アンドロイド アン・15
『アンと俺と台風・1』
久々の大型台風だった。
だったと、テレビとかで言ってるけど、十七年の人生経験しかないので、比較対象になる五十年前の台風を知ってるわけじゃない。
でも、我が家的には未曽有の被害を被ったので、実感としては『大型台風』そのものだ。
「新一、雨漏りしてる!」
アンが指摘したのは、警報が出て臨時休校が決まって二度寝を決め込もうと思った時だ。
「雨漏り?」
「どこが漏ってる?」
「さあ……でも漏ってる音がする」
「音があ?」
耳を澄ますが俺には聞こえない。アンはアンドロイドなんで聴力とかの五感も優れているんだろう。
「場所も分かったりしないのかあ、アンドロイドなんだからさあ」
そうボヤいたのは、二階の天井を見過ぎて首が痛くなった時だ。
「だって、ナチュラルモードなんだもん」
「え、そんなの初めて聞いたぞ」
「新一を甘やかさないためのプログラム、自分じゃ解除できないの、ごめん」
可愛く手を合わせやがる。
これをやられると何も言えなくなってしまう。俺んちに来た頃はやらなかったから、学習したか、俺に合わせたプログラムが起動したか。
三度目の天井観察をやって発見した。
雨漏りはクローゼットの中だった。クローゼットの外は外壁で、外壁はそのまま屋根とくっ付いている。どうやら、その接合部分に横殴りの雨が吹きつけたんだろう。幸い雨水は壁を伝っているだけで、床や中の衣服を濡らすには及んでいない。
「とにかく服を出すぞ!」
「は、はい!」
可愛い声で腕まくりなんかしやがる。
んしょ んしょ……
眉をヘタレ八の字にして衣装ケースを運ぶところなんか、まさに非力な女子高生だ。町内運動会での怪力発揮を知っているので――なにをブリッコしやがって――なんだけど、あやうく萌えそうになる自分が情けない。
「天井にどんどん広がってくよ~」
オフホワイトの天井に年輪のようなシミが広がっていく。いっそ落ちて来れば鍋や洗面器で受け止められるんだけど、為すすべがない。
「屋根上がって直すしかないかなあ」
「だめよ、この暴風雨のさ中に!」
「だよな……あ、滴り始めた」
水平に見える天井でも僅かに凹凸があるんだろう、そこに集まった雨水が数か所で滴り始めた。
「なんとかしようよ新一」
けなげに空き缶で漏水を受けるアン。なんとかしてやらねばと腕を組む。
「よ、よし!」
閃いた俺は、古いバスタオルを出して、いちばんひどいところに吊るした。
「あ……すごいすごい!」
バスタオルに吸引されて、天井の漏水は一か所に集まり始めた。あとは、バスタオルの限界を超えて落ちてくる雨水を洗面器に受けるだけだ。
滴る雨水は、やがて洗面器にリズムを刻み始める。
ピタン ポチャン ピタン ポチャン
二人で体育座りして、雨だれの音を聞く。
外は暴風雨のさ中なのに、とても穏やかなひと時になった。
しかし、台風は、これでは収まらなかった……
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一の憧れ女生徒
赤沢 新一の遅刻仲間
早乙女采女 学校一の美少女