アンドロイド アン・17
『アンと俺と台風・3』
ヤバイ!
ひとこと叫ぶと、アンは家の中へ駆け戻った。
この状況に卒倒しなかった俺は褒められていい。
たぶん、アンがアンドロイドだということを知っていたから、顔の右半分がパックリ割れて、目玉がドロリと唇の横まで垂れ下がっても、ヤバイと叫んだ口の中に目玉が入っても、入った目玉が耳元まで裂けて、閉じ切らない口と言うか裂けめの中で飴玉のように転がっても、卒倒はしなかった。しなかったどころか、卒倒した町田夫人を抱きとめて「おーい、アン!」と声を張り上げる余裕さえあった。
むろんスプラッター映画のデモを突然突き付けられたのと同じショックはあったけど、頭の芯の所が覚醒していた。
ウンショ。
見かけよりも重い町田夫人がずり落ちないように揺すりあげた時にドアが開いた。
「ごめんなさい、これでノープロブレムだから」
戻って来たアンの顔は元に戻っていた。
「その顔……」
「それより……」
アンは、暴風のためカーポートの隅に吹き寄せられている八つ手の病葉(わくらば)を手に持った。
「起こして」
「う、うん。町田さん、町田さん」
声を掛けながら揺すると「う~~ん」と二度ほど唸って気が付いた。
「あ、あたし……アンちゃん……」
「大丈夫ですか、町田さん?」
「え、ええ……アンちゃんの顔?」
「風で八つ手の葉っぱが飛んできて貼りついたんです、突然で、わたしもビックリして」
そう言いながら、右手の病葉をクルクル回して見せた。
「あ、あーなんだ。アハハ、わたしったら見っともない。ごめんなさいね、こんなオバサン介抱させちゃって」
「いえ、お怪我とかなくってよかったです」
「あ、それじゃ、くれぐれも気を付けてね」
そう言い残すと、メガホンをギュっと握りなおし、ヘルメットのストラップをキリリと締めて町内の見回りに戻っていった。
「新一が卒倒してれば……」
「ん?」
「あ、なんでもない」
ピークに差し掛かった台風の為に、アンの呟きを聞き逃した俺だった……。
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一憧れの女生徒