アンドロイド アン・21
『采女のスマホアプリ』
放課後の食堂は憩いの場だ。
パックジュースの一つも買えば、いつまでも喋ったり、昼寝を決め込んだり。
第二次ベビーブームが高校生になるころに作られた食堂なので、座席に余裕がある。
校舎の中では行儀にうるさい先生たちも、食堂では、あまりやかましいことを言わない。
ウワーー、インスタ映えっすね!
早乙女采女を取り巻いて、手下どもが采女の写メやら動画を絶賛している。
どうも采女はスマホを新調し、珍しいアプリを入れて手下どもに見せびらかしている様子だ。
「これで驚いてちゃダメよ……こうやると……ほら!」
「「「「「「「オーーーーーー!!」」」」」」
隣の島からでも良く分かった。
スマホに取り込んだ画像が、どういう仕掛けか、スマホの画面の上で3Dと言うか、立体になって見えるのだ。
テーブルに置かれたスマホの画面の上には、この秋流行のファッションに身を包んだ采女がフィギュアのように浮かんでいる。
「ホログラムの応用技術みたいね」
「スターウォーズとかであったわよね、レイア姫がアナキンに3Dレターを送ったりするの」
玲奈が、お仲間と興味津々で見ている。
普段だと、采女たちを眺めたりすると、逆に眼を飛ばされたりするんだけど、今日の采女は見せびらかしたいので、文句は言わない。
「ヨッチ、あんた撮ったげるわよ」
「え、わたしっすか?」
「遠慮しなくていいから、そこ立ってみ」
「え、あ、はい」
ヨッチと呼ばれた手下は、写真写りに自信がないのか、ちょっと気まずそうに通路に立った。
「いくよ!」
パシャリと撮って、数秒、ヨッチの3Dが浮き上がる。
「あ、いや、見ないでください」
ヨッチはフルフルと両手を振るが、采女は遠慮なく操作して3D画像を倍ほどに拡大した。
「ほら、見てみ、ヨッチはスタイルいいのに、姿勢で損してるのよ。横から見たら猫背でしょ」
「あー、なるほど」
「次、トモエ!」
「は、はい」
「あんたは顔色、ほら、補整かけると、こんなに健康的」
「ユキは表情、ほら、目元と口元変えると……ね!」
采女は、次々と手下を立たせてはホログラム映像にして批評している。
「ありかもしれない……」
密やかにアンが感心した。
はた目には、嫌がる手下たちを無理やり撮影して晒し者にしているようだが、一人一人改善すべき点を指摘してやって励ましているようにも見える。玲奈は眉をひそめているが、アンは分かっているようだ。
「いやあ、あたしたちに比べると、采女ねえさんなんか完璧っすね!」
「そんなことないわよ、服とかで誤魔化してるだけよ」
「「「「そんなことないです」」」」
「体つきがね、まだまだ子どもっぽくって、大人の魅力というにはね……夜になるとね、ほどよくむくみが出て、ちょっとだけマシにはなるんだけどね」
残念ながら、そういう機能は付いては無いようだ。
ブタまん半額! タイムサービスだよ!
食堂のオバサンが、賞味期限の迫ったブタまんのタイムサービスを呼ばわる。
「ラッキー、わたし買って来る」
「自分が行きますよ」
「いいわよ、みんなで遊んでて」
そう言うと、采女は、ブタまんの列に加わっていった。
「なかなかいい人なんだ……」
アンは、さらに感心した。
「そうだ」
アンは、チョイチョイと指を動かしてテーブルの上に仮想のインタフェイスを出した。
俺は仕草で分かるんだけど、玲奈には、アンが暗算みたいなことをしているように見えている。
え、あ、ちょ、ちょっ、ちょ、ヤバイ!
手下たちが声をあげる。采女もブタまん一杯のトレーを持ったまま跳び上がる。
「ちょ、やめてえーーーーーー!」
3Dの采女は、服を脱ぎだして、風呂に入る仕草をしている。
あっという間にスッポンポンになると、鏡の前でポーズをつくりはじめる。
慌てた手下が弄ると、3Dの采女はテーブルの上で等身大に拡大してしまった!
「み、見るなあーーーーー!!」
電源を落とすまでの数秒間だったが、食堂に居るみんなが見てしまった。
「わ、悪いことをしてしまった……」
今度はアンが落ち込んだ。
アンは、アプリに時間経過の概念を与えたのが、状態ではなく、もろに時間を経過させてしまうため、入浴するときの采女を映し出してしまったのだ。