大阪ガールズコレクション:5
『今年は違う 中央区 谷四あたり』
お茶していこうよ
予想通りノンコが言う。
いつも通りなら「お茶していこうや」になる。語尾の「よ」と「や」の違いなんだけど、大阪弁ではニュアンスが違う。
「いこうよ」というのは、たとえ大阪弁のアクセントでもよそ行きです。部活の仲間同士だったら「いこうや」になる。
予想してたから、伏線を張るために二回も腕時計を見ておいた。
――今日はあかんねん――
今日日腕時計で時間みるようなもんはいてない。みんなスマホで済ますよね。
佐川実乃里は「かわいい時計ですねえ!」と食いついてきた。
これは想定外やったけど――よし!――と思った!
だって、その佐川実乃里と、ここで分かれるためやねんから……。
わたしらは真田山高校の演劇部。
部員数五人という絵に描いたような零細演劇部。
ノンコとわたしが三年生。ノッチが二年、タクと佐川実乃里が一年生。
タクは唯一の男子、ちょっとオネエが入ってて女子ばっかりの演劇部でも平気。TPOをわきまえた子で、今日もBKホールを出る時に「家の者と約束があるんで、これで失礼します」と、自然に消えて行った。
あとはノンコが「じゃ、解散しよっか」と言えば終わる話。
それが、お茶していこうよ。
今日は、この春卒業した百花(ももか)先輩の新人公演の舞台を観ての帰りなのだ。
百花先輩は、広瀬すず似の清楚系美人。
先輩が現役のころ、放課後とかお芝居観ての帰りにお茶にした。
お店に入ると、ほぼ例外なく視線が集まる。むろん百花先輩に。
わたしら後輩は先輩の引き立て役なんだけど、けっして不快じゃなかった。
百花先輩は、最初っから、そういう存在だったし、そう言う先輩に憧れて入部したんだ。
先輩の侍女って感じで大満足!
今年は違う。
一年の佐川実乃里は百花先輩とは違うタイプのベッピンさん。
言い方は悪いけど男好きのするタイプ。
わずかに褐色がかった髪は毛先の方で軽くカールしていて、伸ばしたままでもポニテにしていても、先っぽの方が可愛くクルリンとしている。お母さんが秋田生まれというのが――やっぱりね――と頷ける。右の目が微妙にブルーが入ったオッドアイ。
ほかにも色々の美点がある子なんだ。
と、言っても本人の自覚は薄い。
「実乃里ちゃん、モテるでしょ」
入部した時にかました。実乃里ちゃんは、ワイパーみたいに手を振って否定した。
「いえいえ、弄りやすいんですよわたしって。わたしも合わせちゃうから、みなさんテキトーに女の子とのコミニケーションの稽古台に使っていくんですよ」
「うそうそ!」
「ほんとですってば! 一度もコクられたことないし!」
スタイルとか、処世術で、そう装ってるんじゃなくて、本当に思ってる。
ノンコが「お茶していこうよ」と言い終わった一秒足らずで、そういうことを思った。
一秒以上間を開けると変に思われる。所帯の小さい演劇部、気まずいのはダメだ。
覚悟を決めて「そうだね!」と返事しようと空気を吸い込んだ。
「ちょっと、みんなーー(^▽^)/」
後ろから明るい声が追いかけてきた。
「「百花先輩!」」
「ダブルキャストだから午後は空いてんの、ね、お茶しよーよ!」
ハーーイ!
元気よく返事するわたしでした。