大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・2『あらかわ遊園』

2018-09-20 07:02:12 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・2
 『あらかわ遊園』  
     


「残念、明日だったら『川の手荒川まつり』があったのに」

 友子が「チッ」と舌を鳴らした。


 結成四日目の家族は、連休の二日目を「あらかわ遊園」で過ごすしている。
 もっと他に有りそうなもんだと一郎は思ったが、妻の春奈と娘の友子の意見が一致したのだからしかたがない。

「荒川の名産品なんかが見られるんだって」
「荒川の名産見てもな……」
「荒川周辺て、再開発が進んで人口も増えてるから、マーケティングリサーチの値打ちあるかもよ」
「仕事の話はよそうぜ、休みなんだから」
「あなたは、新製品開発のプロジェクトチームなんだから、アンテナ張ってなきゃダメじゃん」
「ま、いずれにしろ、『川の手荒川まつり』は明日なんだから、仕方ないだろ」
「そういう態度がね……」
 と、夫婦ゲンカになりそうなところに、友子が戻ってきた。
「明日は、お墓参りだもんね。はい」
 友子は器用に持ったソフトクリームを配給した。とりあえずバニラ味の冷たさで、ヒートアップは収まった。
「ね、こっち、生まれたばっかりのヤギの赤ちゃんがいるよ!」
「走ったら、アイスおちるぞ!」
「そんなドジしませ~ん」

 ふれあい広場にいくと、親のヤギに混じって、生まれて間もない三匹の子ヤギがのんびりしていた。

 ここに来るのは、小さな子連れの親子が多く、鈴木一家は浮いて見えないこともないが、雰囲気は十分周りに馴染んでいた。 
「こんなのはディズニーランドや、スカイツリーじゃ味わえないもんね」
 子ヤギが、なにか楽しいのだろう、ピョンピョン跳ね出した。
「チャンス!」
 友子も、ピョンピョン跳ね出した。
「ねえ、タイミング計ってシャメって!」
 一郎は分からなかったが、春奈がすぐに反応した。シャメを連写モードにしたのだ。
「あは、これかわいい!」
「どれどれ」
 子ヤギ三頭と友子が、同時に空中浮遊しているように見える写真が二枚あった。
「あ~、これいいけど、おパンツ見えてる」
「いいわよこれくらい。健康的なお色気。ウフフ」
 それを聞きつけた女の子たちが遠慮無く覗きに来て「わたしもやる~!」ということで、あちこちで、おパンツ丸出しジャンプ大会になった。

 それを見て無邪気に笑っている友子は、アイドルといってもおかしくないほど明るい少女であった。

「ここだと、スカイツリーがよく見えるんだ!」
 観覧車に乗ったとき、めずらしく一郎が反応した。
「ね、穴場でしょ」
 友子が得意そう。
「ちょっとあなた、手を出して」
「え……」
「はやく、もうちょっと下!」
「ああ、こうね」

 友子の方が理解が早く、いいシャメが撮れた。まるで、友子が手の上に載せているようにスカイツリーが写っていた。

「荒川って、銭湯の数が日本一多いんだよ」
 スカイサイクルに乗っているときに、友子が言った。
「荒川の子って、そういうところで青春してるんだ。ちょっとオシャレじゃない?」
 そう言って、背中を向けると、友子はアリスの広場に向かった。今の友子の言葉に仕事のアイデアとして閃くものがあったが、お日さまのまぶしさでクシャミをしたら、吹っ飛んでしまった。まあ、一郎の職業意識というのは、この程度のものであり、同じ実生堂(みしょうどう)の社員としても、夫としても不足に感じるところだ。

「ここ、こっちに来て」

 セミロングの髪を川風にそよがせながら友子が手を振っている。

「どうしてここなの?」
 春奈が、ランチボックスを広げながら聞いた。
「ここはね、まどかと忠友クンが運命のデートをするとこなの」
「なんだい、それ?」
「これよ」
 友子が、リュックから青雲書房のラノベを出した。
「『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』……これ、ともチャンが行く学校じゃない!?」
「うん、ドジでマヌケだけど、わたし、この話も、登場人物も好き。こんな青春が送れたらいいなって思っちゃった。ね、ここ、なんでアリスの広場っていうか知ってる? 知ってる人!」
 友子が自分で言って、自分一人が手をあげた。
「あのね。荒川リバーサイドの頭文字。ね、ARSでアリス」
「ハハ、オヤジギャグ」
 春奈が笑う。
「オヤジの感覚って、捨てたもんじゃないと思うわよ。その『まどか』の作者も六十歳だけど、青春を見つめる目は、いけてるわよ。忠友クンが、キスのフライングゲットしようとしたとき、そのアリスの広場のギャグが出てくんのよ」
「ラノベか……」
 そう呟きながら、一郎も春奈も、サンドイッチをつまみながら『まどか』を読み始めていた。のめり込んで一章の終わり頃までくると寝息が聞こえた。
 友子が、ベンチで丸くなって居眠っている。

 一郎は、初めて友子に会った時のことを思い出した。

 羊水の中で丸まった友子は、天使のようで、とても三十年ぶりの再会とは思えなかった……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・25『序曲の終わり』

2018-09-20 06:48:42 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・25
『序曲の終わり』
    


 甲殻機動隊里中副長の娘のねねちゃんが立っていた……。

「あなたは……」
「この子は……」
「義体ね」
「ああ、中味は、グノーシスのハンス。性別・年齢不明だけど、いちおう味方だよ」
 ボクが安心すると、ねねちゃんは労るように言い添える。
「AGRの連中が、そっちのサッチャンを狙ってる。甲殻機動隊で保護させてもらうわ」
「そりゃありがたい。幸子、この子は、一応ねねちゃんと言って……」
「里中副長さんの娘さん」
「幸子、知ってたのか?」
「お兄ちゃんの記憶を読んだの」
「だったら話は早いや。甲殻機動隊なら安心できるからな」
「そう、じゃ、預かっていくわね……」

 ダメよ

 近寄ったねねちゃんを、幸子はさえぎった。

「そうはさせない。このサッチャンを利用しようとしているのは、あなただもん」

「え?」

 俺は混乱した。駅前で出会って以来、ねねちゃんは中身はハンスでも俺たちの味方だった。

「なにをバカなことを。わたしはハンス。あなたたちの味方よ……」
「違う。このサッチャンを使って、そちらの極東戦争を有利に運ぼうというのが、評議会の決定だものね」
「チ……心が読めるのねっ!」

 バッシャーン!

 ねねちゃんは窓ガラスを蹴破って、屋上に飛び出していった。
「サッチャンのこと見てて!」
 そういうと幸子も、破れた窓から屋上に飛び上がっていった。

「残念ながら、ヘリコプターは甲殻機動隊がハッキングしたみたいね。ここには来ないわ」
 かなた上空でヘリコプターが、お尻を振って飛び去るのが見えた。
「デコイの偽像映像もまずかったな」
 屋上で待ち伏せていた里中副長が、アゴを撫でながら言った。
「どうしてデコイと分かったの?」
「こっちのサッチャンは、兄貴と二人のときは絶対に笑わない。ニュートラルな時は、ニクソイまんまだ」
「評議会の結論が変わったのね……」
「ああ、美シリたちが工作してな。そういう情報のネットワーク化ができないのが、そっちの弱みなんだな」
「だから、サッチャンを使ってグロ-バルネットにしようと思ったのに……」
「ご都合主義なんだよ……」
「お父さん……」
「あばよ……」
 里中副長は、背中に隠し持っていたグレネードで、幸子が蹴りを入れる寸前のねねちゃんを始末した。

「殺しちゃったら、何も情報が得られないわ……」

「こいつに余裕を持たせると時間を止められてしまう。サッチャンの蹴りの気迫が、こいつの隙になった。礼を言うよ。ガーディアンがガード対象に救われてちゃ世話ねえけどな」
 そう言いながら、里中副長は、ねねちゃんの残骸をシュラフに詰め始めた。
「洗浄は、わたしがやっとく」
「すまん。ガードは、しばらく部下がやる。いちおう、義体はオレの娘だったから、始末ぐらいは、オレの手でしてやりたいんでな」
「始末なんて言わないで」
「じゃ、なんて……?」
「自分の口から言わなきゃ意味無いわ」
「……じゃ、言わねえ。ただハンスは」
「ハンスは、いま死んだわ。なにか?」
「……いや、なんでもねえ」
 そう言い残すと、里中副長は非常階段を降りていった。幸子は、屋上に残ったねねちゃんの生体組織から飛び散った血液と微細片を高圧ホースで流していった。

 ここまで……ここまでのことは、ここから起こるパラレル世界とグノーシス骨肉の争いに巻き込まれる戦いの序曲に過ぎなかった……。



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