大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・高校演劇事始め『また逢う日まで・1』

2018-09-11 22:26:41 | ライトノベルベスト

高校演劇事始め『また逢う日まで・1』

 こう暑いと、屁も出えへんわ……    「鐘撞堂」の画像検索結果

 ツルハシを持ち上げた手を下ろし、まるで、そのバランスをとるために上げたような尻を、お天道様に向けて、勇夫はつぶやいた。

「屁も出んようじゃ、B29も墜とされへんわな」
 ゲンヤンが、首の汗をぬぐいながら賛同し、シャベルを、盛り土につきさした。
「シャベル放り出して、しゃべる奴があるか!」
 頭の上から、下手な洒落がが降ってきた。
 
 鐘突き堂……といっても、鐘そのものは春に金属供出させられて、鐘無しのしまりのないそこから、代用教員であり、この寺の住職でもある長田先生が作業を監督している。

「センセ、シャベルっちゅうのは敵性言語ですよ」
 土運びの動員にきていた、女学校一年の麻里子が言った。
「そやから、洒落で、叩きのめしたやないか」
「アハハ……」
 防空壕掘りにかり出された、二十人の生徒たちが一斉に笑い出した。
 今で言うオヤジギャグにでも笑っていなければ、腰くだけになってしまいそうに八方ふさがりで、栄養失調な中学一年生や女学生たちであった。

「昼にはラジオで重大放送があるさかいに、それまでにアラアラにでも掘りあげなあかんで」

 長田先生は、南の空を見上げた。

「今日は、グラマンも来いしませんね……」
 クラスで一番目が良く、予科練志望の駿夫が先生の気持ちを代弁した。
「……なにか重大な攻撃の前触れやろか」
「さあ、ボサッとしてんと掘らんか!」
 長田先生は、見透かされた不安を打ち払うように檄を飛ばした。生徒達も、山に松根油を掘りに行かされた班よりもマシと精を出した。

 昼前に村人達が、寺の本堂に集まって、ラジオの前でかしこまり始めた。生徒たちは入りきれないので、本堂の縁側で正座した。
 
 重大放送が流れたあとは、ひとしきりの蝉時雨しか聞こえなかった。

「……日本は負けてしもた」

 長田先生が虚脱したようにつぶやいた。

 勇夫たちは、鐘突き堂の防空壕に目をやった。

 その穴だけの防空壕は、そのまま勇夫たちの心に開いた、まさに穴であった。「ポッカリ」という言葉が頭に浮かんだ。
 敗戦の衝撃よりも、湧きだしてきた徒労感をもてあました……。


  つづく

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・16『グノーシス・片鱗』

2018-09-11 06:23:22 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・16

『グノーシス・片鱗』    


 大きな破片が目の前に迫ってきた。

 あんなものを、まともに食らったら死んじまう!
 思わず目をつぶる……直後に来るはずの衝撃やら痛さが来ない。
 薄目を開けると、破片が目の前二十センチほどのところで止まっていた。
 ショックのあまり、体を動かせず目だけを動かす。

 ……時間が止まっていた。

 様々な破片が空中で静止し、逃げかけの生徒が、そのままの姿でフリ-ズしている。
 加藤先輩は、一年の真希という子の襟首を掴んで、中庭の石碑の陰に隠れようとしている。ドラムの謙三は、意外な早さで、向こうの校舎の柱に半身を隠す寸前。祐介は、途中で転んだ優奈を庇って、覆い被さり、その背中に、飛行機の折れたプロペラが、巨大なナイフのように突き立つ寸前。まるで『ダイハード』の映画のポスターを3Dで見ているようだった。

 目の前の破片が、ゆっくりと横に移動した……破片は、黒い手袋に持たれ、ボクの三十センチほど横で静止した。当然手だけが空中にあるわけではなく、手の先には腕と、当然なごとく体が付いていた。

 黒いジャケットと手袋という以外は、普通のオジサンだ。なんとなくジョニーデップに似ている。
「すまん、迷惑をかけたな」
 ジョニーデップが口をきいた。
「こ……これは?」
「まず、自己紹介をさせてくれ。ボクはハンスという。ややこしい説明は、いずれさせてもらうことになるが、とりあえず、お詫びするよ」
「これ……あんたが、やったのか!?」
「いや、直接やったのはぼくじゃない。ただ仲間がやったことなんで、お詫びするんだよ。もう正体は分かってるぞ。ビシリ三姉妹!」

「……だって」
「……やっぱ」
「……ハンス」

 柱の陰から、三人の女生徒が現れた。さっき俺がお尻に目を奪われ、優奈にポコンとされた三人だ。
「まだ評議会の結論も出ていないんだ。フライングはしないでもらいたいね」
「まどろっこしいのよ、危険なものは芽のうちに摘んでしまわなくっちゃ!」
 真ん中のカチューシャが叫んだ。
「あの、勇ましいのがミー、右がミル、左がミデット。三人合わせてビシリ三姉妹」
「美尻……?」
「ハハ、いいところに目を付けたね。あの三姉妹は変装の名人だが、こだわりがあって、プロポーションはいつもいっしょだ。スーパー温泉、電車の中、そしてこの女子高生。みんな、この三人組だよ」
「おまえらがやったのか、こんなことを!?」
「まあ、熱くならないでくれるかい。あと四十分ほどは時間は止まったままだ。その間にキミにやったように、ここの全員の危険を取り除く。太一クン、キミはその間に、妹のメンテナンスをしよう。今度はレベル8のダメージだろう。ほとんど自分で体を動かすこともできない。保健室が空いている。ほら、これで」
 ハンスは、小さなジュラルミンのトランクのようなものをくれた。
「要領は知っているな、急げ。ここは、わたしとビシリ三姉妹で片づける。さあ、ビシリ、おまえらのフライングだ。始末をつけてもらおうか!!」
「「「はい!」」」
 美尻……いや、ビシリ三姉妹がビクッとした。

「メンテナンス」

 そう耳元でささやくと、幸子の目から光がなくなった。だけどハンスが言ったようにダメージがひどく、幸子は自分で体が動かせない。しかたなく、持ち上げた。思いの外重い。思うように持ち上がらない。
「幸子の体重が重いんじゃない。死体同然だから、重心をあずけられないんだ。こうすればいい……」
 ハンスは、幸子を背負わせてくれた。
「せっかくなら、運んでくれれば」
「血縁者以外の者が触れると、それだけでダメージになるんだ。すまんが自分でやってくれ」

 保健室のベッドに寝かせ、それからが困った。前のように、幸子は、自分で服を脱ぐことができない……。

「ごめん、幸子」
 そう言ってから幸子を裸にした。背中の傷がひどく、肉が裂けて金属の肋骨や背骨が露出していた。
「こんなの直せんのかよ……」
 ボクは、習ったとおり、ボンベのガスをスプレーしてやった。すると筋肉組織が動き出し、少しずつ傷口が閉じ始めた。脇の下が赤くなっていた。さっきハンスが背負わせてくれたとき触れた部分だ。そこを含め全身にスプレーした。やっぱ、他人が触れてはいけないのは事実のようだ。
「ウォッシング インサイド」
 幸子の体の中で、液体の環流音はしたが、足が開かない。すごく抵抗(俺の心の!)はあったが、膝を立てさせ、足を開いてやり、ドレーンを入れてやった。
「ディスチャージ」
 幸子の体からは、真っ黒になった洗浄液が出てきた。
「オーバー」

 幸子の目に光が戻ってきた。

「早く服を着ろよ」
「ダメージ大きいから、まだ五分は体……動かせない」
 仕方がないので、下着だけはつけさせたが、やはり抵抗がある。
「……オレ、保健室の前で待ってるから」

 五分すると、ゴソゴソ音がして、幸子が出てきた。なぜか、ボロボロになった制服はきれいになっていた。
「服は、自分で直した。中庭にもどろ」
 憎たらしい笑顔……どうも、これには慣れない。

「あなたたち、グノーシスね」

 中庭での作業を終えたハンスとビシリ三姉妹に、幸子が声をかけた。
「オレたちの記憶は消去してあるはずだが」
「わたし、メタモロフォースし始めている。グノーシスのことも思い出しつつある」
「悪い兆候ね……」
 ビシリのミーが言った。
「どうメタモロフォースしていくかだ。結論は評議会が出す。くれぐれも勝手なことはしないでくれよビシリ三姉妹」
「評議会が、ちゃんと機能してくれればね」
「とりあえず、俺たちはフケルよ。二人は、あそこに居な」
 ハンスは、視聴覚教室の窓の真下を指した。
「あんな、危ないとこに?」
「行こう、あそこが安全なのは確かだから」
 幸子が言うので、その通りにした。
「もっと、体を丸めて。この真上を破片が飛んでくるから」
 幸子に頭を押さえつけられた。その勢いが強いので、尻餅をついた。
「じゃ、三秒で、時間が動く。じゃあな」
 そういうと、ハンスとビシリ三姉妹が消え、三秒後……。

 グワッシャーン!!!!!!!

 バグっていたアクション映画が、急に再生に戻ったような衝撃がやってきた……。
 


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