アンドロイド アン・16
『アンと俺と台風・2』
ビル風というのがある。
道の両側が高いビルとかになっていると、その狭くなった空間を風が吹き抜けるので倍以上の風速になるってやつだ。
そのビル風の数倍数十倍の威力になったような突発的な暴風が吹く。
普段は意識しないんだけど、俺んちの前と後ろ。それぞれ通り二つ隔てて三階建てと十階建てのマンションがある。
けっこう距離が空いていてビル風現象が起こっているとは思わないんだけど、暴風ははっきりとビル風現象を増幅させている。
ブオーーービュッ!ビュッ! ブオーーービュッ!ビュッ!
いかにも絶賛増幅中という暴力的な風音。
ボン!
キャ!
特大の風船が破裂するような音が響き、アンがしおらしい悲鳴を上げる。
破裂音にもビックリしたが、アンの悲鳴にも驚く。アンがうちに来て以来悲鳴を上げるのは初めてだ。
「大丈夫か!?」
思わず肩を抱いてしまう。アンを気遣いながらも、男らしい庇い方だと自分の行動に胸が、ちょっぴりだけど熱くなる。
「う、うん、ちょっとビックリしただけ」
寄り添うと、微かに震えている。
な、なんだ、この小動物みたいな可憐さは?
「ちょっと様子を見てくる」
「あぶないよ!」
「大丈夫、二階の出窓から見るだけだ」
見に行って驚いた。
カーポートのアクリル屋根が一枚割れて、二枚が千切れかけてバタバタしている。
あれがぶっ千切れたら、ご近所の窓やら壁やらに突き刺さって大変なことになる。
ちょっとビビったけど、軍手をはめて外す決心をする。
「アンはうちの中に居ろ!」
そう言ったにもかかわらず、アンは健気にも手伝いに出てきた。
あなたたちーーーーだいじょーーーーーぶーーーーー!?
風下の方から風混じりの声がした。
町田夫人がヘルメットにメガホンを持って近所の様子を見て回っているのだ。
日ごろお節介なオバサンだと思っていたが、さすが自治会長の嫁、緊急時には遺憾なく観周りをされているようだ。
「アクリル板を取ったら中に入ります!」
「待ってなさい、手伝うわ!」
「「あ、ありがとうございます!」」
二人そろって声をあげた時だった……
バン!!
一瞬猛烈な風が吹いて、千切れかけていたアクリル板が吹き飛んだ!
ウグ!
くぐもった悲鳴がした。
「大丈夫かアン!?」
「大丈夫だよ……」
言葉に反して、アンの顔右半分はパックリ割れて生体組織が血まみれで露出し、目玉がドロリと垂れ下がっているではないか!
キャーーーーー!
悲鳴をあげて卒倒したのは、カーポートの傍まで来ていた町田夫人だった……
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一の憧れ女生徒