大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・18『ちかごろのアン』

2018-09-16 14:34:38 | ノベル

アンドロイド アン・18

『ちかごろのアン』

 

 

 ちかごろアンの様子が変だ

 

 P音事件はアンを弄ろうとした早乙女采女たちが最終的には赤っ恥をかいた事件で、日ごろ采女たちを快く思っていない者たちは溜飲が下がった。

 アンは数ある被害者の一人として、いわば脇役の位置だが、俺はアンの仕業だと思っている。

 学校に置き勉を認めさせたのは、親友の赤沢や俺たち生徒有志の願いが通じたということになっているが、ヒントをくれて方向付けをしたのはアンだ。

 先日の台風では、カーポートで顔の右半分を血まみれにするというアクシデント。それを目にした町田夫人が卒倒してしまったが、ほんの数十秒で顔を直し、庭の八つ手の葉っぱが貼りついて町田夫人が見誤ったということに修正した。

 

 どうにもアンの狙いが分からない。いや、アンのスペックそのものもよく分からない。

 もっと突き詰めれば、なんで俺の家にやって来たか、そもそものところで分かってないんだけど、聞いても答えない、いや、アン自身もよく分かってないんだろう。

「ちょっと、なにわたしのお尻ばっか見てるのよ」

 掃除機のスイッチを止めたかと思うと、振り返って吸い取り口を向けてきやがった。

「そ、そんな、見てねーし」

「わたしの視覚器官は目だけじゃないのよ、どこにあるかは言えないけど、新一の安全を図るために日夜センサーを働かせてるの。あ、見たことを咎めてんじゃないわよ。見たけりゃいくらでも見せてあげるけど、昼間のリビングというのはねえ……ここ、町田夫人の二階の窓から丸見えだし。夜まで待ってくれたら、ベッドの上でいくらでも……」

「バ、バカ、なに言ってんだ」

「ハハハ、照れた新一カッワイイ~!」

「お、俺はだな~!」

「分かってる、わたしのこと心配してくれてたのよね……これはセンサーじゃなくて、その……以心伝心的な、ほら、言うじゃん『忍ぶれど色に出にけり……』だっけ?」

「ちょっと違うと思う」

「ま、だけど、ザックリそういうことだから。あ、いっけな~い、もう、こんな時間!」

「なんかあんのかよ」

「あした敬老の日でしょ、町田夫人に頼まれてるのよ、福寿会のお手伝い……なに、ボサっとしてんのよ、新一も手伝いにいくんだから!」

「え、俺もか?」

 急き立てられるようにして福寿会の過剰であるコミュニテイーセンターに向かう。

 

 この準備で、アンはお皿二枚を割って、花屋の注文書の3と書くところを8と間違えてハラハラさせてくれる。

 目が離せないが、ご町内の明るい働き手というポジションを獲得しつつある。

「いやー、すいませんドジばっかで💦」

「失敗したときが一番かわいいから、始末が悪いわねえ(^_^;)」

 冷や汗をかきながらも、町田夫人はアンといっしょにやることを楽しんでくれているようだ。

 ま、しばらくは見守ることにしようか。

 

☆主な登場人物 

 新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

 アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

 町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

 町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

 玲奈    アンと同じ三組の女生徒

 小金沢灯里 新一憧れの女生徒

 赤沢    新一の遅刻仲間

 早乙女采女 学校一の美少女

 

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高校ライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー・2

2018-09-16 07:36:00 | ライトノベルベスト

栞のセンチメートルジャーニー・2
『その始まり』
 
          

 いちだんと出不精になったね

 冷蔵庫から、お決まりのコーヒー牛乳のパックを二つ取りだし、炬燵の上に並べながら言った。

「オレは、そんなに肥えてない。現役時代の67キロをキープしてる」
「そのデブじゃないよ。相変わらずのダジャレだなあ」
 パックにストローを刺して、わたしに寄こした。
「還暦前のオッサンが、引きこもって、コーヒー牛乳飲みながら、パソコン叩いてるのは……」
「なんやねん?」
「うら寂しいね……」
 そう言って、栞は、コーヒー牛乳を飲みながら、部屋を眺め回した。

「あ、カレンダーが二月のままだ」

 身軽に立ち上がって、従兄弟のお寺さんからもらった、細長いカレンダーをめくった。寺のカレンダーなので、月ごとに、教訓めいた格言が書いてある。

「人間には 答の出ない悲しみあり……か」

 格言を音読した栞を見上げるようなかたちで目が合った。

「兄ちゃんの悲しみは……悲しみの象徴が、わたしなんだよね」
「何を勝手にシンボライズしとんねん」
「ほらほら、言ってみそ。『神崎川物語 わたしの中に住み着いた少女』に書いてるでしょ。『こいつには、いっぱい借りがある』って。あれは素直で、たいへん結構でした、花丸!」
「あれは、文飾や文飾!」
 わたしは、飲み終わったコーヒー牛乳のパックを屑籠に放り込んだ。見事に決まり、ガッツポーズ
「ナイス、ストライク!」
「子供じみたことを……雫が垂れて拭くのはわたしなんだよ」
 栞は、卓上のティッシュを引っぱり出して拭いた。
「今、拭こうと思たとこや!」
「どうだか……」

 栞は、天井に付いたままのシミを見上げながら言った。

「あれ、リョウ君が小さいときに、チュウチュウ握って吹き上げたときのシミ。すぐに拭くからって、そのままにしたもんだから、もう取れなくなっちゃったんだよね」
「なんで、そんな細かいとこまで知ってんねん!?」
「だって、妹だもん。それも悲しみの象徴の……」
 おちょくった憂い顔になった。
「これ、見てみい……」
 本棚から、一枚の封筒を取りだし見せてやった。
「公立学校共済……年金見込額等のお知らせ?」
 コーヒー牛乳の最後の一口を口に含んで、栞は吹き出しそうになった。
「安……!」
「せやろ、シブチンやないと、長い老後はやっていかれへんのや!」
 わたしが二十七年間勤めて、確定した共済年金額は1165900円に過ぎない。老齢年金や、個人年金を加えてもカツカツである。

「でも、それが出不精の言い訳にはならないわよ!」

 その一言で、栞を乗せて、玉串川の川べりを自転車で二人乗りするハメになった。

 むろん栞の姿は見えないので、人にはえらく重い自転車を漕いでいるように見える。

「なんで、幻の栞に体重があるんや!」
「兄ちゃんには、栞は実在だからね。悪しからず」
 この二三日暖かくはなったが、玉串川の桜は、まだまだ固い蕾だった。
「まだ、ちょっと早かったなあ……」
「ちょっと、待っててね」

 栞は自転車を降りると、あたりを見渡し、一番老木と思われる桜に、何やら話しかけ、気安く「お願~い!」という風に手を合わせた。

 すると……その桜が、みるみる満開の桜になった。

「うわー、ごっついやんけ!」
 思わず、河内弁丸出しで声を上げてしまった。
「この桜はね、もう歳をとりすぎたんで、この春には咲かないんだ。咲かないと分かったら、もう切り倒されるだけ……で、お願いしたの。元気だったころの姿を一度だけ見せてちょうだいって」
「ほんなら、これは……」
「この桜の青春時代……三十分ほどしか見られないから、しっかり見て上げて」
「うん……」

「これは見事やなあ……!」

 十分ほどたったころ、後ろで声がした。

 見ると、目のギョロっとした坊主が、後ろ手を組んで満開の老桜を見上げていた。

「このお坊さん、この桜が見えるんだ……」
 この桜の満開の姿は、他の通行人の人には見えない。なのに……。
「フフ、お嬢ちゃんの姿も見えてるで。お嬢ちゃんが、この桜を励ましてやってくれたんやな」
「あ、あ、あの、お坊さん……」
「孫ほど歳が離れてるように見えとるけど、あんたら兄妹やな……」
「坊んさん……ひょっとしたら、天台院の?」
「せや、今東光や……」

「これ貸したげよ」

 満開の桜の下で、事情を説明すると、東光和尚は、衣の袖から、何やら取りだした。
「これは、地図帳と年表ですね……」
「せや、ただ特別製でなあ。力のあるもんが念ずると、それで、旅行がでける。地理的にも時間的にもな」
「ボクに、そんな力が!?」
「アホいいな。あんたは、ただの初老のおっさんや。力があるのは、妹さんの方や」

「わたしが?」

 栞もびっくりした。

「この桜を元気づけて、昔の姿を思い出せたんや、あんたには、そのくらいの力はある。まあ、家帰って試してみい。単位にしたら、地図の上ではほんの何センチやけど、ほんまに行けるよって。まあ、ちょとしたセンチメートルジャーニーやな」
 そのダジャレが自分でもお気に召したのか、東光和尚は呵々大笑された。
「こんな貴重なもの……どんなふうにお返しにあがったらよろしいんでしょう?」
「あんたが、要らんようになったら、自然にワシとこに戻ってきよる。気いつかわんでええ」

「ありがとうございます」

 兄妹そろって、頭を下げた。

「ほんなら、もういに。あんたらは、もう、この桜堪能したやろ……こいつは、もとの老桜に戻るとこは見られたないらしい」
「あ、ほんなら、これで失礼します」
 わたしは、自転車に跨った。妹の体重が掛かるのを感じてペダルを踏もうとしたとき、東光和尚の声がかかった。
「お嬢ちゃん、あんた名前は?」
「はい、栞っていいます」
「ええ名前や。人生のここ忘れるべからずの栞やなあ……大事にしたりや、兄ちゃん」

 和尚が桜を見上げるのを合図のように、ボクはペダルを漕ぎ出した。

 そして、後ろはけして振り返らなかった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・21『AGRの存在』

2018-09-16 06:58:57 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・21
『AGRの存在』
    

 

 

 ようやく三日目に学校は再開された。

 幸子は、佳子ちゃんといっしょに先に行く。
 出かけるときに、ちょっとしたドラマがあった。

「おはようございます」

 トイレに行こうと廊下に出たところで、佳子ちゃんと目が合った。
「おはよう……」
「あの、はっきりしときたいんやけど」 
「は?」
「お兄ちゃんのことは、なんて呼んだらええのかしら?」
「あ……なんとでも」
「お兄ちゃん……はサッチャンの言い方やし。ウチが言うたら、なんやコンビニのニイチャン呼んでるみたいやし、お兄さんは、なんかヨソヨソしいし……」

「そのとき、そのときでいいんじゃない」

 幸子が割って入った。

「そやかて……」
「なんなら、太一さ~んとか呼んでみる」
「いや、そんな恋人みたいな呼び方」
「じゃ、いっそ恋人になっちゃえばいいじゃん!」
「へ!?」
 ボクは、びっくりして……オナラが出てしまった。

 ボクは、十分遅れて家を出た。これで十分遅刻せずにすむ。しかし、朝から佳子ちゃんの前でオナラ……なんだか、ついていない一日になりそう予感がした。

 予感は的中した。

「佐伯太一君だよね?」

 懐から定期を出そうとして声が掛けられた。実直そうな公務員風のオジサンと、その娘とおぼしき女の子が一歩下がって立っていた。女の子は真田山の隣の大阪フェリペの制服を着ていた。AKRの矢頭萌に似たカワイイ子で、そっちの方に目がとられた。

「申し訳ないが、一時間ほど時間をいただけないかな」
「あ、でも学校が……」
「わたしは、こういうものなんだ」
 出された、警察のIDみたいなものには「甲殻機動隊副長・里中源一」と書かれていた。
「お願い、太一さん……」フェリペが切なそうな声で言ってきた。
「娘のねねだ。学校には、役所の名前で公欠扱いにしてもらう」
 ボクは、公欠ではなく、ねねちゃんの「太一さん」に惹かれて頷いた。

 それは、一見どこにでもあるセダンだった。

 ただ、ドアを開けたとき、ドアが微妙に分厚いのが気にかかった。

「これは甲殻機動隊の機動車でね、超セラミック複合装甲で、対戦車砲の直撃にも耐えられる。サイバー防御も完ぺきで、ここでの会話は、アナログでもデジタルでも絶対に漏れない」
「は……で、お話は?」
 ボクは、横に座ったねねちゃんの温もりを感じてときめいていた。
「幸子ちゃんのことだよ」
「幸子の?」
「ああ、君も知っているだろうが、あの子の体は義体だ。それも特別製のな」

 幸子のことを知っている……一瞬警戒したが、すっとぼけられるほど器用ではない。

 一呼吸置いて、素直に質問した。


「どう特別なんですか?」
「義体とは、機械のボディーに生体としての皮膚組織を持ったロボットやサイボーグのことだ。技術はパラレルの向こうの世界のものだ」
「それは知ってます」
「最新の技術で、あの子の義体は予測のつかない進化をし始めている」
「それも、なんとなく感じています。少し怖ろしいぐらいです」
「そうなんだ……」

 ねねちゃんがため息をついた。いい香りがして、目がくらみそうになった。

「あの子の頭脳もそうだ。数パーセント残った神経細胞が頭脳を急速に発達させている。夕べ、向こうの幸子ちゃんと入れ違っただろう」
「……そんなことまで知ってるんですか?」
「ああ、君たちのことは二十四時間監視している。今朝、佳子ちゃんの前で屁をたれたこともな」

「え!?」

「フフ……」

 ねねちゃんが笑った。可愛さのオーラが車内に満ちあふれた。

 ねねちゃんが居なければ、オッサンの威圧的な雰囲気には耐えられないだろう。

「幸子ちゃんが入れ替わったのも、あの子がやったことだ。正直予想以上の進歩だ」
「あれ、幸子がやったんですか!?」
「ああ、無意識でな。理由は分からんが、あの子の頭脳が必要と判断したんだろう……話は前後するが、我々はグノーシスだ」

「え……」

「甲殻機動隊は、こちらの世界のグノーシスのガーディアンだ。ムツカシイ理屈は後回し。幸子ちゃんは、両方の世界にとって、非常に大事な存在なんだ」

 ねねちゃんが、ボクの顔を見て真剣な顔で頷いた。

「両方の世界で、科学技術の進歩と人間の心のバランスが崩れ始めてる。新潟に原爆が落とされたことなんかが、その例だ。こっちの世界じゃ、極東戦争とかな」
「ああ……」
「君のお父さんが、営業から外れていたことの理由も、ここにある」

「え……?」

「お父さんは、自分の会社が戦争に絡んで儲けているのに抵抗があったんだ。対馬の戦闘はお父さんの企業が絡んで起こったものだ。まあ、あれで日本は勝利できたんで、評価は分かれるとこだがな」
 愕然とした。お父さんは、単に営業に向いていないから外れたんじゃないんだ。
「向こうの世界じゃ、今それが起ころうとしている。俺たちグノーシスの主流は、密に交流しあうことで、互いに健全な発展を図ろうとしている」
「それと幸子と、どう関係があるんですか?」
「幸子ちゃんの頭脳は、成長すれば、世界中のCPにアクセスし、争いを回避させる潜在能力がある」
「CPだけじゃないわ、人の心にも働きかける力があるかも……」
 ねねちゃんが、熱い眼差しで呟いた。
「それは、まだ仮説中の仮説だがね……グノーシスの中には違う説を言うやつらもいる。そいつらが幸子ちゃん無しで、パラレルな世界が個別に発展した方がいいと考え、幸子ちゃんの抹殺を企んでる」
「こないだの美シリ三姉妹の飛行機事故……」
「そう、我々も極秘でガードさせてもらうが、君もよろしく頼むよ」
「……はい」
「幸子ちゃんが、その力を持つのは、ニュートラルで君に自然な感情が示せるようになった時だ」

 そのとき、車が勝手に走り出した。

 里中さんもねねちゃんも、左側に倒れ込んだ。ねねちゃんは俺の方をを向いていたので、もろに体が被さってきて、俺は右半身で、ねねちゃんの胸のフクラミを受け止めてしまった!

 ドッカーーーーーーン!!

 車が走り出した直後、それまで車を停めていた路面が大爆発した。

『ガス管の亀裂を感知したので、回避しました』車が喋った。

「それ、先に言ってくれ」里中さんがぼやく。
『回避を優先しました。悪しからず』
「ガス会社のPCにリンクして、事故の原因を精査」
『了解、多分AGRでしょう』
「AGRって?」
「グノーシスの反主流派。多分、痕跡も残ってないでしょうけど」
「ねねちゃん、その声……?」
「フフ、ばれちゃった?」
「ハンス……か?」
「こちらの世界に来たときの義体」

「ええ!」

 鳥肌がたった。

「なによ、こないだ見たハンスも義体よ」
「性別含めて、オレにも分からん。ただ、こっちの世界じゃ、オレの娘ということになってる」
「よろしくお願いします」

 ハンス? ねねちゃんは元のかわいい声に戻って、にっこりした。

 車から降りると、ガス爆発で飛行機事故以上の大騒ぎになっていた……。


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