大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・33『葉桜の木陰で』

2018-09-28 06:41:09 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・33
『葉桜の木陰で』
    


「おや、キミも僕の姿がみえるようだね……そして、僕が何者かも」

 言われてみれば、その通りだ。死んだ人が見えたり、その人が佐伯雄一さんだというのは俺の思いこみだ。
「思いこみじゃない。キミたち、兄妹の力だよ」
「ボクたちの?」
「ああ、向こうの妹さんも気づいているようだが、気づかないふりをしてくれている」
「佐伯さんは、その……」
「幽霊だよ、今日は、こんなに賑やかに墓参りに来てくれたんで嬉しくてね」
「すみません、亡くなった方を、こんな風に利用して」
「パパは、そんな風に思ってないわよ、お兄ちゃん」
「パパ?」
「墓石の横に、千草子の名前が彫ってあっただろう」
「ええ、今度のことで、ある組織がやったんです。申し訳ありません」
「いや、あれは、元からあるんだよ。ただ、赤く塗ったのは、その組織の人たちだがね」
「それって……」
「千草子ちゃんは、実在の人物だったの」
「もう、十年前になる。僕たち夫婦は離婚して、千草子はボクが引き取っていた。家内は女ながら事業家で、世界中を飛び回り。僕は絵描きで、ほとんどアトリエ住まい。で、子育ては、僕の方が適任なんで、そういうことにしたんだ……」
「月に一回は、家族三人で会うことにしていたの」
 チサちゃんは、まるで自分のことのように言う。
「あのときは、別れたカミサンが新車を買ったんで、試乗会を兼ねてドライブにいったんだ……」

 ボクには、その光景がありありと見えた。

 六甲のドライブウェーを一台の赤い車が走っている。
 車はオートで走っていて、親子三人は、後部座席でおしゃべりしていた。
「昔は、自動車って、人間が運転していたの?」
 幼い千草子ちゃんが、興味深げに質問した。
「今の車だって、できるわよ。千草子が乗るような幼稚園バスや、パパの車は、いつもはオートだけどね」
「パパは、実走免許じゃないからね。車任せさ」
「あたし、実走免許取ったのよ」
「ほんとかよ!?」
「ストレス解消よ。そうだ、ちょっとやって見せようか!?」
「うん、やって、やって!」
 千草子ちゃんが無邪気に笑うので、ママは、その気になった。
「おい、この道は実走禁止だろ。監視カメラもいっぱい……」
「ダミー走行のメモリーがかませるの。ウィークデイで道もガラガラだし」
 ママは、千草子ちゃんを連れて、前の座席に移った。

 そして悲劇が起こった。

 同じように実走してくる暴走車と、峠の右カーブを曲がったところで鉢合わせしてしまった。不法な実走をする者は、監視カメラや衛星画像にダミー走行のメモリーをかますために、衛星からの交通情報が受けられない。二台の実走車は前世紀のロ-リング族同様だった。ママの車は、ガードレールを突き破り、崖下に転落。
 パパは助かったが、ママと千草子は助からなかった。
 そして、佐伯家の墓に、最初に入ったのは千草子だった。

「で、先月、やっとわたしもこの墓に入ることになったんですよ……」
「チサちゃんは?」
「転生したか、ママのほうに行ったか。ここには居ませんでした」
「そうだったんですか……」
「千草子が生きていれば、ちょうどこんな感じの娘ですよ」
「感じも何も、わたしは、パパの娘だよ。パパこそ自分が死んでるってこと忘れないでよ」
「ああ、もちろんだよ。千草子、なにか飲み物がほしいなあ」
「なによ、自分じゃ飲めないくせに」
「雰囲気だよ、雰囲気」
「はいはい」
 チサちゃんが行くと、佐伯さんは真顔になった。
「太一君」
「はい」
「幽霊の勘だけどね。しばらくは平穏な日々が続くが、やがて大きな争乱になる。どうか、千草子……あの娘さんのことは守ってやって欲しい。君たちは巻き込まれる運命にあるし、それに立ち向かう勇気も力もある」
「佐伯さん……」
 握った、その手は、生きている人間のように温かかった。

「お兄ちゃん、パパは?」

「日差しが強くなってきたんで、お墓に退避中」

 ボクのいいかげんな説明を真に受けて、幸子に呼ばれるまで、葉桜の側を離れようとしないチサちゃんだった……。


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・10『友子のダイハード・1』

2018-09-28 06:33:12 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・10
 『友子のダイハード・1』  
     


 純子の家は高級住宅街にある。

 高級住宅街と言っても、住宅が高級なのであって、住んでいる住人の品位まで保証するものではない。たいがい一代成金の芸能人や、会社の経営者や、儲け主義の医者などが多く、自然と、それが家の佇まいにも現れ、家を実際以上に大きく見せたり、一流建築家の住宅展示場を思わせるものが多かった。
 しかし、純子の家は違った。できるだけ小さく見えることをコンセプトにしているようで、建物にも外構にも大理石などという賤しげなものは使われておらず、屋根瓦も三州瓦と、実用本意のものであった。

 一筋離れた道路から、紀香と友子は建物と、その周辺を観察した。

「お手伝いさんはいないようね」
「早く帰らせたようね、パソコンに、お手伝いさんの勤務記録がある。いつもより一時間半早く帰らせたみたい。ここんとこずっとよ」
「家政婦会の記録じゃ、二人……まっとうな人たちね」
「リビングにご両親、二階に純子ちゃんがいる。柚木先生の記憶通り、真面目で大人しそうな子ね」
「ルックスも、トモちゃんといい勝負」
「それは、価値基準の置き方次第ね……どうやら客待ち。それもたちの悪い……」
「じゃ、わたしたちも中に」
 ほんの一飛びで、家の敷地に入り、庭の監視カメラにはダミーの映像をかまし、客間のサッシを解錠して中に潜り込んだ。

「来るのは三下だわ。こいつらノシてもラチがあかない。今日は、ちょっと工作して、情報集めることに専念しましょう。わたし純子ちゃんのとこに行く。ちょっとお出かけすることになるかも知れないけど、よろしくね」
「まあ、トモちゃん自身の性能テストだと思って、あまりやりすぎないように……来たようね、ゲスト」

 まもなく車の気配がして、二人の男が入ってくるのが分かった。上司の知恵がいいのか、車はレンタカーだった。友子はゆっくりと純子の部屋に入った。

「こんにちは……」
「あ、あなたは……?」

 純子は、思ったほど混乱はしなかった。友子が自分と同じ乃木坂学院の制服を着ていたこともあるが、どうやら、元来見かけによらず腹の据わった子なのかもしれない。万一純子がパニックをおこしても大丈夫なように目のビームを「精神安定」にしておいたが、その必要もなさそうだ。
「初めまして、わたし長峰さんと同じクラスに転校してきた鈴木友子。あなたのことが気になってお邪魔したの。よかったら、訳を話してもらえるかしら」
「ありがとう。でも、お話はできないわ。私たちの力じゃ、どうしようもないことなんだもの」
 友子は、その時、純子の心に浮かんだことから、おおよその事情は承知したが、自分から言うことは控えた。部屋のドアに鍵がかかっていなかったことで、純子の決心が分かったから。

「長峰さん。今日は、話し合いじゃない。お約束を実行しにきたんです」
 三下Aが、目だけ笑わない笑顔で言った。
「約束した覚えなんか無い。また、そちらの言う実行もさせない。ワッセナー条約にも外為法にも抵触はしていない。偽装していたのはそちらの……」
 純子の父が言い終わる前に、三下Bが胸ぐらを掴んだ。
「よせ、俺たちは、あくまで契約の実行にきたんだ。じゃ、念のため、契約書の写しを置いていきます。私どもは、仲介業者として、御社の取引先がワッセナー条約にも外為法にも違反していたこと、それに御社がそれに最初から気づいていたこと……」
「嘘だ。わたしは何も知らなかったんだ!」
「証拠はそろっています」
「みんなでっち上げだ」
「法廷じゃ有効な証拠になります。違約金の三十億は期日までにお振り込みねがいます」
「そんなもの!」
「あ、それと、お嬢さんの留学。期日も過ぎていますので、今日お連れいたします。ご心配なく。C国は民主的な国です。そこで心ゆくまでご勉学にいそしんでいただきます。おい」
 Aは、三下Bに二階へ上がるように指示した。

「わたし、知らない男の人に部屋を見られるのはイヤなの」

 純子が、制服姿に、旅行用のキャリーバッグを持って現れた。
「純子、何してんの、二階で鍵を閉めてなさいって……」
「大丈夫、この人達の顔も立ててあげなきゃ。ね、そうでしょ。今日手ぶらで帰ったら、あなたたちだってただじゃ済まないんだもんね」
「何を!」
 Bの目に、あきらかな動揺が見えた。
「じゃ、いきましょうか」
「分かりのいい、おじょうさんだ」
「おあいにく、顔を立てる以上のことをするつもりはないわ。じゃ、お父さん、お母さん、一時間ほど付き合ってきます」
「純子!」

「用意周到、レンタカー。別人が借りて面は割れないようにしてるんだろうけど、純子を迎えに来るには、ちょっとしけてるわね」
「すまないね、横浜までの辛抱だ。我慢してくれ」
「だったら、高速で行こうよ」
「高速じゃ、カメラに写るんでね」
「フフ、カメラ写りに自信がないんだ。でも、わたしは高速に乗りたいのっ!」
 純子が、そう言うと、車は勝手に高速に入ってしまった。
「ど、どうなってるんだ!?」
「兄貴、ブレーキを!」
「だめだ、ブレーキもハンドルも効かない!」
「せっかく高速にのったんだから、飛ばそうよ!」
 車は、急加速して、百八十キロまでスピードが上がった。
「こんなに飛ばしたら、警察が……」
「大丈夫、スピードレコーダーやカメラのあるとこじゃ、法定速度で行くから」
 と言う間に。八十キロまでスピードが落ち、三下A・Bの胸にシートベルトが食い込んで、肋骨にヒビが入った。そうやって、加速と、減速を繰り返し、横浜の波止場に着いた。しかし車は止まらない。
 岸壁で、完ぺきなカースタントを何度も繰り返した。

「あいつら、張り切りすぎだぜ……」

 C国の大型偽装船のボスは、部下の張り切りように苦笑いした。部下の三下A・Bは、それどころではなかった。左の鎖骨から、肋骨全てにヒビが入り、時に呼吸も困難になった。
 純子に化けた友子は、手下たちの首筋を噛んでおいた。手下たちは吸血鬼かと思ったが、友子は傷口からナノリペアーを二人の体内に注入した。これで、世界中のどこに隠れても居所が知れる。
「お、おたすけ!」
「そんなのじゃ、ディズニーランドのジェットコースターも無理ね。いいわ、一瞬減速するから、飛び降りて」
 ヘタレ三下が、命からがら飛び降りると、車は急加速して、岸壁を越え、大型偽装船のドテッパラに突っこんだ。激突の寸前に友子は飛び出し、両腕のジュニア波動砲をレベル3でぶちかました。人が見たら、車に仕掛けられたTNT火薬かなにかが爆発したと思っただろう。
 ジュニア波動砲をかました直後、ブリッジにいるボスの顔が目に入った。殺意と憎しみに滾っていた。
――やりすぎた――
 友子は、そう感じ、怒りに開きっぱなしになったボスの口に唾を飛ばした。ナノリペアーを送り込んだのである。

 友子は、その足で、二十分ほどで純子の部屋に戻った。

「明日から学校に来ても大丈夫よ」
「トモちゃん、リストカットでもやった?」
 紀香が冷やかす。
「あ、ちょっとこすっただけ」
 友子が、一撫ですると傷はきれいに無くなった。

 明くる日、C国の大型偽装船の爆発事故と、それに積まれていた長峰興産の品物が発見され、大規模な輸出サギがあることがわかり、長峰興産の無実が証明された。船長以下乗組員は取り調べを受けたが、そこにボスの姿は無かった。三下A・Bは水死体で、横浜の港に浮かんだ。

 そして、明くる日の教室には、長峰純子の元気な顔があったのだ。

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