大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・大阪ガールズコレクション:5『今年は違う 中央区 谷四あたり』

2018-09-23 17:08:23 | 小説7

大阪ガールズコレクション:5

『今年は違う 中央区 谷四あたり

 

 

 お茶していこうよ

 

 予想通りノンコが言う。

 いつも通りなら「お茶していこうや」になる。語尾の「よ」と「や」の違いなんだけど、大阪弁ではニュアンスが違う。

「いこうよ」というのは、たとえ大阪弁のアクセントでもよそ行きです。部活の仲間同士だったら「いこうや」になる。

 予想してたから、伏線を張るために二回も腕時計を見ておいた。

――今日はあかんねん――

 今日日腕時計で時間みるようなもんはいてない。みんなスマホで済ますよね。

 佐川実乃里は「かわいい時計ですねえ!」と食いついてきた。

 これは想定外やったけど――よし!――と思った!

 

 だって、その佐川実乃里と、ここで分かれるためやねんから……。

 

 わたしらは真田山高校の演劇部。

 部員数五人という絵に描いたような零細演劇部。

 ノンコとわたしが三年生。ノッチが二年、タクと佐川実乃里が一年生。

 タクは唯一の男子、ちょっとオネエが入ってて女子ばっかりの演劇部でも平気。TPOをわきまえた子で、今日もBKホールを出る時に「家の者と約束があるんで、これで失礼します」と、自然に消えて行った。

 あとはノンコが「じゃ、解散しよっか」と言えば終わる話。

 

 それが、お茶していこうよ。

 

 今日は、この春卒業した百花(ももか)先輩の新人公演の舞台を観ての帰りなのだ。

 百花先輩は、広瀬すず似の清楚系美人。

 先輩が現役のころ、放課後とかお芝居観ての帰りにお茶にした。

 お店に入ると、ほぼ例外なく視線が集まる。むろん百花先輩に。

 わたしら後輩は先輩の引き立て役なんだけど、けっして不快じゃなかった。

 百花先輩は、最初っから、そういう存在だったし、そう言う先輩に憧れて入部したんだ。

 先輩の侍女って感じで大満足!

 

 今年は違う。

 

 一年の佐川実乃里は百花先輩とは違うタイプのベッピンさん。

 言い方は悪いけど男好きのするタイプ。

 わずかに褐色がかった髪は毛先の方で軽くカールしていて、伸ばしたままでもポニテにしていても、先っぽの方が可愛くクルリンとしている。お母さんが秋田生まれというのが――やっぱりね――と頷ける。右の目が微妙にブルーが入ったオッドアイ。

 ほかにも色々の美点がある子なんだ。

 と、言っても本人の自覚は薄い。

「実乃里ちゃん、モテるでしょ」

 入部した時にかました。実乃里ちゃんは、ワイパーみたいに手を振って否定した。

「いえいえ、弄りやすいんですよわたしって。わたしも合わせちゃうから、みなさんテキトーに女の子とのコミニケーションの稽古台に使っていくんですよ」

「うそうそ!」

「ほんとですってば! 一度もコクられたことないし!」

 

 スタイルとか、処世術で、そう装ってるんじゃなくて、本当に思ってる。

 

 ノンコが「お茶していこうよ」と言い終わった一秒足らずで、そういうことを思った。

 一秒以上間を開けると変に思われる。所帯の小さい演劇部、気まずいのはダメだ。

 覚悟を決めて「そうだね!」と返事しようと空気を吸い込んだ。

 

「ちょっと、みんなーー(^▽^)/」

 

 後ろから明るい声が追いかけてきた。

「「百花先輩!」」

「ダブルキャストだから午後は空いてんの、ね、お茶しよーよ!」

 

 ハーーイ!

 

 元気よく返事するわたしでした。

 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・5『我が敵 白井紀香!』

2018-09-23 06:27:02 | 小説4

トモコパラドクス・5
『我が敵 白井紀香!』 
    


 最初は雑電を拾ったのかと思った……。 
 
 わたしの義体はかなり高性能で、自分でも、そのスペックの全ては分からないくらい。だから、聴覚の点でも、ボンヤリしていると、携帯電話やテレビの電波を拾ってしまい、少し混乱する。人の感情も微弱な電波になるので拾ってしまう。一応フィルターがかかっていて、重要性のないものや、無害な物はカットしている。しかし、この義体が稼動して、まだ一カ月あまり、車で言えば仮免状態。

『雑電じゃないわよ』

 フィルターをかけ直した後、はっきりした意思として伝わってきた。
「だれ……?」
『言葉にしない。思うだけでいい』
『だれ!?』
『あなたの敵……』
 反射的に、友子は十メートル以上ジャンプして、講堂二階の外回廊に着地した。

『過剰反応よ』

 その女生徒は、中庭のベンチに背を向けたまま思念だけを送ってきた。
『今のは、誰にも見られていないわ。降りてらっしゃいよ……人間らしく階段を使ってね』
 その女生徒に害意がないことは、直ぐに分かったので、友子も緊張を解いて、階段を降りて背中合わせのベンチに座った。すると、その女生徒は、親しげに反対側から、こちら側にやってきて、すぐ横に座った。
「鈴木友子さんね、よろしく」
『そんな、敵が親しげにして!』
「この近さでいたら、声に出さない方が不自然でしょ。それにトモちゃん、朝から敵を探そうって……ちょっとやりすぎ」

 親しげに、トモちゃんときた。

「あなたは?」
「あ、ごめん。二年B組の白井紀香。演劇部の部長で、一応トモちゃんが探している敵」
「敵が、どうして、こんなに穏やかなの?」
「わたしたちの上部組織、休戦状態なの。知らなかったでしょ」
「休戦状態……わたしのCPにはプログラムされてないわよ?」
「トモちゃんを送った組織は、わたしの時代以前のホットな時代の人たち。だから敵愾心が強いの」
「白井さんは、もっと新しい時代から来たの?」
「うん。もう、トモちゃんを抹殺しなきゃならないという仮説が崩れた時代」
「じゃ、もう敵なんかじゃないの?」
「それが、ややこしくてね。鈴木友子脅威説は、もう利権化してるの。この時代の地球温暖化説みたいに」
「ああ、あれって二酸化炭素の排出権が利権化したんですよね」
「そ、二十一世紀末には、世紀の大ペテンだって分かるんだけどね。トモちゃん脅威説は、まだ正式には生きてるの。だから予算がつけられ、わたしみたいなのが送られてくるわけよ」
「え~(*o*)!」
「こっち来て」

 わたしは、同窓会館の二階に連れていかれた。そこには古い字で「談話室」と看板が掛けられていた。

「ここって……あの談話室ですよね!?」
「そう、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で乃木坂さんが、仰げば尊しの歌の中で消えていった記念の場所」
 白井さんが指を動かすと、部屋の壁が素通しになって、一面満開の桜が透けて見え、ハラハラと桜の花びらが舞い散った。
「ウワー、小説通りだ!」
「ね、トモちゃん。演劇部入らない?」

「え?」

「あの小説のあと、演劇部はガタガタでね、部員はわたしと、トモちゃんのクラスの妙子しかいないのよ」
「ああ、蛸ウィンナーの?」
「うん。役所のアリバイみたいなことで、わたし、この時代にいるけど。目的がないとやってらんないの。今のわたしの目的は演劇部の再建。おねがーい!」
 紀香は、大げさに手を合わせた。
「う~ん、急な話だから、ちょっと考えさせてください」
「ちっ、まどかは、進んで入部したんだよ」
「それ、小説の話でしょ」
「これだって、小説じゃん」
「そんな身もフタもないことを」
「とりあえず、わたしは帰ります」
 友子は、カバンを掴んで、出口に向かった。とたんに桜吹雪は消えて、元の談話室にもどった。

「その前に、トモちゃん。あんた、自分のスペックやら、そもそもの事件の背景、どこまで知ってんの?」
「ん~、敵を見つけて、自分の身と家族を守ること」
「で……?」
「て……それだけ」
「雑だなあ、ちょっと座んなさいよ。レクチャーしてあげるから」
「う、うん……」

 そして、友子は紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・28『バーチャルな履歴』

2018-09-23 06:20:42 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・28
『バーチャルな履歴』
    

 

 

 向こうの世界の幸子は、千草子、通称チサと名乗り俺の家に同居することになった。

 髪をショートにして、眉を少し変えたチサちゃんは幸子によく似た従姉妹ということで十分通った。
うちと同姓の佐伯という画家が、この時期に亡くなったので、役所の方で戸籍を改ざんし、チサちゃんは、その遺児ということになっている。甲殻機動隊はチサちゃんの履歴をつくり、パソコンを使って亡くなった佐伯さんの関係者や、チサちゃんが通っていたことになっている人間の記憶にインストールした。むろんチサちゃん自身の記憶もそうなっている。
 これでチサちゃんのグノーシス対策は万全だ。学校は、うちの真田山ではなく、大阪フェリペへの編入ということになった。ねねちゃんといっしょにすることで、セキュリティーにも万全を期したようだ。

「チサちゃん、どうかした?」

 明日から学校という前の日に、チサちゃんは手紙を投函して、帰ってきたとき目が潤んでいた。
「……ううん、なんでも」
 そう言って、チサちゃんは幸子と共用の部屋に駆け込んだ。親父もお袋も心配顔。

 しばらくして、幸子が部屋から出てきた。

「残してきた彼に手紙を書いていたら悲しくなってきたんだって。むろんバーチャルな記憶だけど、ちょっと手が込みすぎ」
「込みすぎって?」
「彼との馴れ初めは、中三の文化祭でクラス優勝して賞状をもらうとき。風で賞状が舞い上がって、クラス代表だった二人が慌てて取ったら、偶然二人がハグしあって……まあ、映像で見て」
 幸子が、テレビをモニターにして映しだした。ハグした二人の唇が一瞬重なった。他にも、二人の恋のエピソードがいくつもあったが、まるでラブコメのワンシーンのようだ。

『あの、ご不満かもしれませんが……』

 高機動車ハナちゃんの声が割り込んできた。ちなみにハナちゃんは、うちの狭い駐車場に割り込んで、二十四時間、ボクたち家族のガードに当たってくれている。
「なんだよ、ハナちゃん」
『チサちゃんの履歴を作ったのは、甲殻機動隊のバーチャル情報の専門機関なんですが、チーフがゲーム会社の出身で……』
「恋愛シュミレーションの専門家……なるほど」
『今でも、細部に手を加えて、更新してます……』
 まあ、それぐらい徹することができる人間でなければ、完ぺきにバーチャルな履歴など作れないのだろう。チサちゃんは、ドラマチックな青春を迎えることになりそうだ……。

 その数日後、俺は甲殻機動隊の里中さんに呼び出された。

 めずらしく高機動車ではなく、普通の自動車であった。
「実は、プライベートで、頼みがあるんだ……」
「いいんですか、グノーシスとか……?」
「あっちは、いま極東戦争で手一杯だ。こっちに干渉している気配もない」
「で、なんですか用件というのは?」
「実は……」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 というわけで、ボクはねねちゃんになってしまった……。

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