大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・15『アンと俺と台風・1』

2018-09-06 14:10:03 | ノベル

アンドロイド アン・15
『アンと俺と台風・1』

 

 

 久々の大型台風だった。

 

 だったと、テレビとかで言ってるけど、十七年の人生経験しかないので、比較対象になる五十年前の台風を知ってるわけじゃない。

 でも、我が家的には未曽有の被害を被ったので、実感としては『大型台風』そのものだ。

「新一、雨漏りしてる!」

 アンが指摘したのは、警報が出て臨時休校が決まって二度寝を決め込もうと思った時だ。

「雨漏り?」

「どこが漏ってる?」

「さあ……でも漏ってる音がする」

「音があ?」

 耳を澄ますが俺には聞こえない。アンはアンドロイドなんで聴力とかの五感も優れているんだろう。

「場所も分かったりしないのかあ、アンドロイドなんだからさあ」

 そうボヤいたのは、二階の天井を見過ぎて首が痛くなった時だ。

「だって、ナチュラルモードなんだもん」

「え、そんなの初めて聞いたぞ」

「新一を甘やかさないためのプログラム、自分じゃ解除できないの、ごめん」

 可愛く手を合わせやがる。

 これをやられると何も言えなくなってしまう。俺んちに来た頃はやらなかったから、学習したか、俺に合わせたプログラムが起動したか。

 三度目の天井観察をやって発見した。

 雨漏りはクローゼットの中だった。クローゼットの外は外壁で、外壁はそのまま屋根とくっ付いている。どうやら、その接合部分に横殴りの雨が吹きつけたんだろう。幸い雨水は壁を伝っているだけで、床や中の衣服を濡らすには及んでいない。

「とにかく服を出すぞ!」

「は、はい!」

 可愛い声で腕まくりなんかしやがる。

 んしょ んしょ……

 眉をヘタレ八の字にして衣装ケースを運ぶところなんか、まさに非力な女子高生だ。町内運動会での怪力発揮を知っているので――なにをブリッコしやがって――なんだけど、あやうく萌えそうになる自分が情けない。

「天井にどんどん広がってくよ~」

 オフホワイトの天井に年輪のようなシミが広がっていく。いっそ落ちて来れば鍋や洗面器で受け止められるんだけど、為すすべがない。

「屋根上がって直すしかないかなあ」

「だめよ、この暴風雨のさ中に!」

「だよな……あ、滴り始めた」

 水平に見える天井でも僅かに凹凸があるんだろう、そこに集まった雨水が数か所で滴り始めた。

「なんとかしようよ新一」

 けなげに空き缶で漏水を受けるアン。なんとかしてやらねばと腕を組む。

「よ、よし!」

 閃いた俺は、古いバスタオルを出して、いちばんひどいところに吊るした。

「あ……すごいすごい!」

 バスタオルに吸引されて、天井の漏水は一か所に集まり始めた。あとは、バスタオルの限界を超えて落ちてくる雨水を洗面器に受けるだけだ。

 滴る雨水は、やがて洗面器にリズムを刻み始める。

 ピタン ポチャン ピタン ポチャン

 二人で体育座りして、雨だれの音を聞く。

 外は暴風雨のさ中なのに、とても穏やかなひと時になった。

 

 しかし、台風は、これでは収まらなかった……

 

☆主な登場人物

 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一の憧れ女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 早乙女采女 学校一の美少女

 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・11『憎たらしさの秘密・2』

2018-09-06 06:57:16 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・11

『憎たらしさの秘密・2』    

 

 

「幸子、裸になって」
「……はい」

 
 無機質な返事をすると、幸子は、着ているものをゆっくり脱ぎ始た……。

 妹とはいえ、年頃の女の子の裸なんて見たことなかった。でも、不思議と冷静に見ていることができた。幸子の無機質な表情のせいかもしれない。これから顕わにされる秘密へのおののきだったかもしれない。

 幸子は、きれいなな体をしていた。その分、左の腕と脚の傷が痛々しい。
 お母さんは、小さな殺虫剤ぐらいのスプレーを幸子の体にまんべんなく吹き付けた。
「幸子は、心身共に未熟なの。だから、肌もこうやってケアするのよ」
 ラベンダーの香りがした。幸子が風呂上がりにさせていた香りだ……驚いたことに、傷がみるみるうちに消えていく。
「メンテナンス」
 お母さんが、そう言うと、幸子はベッドで仰向けになった。
「ウォッシング インサイド」
 幸子の体から、なにか液体が循環するような音がしばらくした。電子音のサインがして、指示が続く。
「スタンバイ ディスチャージ」
 幸子は両膝を立てると、静かに開いた。さすがにドキリとして目を背ける。
「見ておくんだ。緊急の時は、お前がやらなきゃならないんだからな」
「ドレーンを」
「うん」
 まるで、簡単な手術のような手際だった。
「ここにドレーンを入れるの。普段なら、こんなもの使わずに、本人がトイレで済ませるわ。太一、あんたに知っておいてもらいたいから、こうしてるの」
「う、うん」
 お父さんがドレーンの先を、ペットボトルに繋いだ。
「ディスチャージ」
 ドレーンを通って、紫色の液体が流れ出し、ペットボトルに溜まっていく。
「レベル7だな」
「そうね、まだ未熟だから、ダメージが大きかったのね。ダメージが大きいと、この洗浄液が真っ黒になるのよ。ダメージレベルが6までなら、オートでメンテする、太一覚えた?」
「あ、うん」
「復唱してみて」
 ボクは、今までの手順をくり返して言った。
「オーケー。幸子メンテナンスオーバー」
 幸子は、服を着てベッドに腰掛けると、目に光が戻ってきた。
「これで、いざって時は、お兄ちゃんたよりだから。よ・ろ・し・く」

 あいかわらずの憎たらしさ。

「……じゃあ、幸子は五年生の時に一度死んだっていうこと?」
「ザックリ言えばね。脳の組織も95%ダメになったわ……」
「お父さんも、お母さんも、ほとんど諦めた……」
「でも、大学病院の偉い先生が、一人の学者を紹介してくれたの……時間はかかるけど、幸子は治るって言われて……」
「藁にもすがる思いでお願いしたら、幸子の体は別の手術室……いや……」
「実験室……みたいなところ」
「そこで……?」
「幸子そっくりの人形……義体が置かれていた……で、幸子の生きている一部の脳細胞を義体に移植した」
「分かり易く言えば、サイボーグね……」
「でも……あの体は、小学生……じゃないよ……」
「そう、あれは三体目の義体だ……あれで、義体交換はおしまいだ……そうだ」
「ずっと、十五歳のまま……?」
「いや……人口骨格は5%の伸びしろが……ごちそうさま」
「人工の皮膚や筋肉は、年相応に変化……させられる……そうよ。ごちそうさま」
 ボクたちは、夕食をとりながら、この話をしていた。幸子は安静にしている。

「問題は……心だ……」

 お父さんが、爪楊枝を使いながら言った。
「太一……あなたには、幸子、冷たいでしょ」
 お母さんが、お茶を淹れながら聞いた。
「冷たいなんてもんじゃない、憎たらしいよ。他人がいると普通なのに!」
 ボクは、唾とお新香のかけらと共に、一カ月溜まった思いを吐き出した。
「あれが、今の幸子の生の感情なんだ」
 お父さんは、顔にかかった唾とお新香のかけらをを拭きながら続けた。
「人前や、わたしたちに対するものは、プログラムされた反応に過ぎないの」
 と、テーブルを拭きながら、お母さん。
「いま、幸子は劇的に変化というか成長しはじめている。過剰適応と思われるぐらいだ。幸子の神経細胞とCPを遮断すれば、普通の十五歳の女の子のように反応はするが、それでは、幸子の成長を永遠に止めてしまうことになる」
「お母さんも、お父さんも、幸子のようなお人形は欲しくない。たとえぎこちなくとも、いつか、当たり前の幸子に戻ってくれるように、太一に対してだけは生の感覚でいてくれるようにしているの」
「だから太一、お前が見守っていてやってくれ。幸子は、お兄ちゃんが、一番好きなんだから……」
「お願い、太一……」
 お父さんも、お母さんも流れる涙を拭おうともせずに、すがりつくような目でボクを見る。
「……うん」
 ボクも、涙を流しながら頷いた。

 幸子が憎たらしい理由は分かった。
 しかし、まだボクたち親子は、幸子の秘密の半分も知ってはいなかった……。

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