大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・21『采女のスマホアプリ』

2018-09-27 14:45:07 | ノベル

アンドロイド アン・21

『采女のスマホアプリ』 

 

 

 放課後の食堂は憩いの場だ。

 

 パックジュースの一つも買えば、いつまでも喋ったり、昼寝を決め込んだり。

 第二次ベビーブームが高校生になるころに作られた食堂なので、座席に余裕がある。

 校舎の中では行儀にうるさい先生たちも、食堂では、あまりやかましいことを言わない。

 

 ウワーー、インスタ映えっすね!

 

 早乙女采女を取り巻いて、手下どもが采女の写メやら動画を絶賛している。

 どうも采女はスマホを新調し、珍しいアプリを入れて手下どもに見せびらかしている様子だ。

「これで驚いてちゃダメよ……こうやると……ほら!」

「「「「「「「オーーーーーー!!」」」」」」

 

 隣の島からでも良く分かった。

 

 スマホに取り込んだ画像が、どういう仕掛けか、スマホの画面の上で3Dと言うか、立体になって見えるのだ。

 テーブルに置かれたスマホの画面の上には、この秋流行のファッションに身を包んだ采女がフィギュアのように浮かんでいる。

「ホログラムの応用技術みたいね」

「スターウォーズとかであったわよね、レイア姫がアナキンに3Dレターを送ったりするの」

 玲奈が、お仲間と興味津々で見ている。

 普段だと、采女たちを眺めたりすると、逆に眼を飛ばされたりするんだけど、今日の采女は見せびらかしたいので、文句は言わない。

「ヨッチ、あんた撮ったげるわよ」

「え、わたしっすか?」

「遠慮しなくていいから、そこ立ってみ」

「え、あ、はい」

 ヨッチと呼ばれた手下は、写真写りに自信がないのか、ちょっと気まずそうに通路に立った。

「いくよ!」

 パシャリと撮って、数秒、ヨッチの3Dが浮き上がる。

「あ、いや、見ないでください」

 ヨッチはフルフルと両手を振るが、采女は遠慮なく操作して3D画像を倍ほどに拡大した。

「ほら、見てみ、ヨッチはスタイルいいのに、姿勢で損してるのよ。横から見たら猫背でしょ」

「あー、なるほど」

「次、トモエ!」

「は、はい」

「あんたは顔色、ほら、補整かけると、こんなに健康的」

「ユキは表情、ほら、目元と口元変えると……ね!」

 

 采女は、次々と手下を立たせてはホログラム映像にして批評している。

 

「ありかもしれない……」

 密やかにアンが感心した。

 はた目には、嫌がる手下たちを無理やり撮影して晒し者にしているようだが、一人一人改善すべき点を指摘してやって励ましているようにも見える。玲奈は眉をひそめているが、アンは分かっているようだ。

「いやあ、あたしたちに比べると、采女ねえさんなんか完璧っすね!」

「そんなことないわよ、服とかで誤魔化してるだけよ」

「「「「そんなことないです」」」」

「体つきがね、まだまだ子どもっぽくって、大人の魅力というにはね……夜になるとね、ほどよくむくみが出て、ちょっとだけマシにはなるんだけどね」

 残念ながら、そういう機能は付いては無いようだ。

 

 ブタまん半額! タイムサービスだよ!

 

 食堂のオバサンが、賞味期限の迫ったブタまんのタイムサービスを呼ばわる。

「ラッキー、わたし買って来る」

「自分が行きますよ」

「いいわよ、みんなで遊んでて」

 そう言うと、采女は、ブタまんの列に加わっていった。

「なかなかいい人なんだ……」

 アンは、さらに感心した。

「そうだ」

 アンは、チョイチョイと指を動かしてテーブルの上に仮想のインタフェイスを出した。

 俺は仕草で分かるんだけど、玲奈には、アンが暗算みたいなことをしているように見えている。

 

 え、あ、ちょ、ちょっ、ちょ、ヤバイ!

 

 手下たちが声をあげる。采女もブタまん一杯のトレーを持ったまま跳び上がる。

「ちょ、やめてえーーーーーー!」

 

 3Dの采女は、服を脱ぎだして、風呂に入る仕草をしている。

 あっという間にスッポンポンになると、鏡の前でポーズをつくりはじめる。

 慌てた手下が弄ると、3Dの采女はテーブルの上で等身大に拡大してしまった!

 

「み、見るなあーーーーー!!」

 

 電源を落とすまでの数秒間だったが、食堂に居るみんなが見てしまった。

 

「わ、悪いことをしてしまった……」

 今度はアンが落ち込んだ。

 アンは、アプリに時間経過の概念を与えたのが、状態ではなく、もろに時間を経過させてしまうため、入浴するときの采女を映し出してしまったのだ。

  

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・9『空飛ぶ女子高生』

2018-09-27 06:40:39 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・9
 『空飛ぶ女子高生』  
     


 本当に野球をやってるみたいだった。
 
 カキーン!
 

 友子の投げた球は、紀香によって、ショートへのいい当たりになった。

 友子は俊足で球を追いかけ、野球部が本気で練習している対角線方向のグランドまで追いかけ、バックスタンドと仮定していたバックネットのところでジャンプ。バシッっとグラブの音と手応え。勢いでジャージはブラが見えそうなところまでずり上がり、形のいいオヘソが野球部員達に丸見えになった。

「ナイスキャッチ!」

 野球部の諸君から、拍手と賞賛が送られた。
「どーも、すみませんね。本職の邪魔しちゃって」
 友子は頭を掻き掻き、自分たちのダイヤモンドに戻り、ボールを投げ返した。
「オーライ、オーライ……」
 そう言いながら、妙子が少し前進してボールをとった。 
「取れた!」
 妙子は、ウサギのように飛び上がって喜んだ。

「今のを、無対象演技って言うんだ」

 紀香は、妙子から白い歯を見せながら、見えないボールを受け取った。
「トモちゃんが入ったら、とたんにボールが見えるようになった」
 あたりまえである。紀香も友子も義体である。だから無対象の見えないボールでも。相手の投球や打球を見て、瞬時に弾道計算をして、着地点に走り、ボールを、その球速に見合ったリアクションで取る。おまけに打ったときや、球を捕ったときの「カキーン」「バシッ」ってな擬音までついている。妙子も、それにつられて目が慣れて、有るはずもないボールが見えたような気がしたのである。

 あとは、三人でダチョウ倶楽部のコントの真似や、AKBの『フライングゲット』なんかを練習した。これも、義体である友子と紀香には朝飯前である。取り込んだダチョウ倶楽部やAKBのパフォーマンスを、そのままやればいいのである。さすがに声まで変えることはしなかったが、呼吸や動きはダチョウ倶楽部のままである。まるで森三中がダチョウ倶楽部のモノマネをやったようなできである。
 AKBでは、さらにノッテしまい、友子が前田敦子。紀香が大島優子を完ぺきにコピー。調子に乗って声のボリュ-ムをマイク並にしたので、グランド中に響き、そのそっくりぶりに、グランドで練習していた運動部の諸君が手を休めて見入ってしまうほどであった。妙子は並の人間ではあるが感化されやすい性格で、声のボリュームだけは及ばなかったものの、指原程度のスタンスを維持できた。

「すごい、今日の演劇部、入部して一番おもしろかったです!」
 部室で着替えながら、妙子が興奮して言った。
「よかった。タエちゃん、このごろ練習してても引きがちだったもんね」
「そりゃ、白石先輩一人だけすごいんだもん。部活に来ても凹みますよ」
「でも。トモちゃんもすごいよね。タエちゃんを、あそこまで、その気にさせちゃったんだから」
 紀香は、義体としても、友子の力はすごいと思い始めていた。
「でも、演劇部のノリって、あれでいいんですか。お芝居の練習とか」
 友子はマットーな質問をした。
「いいのよ、今時ハンパな創作劇を五十分も我慢して見てるのはオタク化した演劇部だけ。これからの演劇部は違う線狙わなきゃだめだと思うの。演劇の三要素知ってる?」
「えーと?」
 と、妙子。
「戯曲、観客、俳優」
 友子があっさり答えた。
「そう、わたしは、この戯曲をもっと幅のあるものに解釈したいわけよ。硬いドラマだけじゃなくTPOに合わせたパフォーマンスにしたいの。今日やった野球の無対象やら、ダチョウ倶楽部、AKBのモノマネでも、練習中の運動部の手を止めて観客にしちゃう力があるじゃない」
「わー、今日の白石先輩カッコイイです(#^0^#)!」
「いやー、アハハ」

 などと言っているうちに、駅前までやってきた。昨日までタイ焼き屋があった店は閉められていて、○○不動産の看板がかけられていた。

「今度は、どんな店ができるんだろうね」
「駅前にはファストフ-ドのお店が少ないから、その手の店が入るんじゃないかしら」
 友子は、駅から半径百メートルの地図から検索して推論した。
「まあ、我らが新生演劇部のように、先を楽しみにしていようよ」
「オオ、新生演劇部! 新生ファストフ-ド!」
 と気炎を上げて、地下鉄の駅に向かった、改札に入ると妙子は下りに、友子と紀香は上りのホームに向かった。

「ちょっと付き合ってもらえません」
「友子、そういう趣味?」
「茶化さないで。マジな話なんです」
「どんな?」
「うちのクラスに長峰純子って、長欠の子が居るんです……」
「ちょっと、こんぐらがった事情がありそうね」
「ここからだと、ちょっと距離があるんですけど」
「じゃ、地上からいきましょうか」

 二人は、次の駅で降りると、手頃なビルの上にジャンプし、時速百キロ以上のスピードで街を駆け抜け、数分で長峰純子の高級住宅についた。

 二人の姿は、たまたま残業していたサラリーマンが目撃し、シャメって動画サイトに『空飛ぶ女子高生』のタイトルで投稿したがCGの合成だろうとコメントで叩かれた……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・32『チサちゃんの墓参り』

2018-09-27 06:30:56 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・32
『チサちゃんの墓参り』
    


 日ごと、チサちゃんの様子が変わってくる。

 チサちゃんは、向こうの世界の幸子で、ひいひい祖父ちゃんの一人が違う(向こうの世界では、新潟に原爆が落とされ、源一というその人は亡くなっている)けども、五代もたつと、ひいひい孫になる幸子とチサちゃんのDNAの違いは6・25%に過ぎず、見た目には、まったく区別がつかない。だから、こちらの世界で保護するときには、髪を短くしたり、眉の形を変えたりしたが、挙措動作はまるで同じ。幸子がプログラムモードのときなど、薄暗がりだと区別がつかなかった。

 それが、最近微妙に変わってきた。

 例えば、ティーカップを持つときに小指を立てるようになった。呼びかけて振り返ったりすると微に小首を傾げて、幸子とは違った可愛さになる。念のため、幸子が可愛いのはプログラムモードのときだけ(ボク以外の第三者がいるとき)で、本来のニュートラムモードでは、あいかわらず愛想無しの憎たらしさである。ま、幸子本来の神経細胞は数パーセントしか生きておらず、うまく感情表現ができないのは仕方がない。

「お父さんのお墓参りがしたいんです」

 チサちゃんが言い出した時は驚いた。チサちゃんの記憶は全てがバーチャルである。甲殻機動隊の担当が、元ゲ-ムクリエーターで、そいつが創り上げたもので、バーチャルであるための不足や、矛盾が当然ある。
「ここがお墓。この日曜日が四十九日だから」
 ウェブで検索したら、《佐伯家の墓》というのが実際出てきた。

『その程度のことなら、もうバーチャル処理済みだ』

 里中副長の一言で墓参りに行くことになった。

 半分ピクニックみたいなお気軽なもの……それはチサちゃん自身の提案。幸子の企画で、筋向かいの佳子ちゃん優子ちゃん、バンドのみんなに里中副長親子、その他まで付いてきた。
「おい、あれ、ナニワテレビの車じゃないのか?」
 こちらは、今やちょっとしたスターになった幸子の取材で追っかけてきている。最初のサービスエリアに着いた時は、うちの車、高機動車のハナちゃん、レンタルのマイクロバスに、放送局と四台も車が並んでしまった。

 お墓は高台の墓地の一角にあり、真新しいオブジェのような墓石が建っていた。

 佐伯雄一というのが、チサちゃんのお父さんということになっていて、お父さんとは従兄弟ということになっている。
 ナニワテレビのクルーも含め、みんなでお墓に献花し、本来なんの関係もない佐伯雄一さんの四十九日の法要を勤めた。里中副長が、なぜか浄土真宗の僧侶の資格を持っていて、導師を勤めてくれる。
「お父さんて、いくつ顔持ってんの?」
「資格だけで、五十八。あと、わたしのCPに登録されていないものも幾つか……わたしにも分かんない」
 ねねちゃんは、にっこりと答えた。ああ、この笑顔が青木拓磨をメロメロにしたんだなあ……俺自身、ねねちゃんのCPにインストールして、一日使っていた義体なので、なんとも懐かしかった。拓磨は、ねねちゃんのガードと称して、くっついてきているが、さすがにちょっかいは出さない。ねねちゃんを見る目が、女の子へのそれではなく、なにか師匠を見るような目になっている。
 
 目というと、ボクがねねちゃんと喋っていると、佳子ちゃんと優奈の視線を時々感じる。この視線は、のちのち面倒の種になるのだけど、鈍感な俺は、まだ何も気がついてはいなかった。

 献花の途中で、墓石の横を見ると、佐伯雄一の名前の横に佐伯千草子という名前が彫り込まれて赤く塗られていた。これは将来、チサちゃんもこの墓に入ることを意味していて、ボクは、さすがにやりすぎだろうと感じた。

 あとは、墓場を少し下ったところにあるキャンプ場で焼き肉パーティーをやった。ナニワテレビは気を利かしてカラオケのセットを貸してくれて、カラオケ大会になった。むろん抜け目なくカメラを回し、セリナさんは、ちゃっかり幸子の独占インタビューなんかやっている。

 あちこちで盛り上がっていると、肝心のチサちゃんが居ないことに気づいた。さっきまでいたのに……。

 チサちゃんは、墓場からつづら折れになった小道が下りきった、葉桜の側にいた。
 側に寄ってみると、木の向こうの誰かと話している様子だった。
「チサちゃん……」
 声を掛けると、チサちゃんが振り返る。木の向こうの人も顕わになって振り返った。

 その人の姿に見覚え……それは、墓で眠っているはずの佐伯雄一さんだった!
 


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