大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・4『友子の初登校』

2018-09-22 06:44:32 | 小説4

トモコパラドクス・4
『友子の初登校』  
     


「今日から、このクラスに新しい仲間が増えます。みんなよろしくね。じゃ、鈴木さん、どうぞ!」

 柚木先生の紹介で、友子は教室のドアを開けた。


 それまでに廊下に人の気配を感じていた生徒達は、拍手と共に好奇心むき出しの目で友子を見た。
 友子は、ほどよく頬を染め、うつむき加減で教壇の隅に立った。
「こんど、お家の事情で、この乃木坂学院に転校してきた鈴木友子さんです。鈴木さん、一言どうぞ」
 友子は、緊張した顔で、教壇中央をめざしたが、教壇の端のリノリウムの出っ張りに足を取られて、前につんのめり、こともあろうに柚木先生の胸を両手で掴んでしまった。
「キャ!」
「ウワ!」
「アア~!」
 という声が、順に、友子、柚木先生、生徒(主に男子)からあがった。

 二三秒、そのままの後、友子は急いで手を離した。

 柚木先生も、同性とは言え胸を鷲づかみにされたのは初めてなので、かなり動揺した。
「おもさげねことしてまっで、もうすわげねっす!」
 初めて見る担任の動揺、可憐な見かけとは裏腹な友子の方言に、教室は湧いた。
「あ……ども。鈴木友子です。今の言葉でバレテしまいましたけど、東北の出身です。隠しておこうと思ったんだけど、柚木先生の胸デッケーんでつい方言が出てしまいました。まんず……まず、これから、よろしくお願いします!」

 ゴーーーン


 ペコリと頭を下げると、小柄な友子は、教卓に思い切り頭をぶつけてしまった。
「いでー……」
 切れてはいなかったが、オデコの真ん中が赤く腫れてきた。
「鈴木さん、よかったら、これ使って」
 イケメンの保健委員徳永亮介が、サビオを二枚くれた。
「ありがとう……」
 指定された席に着くと。友子は鏡を見ながらサビオを貼った。しかし、その貼り方がフルっているので、柚木先生が吹きだし、それで注目した生徒達が、また笑い出した。
「その貼り方……」
「だって、カットバン貼るのオデコだから、少しはメンコクと思って……」
 友子のサビオは、見事な×印に貼られていた。
「友子ちゃんの古里じゃ、カットバンて言うの?」
 隣の席の浅田麻衣が、小さな声で聞いた。
「え、東京じゃ、そう言わないの!?」
「声大きいよ。サビオって言うのよ」
「ああ、サビオ。書いとこ……」
 友子が、真面目に生徒手帳に書き出したので、またみんなが笑った。で、また友子の顔が赤くなった。

 友子の噂は、昼には学校中に広まった。なんせ初手からズッコケ、柚木先生の胸を鷲づかみにし、オデコに×印のサビオである。職員室でも「柚木さん、あなた着やせするタイプ?」と同僚の女の先生から言われた。
「どうして?」
「だって、鈴木友子が、そう言ってるって。Dはあるって」
 そこに運悪く、朝礼で出し忘れた書類を友子自身が持ってきた。
「鈴木さん!」
「はい?」
「人の胸のこと話の種にしないでくれる!」
「いいえ、わたしはなんも……」
「だってね……!」
「あ……男子が、先生の胸でっかかったかって聞くもんだから、わたしよりは大きいって、それだけ」
 柚木先生は友子の胸に目を落とした。たしかに友子の胸は小さい。
「話に尾ひれが付いたのよ。友子ちゃん責めるのは可愛そうよ」
「でも、先生のむねは大きくて、わたし感動したんです!」
 友子は地声が大きいので、職員室のみんなが笑った。バーコードの教頭などは、洗面台の鏡に映る柚木先生の胸を、しっかり観察していた。

 お昼は、仲良くなった麻子の仲間といっしょにお弁当を食べた。

「わあ、友子ちゃんて、ちゃんとお弁当作るのね」
「あーー、ただ冷凍庫にあるものチンして詰め込むだけ。お母さん血圧低いから、お弁当は自分」
「でも、ちゃんと玉子焼きなんて焼くんだ」
「チンしてる間に作れるから」
「一個交換していい?」
「うん、どうぞ?」
「あ、プレーンで美味しい」
「液体のお出汁ちょこっと入れるだけ……麻子ちゃんの、甘みと出汁加減が、とってもいい!」
 そこで、五人ほどのグループで玉子焼きの品評会になった。麻子の玉子焼きに人気があった。
「お、懐かしの蛸ウインナー!」
 友子の遠慮のない賞賛に、池田妙子は、惜しげもなく蛸ウインナーを半分にしてくれた。
「お、お醤油の隠し味!」
「うん、焼き上げる直前に垂らすの」
 賑やかにお昼も終わり、放課後になると、柚木先生が遅れてきたこともあり、教室の前は友子見物の、主に男子生徒が集まっていた。

 思惑通りに進んでいた。いずれは現れる敵。目だった方が早く見つけられる……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・27『新型ねねちゃん』

2018-09-22 06:36:14 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・27
『新型ねねちゃん』
    


 一瞬分からなかったが、髪をショートにして眉の形を変えた向こうの世界の幸子だった。

 パーカーのフードを取ったのは……ねねちゃんだ。


「審議会の結論は、サッチャンの力を使わないで極東戦争を戦うことになったけど、こちらのグノーシスみんなが賛成してるわけじゃないの。だからセキュリティーの面からも、こちらのサッチャンといっしょにするほうが安全だということ」
「こちらでは、千草子という名で、従姉妹ということになります。チサって呼んでください」
 チサが緊張した顔で言った。
「こちらは……」
「ねねちゃんの新しい義体?」
「里中副長へのお詫び」
「本当は、現状を変化させないため。ねねちゃんが一人いなくなったことのツジツマ合わせは大変。それよりも交換義体のわたしが来た方が合理的でしょ」
 にっこり言ってのけるねねちゃんは、その言ってる内容があまりにプラグマティックなので面食らう。
「面倒かけるわね。ねねちゃんの引き渡しをお願いしたいの。わたしたちじゃ上手くいかないと思うの」
「ねねちゃんが、自分で行ったら?」
「その時点で、里中副長に破壊されるわ。もうすでに一体破壊された」
「どうして……」
「ハンスの実態は、破壊される寸前に他の義体に転送されたわ。今は行方不明。それに義体だったら、いつ誰がハッキングされるか分からない。里中副長はシビアだから、義体のねねちゃんと分かった時点で破壊するわ。だから、あなたに仲介してもらいたいの」
「このねねちゃんは、大丈夫なの?」
「大丈夫。里中副長がスキャンすれば、すぐに分かる。そこに行くまでに破壊されないように、よろしく」

 その日の内に、里中さんに連絡をとって会うことにした。

 お母さんも幸子も、チサちゃんといっしょに暮らせるようになって嬉しいという反応をした。むろん幸子はプログラムモードの反応だけれど、高機動車のハナちゃんまで喜ぶと、単純なぼくは嬉しくなってきた。

 里中さんは、瞬間鋭い殺気を放った。ねねちゃんの姿を見たからだ。

「とにかく、スキャニングをしてください!」
 美シリのミーに言われたとおりに叫んだ。里中さんの目が緑色になった。
「交通信号じゃないからな。OKサインじゃない。スキャニング中なんだ」
 里中さんも、一部義体化しているようだ。
 一瞬の沈黙のあと、里中さんは爆笑した。
「アハハハ……こりゃ、傑作だ!」
「な、何が可笑しいんですか?」
「太一、ねねの目を三十秒見つめてみろ」
「え、ええ?」
 可愛いねねちゃんにロックオン(見つめられたってことだけど、表現としては、まさにロックオン)され、ドギマギした。ちょうど三十秒たって、ボクはねねちゃんといっしょに目をつぶった。そして目を開けるとたまげた。ボクの視界は二つにダブってしまっていた。ゆっくり視界は左右二つに分かれる。

「「え!?」」

 驚きの声がステレオになった。ボクとねねちゃんが同時に叫び、里中さん以外のみんなが面食らった。
 視界の半分にねねちゃんが、もう半分にはボクが写っていた。両方同じような顔で驚いている。
「ねねの視界に集中して」
 里中さんに、そう言われ、ねねちゃんに集中した……ボクはねねちゃんになっていた。
「こ、これ、どうして……?」
 声がねねちゃんになっていて、さらにびっくり。視界の端にボーっと突っ立っているボクの姿が目に入った。
「お母さん、ボクどうなったの?」
「え、ええ!?」
 お母さんが、一歩引いて驚いている。幸子はなにか理解したように、チサちゃんはお母さん同様。ハルは面白くてたまらないように車体を振動させた。
「もういいだろう」
 里中さんの一言で、ボクの視界はもとに戻った。ニコニコしたねねちゃんが、ボクを見ている。
「いま二十秒ほど、お兄ちゃんは、ねねちゃんになったのよ」
「このねねにインストールできるのは、太一、お前一人だ」
「ええ!?」
「このねねは、アナライザー義体だから、情報に関しては双方向。いろんなブロックをかけても、ハッカーの腕がよければ、ねねの人格を支配できる。成り代われると言ってもいい。そういう危険性のあるものなら、必要はない。だが、今の実験で分かったが、人格をインストル-できるのは、太一に限られている。つまりねねのCPの鍵穴は、太一の形をしていて、他のものは受け付けない仕掛けになっている」
「それって……」
「グノーシスにも、ジョ-クとセキュリティーの両方が分かる奴がいるみたいだな」
「なるほど……」
「でも、太一。言っとくけど、この鍵穴は、オレでなきゃ開かん。勝手にねねになることは許さないからな」
「ぼ、ボクに、そんな趣味ないですよ!」
 幸子は憎たらしく方頬で、みんなは遠慮なく爆笑した。
 

 義体だけど、ねねちゃんは本当に可愛い。幸子だって、プログラムモードなら、これくらいの可愛さは発揮できるのだが、自分で押し殺している。早くニュートラルな自分を取り戻したい一心なんだろう。そう思うと、このニクソサも、なんだか痛々しい。

 そして、ボクがねねちゃんにならなければならない事件が、このあとに待っていた……。


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