大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・16『アンと俺と台風・2』

2018-09-10 12:31:25 | ノベル

アンドロイド アン・16

『アンと俺と台風・2』

 

 

 ビル風というのがある。

 

 道の両側が高いビルとかになっていると、その狭くなった空間を風が吹き抜けるので倍以上の風速になるってやつだ。

 そのビル風の数倍数十倍の威力になったような突発的な暴風が吹く。

 普段は意識しないんだけど、俺んちの前と後ろ。それぞれ通り二つ隔てて三階建てと十階建てのマンションがある。

 けっこう距離が空いていてビル風現象が起こっているとは思わないんだけど、暴風ははっきりとビル風現象を増幅させている。

 ブオーーービュッ!ビュッ! ブオーーービュッ!ビュッ!

 いかにも絶賛増幅中という暴力的な風音。

 ボン!

 キャ!

 特大の風船が破裂するような音が響き、アンがしおらしい悲鳴を上げる。

 破裂音にもビックリしたが、アンの悲鳴にも驚く。アンがうちに来て以来悲鳴を上げるのは初めてだ。

「大丈夫か!?」

 思わず肩を抱いてしまう。アンを気遣いながらも、男らしい庇い方だと自分の行動に胸が、ちょっぴりだけど熱くなる。

「う、うん、ちょっとビックリしただけ」

 寄り添うと、微かに震えている。

 な、なんだ、この小動物みたいな可憐さは?

「ちょっと様子を見てくる」

「あぶないよ!」

「大丈夫、二階の出窓から見るだけだ」

 

 見に行って驚いた。

 

 カーポートのアクリル屋根が一枚割れて、二枚が千切れかけてバタバタしている。

 あれがぶっ千切れたら、ご近所の窓やら壁やらに突き刺さって大変なことになる。

 ちょっとビビったけど、軍手をはめて外す決心をする。

「アンはうちの中に居ろ!」

 そう言ったにもかかわらず、アンは健気にも手伝いに出てきた。

 

 あなたたちーーーーだいじょーーーーーぶーーーーー!?

 

 風下の方から風混じりの声がした。

 町田夫人がヘルメットにメガホンを持って近所の様子を見て回っているのだ。

 日ごろお節介なオバサンだと思っていたが、さすが自治会長の嫁、緊急時には遺憾なく観周りをされているようだ。

「アクリル板を取ったら中に入ります!」

「待ってなさい、手伝うわ!」

「「あ、ありがとうございます!」」

 二人そろって声をあげた時だった……

 

 バン!!

 

 一瞬猛烈な風が吹いて、千切れかけていたアクリル板が吹き飛んだ!

 ウグ!

 くぐもった悲鳴がした。

「大丈夫かアン!?」

「大丈夫だよ……」

 言葉に反して、アンの顔右半分はパックリ割れて生体組織が血まみれで露出し、目玉がドロリと垂れ下がっているではないか!

 

 キャーーーーー!

 

 悲鳴をあげて卒倒したのは、カーポートの傍まで来ていた町田夫人だった……

 

☆主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 

 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・15『墜落』

2018-09-10 06:46:58 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・15
『墜落』
    


 幸子は、また路上ライブを始めるようになった。

 ただ、前回のように、無意識な過剰適応で、やっているわけではなく。しっかり自分の意思でやっている。
 また、演奏する曲目も「いきものがかり」にこだわることなく、そのときそのときの聴衆の好みにあわせているようで、流行のAKRやおもクロ、懐かしのニューミュージック、フォークや、どうかすると演歌まで歌っていることがある。
 そして、場所は、地元の駅前では狭いので、あべのハルカスや、天王寺公園の前など、うまく使い分けていた。パーッカッションを兼ねて、佳子ちゃんが見張りに立ち、お巡りさんが、やってくると場所替えをやる。
 過剰適応ではないので、口出しはしない。幸子は、そうやって自分に刺激を与え、自分の中の何かを目覚めさせようとしているように思えた。

「サッチャン、なかなええやんか」

 加藤先輩が動画サイトの幸子を見ながら頬杖をついた。
 加藤先輩は、ご機嫌がいいと、この頬杖になる。演奏中だったりすると、肩から掛けたアコステの上で腕組みしたりする。そういうマニッシュなとこと、乙女チックなとこが共存しているのが、この人の魅力でもある。
「みんなも、よう観とき。このノリと観客の掴み方は勉強になるで」
 加藤先輩は、パソコンに写っていた動画を、大型のプロジェクターに映した。
 視聴覚教室にいるみんなが、プロジェクターに見入った。
「かっこええなあ……」
「ノリノリや……」
「やっぱり、お客さんがおると、ちゃうなあ」
「ハハ、祐介は、お客さんがいててもいっしょやで」
「そうや、祐介はただの自己陶酔や」
 視聴覚教室に笑いが満ちた。

 当の本人は、ケイオンの活動日ではないので、演劇部の練習をしている。

――あいつら、なんでトスバレーなんかやってんだ――
 窓から見える中庭で、演劇部の三人がトスバレー……と思ったら、エアートスバレーだった。ボール無しで、バレーをやっている。
――あれか、無対象演技の練習というのは――
「どれどれ」
 優奈たち女の子が興味を持って見始めた。それに気づいて、幸子が手を振る。仕草が可愛く。ケイオンの外野が「カワイイ」なんぞと言い出した。あれがプログラムされた可愛さであることを知っているのは俺だけだ。
「これから、エアー大縄跳びやるんです。よかったら、いっしょにやりませんか?」
「面白そうやん!」
 加藤先輩が、窓辺で頬杖つきながら言った。

「ああ、また山元クンで絡んでしもた!」

 不思議なもので、縄はエアーなのに、みんな、この見えない縄に集中している。で、さっきから、演劇部の山元が、よく絡んで失敗になる。このエアー縄跳びは、幸子のマジックではない。ちゃんとした芝居の基礎練習なのだ。ケイオンのみんなが加わったので、場所もグラウンドに移し、四十人ほどのエアー大縄跳びになった。チームも二つに分けて競争した。連続十五回で幸子たちのチームが勝ってグラウンド中が拍手になった。
「ああ、もう息続かへんわ……」
 加藤先輩たちが、陽気にヘタってしまった。

 そんなボクたちを見ている視線に、微妙な違和感を感じた。

 違和感の方角には三人の三年生の女子がいた。他のみんなのようににこやかに、ぼく達をみていたが、ヘタったので、笑いながら、食堂の方に行った。
 その後ろ姿……正確にはお尻に目がいった。どうして、このごろ形の良いお尻に目がいってしまうんだろう。
「どこ見てんねん!」
 優奈に、頭をポコンとされた。
「よかったら、サッチャンのライブの動画見ない?」
 加藤先輩の気まぐれ……いえ、発案で、ケイオン、演劇部合同で、幸子のライブ鑑賞会になった。
「ヤダー、恥ずかしいです」
 幸子は、新しくプログラムした可愛さで、照れてみせた。ボクには優奈と六歳の優子ちゃんのそれを足して二で割ったリアクションであることが感じられた。知らないみんなはノドカに笑っている。空には、そのノドカさを際だたせるように、ゆったりと八尾飛行場に向かう軽飛行機の爆音がした。

 それは動画を再生していて五分ほどして起こった。

 みんな逃げて!

 幸子が叫んだ。飛行機の爆音が微かにしていたが、幸子が暗幕ごと窓を開けると、軽飛行機が上空で鮮やかな捻りこみをやって、この学校、いや、視聴覚教室を目がけて突っこんでくるのが分かった。

 こういうとき、人間というのは、急には動けないものであることを実感した。
「みんな、窓から飛び降りて!」
 幸子が、反対側の窓を全部開けて叫んだ。視聴覚教室は一階にあるが、窓の位置が少し高く、女の子などは躊躇してしまう。
「男子が先。で、下で女子を受け止めて!」
「よっしゃ!」
 男子たちが叫び、女子が飛び降りる。爆音が、すぐそこまで迫ってきた。
「お兄ちゃんも、早く」
 ニクソイ冷静さで言うと、幸子はボクを窓の外に放り出した。景色が一回転して中庭の植え込みに落ちた。目の端に窓辺に片脚をかけ、窓から飛び出そうとする幸子が見えた。パンツ丸見え……そう思ったとき、視聴覚教室に飛行機が突っこみ爆発、炎と破片と共に幸子は吹き飛ばされた。幸子は中庭の楠に背中から激突、逆さの「へ」の字のようになって落ちていった。

 人間なら命はないだろう……。


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