大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・22『アンの質問』

2018-09-30 14:28:29 | ノベル

アンドロイド アン・22

『アンの質問』

 

 

 アンの質問には困ったもんだ

 

 職員室に用事で行ったら、そんなことが聞こえてきた。

 学年の先生たちが、一仕事終えたのを潮にティータイム。ちょっと盛り上がって、生徒の棚卸を始めたようだ。

 むろん気楽な世間話で、ほんとうに困り果てているわけでもなく、アンの指導方針を真剣に議論しているわけでもない。

 たぶん、俺が同居している従兄という設定になっていることも知らないだろう。

 知っていれば、たとえ世間話でも、俺の聞こえるところでするはずもない。

 

 質問しまくってるんだって?

 

 食堂の食器返却口で一緒になったので、冷やかし半分に振ってみる。

「それだけ真面目に勉強してるってことよ。文句ある?」

 アンと並んでいる玲奈がクスクス笑う。

「さ、いこいこ、日本史の質問あるんだから🎵」

 

 玲奈と連れ立って行ってしまう。

 

 分かっているんだ。

 アンはアンドロイドだから、その気になれば世界中のコンピューターから情報が得られる。

 高校の授業内容なんて屁でもない。

 緊急事態以外では、標準的な高校生に相応しくないCPの領域を遮断している。遮断して、あたりまえの高校生らしくやっていこうとしているんだ。

 あたりまえのアンは気のいい奴で、こないだも、早乙女采女が新型のスマホを見せびらかしながら手下どもの欠点や苦手を面白おかしく指摘していたのを見かけて、意外にいい奴なんだと思って、スマホのアプリの力をデフォルトの何倍にもしてやった。ま、結果は前回の『采女のスマホアプリ』を読んでもらえれば分かる。

 そういう善意の失敗もあり、悪目立ちすることも避けたいので、普通の女生徒を目指しているんだ。

 そう思うと、俺も面白くなってきて、アンと先生とのやり取りを覗いてみたい気になった。

 やっぱりここだ。

 日本史の先生は、昼飯を食べた後は中庭東側の目立たないベンチで昼寝をしている。

 アンは、ちょうどミスター日本史を起こしたところだ。

 

「役者絵とか美人画だけじゃ、浮世絵は売れません」

「いや、そういうもんなんだよ」

「でも、先生。江戸の人工は百万で、地方の政令指定都市程度です。人口比から言って、浮世絵を買うのは……」

 なんと、浮世絵の売り上げを人口や、町人の購買力、江戸の浮世絵の絵師の数から類推している。

「これだと、絵師の平均年収は五両前後で、絵の具代とか差っ引いたら、食べていくのがやっとです」

「いやあ、だからね……」

 先生もタジタジだ。

 いま習ってるのは江戸時代の化政文化のあたり。その中でも花形の浮世絵に目を付けたというかこだわってしまった様子だ。

 考えたらそうだよな。百万くらいの都市でさ、俳優とかアイドルの似顔絵やブロマイドを製作販売する業者がいるとして、それが百人ほどの(俺も授業で習った)絵師を食わせることができるか? 版元や、そこで食ってる職人のことまで考えると、そこまでの需要は無いだろう。

 しかし、こういう興味の持ち方は、実に高校生らしくない。くっついている玲奈が感心したような呆れたような顔をしている。

 

 俺は、ミスター日本史が、どう答えるか、がぜん興味が湧いてきた。

 

「いやあ……実は、春画で稼いでいたんだよ」

 ボソリと、すごいことを言う。

「「しゅんが?」」

「こ、声が大きいよ💦」

「つまり、R18というか、アダルト指定というか……」

「つ、つまりHなソフトみたいなもんですか!(n*´ω`*n)?」

 玲奈のテンションまで上がって来た。

 

☆主な登場人物 

  新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

  アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

  町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

  町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

  玲奈    アンと同じ三組の女生徒

  小金沢灯里 新一憧れの女生徒

  赤沢    新一の遅刻仲間

  早乙女采女 学校一の美少女

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・35『幸子の変化・1』

2018-09-30 06:57:07 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・35
『幸子の変化・1』
   


 その日は週間メガヒットの生放送の日だった。

 19時局入りだったので、幸子は演劇部の部活もケイオンの練習もしっかりやって、18時過ぎに高機動車ハナちゃんに乗って帝都テレビを目指した。念のため、ボクたちは大阪の真田山高校にいる。帝都テレビは東京の港区だ。1時間足らずで、500キロ以上移動しなくちゃならない。リニアでも無理だ。

 ハナちゃんは、高速に入ると急加速し、気がついたら空を飛んでいた。
「ハナちゃん、空も飛べるんだ!」
 お母さんが、無邪気に喜んだ。
『これでも、甲殻機動隊の高機動車ハナちゃんです。マッハ3で飛びます。今のうちに食事してください』
 お母さんは、用意しておいたハンバーガーのセットをみんなに配りだした。
「しかし、マッハ3で飛んでるのに、衝撃もGも感じないね」
『エッヘン、衝撃吸収はバッチリ。最先端の旅客機並ですよ』
「衝撃吸収装置って、小型自動車ぐらいの大きさじゃん。この小さなボディーに、よく収まったね」
『そこが、甲殻機動隊ですよ』
「里中さん、しばらく会ってないけど、元気?」
『ええ、こないだのねねちゃんの件、感謝してらっしゃいました』
「なに、ねねちゃんの件て?」
「みんな、早く食べないと、もう浜松上空よ」
 幸子が、あっさりと食べ終わって、チサちゃんがびっくりしている。チサちゃんも学校帰りに真田山にやってきて合流している。見学半分、家に帰っても、お父さんが帰ってくるまでは独りぼっちなんで着いてきたの半分。他にも佳子ちゃんが妹の優子ちゃんを連れて同席している。
「ハナちゃんが居るから大丈夫なんでしょうけど、ガードの方も大丈夫なんでしょうね」
『大丈夫、ハナを信じて。それに、もっと強力なガーディアンが……あ、これ内緒です。お母さん』
「え、どこ?」
 お母さんは、窓から外を見渡した。車内にソレが居ることは、そのときのボクにも分からなかった……。
 難しいことなんか考えてるヒマもなく、ハナちゃんは帝都放送の玄関前に着いた。
『じゃ、終わる頃には、関係者出口の方で待ってます』
 ハナちゃんは、みんなを降ろすと、さっさと駐車場の方へ行ってしまった。

「お母さん達はスタジオで待ってて。今日の準備は極秘なの」
 幸子は、そういうとみんなを楽屋から追い出した。こんなことは初めてだったけど、これも幸子の自律回復の兆しと納得して、スタジオに向かった。
 途中、お馴染みにになった、AKRのメンバーと廊下ですれ違う。小野寺さんを始め、みんなキチンと挨拶してくれる。アイドルも一流になると、このへんの礼儀もちがう。
 廊下を曲がるとき、小野寺さんがスタッフに呼ばれ、別室に向かうのがガラス窓に映った。メンバーの総監督ともなると忙しいもんだと……その時は思った。

 生放送だけど、リハーサルめいたことは何も無かった。ディレクターからザッと進行の説明があったあと、出演者の立ち位置、フォーメーションやマイク感度、照明のチェックが行われただけ。AKRのメンバーはひな壇で雑談しながら並び始めた。副調整室とやりとりがあって、ADさんの手が上がる。
「じゃ、本番いきます。10秒前……5・4・3・2……」
 Qが出て、テーマが流れ、みんなの拍手。
「週間メガヒット!! 今夜もみなさんにアーティストやその作品についての最新情報をビビットにお届けします」
「さて、今夜はいきなり特別ゲストの登場です!」
 スナップの居中、角江コンビのMCで、スタジオ奥のカーテンが開いた。
 数秒の拍手……そして、スタジオはどよめいた。ボクたちも驚いた。

 出てきたのは、AKR総監督の小野寺潤だった。そして、ひな壇にも小野寺潤が居た……。



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高校ライトノベル・トモコパラドクス・12『ルージュの錬金術師』

2018-09-30 06:49:54 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・12
『ルージュの錬金術師』
    


 玄関に、男物の靴が二足並んでいる。

 つまり主人公友子の父であり弟であるというややこしい関係の一郎以外に、もう一人来客があるということである。

 靴の片方は25・5EEという日本男性のほぼ標準をいくサイズで、性格も特に際だって可もなく不可もなしの一郎のものであり、もう一方は27・0EEEというやや度を超した大きな靴である。母であり義理の妹である母に頼まれて、来客用の昼ご飯と晩ご飯の材料を買って帰ってきた友子は、一郎の記憶には無いその男の靴のサイズを見て「バカの大足、マヌケの小足」という慣用句を思い出した。

「こんにちは、いらっしゃいませ」
 と、女子高生らしく含羞の籠もった挨拶をして、キッチンの方へまわった。
「ありがとう、トモちゃん」
 母であり、義理の妹である春奈が、慣れた主婦の目と営業職の勘で、友子が買ってきた食材が適量であることを一度で見抜き満足した。
「あら、とんがりコーンがこんなに」
「うん、ビールのおつまみにいいかと思って。お父さんの好物だし、余っても保存効くしね」
 と、自分の好物であることは一言も言わないでケロリと説明した。とんがりコーンは友子が、まだ義体になる前の1978年の発売で、当時小学校四年生であった友子は、小学一年生の一郎と取り合いをして、負けたことがなかった。義体の娘として戻ってきたとき、一郎は、このとんがりコーンを買っておき、とりあえず姉弟として早食い競争をやった。昔と変わらない姉の食べっぷりに目頭が熱くなる一郎を、事情を知らない春奈に説明するのに困った。十五歳の女子高生の姉が、四十五歳の弟に感涙にむせばせたとは言えない。

 男二人は、新作のルージュの試作品の絞り込みに困っていた。

「大人っぽい暗い色ってのは、もう出尽くしてるんで、その線はもう捨てました。明るくナチュラルな明色が、これからの主流だと思うんです」
「しかし、うちの重役の感覚は違うぜ、いまだにアンニュイの美とか言ってるんだもんなあ」
「とりあえず、カラー見本は、これで……」
「とりあえず、リラックスして、クールダウンしてお考え下さい」
 友子は、微糖のコーヒーと、とんがりコーンをお盆に載せてもってきた。
「いや、すまん友子。まあ、こいつでもがっつり食って、考えよう」
「あ、娘さんですか。太田っていいます。先輩に手伝っていただいてルージュの開発やってます」
 一瞬、太田の心に笑顔がよく似合う女の人の顔が浮かんだのを友子は見逃さずデータ化した。
「じゃ、今日はごゆっくり。いえ、しっかり頑張ってください」
 友子がリビングを出ると、太田は、お世辞ではなく、友子を誉めた。
「うん、いいですね友子さん。娘らしさの中に成熟した大人の女を予感させます。あ、これは、まだアイデアの段階なんですが、新製品には香料の他に、男を引きつける……あ、いやらしい意味じゃなくて、フト振り返らせるような、そんな成分を入れてみたいと思うんです」
――着想はいい――と思った。
「成分までは絞り込みました。ベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの三つです」
「ほう、それは」
「女性が楽しいと思ったときに出てくるホルモンなんです。量にもよりますが、薬事法には抵触しません」

 友子は「バカの大足」を見なおした。

 お昼は焼き肉とも思ったが、香りや色に関わる感覚が鈍りそうなので、山菜ご飯と素麺のセットにした。一郎は、ただ美味しそうに食べているだけだったが、太田は、素麺に付けておいた大葉の匂いの成分までパソコンで検索するほどの、熱の入れようだった。
「太田、まさかルージュに大葉入れるつもりじゃないだろうな?」
「あ、ついクセで、すぐに成分分析するんです。すみません」
「謝ることは、ないよ」
「そうよ。じっと見ると太田さんて、素敵だわ」
 半分本気、半分応援のつもりで、友子はエールを送った。
「でも、太田さんの彼女って大変でしょうね」
「え、そ、そうですか?」
 この時も、友子の心には、その女性の姿が浮かんだ、名前も笑子という分かり易いほど明るい女性である。太田は、無意識のうちに笑子に似合うルージュを考えている。

 友子は、太田のパソコンに入っているベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの混合比率を、最適な数字に書き換えてやった。

 昼食を挟んで、さらに仕事は続いた。

 一郎は二百件以上のルージュに関するウェブを開き、成分が公開されている古い物に絞ってサンプルのモデルをバーチャル化した。
「温故知新ですね。方向はボクも同じです。イメージ的には1950年代の無邪気な明るさなんですが、そこに何を足して引くのか……」
 色のサンプルは、紙に印刷されたものから、太田が持ってきたサンプルを混合し、春奈も友子も唇につけて試してみた。太田の熱気は、まだ五月のリビングに冷房を入れなければならないくらいのものだった。

 三時半を過ぎたころ、太田は幻覚を見た。

「……このリビングって、二階でしたよね」
「ああ、一階はガレージとオレの部屋だ」
 太田は、ついさっき、リビングの外を歩いている笑子の幻を見た。一瞬こちらを見てニッコリと微笑んだ笑子の唇には理想のルージュが光っていた。太田は記憶が薄れないうちにパソコンで色とグロスをバーチャル化した。
「これだ! この色とグロスです! あとは添加物。すみません先輩。いまから研究室に戻って試作します。あ、奥さんもありがとうございました。トモちゃんにもよろしく!」
 太田は、風のように去っていった。

「あの人の奥さんになる人は大変ね……でも、幸せだと思う」
 春奈が呟いた……。

 そのころ、友子は笑子に擬態したまま、姿見に映った姿を見て大納得していた。

「うん、こういう子、いいと思う。でも、簡単にはゴールインしないだろうなあ……」

 でも、外は五月晴れ。ま、いいか……。

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