アンドロイド アン・20
『アンとお彼岸・2』
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して振り返る。
連休三日目、二度寝から目覚めると昼に近いので、朝飯をジュースだけど済まそうと思ったのだ。
で、振り返ると、リビングのテーブルの上に仏壇が存在している。
え、ええ?
不信心な我が家には仏壇が無い。
アンが珍しがるので、いっしょに行ったスーパーで仏さんのお花を買った。
まあ、珍しい花束くらいに思って、アンは花瓶に生けて喜んでいた。
その仏さんのお花が、テーブルの上の仏壇の中で本来の位置を占めて役割を果たしている。
「ね、その方がいいでしょ」
不思議がっていると、いつのまのかアンが立っていて、自慢げに鼻の穴を膨らませている。
「でも、どうしたんだよ、この仏壇?」
「納戸にあったカラーボックスに黒い紙やら貼っつけたの」
「そーなのか……お釈迦さんの掛け軸とかは?」
「ダウンロードしてカラーコピー。他のパーツもカラーコピーのペーパークラフトだよ」
そう言われてみると、鶴の形の蝋燭立てや香炉はCGのポリゴンみたくカクカクしている。ペーパークラフトじゃ丸みは出しにくいもんな。
チーーーン
手前の鈴を叩いてみると、しっかり金属音だ。これは?
「町田さんの奥さんにいただいたの」
「町田さんに?」
「うん、宗派とか分からないでしょ。それで、お仏壇見せていただくついでに聞いたら『うち浄土真宗だから真似するといいわよ。そうだ、仏壇屋さんにもらった鈴があるから、これあげる』って、いただいたの」
町田夫人と聞いて、悪い予感がした。
「うわーー、すごい。まるで本物のお仏壇じゃないの!」
開け放したサッシに町田夫人の姿。直で庭の方からやってきたんだ。
町田夫人とは適当な距離を置いておきたかったんだけど、アンは無頓着なようだ。
「専光寺さん、こっちこっち!」
専光寺? え? ええ?
なんと、町田夫人に誘われて本物の坊主が現れた。
「うちにお参りに来てもらったついでにお願いしたのよ🎵」
「は、はあ」
オタオタしているうちに、町田夫人も坊主もリビングに上がり込んで、仏壇の前で、にわかの彼岸法要になってしまった。
「過去帳は?」
「とりあえず、お祖母ちゃんのを用意しました」
アンは、半紙を半分にしたのに『釋明恵』と書いたのを鈴の横に置いた。
「しゃくあきえ?」
「しゃくみょうえと読みます。お祖母さんは門徒だったんですか?」
「はい、両親の代でやめてしまったみたいで」
坊主の問いに、アンはしっかり答える。
「それなら、正式の法名ですなあ……できたら、お写真とかあったら、拝みやすいですが」
お祖母ちゃんの写真なんかはお爺ちゃんちだ。うちには無いぞ。
「パソコンで検索したんで、こんなのしかないんですけど……」
アンが差し出したのは……若すぎる。
お祖母ちゃんは、セーラー服のお下げ髪だ。
「出身高校の集合写真から拾ってきたんです。いいですか?」
「ハハ、宜しいでしょ。それでは……」
町田夫人も加わって、我が家のお彼岸法要が始まった。
アンは行き届いていて、ちゃんとお布施まで用意していて「あっちゃん、若いのに行き届いてるわねえ」と町田夫人に感激された。
お寺さんのお参りなど初めてで、粗相があってはいけないと思い、俺とアンは玄関を出て前の道路まで見送った。
「なんだか、とっても良いことしたような気になったわねえ」
「ああ、そうだなあ」
アンには振り回されてばかりだけど、今日のことは素直に喜んでやれる。
リビングに戻ってビックリした。
「ほんとうに、どうもありがとうね」
ソファーに座ってお礼を言ったのは、集合写真の姿のまんまのお祖母ちゃんだ!?
「あ、え、えと、えと……」
「実は、昭雄くんフッて浩一くんと付き合おうと思ってたんだけど、こんな素敵な孫ができるんならって……決心できたの。本当にありがとう」
そう言うと、若き日のお祖母ちゃんは、アイドルみたいにニッコリ笑って消えて行った。
「よかったね! 浩一くんてのと付き合っていたら新ちゃん、存在しなくなるとこだったわよ!」
こいつ、計りやがった?
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一憧れの女生徒
赤沢 新一の遅刻仲間
早乙女采女 学校一の美少女