 辞めて十年になるが、身に付いたオーラがあるんだろう。こっちも気まずい。

 すれ違う瞬間に互いに目線を避けて事なきを……数秒して振り返ると、Tも一瞬振り返った。

 

 山高をぐるりと回って栞と落ち合う。すでに山高のチャイムも鳴って、下校時間の真っ最中だ。

 

「あーおもしろかった!」

 小学生の群れを遡行した栞は、いつになく生き生きしている。

 そうか、こいつは十七歳のなりはしているが三か月で堕ろされた水子だ。

 きっとランドセル背負って学校にも通ってみたかっただろう。

「あ、おねえさんに出会ったよ」

「おねえさん?」

 栞にとっての姉はわたしにとっても姉で、この秋で六十八の婆さんだ。

「違うわよ、お義姉さん! ほら、あそこ」

 栞が指差した先には二人の友だちと笑いながら駅に向かうセーラー服の後姿があった。

 思い出した。カミさんも山高の卒業生で、昭和四十六年といえば一年生だ。

「まだ間に合うよ、追いかけようか!」

「そ、それだけはやめてくれ!」

 

 山高の裏側を周ってきて正解だった……。

 

 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・1『友子と一郎』

2018-09-19 07:44:01 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・1 
 『友子と一郎』  
          


 切符!
 
 二枚の切符を指に挟んでヒラヒラさせながら、一郎の後ろで友子が言った。


「ありがとう……」
 通せんぼした自動改札から戻りながら、一郎は友子に礼を言う。

 スイカと切符を手にした見っともなさに気づいて、オロオロとスイカをポケットに。

「いけませんね」
「いや、ついいつもの通勤の感覚になっちゃって」
「520円貸しね」
「あとでな、もう電車来るよ」
「電車は、まだ二駅前を出たとこ。こういうことは、すぐに精算しとかなきゃ、お父さん、すぐ忘れるんだもん」
「はいはい、20円……ないや。500円で辛抱しろ」
「50円玉あるじゃん。はい、おつり30円」
 こういうことには細かい奴である、友子という奴は。
「もう少し離れて立ってろよ」
「いいじゃん、親子なんだから」

 どうもしっくりいかない。制服姿の女子高生と並んで電車を待つなんて、ほとんど二十年ぶりである。

「落ちたらどうする?」
 電車に乗って、一郎はすぐに聞いた。
「落ちないわ。賢いのよわたし」
「しかし、乃木坂って偏差値67もあるんだぞ」
「68よ。それから、乃木坂は都立。わたしが受けるのは乃木坂学院。間違わないでよね」
 そこで、車両がカーブを曲がったので、一郎は反対側のドアまでよろけてしまった。幸い土曜日で、人が少なく、ぶつかって恥をかくようなことはなかった。
「運動不足」
 友子は揺らぎもせずに、横を向いたまま、ニクソげに言う。
「いつも乗ってる電車じゃないからな……」
「わたしだって初めてよ。じゃ、歳のせいだ」
「あのな……」
「さっき、カーブを曲がりますってアナウンスあったよ」
「うそ?」
「あった」

 斜め前の席に座っていたオバサンたちがクスクス笑っている。もう一言言おうと思ったが、友子がアサッテの方を向いてしまったので、やむなく一郎は口をつぐんだ。

「この成績なら問題ありません。合格です」

「ふぁい……どうもありがとうございました」
 転入試験のあと、控え室で居眠ってしまった一郎は、結果を知らせてきた教頭に、しまらない返事をしてしまった。
「どうもありがとうございました。これからは乃木坂学院の生徒として恥じない高校生になりたいと思います。未熟者ですが、よろしくお願い致します」
 年相応に頬を染め、でもハキハキとした返事をする友子。
「しっかりしたお嬢さんだ、期待していますよ。今日書いて頂く書類は、こちらになります。あとは初登校するときに、娘さんに持たせてください」
 その時、ドアがノックされ、ヒッツメ頭の女性が入ってきた。
「あ、こちらが担任になる柚木です。あとの細かいとこや、校内の案内をしてもらってください」
 そう言って教頭は部屋を出て行った。

「制服は9号の方がよくないかしら。まだまだ背は伸びるかもしれないから」

「いいんです。わたしは、これ以上は伸びません……ってか、このくらいが気に入ってるんです」
「そう、まあ、わたしも高一から身長は止まってしまいましたけどね」
「へえ、柚木先生もそうだったんですか!?」
 友子は、担任というより仲間を見つけたような気持ちで、明るく言ってしまった。
「でも、横にはね……大人って大変ですよね、お父さん」
「いやいや、先生みたいな方なら、うちの会社のモデルでも勤まりますよ」
 そう言いながら、一郎は、いま頓挫しているプロジェクトのことが頭をかすめた。
「実生堂の化粧品なんて、縁がないですよ」
「いやいや、ご謙遜を」
「よかったら、このタブレットでご確認いただいて、ここにタッチしていただければ、この連休中にも、必要なものは揃いますわ」
「……はい、友子、これでいいな?」
「はい、もう確認しました」
「じゃ、次は、校内の確認を……」

「おかえり、どうだった、ともチャン?」

 春奈が、エプロンで手を拭きながら玄関まで出迎えてくれた。

 春奈は、最後まで友子を引き取ることに反対した。いくら自分たちに子供ができることを断念したとはいえ、いきなり15歳の女子高生の母親になることには抵抗があった。

 それが、コロっと変わったのは、友子を引き取る条件が破格であったからである。養育費が月に20万円。それも一年分前払い。さらに一千万円ほど残っていた家のロ-ンを払ってくれるという条件だった。

 三日前に現物の友子が現れてからは、さらに態度が変わった。

 裕福な両親を亡くしたとは言え、これだけの好条件で来るのだから、写真や経歴だけでは分からないむつかしさのある子だと覚悟していた。
 それが、会ってみると、春奈は一目で気に入った。会社でも営業部を代表して新入社員の面接をやってきている春奈には、とびきりの女の子に見えた。きちんと躾られた物腰。こちらの気分に合わせてとる距離感。また、家事もいっぺんで要領を覚え、明くる日には冷蔵庫と食器棚の整理を任せた。

「あの……呼んでもいいですか?」
「え、なに?」
「その……お母さん、て」

 夕べ、頬染め、おずおずと言われたときは、思わず涙が浮かび、春奈は友子と泣きながら抱き合っていた。

 食後、春奈が風呂に入ると、リビングでくつろいでいた一郎に友子が視線を向けた。

「一郎、今日のあんたの態度ね……」

 それは、もう可憐な女子高生のそれでは無かった……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・24『むこうの幸子ちゃんを救出』

2018-09-19 06:42:18 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・24
『むこうの幸子ちゃんを救出』
    


 満場の拍手だった!

 生徒会主催の新入生歓迎会は例年視聴覚教室で行われる。
 しかし、今回は二つの理由で体育館に移された。
 飛行機突入事件で、視聴覚教室が使えなくなったこと。

 そして、今年は大勢の参加者が見込まれたからだ。

 去年、俺が新入生だったときの歓迎会はショボかった。

 なんと言っても自由参加。ケイオンもまだスニーカーエイジには出場しておらず、それほどの集客力が無かった。
 今年は違う。
 加藤先輩たちが、昨年のスニーカーエイジで準優勝。これだけで、新入生の半分は、確実に見に来る。
 そして、なにより幸子のパフォーマンスがある。
 路上ライブやテレビ出演で、幸子は、ちょっとした時の人だ。二三年生の野次馬もかなり参加して、広い体育館が一杯になった。
「わたしらにも一言喋らせてくれんかね」という校長と教務主任の吉田先生の飛び入りは、丁重にケイオン顧問の蟹江先生が断ってくれた。普段はなにも口出ししない顧問で、みんな軽く見ていたが、ここ一番は頼りになる先生だと見なおした。

 幸子は演劇部の代表だったが、ケイオンが放送部に手を回した。

――それでは、ケイオンと演劇部のプレゼンテーションを兼ねて、佐伯幸子さん!
 

 満場の拍手になった。
 

 最初に、幸子がAKRの小野寺潤と、桃畑律子のソックリをやって、観衆を沸かし、三曲目は、最近ヒットチャートのトップを飾っているツングの曲を、加藤先輩とのディユオでやってのけた。
 もちろんバックバンドはケイオンのベテラン揃い。演劇部の山元と宮本の先輩は、単なる照明係になってしまった。

 結果的には、ケイオンに四十人、演劇部には幸子を含め三人の新入部員。正直演劇部には気の毒だったが、気の良い二人の先輩は「規模に見合うた、部員数や」と喜んでくれたのが救いだった。

――お兄ちゃん、生物準備室まで来て。

 そのメールで、俺は、生物準備室に急いだ。

 用があるなら、幸子は自分でやってくるはずだ。きっと、なにかあったんだ。

「おい、幸子」
「まだ、入っちゃダメ!」
 中で衣擦れの音がする……例によって着替えているんだろうか。それなら進歩と言える。いつもは大概裸同然だったりするから。
「いいわよ」
 やっと声がかかって、準備室に入るとラベンダーの香りがした。昔のSFにこんなシュチュエーションがあったなあと思った。
「ドアを閉めて」
 そこには、二人の幸子が立っていた。
「どっちが……」
「わたしが、こっちの幸子。で、こちらが向こうの幸子ちゃん。やっと呼ぶことができたの」
 二人とも無機質な表情なので、区別がつかない。とりあえず、今喋ったのが、うちの幸子だろう。
「義体化される寸前に、こっちに呼んだの。麻酔がかかってるから、立っているのが精一杯」
「義体化?」
「危険な目にあったら、自動的にタイムリープするように、リープカプセルを幸子ちゃんの体に埋め込んでおいたの。こっちの世界に居ながらの操作で、手間取っちゃったけどね。それが、このラベンダーの香り」
「なんで、この幸子ちゃんが、義体化を……事故かなんかか?」
「ううん。向こうの戦争に使うため。幸子ちゃんを作戦の立案と指令のブレインにしようとしたのよ。わたしとほとんど同じDNAだから狙われたのね」
「おまえは命を狙われてるのに……」
「それが、6・25%の違い。この幸子ちゃんは、わたしより従順なの……」

 その時、準備室のドアが音もなく開いた。

「だれ!?」
 こっちの幸子が一番先に気が付いた。
「……やっぱ、サッチャンは鋭いわね」

 そこには、甲殻機動隊副長の娘のねねちゃんが立っていた……。
 


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