大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

全国高校等学校演劇協議会・八戸北高校『手のひらの雪ひとつぶの溶けるまで』を思う

2018-09-18 21:57:10 | 評論

 懐かしの『手のひらの雪ひとつぶの溶けるまで』

 初出:2011-08-10 21:03:11

 

 あれは……1971年の浦和大会か、1972年の東京大会のいずれかでしたが、最優秀賞に、八戸北高校の『手のひらの雪ひとつぶの溶けるまで』が選ばれました。

 今日、全国大会の終了に気づき、ふと40年前のこの作品が思い出されました。全国大会には、つごう10回ほど行ったのですが、記憶力の悪いわたしは、最優秀受賞校というのは、この学校の、この作品しか思い出せません。

 春おそい東北の町に、一組の男女の高校生がいました。

 たしか女の子が、町の外……たぶん県外……東京だったような気がします。そこに女の子は越していくことになり、男の子は、さりげなく(今の言葉では「さりげに」と誤用します)お別れを告げにきます。「好きなんだ」などという直裁な言葉はありません。互いの身の回りの、さりげない話題に終始します。今の感覚では「もどかしく」感じると思います。そして、もどかしい話の中に二人を取り巻く環境や問題、そして、想いが伝わります。二人の間にも、観客にも……そして、手のひらの雪ひとつぶの溶けるまでの僅かな時間に、互いの想いが結晶します。溶ける間に結晶するというとても叙情的な劇でした……

 出会いがあり、たどたどしい、もどかしい、粉雪がふわふわと降るように展開していく物語。「別れ」という結末は、最初から予感されました。しかし、そこにいたる物語の中は、言葉にはならない優しい想いと思いやりに満ちていました。

 信じがたいことですが、純粋な東北弁で全編が語られます。河内(大阪のど真ん中)原人のわたしには半分も意味がわかりません。会場にいた東北の観客の人以外は皆同じだったと思います。でも、ホワホワと想いは伝わってきました。

 クスっとした笑い。ゆったりとした展開。ギャグも、奇抜な展開も、アクロバットのような身体表現もありません。しかし、起承転結の、芝居のチョウツガイになる部分は、言葉が分からなくてもしっかりわかりました。ラストは、ちょっぴり涙と、割れんばかりの拍手の中に幕が降りてきました。

 書いているうちに、「天皇はんのみかん」や「紙一枚」 そして、わが大阪の日比野諦観先生がお書きになった「海の見える離れ」 都島工業高校の「天国どろぼう」などの作品が思い出されてきました。そうそう、町井陽子先生の「山の動く日」……榊原先生の「外向168」なんかも思い出されてきました。いずれもドラマの構造が確かで、登場人物の彫りが深かったですね。

 ロートルのわたしは、昔の作品群が懐かしく思い出されます。

   大橋 むつお

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー・4『ふるさと』

2018-09-18 06:32:01 | ライトノベルベスト

栞のセンチメートルジャーニー・4
『ふるさと』
    


 気がつくと一面の菜の花だった。

「いったいどこなんだろう?」
「栞に分からんものが、オレに分かるか」

 前回はいきなり、昭和三十一年の秋。それも栞が堕ろされた病院のすぐ側、O神社の近くに飛ばされ、栞が堕ろされる状況を追体験してしまった。

 どうも、この地図と年表は使いこなすのが難しいようで、栞がフト頭に浮かんだ場所と時代に行ってしまうようだ。げんに今、栞は「いったいどこなんだろう?」と他人事のように言った。

「田舎の話してたんだよね」

 栞は、菜の花を一本手でもてあそびながら、遠足のような気楽さで歩いている。

「ここ、お母ちゃんの田舎じゃない?」

 そう言われて、周りを見渡すと、母の田舎である蒲生野とは、いくぶん様子が違う。遠くに見える山並みが、幾分いかつく。蒲生野特有の真宗寺院を中心とした村々が見えない。ところどころに灌木に混じって白樺のような木々が立ち上がり、ちょっとした林になっている。林の彼方には茅葺きの家がたむろした村が見えるが、蒲生野のように、家々が肩を寄せ合うような集村ではなかった。道も畦道ではなかったが、道幅のわりに舗装もされておらず、電柱も……送電鉄塔さえ視野に入らない。

「名の花畑に 入り日薄れ 見渡す山野端 匂い淡し 春風そよ吹く……♪」

 栞が『朧月夜』を歌っていると、一瞬風が強くなり、ソフト帽が転がってきた。

「お……」
 反射神経の鈍いわたしは拾い損ねた。
「ほい」
 栞は、菜の花で、ヒョイとすくい上げ、帽子は、道の脇を流れる小川に落ちずにすんだ。
「やあ、助かりました。ありがとうございます」
 信州訛りの言葉が追いかけてきた。
「はい、どうぞ」
 栞は、帽子の砂を払って、信州訛りさんに渡した。
「どうもです。いやあ、セーラー服なんですね。ハイカラだ、都会の方なんですね」
 この言葉と周りの様子、そして信州訛りさんのスーツの様子から、大正時代以前だと踏んだ。
「ええ、東京の方です。素性はご勘弁願いたいんですが、怪しいものじゃありません」
「ご様子から、華族さまのように……いえいえ詮索はいたしません。東京の方が、こんな信州の田舎にお出でになるだけで、嬉しく思います。あ、わたし、永田尋常小学校に勤めております高野辰之と申します」

「高野さん……」

「しがない田舎教師ですが、いつか東京に出て勉強のやり直しをやろうと思っています」
 大人びてはいるが、笑顔は少年のようだった。高野という名前にひっかかったが、調子を合わせておいた。
「あれは、妹ですが、ちょいと脳天気で……」
「失礼よ、お兄様。わたくし栞子と申します。兄は睦夫。今上陛下の御名から一字頂戴しておりますけど、位負けもいいところです」
「それは、それは……いやいや、そういう意味ではなく」
「ホホ、そういう意味でよろしいんですのよ」
「あ、いや、どうも失礼いたしました」
 高野さんは、メガネをとって、ハンカチで顔を拭いた。向学心と愛嬌が微妙なバランスで同居した顔だった。
「高野さん、ここは、まさに日本の『ふるさと』という感じですね。わたくし、感心……いえ、感動しました」
「それは、信州人として御礼申し上げます」
「兎を追ったり、小鮒を釣ったり、菜の花畑に薄れる入り日……山の端が、なんとも……」
「匂い淡し」二人は、この言葉を同時に口にして、若々しく笑った。

 それから、高野さんは、信州の自慢話を、本当に楽しそうに語った。しばらくすると、道の向こうから高野さんのネエヤが、高野さんを呼ばわる声がした。

「これは、とんだ長話をしてしまいました。それでは、これでご免こうむります」

 高野さんはペコリと頭を下げると、少年のような足どりで菜の花の中に消えた。

「栞、どうして栞子なんて言うたんや」
「だって、この時代、華族さまの娘なら、子の字が付いてなきゃ不自然……見て、山の上に朧月が出た!」

 戻ってきてから気が付いた。高野辰之は『ふるさと』や『朧月夜』『春がきた』などの国民的な童謡を作った人だ。栞は知ってか知らでか、ずいぶん作詞のヒントを与えたようだが、平気な顔をしてゲ-ム機に取り込んだ童謡を聴いている。ボクは、その印象が薄れないうちに、この短文を書いているが、しだいに朧月のようにあやふやになっていく……。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・23『幸子テレビに出る』

2018-09-18 05:59:39 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・23
『幸子テレビに出る』
    


「対馬戦争が最後のカギだったんです」

 桃畑中佐が、静かに言った。


「しかし、あれで、三国合わせて二千人の戦死者が出たんですよ。ロボットによる戦闘が膠着状態になったんだから、あのあとは外交努力による解決こそが望ましかったんじゃないですかね」
 メガネのキャスターが、正義の味方風に、桃畑中佐を責めた。
「あれで、当事国は目覚めたんですよ。多くの命を犠牲にしてまでやる戦争じゃないって」
「その結果南西諸島も対馬も日本の領土と確定はしましたけど、新たなナショナリズムを掻き立てたんじゃないんですか!」
「……あなたは、僕になにを言わせたいんですか」
「だから、極東戦争は、生身の人間が……あなたの部下も含めて、命を失ったことに反省がないことが問題だと思うんですよ。思いませんか!?」
 キャスターの声は、過剰な正義感に震えていた。
「不思議なことをおっしゃいますなあ。僕たちは、命令に従ったんです。軍人なんだから」
「軍人だって、心というものがあるでしょう。防衛法三十二条、第三項にあるじゃありませんか。指揮官が精神的あるいは、肉体的に正当な指揮判断ができなくなったときは、次席の指揮官、作戦担当者が指揮をとれる!」
「僕は、単なる一方面の前線部隊の指揮官に過ぎない。僕への命令は、大隊司令から、大隊司令は、方面軍司令から、方面軍司令は、統合幕僚長の作戦命令に従った。そして、その作戦実行にゴーサインを出したのは、内閣総理大臣です。この命令に従わないのはシビリアンコントロールの原則に反します……お分かりになれますか?」
「その大元が狂っていた。そういう世論もあるんですよ。現に内閣は、戦争終結直後に総辞職している」
「それは、亡くなった人たちへの鎮魂のためだと理解しています」
「なんにも分かってないなあ。桃畑さん、これは言わないつもりだったんだけど、対馬戦争の直前に亡くなった、妹さんの敵討がしたかっただけじゃないんですか!?」
 桃畑中佐の目が一瞬光った。
「ありえません、そんなことは」

 ボクは、そこでテレビのスイッチを切った。

 幸子が、路上ライブをやるようになってから、動画サイトへのアクセスが増え、先日はナニワテレビが学校まで取材にきた。

 そのときリクエストで、先代オモクロの『出撃 レイブン少女隊!』を亡くなった桃畑律子そっくりに演ったことが、評判を呼び、動画へのアクセスも二百万件を超えた。
 これを、一部のマスコミが意図的なナショナリズムを煽ったと非難し始めた。
 桃畑中佐は、ただ妹の思い出の曲としてリクエストしただけなのである。ただ、それだけのことにマスコミは桃畑中佐をスケープゴートにして、叩きはじめた。
「お兄ちゃん。わたしがやったことって、悪いことだったの?」
 あいかわらず、パジャマの第二ボタンが外れたまま、幸子が無機質に歪んだ笑顔で聞いてきた。
「そんなことはないよ」
「じゃ、決めた」
 そう言うと、幸子は自分の部屋で、なにやらガサゴソやりはじめた。

「ジャーン、オモイロクローバーX!」

 部屋からリビングに突撃してきたのは、往年のオモクロの桃畑律子そっくりになった幸子だった。
 幸子は、ナニワテレビからのオファーで、出演が決まっていて、早手回しに衣装を送りつけてきていた。

 《出撃 レイブン少女隊!》 

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために

 放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ

 世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート

 エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力

 手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!

 邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため

 わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上!


 スタジオは満場の拍手になった。別にADが「拍手」と書いたカンペを持って手をまわしていたわけでは無い。
 ナニワテレビは、世論には無頓着で、かえって逆なでするように、幸子のパフォーマンスを流した。
「この、曲のどこがナショナリズムや言うんでしょうね。我々オッサンには、ただただ眩しい人生の応援ソングに聞こえますが。どうも佐伯幸子ちゃんでした。後ろでワヤワヤ言うてるのは、サッチャンの学校、真田山高校のみなさんです!」
 三カメが、われわれをナメテいく。祐介も優奈も謙三もいる、佳子ちゃんまでも大阪人根性丸出しでイチビッテいる。正式な付き添いであるボクはその陰で小さくなっていた。

「似てるよなあ」
「そっくりやなあ」
「懐かしいて、涙出てくるわ」
「桃畑中佐はんも来はったらよかったのに」
「いや、今日はお仕事の都合で……」
 ゲストが喋っているうちに、次のコーナーの用意がされる。幸子は制服に着替え、最後のコーナーに出ることになっている。
「あと8分です」
 ADさんが小声で伝えてくれる。

 俺は楽屋に幸子を呼びに行った。あいつのことだ一分もあれば着替えている。

「俺だ、入るぞ……」
「どーぞ」
 入って、またかと思った。幸子は下着姿で、マネキンのように立っていた。
「言ってるだろ、いくら兄妹だってな……」
「向こうの幸子が、ちょっとあって、こっちに呼ぶ準備してるの……」
「向こうの……とにかく着替えろよ」
「うん……」
「早く!」
「手伝って、あと、もうちょっとだから……」
「あのなあ……」
「早く!」
「オレの台詞だ……バカ、脱ぐんじゃないよ、着るんだってば!」
 脱いだ下着の前後に一瞬戸惑ったが、なんとか三分ほどで、着せることができた。

 何度やっても、こういう状況には慣れない自分を真っ当なのか不器用なのか、判断が付きかねた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする